依存の問題も指摘されているスマートフォン(スマホ)。認知機能の低下を招く危険なものだと思っている人もいるだろう。
だが認知症の専門医として長く診療をする内田直樹さんは「スマホの活用が認知機能を高め、認知症の予防に役立つ可能性が、医学研究から明らかになってきた」という――。
※本稿は、内田直樹『脳にいいスマホ 認知症をスマホで予防する』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■認知症の敵か味方かは使い方次第
スマホ脳』(新潮新書)という本をお読みになった方もいらっしゃることでしょう。
2021年のオリコン年間本ランキングで総合1位を獲得したこのベストセラーでは、スマホやSNSが脳に与える悪影響について、次のような指摘がされています。
・スマホやSNSが「報酬系(ドーパミン刺激)」「マルチタスク的注意分散」「通知の即時性」などを通じて、脳に過剰な刺激を与え、依存や集中力低下、睡眠障害、メンタルヘルスの悪化を招いている。

・とくに子どもや若者において、「前頭前皮質の未発達」「自己制御力の弱さ」「スマホ利用時間の増大」が学力・記憶・言語能力に悪影響を及ぼす可能性がある。
これらの指摘は、とくに幼年期のスマホ使用については重要な警告です。私自身も、幼年期の使用には一定の制限を設けることは必須だと考えます。
しかし、高齢者のスマホ使用については、一概に害悪だとは言えません。スマホは、使い方を工夫することで、『スマホ脳』が警告する「受動的で依存的な使い方」を避け、「能動的で脳を鍛える使い方」に転換できると私は考えています。
正しく使えば脳を活性化させるための「装置」として、認知症予防の強力な味方になりますが、使い方を間違えると、逆効果になる――それがスマホです。
■脳によくない使い方1:そもそも使わない
先述のベストセラー『スマホ脳』はスマホの使用に警鐘を鳴らしましたが、テレビの情報番組などでも「スマホ認知症」という言葉を耳にすることがあります。
これらから「スマホは脳に悪い」と信じてしまう人もいるかもしれません。その結果、せっかく買ったのに、あるいはお子さんに買ってもらったのに、ほとんど使っていないという人も少なくありません。これは本当にもったいない。スマホを使わないことこそが、認知症予防の機会損失です。
そもそも、「スマホ認知症」とは、医学用語ではなく、スマホを使い続けることによって一時的に脳の作業記憶が落ちたり、睡眠不足になったりすることの“通称”です。
健康な高齢者を対象とした研究で、スマホやパソコンなどのデジタル機器を複数の目的で使用している高齢者の場合、それが認知機能の維持・改善につながる可能性が示されています。スマホを使わないと、この恩恵をまるごと手放してしまうことにもなるわけです。
■脳によくない使い方2:ずーっと動画を流しっぱなし
YouTubeなどで動画を一度見ると、それに関連する動画が次々と流れてくるようになります。それらを「流しっぱなし」にしていませんか? 実はこれは脳の機能を落とす可能性があることが、複数の科学的研究で示されています。
イギリスで50歳以上の成人3662人を対象に行われた研究では、1日3.5時間以上テレビを視聴する人は、6年後に言語記憶の低下が見られることがわかりました(※1)。この関連は、運動習慣や社会経済的状況などを考慮しても変わらなかったのです。
なぜ動画の「流しっぱなし」が脳によくないのか。
研究者たちは、テレビや動画視聴が「注意を向けさせるが、焦点が定まらない脳の状態」を作り出すと指摘しています。画面では画像や音、動きが次々と変化しますが、視聴者は受動的に情報を受け取っているだけ。インターネット検索やゲームのような「能動的な」関わりがないため、高次の認知処理が十分に刺激されないのです。
さらに別の研究では、長時間の動画視聴が脳の記憶や言語に関わる領域の密度低下と関連していることも報告されています(※2)。つまり動画の「流しっぱなし」は、脳を休めているようでいて、実は脳を衰えさせている可能性があるのです。
もちろん、すべての動画視聴が悪いわけではありません。好きなアーティストの動画を探して視聴したり、料理動画を見ながら実際に作ってみたりなど、目的を持って活用するのは脳へのいい刺激になります。
大切なのは「ただ流しているだけ」にならないこと。YouTubeのおすすめ動画を次々とだらだら見続けるのは控え、「これを見よう」と決めて視聴することと、いくつもの機能を使い、スマホという複合的なメカに触れ続けることが必要です。

