※本稿は、枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■たとえば坐禅――日常の“しがらみ”から離れる
「禅的生活」は、
心身を休める知恵の宝庫です。
現代人の生活は忙しない――心身の疲れの大きな原因は、この一事に尽きます。
ですから休息が必要なのですが、なにもわざわざ長期間の休暇を取ったり、休む時間を大幅に増やしたりする必要はありません。
毎日の暮らしのなかに、ほんのひと工夫を加えるだけで、忙しさから離れて、心身を休ませることができます。
禅的生活には、そんな「心身を休める知恵」がたくさん詰まっています。
その最たるものが、「坐禅」です。
坐禅というのは、日本の曹洞宗の開祖である道元禅師が、すべての人に実践を勧めている行法。中国から日本に帰国して初めて著した『普勧坐禅儀』という本のなかに、坐禅の心得を説いたこんな言葉が出てきます。
「諸縁を放捨し、万事を休息して、善悪を思わず、是非を管すること莫れ」
意訳しますと――。
「やらなくてはいけないことは、たくさんあるでしょう。
気にかかることも、いろいろあるでしょう。
善悪をわきまえるのが難しく、悩むことも多いでしょう。
そういった日常のしがらみの一切合切から、ちょっと離れなさい」
坐禅をするときには、そんなふうにして心身の活動を“一時停止”させることが重要だと、この言葉は教えてくれます。
ようするに、坐禅をすることは、そのまま心身の休息でもある、ということです。
■言葉で説明し尽くせない坐禅の深遠な世界
坐禅とは、正確に説明すると、次のような意味になります。
「眼・耳・鼻・舌・身・意の六つの感覚器官(六根)と、それにより感知される色・声・香・味・触・法(六境)の意識の世界を超えてひたすらに坐り、自身の内なる仏性と一つになる行」
こう見ると、なにやら難解にも思えますが、そもそも坐禅の深遠な世界は、言葉で説明し尽くせるようなものではありません。
ですから、みなさんは「ちょっと座ってみようかな」程度の軽い気持ちで始めていただいて大丈夫です。
ただその際、二つほど押さえておいてほしい坐禅のポイントがあります。
ポイントは第一に、「姿勢を正して座る」ことです。
あぐらをかいた状態から両足を組み(結跏趺坐)、その足の上で手の平を上にして両手を重ね、上半身を立てます。
その際、横から見て背骨がS字を描き、尾てい骨と頭のてっぺんが一直線になるようにしましょう。
第二のポイントは、「意識を自分の内側に集中させる」ことです。
ゆっくりと呼吸をしながら、視線を一メートルほど先に落とし、そこをぼんやり眺めるのがコツ。半分眼を閉じた状態(半眼)になるので、外界の刺激の多くをシャットアウトして、意識を自分の内へ、内へと向けやすくなります。
■「疲れ知らずの心身」を養う坐禅のコツ
あとは、頭のなかにさまざまな思考が浮かんでも、どんどん流していく感覚で、ひたすら座り続けるのみ。結果として、脳が休まり、心も整います。
坐禅は本来、お線香一本が燃え尽きるまで、40分くらいかけて行なうものですが、忙しいみなさんは10分、20分程度でもいいでしょう。
短時間でも毎朝晩続けていると、朝は心身の緊張がほぐれてスムーズに“活動モード”に入れますし、夜は悩みや不安が消えてぐっすり眠れるようになります。
ただし、最初から自己流でやってはいけません。本やビデオ教材などを参考にすれば簡単にできそうですが、これがなかなか……。一度、お寺の坐禅会などに参加して、正しい姿勢を教えてもらうことをおすすめします。
やってみるとわかりますが、坐禅をすると、気持ちがすーっと落ち着きます。朝晩以外に一日何回でも、心がざわつくときなどに座ってみるといいでしょう。
また、オフィスの椅子に腰かけて行なう「椅子坐禅」という方法もあるので、仕事の合間にも坐禅をすることは可能です。
■「七走一坐」――人生を“快適化”する禅の教え
仕事でも、趣味でも、勉強でも、元気を持続させつつ、パフォーマンスを上げる方法は一つしかありません。それは、
「疲れ果てる前に、休む」
という原則を守ることです。
その重要性を教えてくれる、いい禅語があります。それが、
「七走一坐」――。
文字通り、「七回走ったら、一回座りなさい」という教えです。
ちょっと階段の踊り場をイメージしてみてください。
ビルの階段は、だいたい20段ほど上がったところに踊り場が設けられています。ほんの数十秒でもそこで「ひと休み」することで、ずっと上の階までラクに上っていけるようデザインされているのです。
この仕組みは、仕事などにも応用できます。たとえば、
「30分集中したら、5分休む」
というふうに決めると、それまでの作業の疲れを引きずることなく、フレッシュな状態で次の作業に取りかかることができるのです。
■疲れをリセットする「歩行禅」のすすめ
休憩時間中は何をしてもいいし、何もしなくてもいいのですが、禅が教えてくれる“効果的に疲れを取る”方法があります。
それは、じっとしているのではなく、「あえて体を軽く動かす」こと。
参考にすべきは、禅僧の修行僧が坐禅行の合間に行なう
「経行」
と呼ばれる歩行禅です。
曹洞宗では「一息半歩」といって、40分単位で坐禅をする間に5分ほど、「息を吐いて半歩、吸って半歩」の非常にゆっくりしたペースで、歩くことに集中する行を行ないます。
完全に休むのとは少し違って、坐禅をしているときの意識は保ったまま、同じ姿勢を続けて固まってしまった体や足の緊張を歩きながらほぐしてあげるイメージ。
これをすることで、いい具合に疲れや眠気が取れて、無理なく長時間の座禅行に励むことができるのです。
みなさんもぜひ、この「一息半歩」にトライしてみてください。心身がリフレッシュされることはもちろん、集中力を切らすことなく、スムーズに次の仕事や作業に取りかかれるはずです。
とくに、「休みなくがんばり続ける」ことがクセになっている人は、日常生活に「踊り場をつくる」感覚で、こうした禅的休息術を一つでも実践してみるといいでしょう。
休みなくひたすら走り続けるよりも、パフォーマンスが上がると同時に、「疲れを知らないタフな体質」が養われると思います。
■「ていねいな動作」が心の余裕を生む
「所作を整える」と、
ムダな疲労が消えていきます。
何をするときも、「ていねい」を心がける。それが、禅の極意の一つです。
ただそういうと、忙しい現代人は反発を覚えるかもしれません。
「とにかく時間がないのだから、ていねいにやってる暇はないんですよ。手早くパパッとやって、量をこなさないと、いつまで経っても仕事が終わりません」
あたかも「忙しさとていねいな動作は、両立しない」ようなものいいですが、本当にそうでしょうか?
