多忙な人が血糖値の乱れを防ぐためにできることはあるのか。産業医の池井佑丞さんは「日常のちょっとした工夫でも血糖変動は抑えられる。
重要なのは『何を食べるか』よりも『どう食べるか』だ」という――。
■1月がしんどい背景に「血糖値の乱れ」
お正月休み明けの1月は、「なんだか体が重い」「午後になると急に眠くなる」といった不調を感じる人も多いでしょう。
こうした症状の要因の一つとして、年末年始の生活習慣が引き起こす「血糖値の乱れ」が関係している可能性があります。
年末年始は、外食や会食の機会が増え、食事量や内容が普段と変わりがちです。加えて、運動量の低下や生活リズムの乱れも重なり、体の代謝バランスも崩れやすくなる時期です。いわゆる「正月太り」の背景には、こうした生活習慣の変化があり、血糖値が短時間で急上昇し、その後急降下する「血糖値スパイク」を起こしやすい状態になっていることがあるのです。
血糖値スパイクを繰り返すと、日中の眠気や集中力低下といった一時的な不調につながるだけでなく、長期的には動脈硬化を介して心血管疾患のリスクを高める可能性があることも報告されています。体重の増加がわずかであったり、健康診断で大きな異常を指摘されていなかったりすると、こうした変化は見過ごされやすい点にも注意が必要です。
今回は、冬の生活環境が血糖値スパイクを起こしやすくする理由を医学的な視点から整理し、血糖値の乱れを抑えるための実践的な対策をご紹介します。
■食後に血糖値が急上昇・急降下する「血糖値スパイク」
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度を指します。ブドウ糖は体の主要なエネルギー源であり、食事で摂取した炭水化物が消化・吸収されることで血液中に取り込まれ、血糖値は上昇します。
血糖値は、身体活動やエネルギー需要に応じて日常的に変動していますが、健康な状態では、膵臓から分泌されるインスリンの働きによって一定の範囲内に調節されています。
一般に、食後2時間の血糖値が140mg/dL未満であれば、血糖調節は比較的良好であると考えられています(厚生労働省.n.d.)。
健康な人においても問題となるのが「血糖値スパイク」と呼ばれる血糖変動です。これは、食後に血糖値が急激に上昇し、その後比較的短時間で急降下する状態を指します。血糖値スパイクは医学的な診断名ではありませんが、血糖値の推移がとげ(スパイク)のような鋭い形を示すことから、このように呼ばれています。
■健康診断がセーフでも要注意
通常、健康な人であれば、食後に血糖値は緩やかに上昇し、約1時間でピークに達した後、インスリンの働きによって2~3時間以内に穏やかに基準値へ戻るとされています(Jarvis et al., 2023)。しかし、糖質の多い食事を短時間で摂取した場合や、食事の内容・食べ方・タイミングが乱れている場合には、血糖値が急激に上昇しやすくなります。
血糖値スパイクは、糖尿病と診断されている人に限った問題ではなく、健康診断で大きな異常を指摘されていなくても、日々の食生活や生活習慣によって、誰にでも起こり得る現象です。血糖値の仕組みを正しく理解し、自身の生活と結びつけて捉えることが、将来の健康リスクを考えるうえで重要になります。
次章では、こうした血糖値スパイクが、特に冬の生活環境の中で起こりやすくなる理由について解説していきます。
■冬は血糖値スパイクが起こりやすい
冬は、1年の中でも血糖値が変動しやすい季節であることが報告されています。
国内外の研究でも、冬季や年末年始を含む時期に血糖コントロールが悪化しやすい傾向が示されています(Jones et al., 2014Sakamoto et al., 2019)。
その背景には、寒冷環境や生活習慣の変化が重なり、食後血糖が上昇しやすい状態が生じやすいという点があります。

