■24時間営業、AI店員という異色の書店の正体
東京都台東区・蔵前地区。大通りから路地に入ると、築年数を重ねたであろう中低層ビルが立ち並ぶ。その一角に店を構えるのが透明書店だ。かつて倉庫として使われていた空間をリノベーションし、会計ソフト「freee会計」を手掛けるフリー株式会社が2023年4月に開業した。約70平方メートルほどの店内には、スモールビジネス関連の書籍やエッセイ本など約2500冊が並ぶ。
無人営業中の店に入って、すぐに迎えてくれたのは、ChatGPTを搭載したAI(人工知能)の副店長である「くらげ副店長」だ。私が「独立したい人の本を教えて」とキーボードに打ち込むと、おすすめの本と、置き場所を教えてくれた。気に入った本を見つけると、キャッシュレス決済で会計は完結する。
透明書店は、25年4月から24時間営業を始め、毎週月曜日と木~日曜日の午後7時~翌日正午のほか火、水曜日の終日を無人化した。
従来は人的リソースの制約から、営業は週の約20%に限られていた。無人営業を導入することで、これまでシャッターが下りていた時間帯を“稼ぐ時間”へと変えることに成功した。
黒田さんは「テクノロジー企業だからこその挑戦だった。設備投資は防犯カメラの設置費用など十数万円のみで、無人営業時の売り上げは全体の25%程度を占めるようになり、収益への貢献は大きい」と手応えを語る。
■会計ソフト会社だからこそ「透明」に
蔵前地区は、かつては、金属加工などを扱う問屋や工房が集まるものづくりの街で、その流れを汲み、今もスモールビジネスが盛んな地区だ。手仕事や技術を大切にする文化は、かつて工業地帯として発展したニューヨーク・ブルックリンの歴史と重なり、蔵前は「東京のブルックリン」と呼ばれる。
「スモールビジネスを、世界の主役に」。このミッションを掲げるフリーは、その実践の場として蔵前に書店を構えた。
スモールビジネスの割合が多い小売業、なかでも書店は紙やFAXに依存した業務が多く、テクノロジーによる改善余地は大きい。黒田さんは「我々のような他業種だからこそできることもある。
書店名は、あらゆる情報を「明け透けに」開示することが由来で、透明書店ではXやnoteで日々の売り上げなどを発信している。
個人事業主には、経営状況を対外的に開示する法的義務はなく、他の書店の参考になればと、あえて経営状況を公開する書店は極めて珍しい存在だ。数字をさらすことは業界全体の課題や可能性を可視化する試みでもある。
noteでは、営業日の天気や売り上げだけでなくその日の出来事やトピックも公開している。特集では、月ごとの売り上げや、利益率の変化、運転資金の増減、平均客単価、在庫回転率など詳細に集計して記事にすることもある。
■黒字に転換したきっかけ
黒田さんは「独立書店や中規模書店からの反響は大きく、経営者が来店して視察することもある。数字や取り組みだけでなく、つまずいたことも発信しているので、これからスモールビジネスをしたい方のヒントになれば」と表情を和らげる。
開業後は、書籍の販売が想定より伸びずに赤字が続いた。当初は、スモールビジネスを応援する本が中心だったが、現在は、女性客が好む小説、エッセイのほか、個人出版社が出しているリトルプレス(少部数発行の出版物)を増やすなど選書で独自色を強めている。
また、イベントの開催やグッズの開発・販売、本棚を区切ってスペースを貸し出す「シェア本棚」などで収益の多角化に取り組み、24年4月には初めて単月での営業損益の黒字化に成功した。
ただ、営業赤字額は24年6月期は402万円、翌25年6月期は286万円と厳しい状況が続いた。
■新刊だけでは経営が成り立たない
筆者は、透明書店の協力で、2025年11月の売り上げデータや、各粗利率などのデータを入手し、事業ごとの売り上げや利益を概算した。
まず書店経営の根幹である新刊販売の利益率が23%と最も低いのが目を引く。その売り上げは、2位の「貸し棚利用料」を3倍以上引き離しトップであるものの、利益として残る金額は20万円と少ない。
利益率の低さは業界の特性上、経営努力で改善できる余地は少なく、「新刊販売だけで経営を成り立たせるのは厳しい」(黒田さん)ことから、収益源を増やすために、あらゆる事業に乗り出している。
利益では、本棚の貸し棚利用料が26万円と稼ぎ頭となっている。本棚を61区画に分け、月単価3800~1万4300円で販売しており、コストがかからず安定収益につながっている。すべての区画が貸し出せれば月次の収益は36万円になる。
倉庫をリノベーションした書店内の雰囲気をSNSの発信などで知り、ショートドラマの撮影が行われることもある。その際にレンタルスペース利用料を受け取っており、19万円を計上している。
今春から始めた古本事業も軌道に乗ってきた。
■書店は「本だけを売る場所」ではない
グッズはくらげ副店長をプリントしたTシャツや帽子の売れ行きがよいほか、他社から仕入れたグッズも取り揃えている。オリジナルグッズの利益率は59%と、仕入れのグッズの37%より高い。
一方、11月はイベントの売り上げが振るわなかった。利益率が大きくSNSの発信や企画力向上により強化はしていくが、レンタルスペースやイベントは振れ幅が大きいという。
黒田さんは今後の戦略について、「貸し棚や、古本、雑貨の販売でまずは安定収益を積み上げることが優先。そのうえで、利益率の高いイベントやレンタルスペースでの収入にも力を入れたい」と意気込む。オリジナルのブックカバーを作るなど新たな事業も始める計画だ。
書店経営は厳しい状況が続いている。日本出版インフラセンターによると、2003年に2万880店舗あった国内の書店は、2024年には1万417店舗と、約20年で半減した。
近年、書店の役割は変わりつつある。もはや単に本を売って儲ける場所ではなく、書店は集客やブランディングの起点として機能する場となっている。
■リアル書店がある意味
その一例が「透明書店」だ。新刊販売の利益率が低いことを前提としながらも、「選書には書店の色が出る」(黒田さん)とこだわりを見せる。そして選書や店内の雰囲気で世界観を作り込み、ファンを増やしながらビジネスを展開するのが特徴だ。
さらに、同業者からは「万引きがこわくてできない」という声も上がる中、無人営業にも挑戦。人件費を抑えつつ、収益を大きく支える仕組みとして機能させている。
黒田さんはこう力を込める。
「本を買うだけならインターネットの方が便利。
書店は変化を迫られている産業だ。問い直されているのは、「本を売る場所」という従来の定義そのものなのかもしれない。
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松田 晋吾(まつだ・しんご)
フリーライター
福岡市出身。全国紙記者として、経済を中心に、行政や事件・事故、スポーツ、地元の話題など幅広いテーマで取材。Big4に転職後はコンサルタントとして、M&Aや事業再生、上場支援等のプロジェクトに関与した。2026年にフリーライターとして独立。
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(フリーライター 松田 晋吾)

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