疲れをしっかり取る休日の過ごし方は何か。禅僧の枡野俊明さんは「疲れを取る一番の方法は『寝る』ことだが、長く寝ればいい、というものでもない。
『時間に使われている』状態になるとよくないので、少しでも自分の心が動きそうなことを見つけて、やってみるといい」という――。
※本稿は、枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■休日の「理想的な過ごし方」について
休日は「体を動かす」よりも

「心を動かす」ことが大切です。
年末年始、春のゴールデンウイーク、お盆と夏休み、秋のシルバーウイーク……みなさんには年に数回の中長期の休みがありますね? その長さに応じて、さまざまな楽しい計画を立てていることでしょう。
こうしたときの「休みの使い方」は、大きく二つのタイプに分かれるように思います。一つは、
「好きなことをしてアクティブに楽しみ、日ごろのストレスを発散・解消する」
といった過ごし方で、もう一つは、
「たっぷり寝るなど、ひたすら体を休めて、たまった疲れを取る」
といった過ごし方です。
この二つの過ごし方は一見、両立しないようですが、そんなことはありません。遊び方・休み方を少し工夫すれば、より効果的に休息を得ることができます。
休日のいい過ごし方・悪い過ごし方を具体的に考えてみましょう。
■「家でごろ寝」も過ぎれば疲れる
疲れを取る一番の方法は「寝る」ことですが、長く寝ればいい、というものでもありません。
へとへとになるまで疲れてしまうと、つい、
「どこにも行かず、何もせず、“家でごろ寝”と決めこもう」
という気持ちになりがちですが、これはかえって“体に毒”です。
たしかにストレスからは解放されるものの、疲れが回復してもゴロゴロし続けていると、“ごろ寝疲れ”がたまります。
逆説的ですが、ストレスフリーな時間が、かえってストレスになってしまうのです。
何がよくないかというと、「時間に使われている」状態になることです。
「随処作主、立処皆真(ずいしょにしゅとなれば、りっしょみなしんなり)」
という、臨済宗の開祖である臨済義玄禅師の言葉があります。
この禅語が説いているのは、どんな状況や場所でも、自分の心の主導権を握り、主体的に生きることの大切さ。「休日の使い方」においても、ただ時間に流されるのではなく、貴重な時間を主体的にコントロールしていく必要があるのです。
ですから、ここは「ノープランがごろ寝を招く」と捉え、なんでもいいので、お手軽にできるプランを立てましょう。「これといって、やりたいことはない」という人も、少しでも自分の心が動きそうなことを見つけて、やってみてください。
本格料理に挑戦する。

映画館で気になっていた映画を見る。

美術館に行って、ついでに周辺の公園を散歩する。

家族で近場にキャンプに行く。

本屋さんに出かけて、カフェで買った本を読む。

……など、ちょっとしたイベントでいいのです。
そんなふうに休日は、心と体を動かす時間と、家でゆっくりする時間の両方を設けてみる。
それだけで休み明けは、身も心も軽くなっているはずです。
■たとえば「授戒会」に参加してみる
長期休暇が取れたら、「授戒会(じゅかいえ)」という仏教の儀式に参加するのもよいプランかと思います。一般的には「お授戒」と呼ばれる場合が多いです。
たとえば曹洞宗の大本山永平寺では、毎年4月23日から29日までの6泊7日の日程で授戒会が行なわれています。
簡単にいうと、自分自身の犯した過去の罪を懺悔(ざんげ)し、
「これからは、お釈迦さま以来の戒法を守って生きていきます」
という誓約を立て、ご戒名(かいみょう)、つまり真の仏教徒としての名前を授かる儀式です。
「戒弟(かいてい)さん」と呼ばれる参加者は、朝の坐禅に始まり、お坊さんといっしょにお経をあげるなど、朝昼晩のお勤めを行ないます。
食事も掃除も入浴も、すべてが修行ですから、作法通りに行ないます。
一方で、「十六条戒(じゅうろくじょうかい)」という、仏として生きていくための約束事について勉強したり、全国各地から上山(じょうざん)された和尚さま方から法話をいただいたり、坐禅の指導を受けたりなど、九つのプログラムを繰り返し修行します。
■憂き世の苦しみが癒やされる
そして最終日、永平寺で最高位にある大禅師猊下から、ご戒名とお血脈(けちみゃく)、つまりお釈迦さまから達磨(だるま)大師や道元禅師を経て自分まで、連綿と伝わる法系図をいただきます。それはもう清らかな儀式です。

「戒名」というと、亡くなった後でいただくものだと思われるかもしれませんが、私は常々、「それでは意味がありませんよ」と申し上げています。
なぜなら、ご戒名をいただくのは、
「その名に恥じぬ、みんなの手本となるように生きていきます」
という決意表明だからです。
実際、江戸時代までは「ご戒名は元気に生きているうちにいただく」のが当たり前でした。
この「授戒会」に参加された方は、みなさん感動されて、「もう雑な生き方はできません」とおっしゃいます。なかには、生涯に一度でいいにもかかわらず、三度、四度と、何度も受ける方もいるほどです。
「憂(う)き世の苦しみが癒やされる」「日々の生活で身にしみついた汚れをさっぱり落とせる」といった効果が感じられるようで、気持ちが安らぐのかもしれません。
いずれにせよ「授戒会」は、長期休暇の使い方の一つとして、非常によいものだと思います。
■「よりよく生きる」ための“誓い”を立てる
いい機会ですので、「三帰戒」「三聚浄戒」「十重禁戒」から成る「十六条戒」とはどんな戒めなのか、触れておきましょう。
[三帰戒]
一 お釈迦さまを拠りどころといたします

二 お釈迦さまが説いた法(教え)を大切にいたします

三 お釈迦さまが説いた法を実践し、守り継ぐ僧侶たちを大切にいたします
[三聚浄戒]
一 悪いことは一切しません

二 常に善行に励みます

三 世のため人のために尽くします
[十重禁戒]
一 ムダな殺生はいたしません

二 盗みを働きません

三 淫らな行ないはしません

四 噓をつきません

五 酒を売り買いしません

六 人の過ちを執拗に咎めません

七 自慢しません。人をけなすこともしません

八 物やお金などを施すことを惜しみません

九 怒りに囚われ、懺悔を受け入れないことはしません

十 仏法僧の三宝を謗りません
大事なのは、これらの約束事を自ら「誓う」こと。「禁を破ってはいけない」と縛らないところが、仏教のおおらかさにも通じるように思います。

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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)

曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー

1953年、神奈川県横浜市生まれ。
禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、国内外で数多くの作品を手がけている。芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭IV 枡野俊明作品集2018~2023』(毎日新聞出版)を刊行。禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。


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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)
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