寒冷環境にさらされると、体温を維持するためにアドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモン分泌が促されます(Pääkkönen and Leppäluoto. 2002)。これらは、同時にインスリンの働きを弱める「インスリン拮抗ホルモン」としても働くため、同じ食事内容であっても血糖値が変動しやすくなり、血糖値スパイクが起こりやすくなる可能性があります(Kamba et al., 2016)。
また、冬は寒さによって身体活動量が低下しやすい季節です。運動は筋肉への糖の取り込みを促し、食後血糖の上昇を抑える役割を担っていますが、運動量が減ることでこの調整機能が弱まり、血糖値が上がりやすく、下がりにくい状態が続きやすくなります(Bird and Hawley. 2017)。
■睡眠とは影響し合う「双方向の関係」
さらに、忘年会や新年会などにより、高糖質・高脂質の食事や飲酒の機会が増えることも血糖変動を大きくする要因です(Shin et al., 2009)。炭水化物や脂質を多く含む食事は、インスリンの働きを一時的に低下させ、血糖値スパイクを助長する可能性も示唆されています(Campello et al., 2012)。
加えて、年末年始の忙しさや生活リズムの乱れが重なりストレス状態が続くと、インスリン感受性の低下を通じて血糖値に影響を及ぼす可能性があります(Vedantam et al., 2022)。
血糖値スパイクは、睡眠と互いに影響し合う「双方向の関係」にあることも明らかになってきており、睡眠不足によってインスリン感受性が低下するとされる一方で、血糖値の変動が睡眠の質を低下させる可能性があることも、複数の研究で報告されています(Spiegel et al., 1999Inaishi et al., 2023)。
このように1月は、複数の要因が重なり、本人の自覚がないまま血糖変動を繰り返しやすい時期といえるのです。
■動脈硬化の促進、糖尿病発症リスクの上昇…
血糖値が急激に上昇すると、それを下げるためにインスリンが短時間に大量分泌されます。その結果、血糖値が急降下し、低血糖に近い状態へ移行することがあります。この過程で、強い眠気や倦怠感、集中力の低下が生じやすくなります。

実際、血糖値スパイクが、注意力や記憶、認知パフォーマンスに影響を及ぼす可能性があることが、複数の研究で示されています。特に、食後しばらく時間が経過した後に、集中力や作業効率が低下しやすい傾向が報告されています(Gaylor et al., 2022Gruber et al., 2024)。
さらに、血糖値スパイクは仕事中の眠気や集中力低下と関連し、それが生産性の低下や安全性リスクにまで影響する可能性も示唆されています(Kaneda et al., 2025)。
また、こうした一時的な不調にとどまらず、血糖値スパイクを繰り返すことが中長期的な健康リスクにもつながる点にも注意が必要です。
血糖値の急激な変動は血管内皮細胞にダメージを与え、動脈硬化を促進することが報告されています(Tateishi et al., 2022)。血糖変動の大きい人では、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患リスクが約1.3~1.5倍高まる可能性も示されています(Wang et al., 2022)。
さらに、慢性的な血糖変動は膵臓への負担を増やし、将来的な糖尿病発症リスクを高めることも示唆されています(Xu et al., 2022)。
■食後高血糖が認知症の発症リスクを2倍に
この血管障害の背景には、「酸化ストレス」という生体反応が深く関与していると言われています。血糖値の急上昇・急降下に伴い、血管内皮細胞では活性酸素が過剰に産生され、血管障害や炎症反応を引き起こすことがあります。こうした状態が続くことで、血管の柔軟性が低下し、動脈硬化が進行する可能性が示唆されています(Papachristoforou et al., 2020)。
近年では、血糖値スパイクが脳の健康に影響を及ぼす可能性にも注目が集まっています。大規模研究では、食後2時間血糖が高い人ほど認知症リスクが高まることが示され、国内研究でも、食後高血糖がアルツハイマー型認知症の発症リスクを約2倍高める可能性が報告されています(Xue et al., 2019Ohara et al., 2011)。

