「ドムドムハンバーガー」の藤﨑忍社長は、39歳まで専業主婦でアパレル店員、居酒屋経営を経て、入社9カ月で社長になるという異色の経歴を持つ。親会社から株式を買い取り、1月16日付で、「雇われ社長」から「オーナー社長」へと転身した藤﨑氏を取材した――。

■「絶滅危惧種」と呼ばれた老舗の快進撃
あのドムドムハンバーガーが絶好調だ。
最盛期は400店舗以上を展開しながら、2010年代にはその10分の1以下に縮小。マスコットのゾウと絡めて「絶滅危惧種」とまで言われた。
一方で、昭和の風景として多くの人の心に懐かしく刻まれているブランドであり、今も29店舗と小規模ながら、「ドムぞうくん」等オリジナルグッズの展開で新たなファンを獲得し続けている。
運営するドムドムフードサービスは、2025年7月で既存店売上高が41カ月連続の増。10月にオープンした、初の海外店である台湾店も順調だ。
同社を黒字に導いただけでなく、数多あるハンバーガーチェーンの中でも特別な位置付けのブランドへと成長させたのが、2018年4月に就任した藤﨑忍代表取締役社長だ。専業主婦出身ながら、代議士の夫の闘病を支え、アパレルショップ店長を経験したのち、小料理屋を開業。
知人の紹介でドムドムハンバーガーに入社した後も、自分から申し出たことがきっかけで現職に就任したという、社長としてはかなり異色の経歴だ。
そしてこの度また、名古屋発のラーメン老舗チェーン、スガキヤの運営元など3社と共同出資で、親会社のレンブラント・インベストメントからドムドムフードサービスの株式を取得。新たな展開を迎えようとしている。
今回藤﨑氏に、ドムドムハンバーガーのここまでの成長を可能にした戦略について聞いた。

■ドムドムを象徴する「丸ごと‼カニバーガー」
1970年に設立された日本で最初のハンバーガーチェーン、ドムドムハンバーガー(以下、ドムドム)。人気ナンバーワンのメニューは当時から今に至るまで、甘辛チキンバーガー(480円)だ。特製の甘辛いタレが染み込んだフライドチキンと、キャベツ、マヨネーズの組み合わせは王道。噛むと肉汁が溢れるチキンを、ふわふわのバンズが優しく受け止める。
しかし、藤﨑氏就任後の新しいドムドムを象徴するメニューを挙げるとするなら、「丸ごと‼カニバーガー」(1290円)である。
気が弱い人なら怖がるかもしれない、シュールに振り切った見た目。にもかかわらず、発売すると予想を大きく上回る反響で、3カ月の分を1カ月で売り切ってしまった。再販を望む声が高く、今も定期的に発売される期間限定商品となっている。定番はスイートチリ味だが、販売ごとに新味も登場している。
■「かりんとう饅頭」は品切れが続出
そのほか「今夜はまいたけバーガー」(950円)、「春菊かき揚げバーガー」(フライドポテト付き1290円)、「ごぼうスティック」(290円)、「かりんとう饅頭」(単品220円)なども、ドムドムらしい商品と言えるだろう。
かりんとう饅頭は和菓子店から仕入れているもので、こだわりの餡子を包んだ饅頭をオーダー後に店内で揚げ、熱々の状態で提供する。甘さは控えめだが揚げ物なので満足感が高い。
2024年8月には人気YouTuberのコメントでSNSに大拡散した。翌日の売れ行きは160%に跳ね上がり、各店で品切れになったという。
「2025年8月は、前年のYouTuberの影響が大きく、既存店前年比99.2%と前年を上回ることができずに連続記録は41カ月でストップしました」(藤﨑氏、以下同)
また2025年1月発売の春菊バーガーは1週間で売り切れに。再販の声が高く、2026年も1月22日より、期間限定商品として復活する。
これら既存のハンバーガー店の枠に収まらない商品の数々は、今ではドムドムならではの味としてファンを獲得しているが、開発は正に「逆張り」を行くものだった。
カニバーガー開発時、上層部こぞって「シュール過ぎる」「原価が高い」「売れない」と大反対したことは伝説となっている。
また毎月新商品を発売するようなチェーンでは、オペレーション負担も商品開発時の重要な判断要素となるものだが、ドムドムではまいたけバーガー、春菊バーガーなどを始め、調理工程が多く、オペレーションの負担が大きいメニューが並ぶ。
しかし藤﨑氏が商品開発でもっとも重視しているのは「おいしいこと」で、オペレーションが大変でも、良いと感じたものは迷いなく商品化してきているそうだ。
■大勢の商品開発会議から少人数制に
またドムドムに尖った商品が多い理由として、開発会議が藤﨑氏を含めた3人で行われていることも大きい。
「大勢の意見を取り入れているうちに、どんどんカドが取れて“丸く”なってしまうんです。そこで途中から、少人数体制へと切り替えました」
このことも、「大勢の意見を取り入れた方がいいものができる」という常識から言えば、逆張りの戦略だろう。
ただ商品として組み立てが難しい、つまりオペレーション負担が高いものについては、店によって品質にバラつきが出る場合があることも認識しているという。