私はそうは思いません。むしろ、何事もていねいに取り組んだほうが、忙しさが緩和され、時間にも心にも余裕が生まれると思うのです。
たとえば、時間がないからと、雑に仕事を片付けていったとします。手をかけない分、早く終えられるかもしれませんが、成果の質は落ちる可能性が高い。また、あわてる余り、つまらないミスをしてやり直しになれば、かえって「時間がかかる」場合もあるでしょう。
「急がず、あわてず、もっと落ち着いて、ていねいにやればよかった」
と後悔することが少なくないのです。
「ていねい」を心がけると、それだけで自然と心が落ち着きます。
ですから、ミスが生じにくく、成果の質も上がるのです。
逆に、何をするにも「ていねい」を忘れて「雑」に走ると、やることが増えて疲れるし、うまくいかなくて心も疲れます。
忙しさにあわてそうになったら、自分自身に、
「もっとゆっくり、ていねいに。
というふうに声をかけてあげましょう。
■「所作」を整えれば、「すべて」が整う
「ていねい」を心がけると、もう一つ、いいことがあります。それは、
「三業が整う」
ことです。
「三業」とは、「身業(身体)」「口業(言語)」「意業(心)」という三つの行為を意味します。
その「三業」が整うとは、
「立ち居振る舞いが整うと、自ずと言葉づかいが整う。そうして身と口の両方が整うと、心が整う」
ということです。
もっというと、これら「三業」を整えることが「善因」となって、「善果」に結びつく―仏教ではそう考えられています。
つまり、「三業が整えられている」かどうかが、「善因善果のサイクル」をつくるカギを握る、ということです。
そしてこれは、「心身を健やかに保つサイクル」をつくることでもあります。
みなさんにも身に覚えがあるかと思いますが、忙しくて疲れていたり、何かイヤなことがあって気持ちがどんよりしていたりするときは、なんとなく立ち居振る舞いも言葉づかいも乱れませんか? たとえば、
姿勢がうつむきかげんになる。
表情が暗くなる。
態度が荒っぽくなる。
身だしなみが乱れる。
言葉づかいがぞんざいになる。
……といった具合に。こうした状態が続けば、仕事や人間関係でトラブルが生じ、さらに疲れが生じることになります。それによって、また立ち居振る舞いが乱れ、心が乱れ……と、まさに負のループです。
逆にいえば、きちんと「三業を整える」ことさえできれば、ムダな疲れが生じることがなくなり、心身ともに健やかな状態をキープできるというわけです。
ただその際、いきなり「心を整える」のは難しいので、まずは「立ち居振る舞いを整える」ことを意識するといいでしょう。
日常のちょっとした所作を変えてみるだけでいいのです。そうすることで、自然と気持ちが穏やかになり、やがて心も整っていきます。
■休息のサイクルを生む「感謝の習慣」
立ち居振る舞いを整えるときのポイントは、大きく二つあります。
一番のポイントは、姿勢を正して、まっすぐ前を向くこと。
これだけで、気分が少しすっきりして、自然と声もよく出るようになります。表情も明るくなり、前向きな言葉が出てきやすくなるでしょう。
もう一つのポイントは、あらゆる言動に「心をこめる」ことです。
たとえば、人に会ったら、「あなたに会えてうれしい」という心をこめて、笑顔であいさつする。
人と話すときは、「あなたの話を聞きたい」という心をこめて、相手の話によく耳を傾ける。
物を差し出すときは、両手を添える。置くときは、音をたてずにそっと置く。
食事をするときは、命をいただくことに感謝の心をこめて箸を運ぶ。
こんな具合に、あらゆる言動に「心をこめる」のです。
そのように心をこめることにテクニックは不要。難しいことは何もありません。
それが習慣になれば、自然と三業が整い、あなただけの「休息のサイクル」が出来上がります。
「三業を整える」ことは、まさに心身を健やかに保つための「休息の作法」なのです。
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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県横浜市生まれ。禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、国内外で数多くの作品を手がけている。芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭IV 枡野俊明作品集2018~2023』(毎日新聞出版)を刊行。禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。
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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)

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