最小のリソースで最大の成果を上げるにはどうすればいいか。ビジネス数学・教育家の深沢真太郎さんは「暇であればあるほど人として輝ける。
そのためには仕事において成果を出せる1点に集中することだ」という――。
※本稿は、深沢真太郎『人生をシンプルにする 数学的思考 「速さ」よりも、やることを「少なく」。』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「仕事が速い」と誤解される理由
「仕事が速いですね」とよく言われます。
私には期限を守るという哲学があります。仮に私の仕事が「速い」とするなら、そのことと無関係ではないのでしょう。
「仕事が速いですね」と褒められたとき、表面的には「ありがとうございます」と感謝の気持ちを述べます。もちろんそれはウソではなく、褒めていただいたことに心から感謝の気持ちを持っています。
一方で、その裏ではこんなことも考えてしまっています。
「この人は、私の仕事の仕方がスピーディなんだと誤解しているな」
速いとは、速度という言葉があるように、スピードがあるということだと思います。しかし私の仕事術は、スピードがあるのではありません。
たとえばパソコンのタイピングも遅い。
インプットのために読書をたくさんしますが、速読とは程遠いくらい読むのが遅い。
いろんなタスクを同時進行でパッパと片づける、いわゆるマルチタスクのような能力もありません。私は究極のシングルタスク脳です。具体例をいくつかご紹介します。
たとえば私は1日の過ごし方として、午前中は書籍の執筆をして、午後は企業の研修に登壇し、夜は別件で打ち合わせをする、といった形がとても苦手です。
できるだけ仕事は1日につき1タスク(1テーマ)となるように調整し、「今日はある事柄だけ考えていればOK」な状況を目指します。もちろん365日それを完璧に実現することは不可能ですから、できるだけそれに近づける、という考え方です。
■速いのではなく、少ないだけ
もっとカジュアルな例を挙げるなら、仕事のことを考えているときには、家族から話しかけられても聞いているフリはしますが、聞いていません。
聞いていないというよりは、聞くことができないのです。申し訳ないとは思っていますが、できるだけ「ある事柄だけ考えていればOK」な状況を目指してしまうのです。
私は「速度」があるわけではないのです。では、どうして人から「速い」と思われるのか。
次の論理がその答えです。
することが少ない→結果として早い→人はそれを速いと誤解する
「具のないラーメン単品」を作るときと、「野菜たっぷりのラーメンと餃子」を作るときとでは、前者のほうがその調理は早く完成します。なぜ差が生まれるのか。答えはひとつしかありません。完成までにすることが、少ないからです。
私は仕事において、「速い」わけではなく、することが「少ない」だけなのです。少ないから、結果的に速くやっているように見えるだけなのです。
することが少ないほど結果として早いとするなら、この二者は「Xが小さいほどYは大きくなる」といった関数的な関係性になります。私にはこれがシンプルな数学に見えます。
数学の論述には、少なさが求められます。例えば長い記述の公式ではなく、少ない記述によりひと目で認識できる公式のほうが優れていて、しかも美しいのです。
■少なさを求めて仕事をする
しかし数学の論述に、速さは求められません。
計算問題を解くのが速いといった能力が良いとされるのは一部の学校教育や受験などの場であり、本質的にはそれは数学の能力ではありません。ものすごいスピードで黒板に数式を書く数学教師がすごいと評価されるのは、ドラマや映画の中だけです。
数学に、速さは要らない→仕事に、速さは要らない