空腹時血糖が正常であっても、食後高血糖そのものが認知機能低下に独立して関与しているかもしれないのです。
このように血糖値スパイクは、単なる一時的な不調ではなく、仕事のパフォーマンス低下から将来の脳・血管の健康まで幅広く影響する重要なサインといえます。血糖値は「健診で異常が出てから」ではなく、日常の生活や働き方の中で意識的に整えていくことが大切です。
■お酒の後のシメは「半分にする」
血糖値スパイク対策というとハードルが高く聞こえるかもしれませんが、実際には日常のちょっとした工夫でも血糖変動は抑えられます。ここでは、忙しい人でも実践しやすいポイントを整理します。
① 食べ方の工夫(順番・選び方)
血糖値スパイク対策の基本は「何を食べるか」よりも「どう食べるか」です。
特に重要なのが、野菜やきのこ、海藻などの食物繊維を先に食べ、次にたんぱく質、最後に炭水化物を摂る「ベジファースト」「カーボラスト」です。食物繊維を先に摂取することで、食後の血糖上昇が約20~40%抑制されることが報告されています(Wada et al., 2025)。外食やコンビニ食でも、サラダやゆで卵、豆腐などを最初に食べるだけで効果が期待できます。
また、食品による血糖上昇のしやすさを示すGI(グリセリミック・インデックス)を意識し、白米やパンなどの高GI食品を、玄米やそばに置き換えることも有効です。
一方で、最も避けたいのは「早食い」です。短時間で一気に食べると、同じ食事内容でも血糖ピークが約1.3倍高くなることが示唆されています(Saito et al., 2020)。
よく噛む、途中で箸を置くといった工夫も立派な対策です。
② お酒の後の「シメ」はどうする?
飲酒後は判断力が低下し、血糖値スパイクを起こしやすくなります。特にラーメンは高GIな炭水化物が主体で、血糖値が急上昇しやすい代表例です。
代わりに、十割そばや具だくさんのそば、野菜やたんぱく質を多めにした雑炊を選ぶと血糖上昇は緩やかになります。「量を半分にする」だけでも血糖ピークは下がるため、完全に我慢するのではなく選び方と量で調整する視点が重要です。
■鍋のシメは「糖質単品」を避ける
③ 鍋のシメ、何を選ぶ?
冬に増える鍋料理も、シメの選択で血糖反応は大きく変わります。白米やうどんを大量に摂ると血糖値は急上昇しますが、しらたき、豆腐、卵を加えた雑炊(米少なめ)などにすることで上昇は緩やかになります。ポイントは糖質単品にしないことです。
④ 短時間でできる血糖対策運動
近年、有酸素運動と筋トレを組み合わせることで、単独で行うよりも血糖コントロール改善効果が高まることが明らかになってきました(Silva et al., 2024)。
食後10~15分の散歩に加え、週数回のスクワットなど短時間の筋トレを取り入れるだけでも、血糖変動の抑制に有効です。
血糖値スパイクは、空腹時血糖が正常でも見逃されることがあります。食後の強い眠気やだるさ、HbA1cが境界型の場合は注意が必要です。
早めの生活改善は、将来の糖尿病や心血管疾患リスクを下げる第一歩となります。忙しい今こそ、できるところから対策を始めることが、仕事と健康の両立につながります。
■1月は「立て直し」に最適なタイミング
年末年始に乱れがちな生活や血糖値は、生活習慣の「仕切り直し」によって立て直すことが重要です。1月は行事が一段落し、生活リズムを整えやすい時期でもあります。このタイミングで食べ方や活動量を少し見直すだけでも、血糖変動は着実に改善していきます。
血糖値スパイクは、自覚症状が乏しいまま積み重なり、仕事の集中力低下や将来の健康リスクにつながることがあります。だからこそ、「今は大きな不調がない」段階での対応が大切です。順番を意識して食べる、少し歩く、眠気を放置しない――こうした小さな選択の積み重ねが、1年後のコンディションを左右するかもしれないのです。
1月は、体と向き合い、無理なく軌道修正を始める絶好のスタートラインです。

※参考文献

・厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~ 糖尿病の食事

・日本糖尿病学会「健康食スタートブック 生活の質向上をめざして

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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