■トランプ氏は侵攻を「石油のため」と明言
アメリカ軍がベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束してからわずか数時間後。トランプ大統領は、フロリダ州にある自身の私邸マール・ア・ラーゴで記者会見を開き、アメリカの大手石油企業をベネズエラに送り込み事業展開させる計画を明らかにした。
米CNNによるとトランプ氏は、「我々はアメリカの大手石油企業、つまり世界でも最大の企業らを送り込み、数十億ドルを投じて荒廃した石油インフラを修復し、ベネズエラに収益をもたらしていく」と宣言した。
さらにベネズエラの現行の石油事業を「完全な失敗」と断じ、「本来のポテンシャルに比べれば、ベネズエラはほとんど石油を産出できていなかった」と批判した。
米公共ラジオ局NPRによると、トランプ氏は今回の軍事作戦の目的が「少なくとも部分的に」石油資源の掌握にあったと認めた。そのうえで、アメリカがベネズエラの国政を担い、「国を運営」し、自国の石油企業が参入できる環境を整えるとの意向を示した。
ただし、専門家の間ではこの計画への懸念も広がっている。複数の石油専門家はNPRに対し、中南米や中東におけるアメリカの軍事介入は歴史上、繰り返し失敗してきたと指摘した。ベネズエラは世界最大級の石油埋蔵量を誇る国だが、政情不安やインフラ老朽化を考えると、大手企業にとって確実な投資先とは言い難いのが実情だ。
■世界埋蔵量の5分の1を占めるが生産能力がない
埋蔵量に見合った産出ができていないとするトランプ氏の指摘は、おおむね正しいと言えば正しい。
ベネズエラで確認されている原油埋蔵量は3030億バレルに達するが、アメリカのエネルギー省傘下の統計機関であるエネルギー情報局(EIA)によれば、これは世界全体の約5分の1を占める。単一の国としては世界最大の規模だ。
これに対し、実際の生産量は程遠い。CNNによると、現在の1日あたりの生産量は約100万バレルで、世界全体のわずか0.8%にすぎない。
これは2013年にマドゥロ政権が発足する前の水準の半分以下であり、さらにその前任者であるチャベス元大統領の政権下で記録した日量350万バレルと比べると3分の1以下にまで落ち込んでいる。
アメリカなどによる経済制裁や国内の経済危機に加え、長年にわたる投資不足と設備の保守・整備の放置によってインフラが劣化し、生産能力が大きく損なわれてきた結果だ。
■「13万%インフレ」の悪夢
石油産業が衰退したことで、ベネズエラの国家経済は崩壊への道を辿った。アメリカのシンクタンクである外交問題評議会(CFR)は、ベネズエラを「失敗した産油国の典型例」と評する。政府予算の約3分の2を石油輸出に依存してきたベネズエラにとって、その収入源が断たれた代償は計り知れない。
特に2014年から2021年にかけて、ベネズエラのGDPは約75%も減少した。2018年にはインフレ率が13万%を突破するハイパーインフレに陥り、2023年時点でも190%と高止まりしている。
こうした経済破綻は深刻な人道危機を引き起こした。食料、飲料水、ガソリン、医療品といった基本的な物資が著しく不足し、2022年11月の調査では人口2800万人のうち半数が貧困状態にあるとされる。2014年以降、生活苦から約780万人が近隣諸国などへ逃れた。
マドゥロ大統領は権力維持のため、民主主義の基本原則を次々と踏みにじった。CFRによると、インターネットアクセスの制限、政治的反対派や批判者への恣意的な訴追・拘束が常態化している。
■2代続いた反米政権の失策
産油国ながら豊かな経済を築けなかったのはなぜか。発端は90年代に遡る。
1998年、社会主義を掲げてベネズエラ大統領に選出されたウゴ・チャベス氏は、石油収入を社会福祉に充て、貧困層の生活を向上させると公約した。しかし、その後に下した決断が、皮肉にも石油産業そのものに致命傷を与えることになる。
