※本稿は、ロルフ・ドベリ『Not To Do List 失敗を避けて、よりよい人生にするためのやってはいけないことリスト』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■やってはいけないこと:困難を避ける
不幸や苦しみを感じやすくなりたい人へのお勧めは、「できるだけ守られた環境で、人生を歩むこと」。
ストレスの要因となりそうなことは、小さなうちに早めに摘み取り、失敗する可能性のあることはできるかぎり回避しよう。
代わりに、快適な環境に浸っていよう。できるだけ長く温室のなかで育つこと。
そうすれば、外の世界に出たときに、あなたは間違いなく、最初に受ける強風でポッキリ折れることだろう。
■真のアドバイス:自分に「負荷」を与える
ジェンスン・フアンは近年もっとも成功した起業家だ。アメリカの半導体チップ製造会社NVIDIA(エヌビディア)の創業者でありCEOでもある彼は、アメリカンドリームの化身、いや、その強化版のような人物だ。
フアンは台湾の移民から億万長者へと駆け上がった。
2024年3月、スタンフォード大学の学生に向けた講演で、彼は奇妙な発言をした。
「わたしの強みのひとつは、『人生の期待値が非常に低い』ということです。
期待値の高い人は、打たれ弱く、耐性が非常に低い。そして、残念ながらその耐性が成功には重要なのです。
このことをみなさんにどのようにお伝えしたらいいのかわかりませんが、ほかには思いつきません。みなさんが苦労するよう願います!
偉大さは『知性』から生まれるものではありません。偉大さは『人格』から生まれます。そして人格は『苦悩』によって培われるのです。
スタンフォード大学の学生のみなさんに、わたしが願えることがあるとすれば、『大きな痛みと苦しみ』を経験することです」
会場にざわめきが起こった。
「大きな痛みと苦しみ」だって? 世界でもっとも輝かしい大学のひとつ、スタンフォードに入学した人が、そんなものを期待するはずがない。
■困難があったからこそ成功した人たち
世界的なブランド「スターバックス」の伝説のリーダー、ハワード・シュルツは、ニューヨークのブルックリンにある公営住宅で暮らす貧しい家庭に育った。
トラックの運転手で退役軍人の父親は、低賃金の仕事で切り抜けなければならなかった。父親が仕事中に怪我を負い、一家は経済的に困難な状況に陥った。いわゆる「厳しい青春時代」だった。
とはいえ、まさにそのことが、力を尽くして貧困から抜け出すために必要な衝動をシュルツに与えたのだった。
J・K・ローリングは生活保護で暮らすシングルマザーだった。
家族の経済的な安定を確保するために、もっと確実に生活費を稼げるふつうの仕事に満足することもできたはずだ。しかし執筆を決意したことが、史上もっとも成功した物語シリーズのひとつ、『ハリー・ポッター』の誕生へとつながった。
困難と闘った「にもかかわらず」ではなく、困難があった「からこそ」成功した人たちの事例は数えきれないほどある。
もちろん、裕福で守られた家庭の出身で、困難と闘う必要がなかった、出世の早い有能な人もいる。しかし、そういう人たちは、どちらかといえば「起業家」よりも「雇われの経営者」に多い。
裕福な両親のもとでほとんど苦労も知らずに育ち、世界トップクラスの大学で学ぶ若者を、わたしは大勢知っている。ジェンスン・フアンがスタンフォード大学の講演で言及したのは、まさにそのような人たちだ。
彼らの「守られた生活」は危険だ。なぜなら、世の中が、突然、根底から覆されてしまったときに、どのように生き抜くかを、まったく学んだことがないからだ。
■「試練」で自らの「人格」を磨くことができる
フアンの洞察は、ストア学派の認識と一致する。
ストア派の哲学者は、「人間の真の人格は、危機的な状況になってようやく成熟する」と確信していた。
わたしのお気に入りの哲学者は、エピクテトスだ。
彼は、人生の荒波にもまれた。奴隷として生まれ、そのため「獲得された者」を意味する「エピクテトス」と呼ばれた。
ある日、主人に足を打ち砕かれ(理由は伝えられていない)、そのせいで生涯にわたり足が不自由だった。
皇帝ネロの死後、エピクテトスはようやく自由を手に入れ、哲学の学校を設立した。彼が教えた哲学は、ほかのどの考え方よりも懸命に過酷な運命と向き合っていた。
兵士が肉体的な、そして精神的な「負荷」に備えるように、あなたも人生の「試練」を利用して、自らの「人格」を磨くことができる。
■挫折が「回復力」を強化する
ビジネスの世界では、「挫折」は日常茶飯事だ。これまでにいくつか厳しい状況を乗り越えた経験のある人は、次に何かが起こったとしても、より冷静に対処し、すぐに取り乱したりしないだろう。それに、自分との向き合い方を知っている。
これは「痛みと苦しみ」の後押しで、「回復力」が向上するからだ。
苦しみが一時的なものであるならば、この「回復ブースト」は抜群に効果がある。
だから、読者のみなさんには、時間の限定された、穏やかでありながら、自らを鍛えてくれる「苦しみ」を味わうことをお勧めする。
ストア派の哲学者のようにしてみよう。不幸に遭遇するのを待つのではなく、ときおり「自分の快適ゾーン」の外側に出て、自らに「負荷」を与えてみよう。数日間、断食をしたり、硬い床に直に寝たりしてみよう。万一の場合に備えて、力をつけておこう。
その日はいつか必ず訪れるのだから。
■やってはいけないこと:さっさとあきらめる
人生は厳しい。プライベートにおいても仕事においても、失敗は避けられない。頭のおかしいやつだけがこれを受け入れず、つまずいても先に進み続けようとする。
そんなことより、潔くやめるコツを身につけるほうがいい。
失望しているからではない。より大きな計画を実行するために必要なものとしてあきらめるのだ。ずっと前からそのつもりでいるかのように。「立ち上がって、冠をまっすぐに正し、やり続けよう」なんて、おばあちゃんのアドバイスは忘れてしまうこと。