数学に、少なさは要る→仕事に、少なさは要る
数学的に生きるとは、少なさを求めて生きること。ですから数学的に仕事をするとは、少なさを求めて仕事をすること。私は仕事が速いわけではなく、少ないだけ。でもそういうはたらき方をとても気に入っています。
あなたの仕事に、「少なさ」が必要なことはあるでしょうか。
■忙しかった頃、成果を出せたのか
振り返ると20代から30代前半の私は、「忙しい」ことを自慢していたように思います。「忙しい」ということは仕事が集まっているということ。そして、それはいろんな人から頼られている証拠。そんな考え方でした。
私はこの考え方を完全に否定するつもりはありません。
個人的にはそういう時期があってもいいと思いますし、その忙しさから学べることもきっとあるでしょう。
しかし月日を経て、やはりこの問いを自分自身に投げかけざるを得ません。
「ではその忙しかった頃、あなたは成果を出せたのか?」
私の答えは、「自慢する成果は出せていない。しかし忙しさは自慢していた」です。なんともお恥ずかしい限り。どこかに穴があったら入りたい気持ちになります。が、これは50歳を目前にしたいまだから感じることなのかもしれません。
ところで、「忙」の反対は「暇」となるでしょうか。「暇」ということは仕事がないということ。仕事が集まっていないということ。いろんな人から頼られていない証拠。かつての私なら、そう考えたでしょう。

しかし、いまは違います。ひょんなことで「暇」という字の意味に対するある説を知り、考え方が真逆になりました。
■暇であればあるほど人として輝ける
「暇」とは、日に叚(カ)と書きます。「叚」の成り立ちは、磨かれる前の原石。つまり暇とは、自分を整え秘められた力を磨き上げる時間のことを指します。
ギリシャ語のスコレー(暇)がスクール(学校)に変化したという説も。いずれにしても、人が成長するために暇は必要なもののようです。
暇な人→磨く時間がある人→魅力的な人
こう関連づけることができるとするなら、暇であればあるほど人として輝けるということになります。
この法則を信じるなら、「忙しい」を自慢するということは、自分を磨く時間がないと自慢していることになります。自分は魅力がない人間だと、積極的に言っているようなものです。私はこれが急に恥ずかしくなりました。
ですからいまはすっかり、「暇」であることを自慢するようにしています。
もちろん大切なのは本当に暇であること。私はいま時間に追われることはほぼありません。
「暇」と言えるように時間をゆったり過ごすためには、やはり余裕が持てる状態であることが必須でしょう。そのためには仕事において成果を出せる1点に集中することです。
1点だけに集中するのですから力点が分散しません。実は時間もあまり奪われません。最小のリソースで最大の成果を得られる戦略を選びます。
とはいえ、言うのは簡単だけれど実際にそれを実現するのは難しいことです。
私はどのようにしてそれを実現させてきたか。あとでたっぷりご紹介します。
■忙しい人は魅力的に映らない
余談ですが、私がいまの仕事をスタートした頃に出会った、あるベテラン教育者の言葉をご紹介させてください。
「講師は、暇でないといけないよ。大きな仕事の依頼があったときに、別の小さな予定が入っていたら、その依頼を断らなければならない。その依頼は二度とこない。だから売れる講師は、常に暇なんだよ」
起業して間もない頃の私は、目の前の小さな仕事を獲得していくことに必死でした。ですからこの言葉も単なる理想論としてしか受け取ることができませんでした。
しかし時を経て、私はこれがまぎれもない真実であることを知ります。そしてこのベテラン教育者は、この言葉にもうひとつ別のメッセージを忍ばせていたことも。
忙しい人は魅力的に映らない