外交問題評議会によると、2002年から2003年にかけて、チャベス政権の政策に反発する石油業界の関係者や野党勢力が大規模なストライキを起こした。これに対し政権は、ストライキに参加した国営石油会社PDVSA(ベネズエラ石油公社)の熟練技術者数千人を報復として解雇した。
外資系企業の排斥も、石油産業衰退の一因となった。アメリカのライス大学エネルギー研究センターに所属するモナルディ氏によると、2004~07年頃、当時のベネズエラ大統領チャベス氏は国際石油会社と「強制的に契約を再交渉した」という。
具体的には、外国企業が保有していた権益を大幅に制限し、ベネズエラ政府側の取り分を一方的に引き上げる内容だった。事実上の資産接収に等しい措置に、多くの外資企業は反発した。
この結果、アメリカの石油大手エクソンモービルとコノコフィリップスは2007年に撤退を余儀なくされた。両社は国際仲裁裁判所に提訴し、裁判所はベネズエラ政府に対して、コノコフィリップスへ100億ドル(約1.6兆円)超、エクソンモービルへ10億ドル(約1600億円)超の賠償を命じた。しかし、これらの賠償金はほとんど支払われていない。外資の撤退により、ベネズエラは最新の掘削技術や資本へのアクセスを失い、石油産業の近代化は頓挫した。
一方、同じくアメリカの石油大手シェブロンは、不本意ながらもベネズエラでの事業継続を選んだ。シェブロンは現在、ベネズエラの石油生産量の約4分の1を担うまでに至っている。
■50年未更新のインフラ、回復に「5~10年」必要
さて、前任のチャベス大統領ががんで死去すると、2013年に後継者として就任したマドゥロ大統領の下で、石油産業の衰退はさらに深刻化した。
CNNによると、国有石油会社PDVSAのパイプラインは50年もの間更新されておらず、各地の施設で老朽化が進んでいる。生産能力をピーク時の水準まで回復させるには、580億ドル(約9.1兆円)もの投資が必要とされる。
エネルギー専門家のマクナリー氏は、「ベネズエラは石油生産国として再び大きな存在になり得るが、そこに至るまでには5~10年はかかるだろう」と厳しい見通しを示す。
カタールの国際メディア、アルジャジーラによると、10年以上にわたる石油産業への慢性的な投資不足の影響で、一部の油井では深刻な損傷が生じている。
こうした油井を簡単に再稼働させることはできず、大規模な修繕や新たな油井の再掘削が必要となる。さらに、アメリカがベネズエラに対して禁輸措置を発動して以降は、設備の定期的なメンテナンスすらほぼ停止した状態が続いている。
■重質油という「厄介な資産」
インフラの老朽化に加え、ベネズエラの石油には別の厄介な問題がある。原油そのものの質だ。
原油には種類がある。軽質で精製しやすいタイプもあれば、重質で扱いにくいタイプもある。ベネズエラの原油は後者にあたり、精製には特殊な設備が欠かせない。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校のパーシャ・マハダビ准教授(政治学)はNPRに対し、「地球温暖化の観点から見ると、生産過程で世界で最も汚い石油の一つだ」と指摘する。
ただしアメリカにとっては、この厄介な重質油がむしろ好都合だとする逆説的な見方もある。CNNは、アメリカ産の軽質原油はガソリン生産には適しているものの、他の用途には向かないと指摘。一方、ベネズエラ産のような硫黄分の多い重質原油は、ディーゼルやアスファルト、工場向け燃料の製造に不可欠だという。現在、世界的にディーゼル供給が逼迫している背景には、ベネズエラに対する制裁も一因として作用していると記事は伝える。
加えて決定的なのが、アメリカの製油所の多くが、ベネズエラ産の重質油を処理することを前提に建設されてきた点だ。ベネズエラの重質油を扱う方が自国産原油を処理するより効率的に稼働できるだけでなく、その産出地は地理的にも近く、価格も安い。
精製が難しいというベネズエラの厄介な原油だが、アメリカの製油インフラとの相性は意外にも悪くない。
