物事を確率で考えられる人はお金を何にどう使うか。ビジネス数学・教育家の深沢真太郎さんは「一例として、仮に宝くじ1枚を購入するのに300円かかるとしたとき、理論上は購入者が平均して150円の損をする仕組みになっている。
理論上は負けるとわかっているゲームで短期的にたまたまうまくいっても、長期的に結局はうまくいかない」という――。
※本稿は、深沢真太郎『人生をシンプルにする 数学的思考 「速さ」よりも、やることを「少なく」。』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「宝くじを1枚買う」とはどういうことなのか
今回は生活におけるお金の使い方とそのこだわりについてお話ししましょう。
ここでは「宝くじ」を題材にして、お金を使う・使わないの判断基準について考えてみたいと思います。
「数学を日常生活で活かそう」といった文脈の会話になったとき、頻繁に用いられるのが宝くじという題材です。確かに購入金額、当選金額、当選率という数字が登場する数学モデルであり、学生時代に学んだ単元としては「確率」となります。
誰にとっても馴染み深い話題ではありますが、ぜひあらためて考えてみてください。「宝くじを1枚買う」とはどういうことなのでしょう。その思考は長期的に見たとき、人生にどう影響するのでしょう。
実は私は、これまで一度も宝くじを購入したことがありません。今後も購入するつもりはありません。
理由をシンプルに説明します。
ご存知の方も多いと思いますが、仮に宝くじ1枚を購入するのに300円かかるとしたとき、得られるリターンの平均値を数学的に計算すると、およそ150円といわれています。
もちろん大当たりすればとんでもない金額を手にしますが、ほとんどの人は何も起こらずに終わります。その平均を取ると、150円になるということです。
つまり宝くじとは、300円払ってリターン150円を得る仕組みです。お気づきのようにマイナス150円。つまり理論上、購入者は150円の損をする仕組みなのです。
■宝くじは1枚も買わない
ではここから冷静に、とにかく冷静に考えてみましょう。いったん宝くじという概念を頭の中から捨て去ってください。
普通の感覚なら、人は確率的に負ける(損をする)とすでにわかっているゲームにあえて参加することなどしません。百歩譲って、一度は興味本位で参加してみるとします。
そのときに幸運にも勝ったとします。
もしあなたなら二度目は参加しますか。三度目は。それに100回も挑戦し続けますか。
実はこのようなゲームは挑戦を続ければ続けるほど、しっかり理論通りに負けるようになっています。これは確率のもっとも重要な特徴のひとつであり、ポイントは短期的ではなく長期的に考えることです。
理論上は負ける(損をする)とわかっているゲーム
短期的→たまたまうまくいった

長期的→結局はうまくいかない(そうなっている)
あるいは投資の世界では、長期的に分散投資するのが必須という経験則があります。社会的な情勢やアクシデントによりたまたまうまくいかない時期があったとしても、長期でコツコツ運用を続けていれば最後は理論通りの成果が出る。だから一喜一憂せず、市場の成長を信じてコツコツ投資を続けることが成功の近道と言われます。
理論上は資産が増える運用方法で投資を始める
短期的→たまたまうまくいかない

長期的→結局はうまくいく(そうなっている)
数学的に生きると決めている私は、このような理論に対してとても素直であり、そして徹底して冷静です。ですから宝くじは1枚も購入しません。投資は長期的に分散して行います。
■金額の大小の問題ではない
実は宝くじのような話をすると、一定数の人は「金額の問題だ」とおっしゃいます。
マイナス150万円は困るけれど、マイナス150円くらいはなんとも思わない。そういう理屈です。
確かに金額は異なりますが、している思考は同じです。金額の大小の問題ではなく、お金を使うという行為に対する思考の問題と考えます。
マイナス150円をなんとも思わない思考の人は、宝くじ以外のことについても同じ思考をします。構造的に損をすることがわかっているものに平気で大切な資源を投下する思考なのです。
逆にこのマイナス150円を好ましく思わない人は、宝くじ以外のことについても同じ思考をします。構造的に損をすることがわかっているものに大切な資源を投下することは絶対にしません。
この文脈において、私はかつてある言葉に出会ったことがあります。実際に見聞きした言葉を、若干マイルドに表現します。
「宝くじは、数学的センスがない人に対する税金みたいなもんだと思う」
正直に申し上げて、表現的にはいささか問題があるようにも思います。決して差別的な意図はありませんが、もしお気を悪くされた方がいたら申し訳ありません。
しかしこの言葉で訴えていることの意味は、あなたにもおわかりいただけるのではないでしょうか。
以上が、私が宝くじを1枚も購入しない理由です。同じ理由から、私はこれまで競馬やパチンコ、そのほかギャンブルなるものは一度もやったことがありません。
■買う・買わないの理由を自分で明確に言葉にする
無論、私は宝くじそのものを否定しているわけではありません。
現行の日本の宝くじは1948年に当せん金付証票法(昭和23年法律第144号)に基づき、地方財政の資金調達に資することを目的として運営されています。大衆の「楽しみ」という意味でも、世の中を明るくしてくれる効能もあるでしょう。
数学教師をしている私の知人は、宝くじの数学的な構造はもちろん理解したうえで、「買わなければ当たらない」「買うことに意義がある」という考えで楽しまれています。
土俵に乗らなければ絶対に勝てない。確率の低いことに挑戦することに人生的な意味がある。そういう考えなのかもしれません。なるほど、人間らしくて素敵だなと思います。
私と同じ「数学の人」であっても、これだけ考え方が違うテーマです。
あなたもご自身が持つ必要性を自覚したうえで、自己責任の範囲で楽しんでいただければよいかと思います。
ただし、そうする理由は自分で明確に言葉にできるといいですね。それがあなたのお金を使う・使わないの判断基準をひとつ明確にすることにつながります。
あなたの人生に、宝くじは必要でしょうか。
もちろんこの問いは、宝くじというもの“だけ”を指しているのではありません。

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深沢 真太郎(ふかさわ・しんたろう)

ビジネス数学教育家

日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。
2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。

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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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