魅力的に映らない人には、安心して頼れない



安心して頼れないから、大切な(重要な)仕事を依頼しにくい



大切な(重要な)仕事が回ってこない人は、いつまでも主役になれない



いつまでも主役になれないから、いろんなことをやろうとしてしまう



いろんなことをやろうとしてしまうから、忙しくなってしまう



忙しい人は魅力的に映らない



……
実にわかりやすい負のサイクル。「講師は、暇でないといけないよ」というアドバイスの重みをあらためて感じますし、こうなってはいけないと肝に銘じています。
■最小のリソースで最大の成果を得られる戦略
前述のメッセージは、「仕事において成果を出せる1点に集中すること」でした。1点だけに集中するのですから力点が分散しません。実は時間もあまり奪われません。最小のリソースで最大の成果を得られる戦略を選びます。
しかし、あなたは「そんなのは理想論だよ……」「じゃあ具体的にどうすれば?」と思うかもしれません。それは当然のツッコミや疑問だと思います。ですから、私もまっすぐ答えます。必要ない方は読み飛ばしていただければと思います。
まず「そんなのは理想論だよ……」というツッコミについて。そのように思う方の感情をリスペクトしたうえで私がお伝えできることは、「理想を追いかける意思がないなら、諦めていまの人生で幸福になってください」です。
プロ野球選手になった人は、おそらく子どもの頃から理想を追いかけて頑張ってきた人でしょう。一方で、そんな理想は程遠いと感じ、諦めていく人がいることも事実です。しかし諦めていった人が不幸な人生を送るかというと、もちろんそんなことはありません。
違う道を見つけ、そこで花を咲かせています。ですから、理想を追いかける意思がないなら、諦めていまの人生で幸福になれば良いのだと思います。
次に「じゃあ具体的にどうすれば?」という疑問について。私から提案できるものがあります。それは、とてもシンプルな公式のような姿をしています。
(あなたがビジネスで勝負するテーマ)=(能力)×(能力の使い方)
このシンプルな公式において、「能力」にはあなたがもっとも自信のあるスキルを選びます。目的は集中する1点を選ぶことですから、徹底的に絞り込み、厳選することが必須です。
■結論を得た以上は他の仕事はすべてやらない
「能力」が決まったら、次に「能力の使い方」を決めます。その能力をどこで、どのように、誰に対して使うのか、できるだけ具体的に決めます。ここでも目的は集中する1点を選ぶことですから、曖昧さはできるだけ排除します。
もちろん私もこの思考により、自分のポジションを決定した経験があります。
(深沢真太郎がビジネスで勝負するテーマ)=(数学的な能力)×(社会人に対しビジネススキルとして指導する)
私の職業人としてもっとも成果が出るビジネステーマは、自分がもっとも得意とする「数学的な能力」を、主に「社会人に対してビジネススキルとして指導する」教育事業と考えました。
もっとも得意なこととは、職業人として最大の武器であることを指します。それだけを使って活動をするわけですから、最小のリソースで最大の成果を得られる戦略を選ぶことにもなります。
また、「ビジネス」と「数学」と「教育」という3つのキーワードが私の職業を表現するものだと考え、これだけは永遠に変わらないだろうと確信しました。これが、私の肩書きである「ビジネス数学・教育家」の誕生秘話です。
さらに重要なのは、結論を得た以上は他の仕事はすべてやらないと決めたことです。この公式に当てはまらない仕事は断る。それを徹底することで、集中する1点が揺るがないものになっていき、結果的に「暇」に近づいていきます。
また、私がこの肩書きを公表するということは、あの公式に当てはまらない仕事をすることは世間や関係者に違和感を抱かせてしまうということです。
■「集中する1点」を見つける4つのポイント
極端な話、私が幼児に英語を教え始めたらおかしいわけです。ビジネス数学・教育家が、ある日いきなり弁護士になったら違和感がありますよね。
職業人として自分の肩書きを表明することは、そのテーマの専門家であることと同時に、それ以外の仕事はしないと表明することでもあると思います。
職業人として公言できる肩書きを持っている人は、仕事において「集中する1点」を持っている人です。逆に自分のことを一言で説明できない人が、「集中する1点」を持てるわけがありません。
つまり仕事を少なくするとは、自分の能力に素直になり、できないことはやらないと腹をくくることです。
もしあなたが、私と同じように職業人として「集中する1点」をこれから見つけたいと思っているなら、していただきたいことは次の4つだけです。
①自分がもっとも得意なことをはっきりさせる(ないなら、いまからでも作る)

②それをどう使うかを決める(どこで、どのように、誰に対して、etc)

③職業人として、公言できる肩書きを持つ

④肩書きに反する仕事は断る
なんだかマーケティングみたいだな、と思った人もいるでしょう。その通りだと思います。この話は、自分自身をマーケティングする話です。
私はこれ以上にシンプルで本質的な方法論を知りません。ぜひ、実践してみてください。

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深沢 真太郎(ふかさわ・しんたろう)

ビジネス数学教育家

日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。

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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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