行動力を高めるにはどうしたらいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「好奇心旺盛であることが欠かせない。
人間の脳は、行動によってドーパミンが分泌されると、同じ動きを繰り返したくなる性質がある」という――。(第1回)
※本稿は、茂木健一郎『「超」すぐやる脳のつくり方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■令和時代に成功する人の共通点
先日、ヨーロッパの高級ホテルを転々とする暮らしぶりから、アメリカのブルームバーグに「ホームレスの億万長者」と名付けられたニコラス・バーグルエンという投資家が東京に来ていて、運良くお会いすることができました。
バーグルエンは、ノーベル賞に生理学・医学、化学、物理学、文学、平和、経済学の賞があるのに、哲学の賞がないことを不満に思い、2016年に「バーグルエン哲学・文化賞」を設立、日本人では哲学者の柄谷(からたに)行人(こうじん)さんが受賞したことで大きな話題となりました。ちなみに、賞金は100万ドル(当時、約1億3300万円)。
いろいろな話をする中で僕が特に印象的だったのが、僕の専門である脳科学についてバーグルエンにちょっとだけ解説しているとき、「意識の問題っておもしろいんですね!」と、まるで子どものような目をして食いついてきたことでした。僕はそのとき、「あー、やっぱり大谷選手のように、いまの時代で成功している人って、子どものような好奇心旺盛な人が多いんだな」と感じました。
実は、僕がいつも提唱している脳トレ法のひとつに、「タイムマシン脳トレ法」というものがあります。これは、僕自身が実際に何かに興味を持ったり、新しいチャレンジをしたりするときに実践している脳トレ法です。
■挑戦に必要なのは“5歳児”の脳
もし、何かに興味を持ったり、好奇心が芽生えそうになったりしたら、脳内感覚としてタイムマシンに乗って、5歳ぐらいの童心に戻ってみるのです。脳科学者としての僕の見解では、「5歳の脳が最強の脳」だと考えています。
具体的に5歳の脳の特徴を挙げるとすれば、やはり好奇心が旺盛であるということ。
スキルは未熟でぎこちなく、失敗ばかりしている年齢ですが、周囲の目を気にせず、恥ずかしがらず、人と比較しないので、自分の好奇心や欲望に忠実に向き合うことができる。それこそ余計なことを考えず、遊び心を持って突き進む。
まさに、猪突(ちょとつ)猛進型の最強脳が5歳なのです。つまり、5歳の脳に戻ることができれば、どんなことでも前向きにチャレンジできるようになるわけです。
先日乗車した新幹線の中で、5歳くらいの女の子が窓の外の風景を見ながら即興で歌をつくっていました。周りの大人の目なんか気にしないでずっと楽しそうに歌っています。あの感度がまさに「超すぐやる脳」だといえます。
■イーロン・マスクも重視する「遊び」
基本的には大人の脳でも子どもの脳でも何かに興味を持ったり、チャレンジしたりしてみようという気持ちはあるのですが、大人になればなるほど脳の「前頭葉」という部位にあるリスク管理回路が余計なことを考えてしまいます。
前頭葉は人間にとって重要な働きを担っているため、「脳の司令塔」とも呼ばれていて、たとえば、失敗するリスク、馬鹿にされるリスク、自尊心が傷つけられるリスクなど、大人になればなるほど事前にシミュレーションしてしまって、前頭葉の回路がストップをかけてしまいます。子どもは逆に、遊び半分でリスクをあまり気にしないで何でもやってしまう。それが社会的には困ったことでもありますが、同時に子どもの素晴らしさでもあるというわけです。
「時間が経つのを忘れて、自分の世界にのめり込む遊びこそが大切だ」
イーロン・マスクも、このようなことを言っています。
仕事で成功するためには好奇心が不可欠であり、そのためのエネルギーは「遊び」から生まれるという考え方を示唆しているのです。
そう考えれば、いかに脳に「遊び」の部分をつくってあげて、興味のあることを見つけ出せるかが、「超すぐやる脳」を手に入れる大事なポイントになってくるということなのです。
■「やる気がない」はただの言い訳
「よし! いまこそ気合いを入れてチャレンジするぞ!」

「今度こそ、やる気を起こしてチャレンジしてみよう!」
何か新しいことにチャレンジするとき、こんなふうに考えることはないでしょうか。一見すると、どんなことにもチャレンジできそうな気迫がひしひしと伝わってきます。多くの人にとって、自分の限界を超えてチャレンジするとなると、いかに「やる気スイッチ」を入れるかが大きな問題になりがちです。
ですが、脳科学者としての僕の考えは、ちょっと意外なものかもしれません。何か新しいことにチャレンジしようとするとき、実はこの「やる気」という特別な感情はまったく必要ないのです。
何を隠そう、僕が近年提唱しているのは、「やる気不要論」。なぜなら、「やる気がなければ、自分を変えることができない」「何も始められない」と思っている人はほぼ例外なく、「やる気がない」ことを、何かを始められない言い訳にしているからです。
大抵の場合、「やらない自分」「やれない自分」について、「いまはやる気が起こらない」、あるいは「やる気さえ手に入れたら、やるのに」と言い訳しがちです。これは、自分に対する甘えにつながるのです。
■すぐ動きたくなる簡単な方法
「自分はやる気スイッチが入らないとやれないんだ」といった自分の勝手な思い込みは、脳科学的な見地から言っても、脳が勝手につくり出している幻想にすぎません。
そうした心構えでは、いつまでたっても何も始めることはできませんし、自分の限界を超えることもできません。むしろやる気というのは、ときに仕事や勉強でチャレンジするためのマイナスになってしまうことさえあるのです。
そこで大事になってくるのが、人間が持っているひとつの才能である、「脳の強化学習」というもの。これは「超すぐやる脳」を手に入れるために応用が可能です。なぜなら、人間の脳はある行動を取った後、脳の中で報酬となる物質が放出されると、その行動が強化されるという性質を持っているからです。
ここで言う報酬とは、「誰かに褒められる」、「これまでできなかったことが、できるようになる」、あるいは「新しい知識を手に入れる」といったことです。
脳がこうした報酬を得て、喜びを実感できると、やる気などは必要としないで、ますますその行動を繰り返したくなるのです。そのカギを握っているのが「ドーパミン」という物質です。
■まずは得意なことでドーパミンを出そう
たとえば、仕事がうまく進んでいるときなどに、脳の中ではこのドーパミンと呼ばれる物質が分泌されています。ドーパミンは脳内に快感を生み出す物質で、この分泌量が多ければ多いほど、僕たちの脳は喜びを感じることができます。しかも、このドーパミンが分泌されると、ことあるごとにその行動を再現しようとするので、快感を生み出す行動が次第にクセになり、繰り返すたびにその行動が上達していきます。
たとえば、「プレゼンがうまくできた」→「ドーパミンが出る」→「もっと人を惹(ひ)きつけるようなプレゼンがしたくなる」→「プレゼンが得意になる」といった具合です。
こうしたドーパミンサイクルの活用は、軌道に乗って調子が出てくると、あとは勝手に回ってくれます。それができない人は、最初のきっかけがつかめていないだけです。
そこで、まずはどんなことでもいいので、このドーパミンサイクルを1回転、回してみてください。まずは、自分の得意なことでドーパミンサイクルを回す練習をしてみてはいかがでしょうか。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)

脳科学者

1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。
著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)
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