「ドムドムの店舗ではアルバイトが多く、中には店長を務めているアルバイトスタッフも。学生も含むアルバイトに至るまで、すべてのスタッフが同じ品質の商品を作れるようにするために、社内コミュニケーション、店内コミュニケーション、人材教育などに力を入れていく必要があります」
■「ドムぞうくん」がブランド力アップに貢献
他に、大反対を受けながらも成功したのが「物販」だ。コロナ禍にマスクを発売したことからECサイトを開設、その後「ドムぞうくん」グッズ、ライセンスビジネスなどに発展し、物販全体では売り上げの7%を占める。ポップアップストアには遠方からもファンが詰めかけるなど、ブランド認知向上のメリットも大きい。
というのも、「出店において一番大事なのは人材」と考える藤﨑氏は、これまで商業施設などからオファーがあれば出店する「受け身」の姿勢を貫いてきた。2020年以降は閉店10店、開店8店で、現在は海外店も含めて30店舗(うち1店は読売2軍とコラボしたGドムドム)となっている。店舗数の少ない同チェーンにとって、知名度は命綱。店舗ごとの売り上げ向上につながっているのだという。
「おかげさまで、メディアで取り上げていただくことも多いです。グッズを求めて、あるいは期間限定商品を楽しみに、お客様がわざわざ来てくださっているのはありがたいです」
店舗数が少ない上に、駅の至近ではなく、どちらかと言えばローカルな場所に立地しているため、行きにくいのが難。「うちの近くにあればいいのに!」と感じているファンは多い。ただこれもあえての戦略だという。

「繁華街や一等地に出すのは何か違うと感じています。ほかのチェーンもたくさんありますし……。ただ、『うちの近くにあってほしい』と言ってくださるのはありがたく、そういうところにこそ出店していきたいと思っています」
2026年3月には、初の女性総理、高市早苗首相の出身地である奈良県に出店の予定だ。
■王者マクドナルドは意識していない
ハンバーガー最大手のマクドナルドは、同業であれば意識せずにいられない存在。現に、マクドナルドに対抗してほとんどのチェーンが月見バーガーを発売する「月見戦争」が秋の風物詩になっている。これはこれで、消費者にとっては食べ比べの楽しみがある。が、ドムドムはあえて参加していないという。
「マクドナルドは競合というよりはお寿司やすき焼きと同じような“食のジャンルの一つ”として見ています。規模もまったく違うので、意識しても仕方がないですよね。それよりはお客様のほうを見て、おいしい商品を提供することを大切にしています」
出店立地も、本来ならマクドナルドがあるような場所は選んでいない。しかし「先方から来る」ことはあるそうで、売り上げナンバーワンの赤羽店のすぐ近くにマクドナルドがオープンした。1カ月経っても売り上げに変化はないそうだが、「いずれは影響する」と見ているそうだ。