※1:Fancourt D, Steptoe A. Television viewing and cognitive decline in older age: findings from the English Longitudinal Study of Ageing. Scientific Reports 2019; 9(1): 2851. doi:10.1038/s41598 019 39354 4

※2:Takeuchi H, Kawashima R. Effects of television viewing on brain structures and risk of dementia in the elderly: Longitudinal analyses. Frontiers in Neuroscience 2023; 17: 1167085. doi:10.3389/fnins.2023.984919
■脳によくない使い方3:初期設定のまま使っている
スマホを持っているのに、通話と最小限のメールにしか使わない、まるでガラケー時代と変わらない使い方――これも脳によくない(もったいない)使い方です。
スマホの真価は、その多機能性にあります。カレンダーで予定を管理し、リマインダーで忘れ物を防ぎ、地図アプリで迷わず目的地に着き、写真を撮ってすぐに家族や友人と共有し、AIに相談して悩みを解決する――こうした多様な機能を使いこなすこと自体が、脳を多面的に刺激し、認知予備能を高める活動になるのです。

「はじめに」でご紹介した研究でも、デジタル機器を「複数の目的」で使用している高齢者ほど、認知機能の維持・改善につながる可能性が示されています。通話だけ、メールだけでは、この恩恵は得られないと考えられます。
■「自分だけの&脳にいいスマホ」を育てよう
スマホには、人とのつながりを深めるLINE、知的活動を支える検索機能、健康管理を助けるアプリ、趣味を広げるYouTubeなど、認知症予防に役立つツールが山ほど詰まっています。せっかく手元にあるのにそれらを使わないのは、宝の持ち腐れです。
本書の目的の一つは、「どう使えばいいかわからない」からと、触らずにいたスマホの機能に触るという行動につなげることです。
本書はごくごく基本的なことにのみ触れています。ご紹介するいくつかの機能から1つ選んで、まずはすぐ試してみてください。
スマホの大きな魅力は、自分の暮らしや興味に合わせて、機能を拡張できることです。健康管理アプリに毎日の血圧を記録したり、歩数計アプリで毎日の運動を「見える化」したり、趣味のアプリで新しい世界を開いたり。アプリを選び、インストールし、使い方を覚え、自分流にカスタマイズしていく――この一連のプロセスそのものが、脳への刺激になります。
新しいアプリを探して試すことは、未知のことに挑戦し、学び、自分の生活を改善していく「能動的な活動」です。これは認知予備能を鍛える行動といえます。

初期設定のままということは、スマホの可能性の1割も使っていないようなもの。
自分に合ったアプリを見つけ、スマホを「あなた専用の秘書」に育てていきましょう。
もし「どんなアプリを入れたらいいかわからない」なら、後の章でご紹介するAIに相談してみるのもいいでしょう。「血圧を記録できるアプリを教えて」「料理のレシピが見られるアプリは?」と尋ねれば、よいアプリを紹介してくれます。
家族や友人に聞いてみるのもいいでしょう。初期設定から一歩進んで、自分だけのスマホに、なおかつ、「脳にいいスマホ」に育てていく。そんな楽しみを、ぜひご体験ください。
■脳によくない使い方4:人に聞くばかりで操作を覚えない
「これ、どうやるんだっけ?」と家族に聞き、教えてもらう。次に同じ操作をするとき、また同じことを聞く――そんな使い方をしていませんか?
わからないことを人に聞くのは当然です。むしろ、スマホを使い始める初期の段階では、積極的に人に聞くということは非常に大切です。本書の内容も、もしわからないところがあったときには、周囲の人に積極的に聞くことが大切です。
しかしスマホが脳にとってのいい刺激となるには、教えてもらったことを「次は自分でやってみる」こと。
メモを取る、もう一度自分でやってみる、忘れたらメモを見返す――こうした姿勢が大切。「覚えようとする努力」が、脳を鍛えます。

(認知症専門医 内田 直樹)
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