疲れにくい人は時間をどのように使っているか。禅僧の枡野俊明さんは「真面目な人ほど、『何もしない』で時間を過ごすことに、罪悪感を抱いてしまう傾向がある。
しかし、『ぼーっとする』のは、疲れを癒やし、活力や創造性を養うために、必要な時間だ」という――。
※本稿は、枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■オランダ発ストレス解消法「ニクセン」
疲れにくい人ほど、「何もしない」時間を大切にします。

「ニクセン(Niksen)」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか?
これは「何もしない」を意味するオランダ語。2019年にアメリカの「ニューヨークタイムズ」紙が紹介したことをきっかけに、ストレス予防法として世界的に注目されるようになったそうです。
その背景にあるのは、働きすぎの人が増え、過労やバーンアウト(燃え尽き症候群)が社会的に問題化したこと。「ニクセン」の時間を持つライフスタイルの重要性が、再認識されたのでしょう。
オランダでは、政府の「全国労働条件調査(2022年度)」により、就労人口の5人に1人がバーンアウトを経験していて、精神的疲労や虚無感、倦怠感などに苦しむ人が増えていることが判明しました。
そうした状況を受けて、企業のなかにはニクセンを重視し、従業員が適宜休めるように、リラックススペースを設けたり、敷地内に散歩コースをつくったりしているところもあると聞きます。
こうした事情は、日本のビジネス社会も同じです。「働き方改革」が推進されているものの、働きすぎや劣悪な労働環境、職場でのハラスメントなどが原因で心身の不調に苦しむ人は、まだまだたくさんいます。
おそらく日本は、「ニクセン」を導入することの必要性が、世界でもかなり高いほうなのではないでしょうか。
「休息法」の一つとして、一考に値するかと思います。
■「ぼーっとする」ことの、これだけの効果
では「ニクセン」には、どんなメリットがあるのでしょうか。
それは、主に三つあります。
一つは、ストレスが軽減されることです。
結果や生産性が求められる仕事から離れる時間を持つことで、心身の緊張がほぐれ、リラックス効果が期待できます。
二つ目は、セロトニンという神経伝達物質が分泌されやすくなることです。
セロトニンは別名、「幸せホルモン」。心を幸福感で満たし、自律神経を整えて、気持ちを前向きにする作用があるといわれています。
そして三つ目は、ひらめきが生まれやすくなることです。
何もせずにぼーっとしているときは、集中しているときよりも、脳の活動範囲が広がるそうです。
集中しているときには引っかかってこない、さまざまな情報を受け入れやすくなるのでしょう。そこから、新しい考えやアイデアが出てくるものと思われます。

■ただ「景色をぼんやり眺める」だけで……
この「ぼーっとすると、ひらめきが生まれやすくなる」に関して、「たしかにそうだ」と頷ける出来事がありました。
もう20年ほど前になりますが、NHKの「課外授業 ようこそ先輩」という番組に出演させていただいたとき、“ニクセン効果”ともいえる現象を目の当たりにしたのです。小学6年生を対象にしたこの授業のテーマは、まさに「ぼーっとしている時間を持とう」というものでした。
最初はみんな、「何もしないで」といっているのに、何をすればいいのか戸惑っている様子でした。毎日、塾に、習いごとに、遊びにと、スケジュールがびっしり入っている彼らは、何もするなといわれると、どうしていいかわからなくなるようです。
そこで、助け船を出しました。
「ここが気持ちいいなあという場所を見つけて、周りの景色をぼんやり眺めながら、ぼーっとしていればいいんだよ」
ようやく「そういうことか」と納得したのか、彼らはパーッと校庭に散っていきました。
そして、ある子どもは芝生の上に大の字に寝そべって、雲の行き交う空を眺める。
ある子どもは体育館と倉庫の間の狭い隙間に入りこみ、じっとしている。
ある子どもはジャングルジムのてっぺんに上り、景色を眺める。
こんな具合に、それぞれが“居場所”を見つけて、思い思いに数十分を過ごしていました。
授業はここからが本番です。
子どもたちに自分の感じた心地よさを、箱庭で表現してもらったのです。
石や木の枝、砂、水などを使って、自分の感じたままに、好きにつくった作品は、どれもじつに個性的。自由で伸び伸びとした感性が生きていて、「意外とやるなあ」と感心したことを覚えています。ぼーっと過ごす時間が、脳内に創造性を養うスペースをつくったのでしょう。
余談ですが、この番組は大変好評で、6、7回、再放送されました。子どもたちの姿を通して、大人たちも休むことのすばらしさを感じたのではないでしょうか。
■こうやって、頭のなかを「空っぽにする」
なかには、「ニクセンの必要性はわかったが、ぼーっとしている暇はないなあ」と考えている人もいるかもしれません。
真面目な人ほど、「何もしない」で時間を過ごすことに、罪悪感を抱いてしまう傾向があるようです。
しかし、「ぼーっとする」のは、「怠ける」こととは違います。疲れを癒やし、活力や創造性を養うために、必要な時間なのだと捉えてください。
なにも、まとまった時間を確保する必要はありません。
「忙中閑あり」で、どんなに忙しくても、数分、数十分、時間が空くことはありますよね? そういう“隙間時間”を利用してぼーっとすればいいのです。
たとえば――
通勤電車の吊り革につかまり、過ぎていく窓外の景色に目をやる。
待ち時間ができたとき、ベンチに座って行き交う人を眺める。
トイレタイムや入浴時間に、少し目を閉じてリラックスする。
その程度のことでも十分、“ニクセン効果”は得られます。
その際くれぐれも、スマホを取り出さないように気をつけてください。
あと、坐禅がおすすめです。
坐禅そのものが、「頭のなかに何も留めない」行為。「何も考えない」というより、瞬間瞬間に浮かぶ考えを、右から左へ流していくイメージです。
また座るときに目は半眼で、斜め45度くらい下を見るので、視覚から入る情報を75%ほどシャットダウンできます。その分、余計なことを考えずにすむのです。
どうでしょう、ニクセンに通じる休息法だと思いませんか。

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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)

曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー

1953年、神奈川県横浜市生まれ。
禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、国内外で数多くの作品を手がけている。芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭IV 枡野俊明作品集2018~2023』(毎日新聞出版)を刊行。禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。


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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)
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