競合を意識していないという藤﨑氏だが、それでも「他社にないドムドムの良さ」について聞いてみた。
■セルフレジの時代でも接客はしっかりする
「例えばマクドナルドさんは以前、“スマイル0円”と掲げていましたが、今はありません。さらに、セルフレジ化でスタッフによる接客は減っていますよね。うちは接客をしっかりすることと、独自性のある商品が強みだと思っています。宣伝もお金をかけられないので、ポスターやSNSが命。それも内製でやっていますから、手作り感がありますね」
現場の負担が大きいのに対して、アルバイトの時給はほかのチェーンと同程度だという。それでも藤﨑氏によると、「お客様が喜んでくれることがモチベーションになっている」とのことだ。
またインスタライブも社員からの提案によるもの。ドムドムや藤﨑氏がメディアで取り上げられることが多くなったが、それらのメディアを通じ間接的に企業方針が伝わって、帰属意識やモチベーションにつながっているのではと推測している。
■社内外から疑問視された浅草出店の狙い
上記のように、藤﨑氏は常識とは異なる「逆張り」ばかりをやってきたように見える。最大の逆張りとして自身が挙げるのが「思いやり経営」である。
「よく『成長戦略を教えてください』と聞かれます。
でも成長は私にとって第一ではありません。お客様とスタッフがどう喜ぶか、これが一丁目一番地であるわけです」
コロナ禍真っ只中、2020年9月に浅草の花やしき内に出店したことは「思いやり経営」の最たるものだ。「何を考えている?」との声も社内外からあった。
「でも、当時は本当に、浅草から人気が消えていた。東京、そして日本を浅草から元気にしたい、その思いで出店しました。賃料も安くしてもらえていましたし。また従業員にも、コロナ禍で不安な中、出店できるまでの力があるんだ、と安心してもらいたかった」
2年ほどは売り上げも伸びず、苦労が続いたものの、2021年3月期から黒字化。以降も利益率のいい店舗であり続けているという。
ただ、外れたときのダメージが大きいのが逆張りのリスクである。藤﨑氏は失敗のリスクをどの程度見ているのだろうか。聞いたところ、「失敗という概念はない」という驚きの答えが返ってきた。
「ただの事象があるだけです。例えば100個売る予定だったものが、80個しか売れなかった。それを“失敗”と捉えると気分もマイナスになるし、思考が停止してしまいます。どうしたら売れるかを考えて、実行する。その連続です」
■女性社員との「女子会」で悩みを共有
こうした方針を社内に浸透させるために、コミュニケーションに力を入れているそうだ。ただ、直接的な発信は「小学校の校長先生のお話」のようなもので、なかなか響かない。前述のようにメディアを通じて間接的に伝えるのは有効だと考えている。また、忘年会では自身が料理をして社員に振る舞う。料理中の藤﨑氏に、ぶらっと来ておしゃべりをしていく際などに本音を聞けたりするという。
女性社員とは「女子会」を開催した。藤﨑氏の入社当時、営業の女性は藤﨑氏一人。そこから、社員28人中7人へと増えてきた。このことは快挙であり、嬉しいことだと感じている。
「女子会を開催した理由は、仕事には男女の差はありませんが、悩み事はまた別だと思うから。女性はライフイベントなどに応じていろいろあります。ただ、『女性の活躍』とよく言いますが、社長になるようなことだけが女性の活躍ではない。『主婦だから』『子供がいるから』活躍できないわけではないですよね。女性として無理なく幸せを追求しながら、仕事も頑張る、そんなふうにしなやかに行き来できる社会であるといいと思いますし、これから当社でも考えていきたいと思います」
■「よそに買われるよりは」と株式取得を決めた
冒頭にも説明した通り、雇われ社長の立場から、ドムドムフードサービスの株主の一人となる藤﨑氏。共同出資社はラーメンチェーン等258店舗(2024年8月)を展開するスガキコシステムズ、青果物仲卸等のベジテック、春巻き専門メーカーのスワローホールディングスだ。
「5期連続黒字になったところで、レンブラントにとってもバイアウトするタイミングでした。よそに買われるよりは、と取得を決めました」
これまでつくったドムドムの姿から変わることはないとしつつも、それぞれの企業の強みを吸収しながら、事業を成長させていきたいという。とくにスガキコシステムズには多店舗展開のノウハウを学びながら、お膝元の名古屋にぜひ出店したいと考えているそうだ。
「これからドムドムの第2章が幕を開けます。また、39歳で主婦から働きに出て、49歳で夫との別れがありましたが、仕事への向き合い方が変わった年でした。今、59歳でまた新たな挑戦が始まります。9は私にとってラッキーナンバーかもしれません。新たな学びを得ながら、ドムドムがさらにどう成長していけるか。ワクワクでいっぱいです」

----------

圓岡 志麻(まるおか・しま)

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

----------

(フリーライター 圓岡 志麻)
編集部おすすめ