■一度裏切られた米企業は戻ってこない
しかし、米石油企業がベネズエラで事業展開するには、経済の安定が前提条件となる。マドゥロ政権の崩壊によって政治面では石油産業を再建する道が開かれたとしても、ベネズエラ経済が復興するまでの道のりは険しい。
ラテンアメリカの政治経済を専門とするアメリカズ・クォータリー誌は、同国が深刻な人道危機、外貨収入の枯渇、膨大な債務、そして20年間で失われた石油産業の技術力という四重苦を抱えていると言及。
こうした事情から、アメリカの石油企業が投資に踏み切るかは不透明だ。
元国務省エネルギー外交担当のデービッド・ゴールドウィン氏は米CNBCに対し、「イラク、アフガニスタンなど他国の政権移行について我々が学んだすべてから言えるのは、移行は困難だということだ」と述べ、ベネズエラでも同様の困難が予想されるとの見方を示した。「新政権の投資条件が明らかになるまでは、数十億ドル規模の長期投資を約束する企業など存在しない」とも指摘する。
エクソンモービルなど大手は、反米左派のチャベス政権時代に接収された資産についての賠償をいまだ受けられていない。かつてベネズエラから追い出された記憶が業界に根強く残り、石油企業は簡単には動けないのが実情だ。一方で、エネルギー調査会社ラピダン・エナジー・グループのボブ・マクナリー社長は、制裁が解除されれば世界最大の埋蔵量へのアクセスは「魅力的」だと付け加えた。
■短期的な成果は見込めない
ベネズエラへの投資の魅力は、まだその輝きを失ったわけではない。
CNBCは、昨年末まで「石油需要は4年以内に成長が止まる」というのが市場のコンセンサスだったと振り返る。しかしアメリカや中国が相次いで気候政策を後退させ、EV販売も減速するなか、状況は一変しつつある。
もっとも、現時点での市場の反応は冷静だ。ベネズエラからの供給が途絶える可能性を懸念し、アメリカ産原油は一時60ドル/バレルを超えたが、その後57ドル/バレルに落ち着いた。
反対にガソリン価格の低下などアメリカ国民の生活に寄与するかといえば、これも期待できない。エネルギー調査会社のマクナリー氏は、価格への影響は「控えめ」にとどまるとの見方を示す。
同氏は、ベネズエラの生産能力回復に対する市場の期待が過大であると警鐘を鳴らし、「ベネズエラが主要産油国として存在感を発揮するのは5~10年先のことだ」と述べた。老朽化が著しい同国の石油施設では、生産量をすぐに回復させることは困難だ。
こうした専門家の見解を踏まえると、今回の軍事作戦は短期的な成果を期待するものではなく、長期的な戦略として捉える必要がある。トランプ大統領は「石油のため」と明言したが、実際に石油産業を復活させ、それを経済的利益へ転換するには、膨大な時間と資本の投入、そして何よりベネズエラの政治的安定が不可欠となる。
■トランプ氏の目論見は“危うい”
歴史が示すように、中東や中南米でのアメリカ主導の体制転換は必ずしも成功してこなかった。ベネズエラで成功する保証はどこにもない。
加えて、忘れてはならないのが、ベネズエラの石油産業が衰退した経緯から得られる教訓だ。3030億バレルという世界最大の埋蔵量を抱えながら、わずか20年余りで生産量を3分の1にまで落とし、国家経済が崩壊への道を辿った。その要因は、技術者の大量解雇、外資の追放、インフラ投資の放棄という一連の政策判断にあった。資源が豊富であるからといって、国家や産業が繁栄するとの保証はない。
適切な経営体制、技術力の維持、そして国際協力こそが、資源から真に富を生み出す鍵となる。トランプ政権がベネズエラで目指す「再建」が成功するかどうかは、この教訓をどれだけ活かせるかにかかっている。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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