心身が整う食事は何か。禅僧の枡野俊明さんは「同じ食べ物でも旬にいただいたほうが、シンプルに栄養価が高いことはもちろん、『心の栄養』にもなる」という――。

※本稿は、枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「一口食べたら、箸を置く」のが基本
食べすぎは体に毒。「量より質」を心がけましょう。

食事は健康のカギを握る、非常に重要な要素です。
いまの日本では、常に飢餓と戦わなければならなかった大昔と違って、「量的な確保が難しい」ことはありません。よほどのことがない限り、「お腹いっぱい食べる」ことが可能です。カロリー不足の問題は、ほぼ解消されているといっていいでしょう。
大変幸せなことですが、それが逆に「食べすぎ」という別の問題を生じさせているように思えてなりません。
いうまでもなく、食べすぎは「体に毒」です。何より「肥満」により、さまざまな生活習慣病を引き起こす危険があります。
食べすぎの原因の一つに、「早食い」があげられます。
じつは私も、その例に洩れません。
食事の途中で何かと用事の入ることが多く、「さっさと終わらせよう」と、つい急いで食べてしまうのです。ですから、仕事の忙しいみなさんが、
「早食い」になってしまう気持ちはよくわかります。
では、なぜ「早食い」すると、食べすぎてしまうのでしょうか。
それは、よく嚙んでいないために、「もう満腹」という信号が脳にしっかりと伝わらず、「もっと食べたい」衝動を抑えられなくなってしまうからです。
その点、ゆっくり食べれば、次の一口にいく前に“満腹信号”を脳がキャッチし、いいころ合いで箸を置くことができます。
つまり食べすぎを防ぐには、よく嚙んで、ゆっくり食べることが大切。できるだけ
「一口食べたら箸を置き、よく嚙む」
ことを心がけ、習慣にするといいでしょう。
■「喫茶喫飯」――心身が整う「食」の味わい方
「喫茶喫飯」という禅語があります。これは、
「お茶をいただくときは、お茶と一つになりきって味わう。ご飯をいただくときは、ご飯と一つになりきって味わう」
ことの大切さを説いた言葉です。
いまの若者の多くは、食事の間もスマホを手放せない様子。画面を眺めながら、食事をする姿をよく見かけます。

ほかにも「テレビを見ながら」「新聞を読みながら」「音楽を聴きながら」と、“ながら食事”をする人は少なくありません。
果たしてそれで、食事を“おいしく味わう”ことができるのでしょうか?
はっきり申し上げて、まず無理でしょう。せっかくのご馳走が「砂を嚙む」ように味気のないものになってしまいます。
そもそも食事とは、「自然の恵みである命をいただく」こと。
それにより、自分が生かされていることに感謝して食べるのが礼儀というものです。“ながら食事”など、心得違いも甚だしいといわざるをえません。
食事をする前はほんの数十秒、目を閉じて、心のなかで、つぶやいてみてください。
「いまから大切な命をいただきます。この食事を通して、自分自身の体に栄養をいただきます」
自然と感謝の心がわいてきて、ぞんざいな食べ方はできなくなります。ゆっくり、ていねいに、「休息の作法」にかなった食べ方ができるようになるでしょう。
■修行僧の「素食」に学ぶ
「質」の部分では、肉やあぶらっこいもの、甘いものなどをとりすぎないように注意しなくてはいけません。
最近は、市販のお弁当や外食などでも、健康によいとされるメニューが増えましたが、それでもまだまだ高カロリーのような気がします。
そういうものを無制限に食べていると、どうしても胃がもたれたり、お腹の具合が悪くなったりします。
その対局にあるのが、修行僧の食事でしょう。
修行僧の食事は、まさに「素食中の素食」。とくに「小食」と呼ばれる朝食は、水っぽいお粥と、ごま塩、おかずは透けるほど薄く切ったお漬物くらいのものです。
そこまで極端ではありませんが、私自身も、ほぼ野菜中心の食生活です。あぶらっこい料理や甘いお菓子などは、食べても少しだけ。お酒もほとんどいただきません。
そうした食生活のおかげもあってか、私の胃腸はいつも快調です。
そんな経験から、あぶらっこい食事が好きな若い人に、一つ、提案があります。
それは、お酒好きな人が健康のために“休肝日”を設けるように、
「週に一日か二日、“肉と油の休日”を設ける」
ことです。
それだけで、体調はずいぶん改善されるのではないかと思います。
■「旬」をいただく――“心の栄養”をチャージする感覚で
私たちは、「いつでもどこでも、好きなものが手に入る時代」に生きています。

「食」に関しても、栽培や保存の技術が上がったおかげで、「一年中、食べられるもの」がかなり増えました。
それ自体はありがたいことなのですが、禅的養生訓の観点からは、できるだけ「旬のものをいただく」ことをおすすめします。
同じ食べ物でも旬にいただいたほうが、シンプルに栄養価が高いことはもちろん、「自然の恵み」のありがたみをより強く感じることができて、心身が整うのです。
もっといえば、旬のものは、
「この世のすべてのものは、単独で存在しているのではなく、互いに関わり合って存在している」
という仏教の「諸法無我」の教えそのものです。
たとえば、みずみずしい夏野菜を口にするとき――。私たちは、たんにその野菜だけを食べているのではなく、太陽の光、雨、土、そしてそれを育てた人の手といった「無数の縁が結びついてできた命」をいただいています。
そうした「ご縁」に喜びを感じながら食事をいただけば、お腹だけでなく、心も幸福感で満たされます。つまり旬のものは、「心の栄養」にもなる、ということです。
もちろん、食卓に並ぶすべての食材を旬のものにするのは難しいでしょう。
ですから、「旬のものを半分、取り入れる」くらいの感覚で、食事を楽しむのがおすすめです。
これまでの話とあわせて、「量より質」をキーワードに、ぜひとも食生活を見直してみてください。

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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)

曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー

1953年、神奈川県横浜市生まれ。
禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、国内外で数多くの作品を手がけている。芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭IV 枡野俊明作品集2018~2023』(毎日新聞出版)を刊行。禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。


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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)
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