わたしはその逆をお勧めする。「寝っ転がったまま、冠は捨てて、泣きわめけ」。敗北主義を恥じる必要はない。
人生はつらいもの。だから、あなたが悲観的でも、それは正直な気持ちの表れであり、信頼に値する。白旗をあげるのに長く待たないこと。そうだ、いの一番に降伏してしまえ! そして、みじめなやつレースでリードしよう。
人生を狂わすような出来事に遭遇したら、それは「今すぐあきらめろ!」の紛れもない合図と解すべき。
きっと、いつものようにすべては不公平だったのだ。そのあとで、新しい活動の場を探せばいい。
しかし、新たな活動も、長くてもあなたに不愉快なことが生じるまでにしておくこと。困ったことが起きる前に、とっととやめれば、不快な経験をしなくてすむ。
■「絶対に失敗しないこと」に時間を使う
もっともいいのは、「絶対に失敗しないこと」に時間を使うこと。たとえば天気予報のアプリをチェックしたり、TikTokのフィードをスクロールしたり。ポイントは、インターネットで消費している間は失敗しない、ということだ。
これはすばらしいチャンス。何十万年にもわたる人類の歴史のなかで、はじめて失敗せずに存在することが可能になったのだから。
そう、ワンクリックすれば翌日には商品が届く。そして今、その小包を開ける! この快感! 失敗しようがない。
まるで楽園だ──誰かが知恵の木のリンゴに手をつける前のエデンの園のように。
■真のアドバイス:早く、頻繁に「失敗」する
不幸な人生にしたければ、はじめて「困難」にぶつかった時点で、あるいは遅くても2番目の困難にぶつかった時点であきらめよう。
だが、困難を避け、失敗しない人生を歩むことは不可能だ。わたしは、「つまずいたことのない人」を知らない。おそらくあなたも、順調な人生しか歩んだことのない人に出会ったことはないだろう。
これは単に「人生」という地形図のせいである。この地形図にはたくさんの落とし穴が存在するが、あまりうまく描かれていないのでわかりづらい。
しかしこのなかに、別の意味をもつ穴がある。あなたが「能力の輪」のなかで知識を深めていくうちにはまりこむ穴、ニッチな世界を表す穴だ。
どんなキャリアを手に入れるにしても、あなたが成功できるのは「ニッチな分野」しかないということだ。これは、生き方の基本原則のひとつである。
■ニッチな世界で名人になることに全力を注ぐ
自分の「能力の輪」のなかで、完全なトップに立つべきだ。そこではあなたの生産性が──そして、それによって収入が──あなたの能力に応じて飛躍的に上昇する。
スーパープログラマーの効率のよさは、平均的なプログラマーの2倍どころか、1000倍にも達する。弁護士、スポーツ選手、作家、起業家、投資家にも同じことがいえる。
つまり、あなたは、「ニッチな世界で、最高レベルの名人になることに全力を注ぐべき」なのだ。
理想は「一番」になること。それも「世界一」になること。
しかし腕を磨いていくうちに、必然的に、師となる人物も手引きとなるものも、模範とすべき例もない領域に突き進むことになる。もっぱら挑戦と失敗をくり返しながら先に進む世界に入り込む。
まさにここでは、あなたが大きな価値を作り出し、そのために粘り強く努力し続けなければならない段階が始まる。
発明家のトーマス・エジソンは、この領域に足を踏み入れていた。
■「わたしは失敗したのではない」
彼は1000回以上の試行錯誤を重ねた末に、機能的な電球の形を発見した。彼の有名な言葉は正しい考え方を表している。「わたしは失敗したのではない。うまくいかない方法を1000通り見つけただけだ」。粘り強さは報われる。
「Fail Fast, Fail Often (早く、頻繁に失敗せよ)」とはシリコンバレーの戦術だ。
しかし、いつかは、まったく成長が止まるときが訪れるだろう。そのときにはどうすればいいのだろう? それはエジソンにも起こり得たことだ。
人はあきらめるまでに、どれくらい異なるアプローチを試し続けるのか?
この問いに関して、わたしはノーベル賞受賞者も含む大勢の科学者と議論をしたことがある。世界でもっとも賢い人たちの間では、明確な規則はないが、「3回の失敗よりは、1000回の失敗」「3カ月よりは、10年間続ける」という点で意見が一致していた。
だから、あなたも立ち上がって、冠をまっすぐに正し、やり続けよう。
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ロルフ・ドベリ(ろるふ・どべり)
作家、実業家
1966年、スイス生まれ。ザンクトガレン大学卒業。スイス航空の子会社数社で最高財務責任者、最高経営責任者を歴任の後、ビジネス書籍の要約を提供するオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。科学、芸術、経済における指導的立場にある人々のためのコミュニティ「WORLD.MINDS」を創設、理事を務める。35歳から執筆活動を始め、ドイツやスイスなどの世界の有力新聞、雑誌に寄稿。著書に『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』『News Diet 情報があふれる世界でよりよく生きる方法』『Not To Do List 失敗を避けて、よりよい人生にするためのやってはいけないことリスト』(すべてサンマーク出版)など。スイス、ベルン在住。©Luca Senoner.
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(作家、実業家 ロルフ・ドベリ)

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