※本稿は、佐藤舞『あっという間にお金はなくなるから』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■年収と幸福度の関係性を巡る経済学者らのいくつもの答え
「そもそも収入はどれくらいあれば幸せなのか」という問いを掘り下げてみます。いわゆる、「金融資本の限界効用」。あくまで目安でしかないのですが、誰にとっても興味深い問いであるはず。最新研究をもとに私の意見を述べたいと思います。
概要は次になります。
1 1970年代 リチャード・イースタリン
→「経済成長=幸福の増加」とは限らない。
2 2010年 ダニエル・カーネマンら
→年収が約7万5000ドル(当時の為替レートで、日本円では700万円弱)を超えると、「感情的幸福度」はそれ以上あまり向上しない。
3 2021年 マシュー・キリングスワース
→年収が7万5000ドルを超えても幸福度は上昇する。
4 2023年 カーネマン+キリングスワース
→お金によって幸せになるかは個人差が大きい。幸福感のもともと高い人は所得と幸福度は相関しやすい。一方、幸福感のもともと低い人は限界が来やすい。
それぞれ、見ていきましょう。
■GDPと生活満足度との関係は弱い
1 「経済成長=幸福の増加」とは限らない
「国が経済成長すれば、人々の暮らしも良くなり、自然と幸福度も上がるはず」
そんな常識に疑問を投げかけたのが、経済学者イースタリンでした。彼の研究によって、国全体の所得が増えても、人々の平均的な幸福感にはあまり変化が見られないことが示されました。これは、のちに「イースタリン・パラドクス」と呼ばれるようになります。経済成長と幸福の関係を初めて切り分けたこの視点は、今日の幸福研究の出発点となりました。
実際、日本でもGDPと生活満足度の関係は弱く、経済成長が人々の幸福と比例するとは限らないことが知られています(図表1)。
■「年収700万円が幸福度の頭打ち」を発表したカーネマン
2 年収700万円前後が幸福度の頭打ち金額か
収入と幸福の関係に、一定の「上限」があることを初めて明確に示したのが、ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンらの研究です。
彼らは、米国において年収約7万5000ドル(当時のレートで700万円弱)を超えると、「日々の感情的な幸福度」はそれ以上あまり上昇しなくなることを発見しました。「必要な生活が満たされれば、それ以上の収入は気分やストレスに大きな影響を与えない」。この説は、多くの人の直感にもフィットするものでした(図表2)。
ここまでの研究は知っている人も多いのではないでしょうか。
3 「稼げば稼ぐほど幸せ」というカウンターパンチ
ですが、2021年。
グラフを見ると、たしかに年収7万5000ドルを越えても幸福感は「右肩上がり」です。
「やっぱりお金があるほど幸せなのか」と感じる方も多いでしょう。しかし、ここでひとつ注意があります。グラフの横軸は対数スケール(log scale)になっているのです。
対数スケールでは、数字が
1万5千 → 3万 → 6万 → 12万 → 24万……
というように「倍々」で増えていきます。ぱっと見では「収入が増えた分だけ幸福も比例して上がっている」ように見えますが、実際にはまったく違います。
同じ“幅”に見える区間でも、収入の増加量は桁違いに大きくなっているのです。
このことを踏まえて改めて見ると、年収7万5000ドルを超えたあたりから、幸福感の上昇はゆるやかになることがわかります。幸福は増える。
■年収が上がるほど1単位の幸福を得るためのコストも増える
この傾向は、心理学でいうフェヒナーの法則(刺激は絶対量ではなく“割合”で知覚される)や、経済学の「限界効用の逓減」とも一致しています。
たとえば、年収が100万円から200万円になれば、生活の質は大きく変わります。
しかし、すでに年収1000万円ある人が1100万円になっても、その追加分が幸福に与える影響はごくわずかです。人間の感覚は、同じ「100万円」でも、その重みをまったく違うものとして扱います。
今回の研究が示しているのは、まさにこの構造です。
収入が増えるほど幸福も増えるが、その増加分は徐々に小さくなっていく。
つまり、年収が高くなるにつれて、
「幸福を少し増やすために必要な“追加の収入”が、とてつもなく大きくなる」
という状態に入り込んでいきます。
結論としては、とてもシンプルです。
年収が上がれば、確かに幸福感は上がる。
しかし、その“コスパ”(費用対幸福効果)は逓減していく。
多くのお金を稼ぐほど幸福を買える余地が生まれますが、同時に、同じ1単位の幸福を得るために必要なコストも跳ね上がっていくのです。
■高年収でも幸福度が上がり続ける「幸福エリート」
4 「幸福エリート」は天井知らずで幸せになる
2と3の相反する結果を調和させるため、両者は「対立的協働(adversarial collaboration)」という手法を用いて共同研究を行ったものを、2023年に発表しました。
世界トップクラスの経済学者が、互いに相反する結果を報告したのちに、共同研究を行うという、ムネアツ展開です。
図表4がその結果です。
グラフを見てほしいのですが、幸福感のレベルを下位15%、30%、50%、70%、上位15%までの5つに分けています。
Slopeは斜度を表し、数字が大きくなるほど傾きが大きくなることを示しています。
幸福感がもともと高い人(上位15%)=幸福エリート(グラフの上部)
幸福感がもともと低い人(下位15%)=幸福ノーマル(グラフの下部)
と、本稿では名づけましょう(図表5)。
私が面白いと思った点は二つです。
A 10万ドルまでの幸福感の傾きに注目してみましょう。幸福エリートは10万ドルまで幸福度の伸びはゆるやか。それに対して幸福ノーマルは、10万ドルまでは幸福度が伸びやすい。
B 幸福エリートは10万ドルを超えると逆に傾きが増す。一方、幸福ノーマルは10万ドルを超えるとほぼ頭打ちになる。
10万ドルを境に逆転現象が起きているのです。
幸福エリート:収入が増えても幸福度の上昇はゆるやか。でも、10万ドルを超えると幸福度の上昇が加速。
幸福ノーマル:収入が増えると幸福度が上がる。でも、10万ドルを超えると鈍化、ほぼ頭打ちに。
■人の幸福度の40%は「意図的な行動」で決まる
つまり、一応の目安としては7万~10万ドルとされていますが、それを超えても幸福度が上がるかどうかは「本人のもともとの幸福感」に左右される、ということです。
前著『あっという間に人は死ぬから』でご紹介しましたが、カリフォルニア大学で社会心理学とポジティブ心理学の教鞭を執っているリュボミアスキー教授は、人の幸福度は遺伝による設定値が50%を占めており、経済状況、健康レベル、容姿、配偶者の有無など、生活環境や状況は10%。残り40%が、私たちの「意図的な行動」で説明できることを双生児研究により明らかにしました(図表6)。
幸福の40%を決める「意図的な行動」というのは、人に親切にする、家族や友人との人間関係を育てる、身体を動かす、感謝の気持ちを表す、など、「自分の価値観に沿った内的で習慣的な行動」のことです。
以上の研究から見えてくるのは、「収入が幸福に与える影響には統計的な傾向がありつつも、個人差が大きい」ということです。
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佐藤 舞(さとう・まい)
デルタクリエイト代表・桜花学園大学客員教授
デルタクリエイト代表。数学アレルギーから学生時代より文系の道に進むが、国立福島大学経済経営学類に入学後、統計学と出会い数学アレルギーを克服する。
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(デルタクリエイト代表・桜花学園大学客員教授 佐藤 舞)

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