■トランプは台湾や尖閣諸島を防衛をやめるのか
トランプによるグリーンランドとベネズエラを巡る言動は何を意味するのか。それは、これまでの戦後秩序の中でアメリカがとってきた「防衛的保障者」からの転換ということができる。この転換は、国境防衛をアメリカに依存する日本を含む国にとって、「実存的な問い」を突きつける。
トランプがグリーンランド併合やベネズエラ介入を公然と論じるなら、習近平も台湾や尖閣諸島に手を出す行動に出るのではないか。その際、トランプはどう対応する気なのか。
日本国民が抱くのは、根拠のない不安や恐怖ではない。トランプの領土的野心がアメリカの優先順位について何を示しているかを冷静に見極めた結果である。
■非対称な依存という現実
日米同盟は対等な協力関係ではない。日本が基地提供、財政支援と引き換えに、ハードセキュリティをワシントンに外注している仕組みである。アメリカの同盟防衛者としての信頼性が揺るがない時代には、この構造は見事に機能した。
だがトランプのグリーンランド発言はその信頼性を致命的に粉砕する可能性がある。
グリーンランドへの領土的野心を示したトランプの頭には北極戦略という文脈がある。グリーンランド獲得を「国家安全保障と世界中の自由」のために必要だと位置づける。
だが国家安全保障が北極での同盟国領土併合を正当化するなら、中国は台湾や尖閣(釣魚島)に対して寸分違わぬ論理を主張できることになる。北京は長年、台湾が核心的領土保全を代表し、尖閣(釣魚島)が歴史的に中国に属すると主張してきた。トランプのグリーンランド言説は北京に完璧な修辞的テンプレートを提供する。論理構造は完全に同一なのだ。
ベネズエラの事例は別の角度から懸念を深刻化させる。トランプが嫌悪する体制転覆のための軍事介入は国際法、地域諸国の反対、主権規範を無視したものである。アメリカの武力行使が一貫した原則ではなく大統領個人の判断に従うことを如実に示している。
日本の安全保障は、アメリカが同盟国を防衛するのは同盟関与が不可侵の原則を体現するからだという前提の上に成り立っている。だがトランプがマドゥロを嫌うからベネズエラを爆撃する一方、尖閣は「ただの岩」だから必ずしも防衛しないというなら、日本の安全保障は完全にトランプの瞬間的判断に左右されることになる。
■北京の冷徹な計算
北京が間違いなくこれらの力学を鋭い関心を持って注視している。中国の戦略家たちは長年、台湾有事や尖閣作戦の最適なタイミングを分析してきた。その計算式にはアメリカの決意、日本の独立防衛能力、国際社会の反応コストの評価が組み込まれている。
トランプの領土言説はこの計算式を劇的に中国有利へと傾ける。ワシントンがグリーンランド併合を公然と論じるなら、北京は台湾統一や尖閣主張を同様の主権回復として正当化できる。
アメリカがベネズエラを軍事的に脅す一方で、カナダやメキシコといった同盟国がその動きを非難する状況は、米国の軍事行動が連合支援ではなく国際的孤立を招くことを証明している。これは将来の有事における抑止価値の著しい低下を意味する。
人民解放軍海軍の能力は劇的な成長が見られる。同軍は今や、20年前には想像もできなかった台湾作戦に必要な水陸両用能力、航空優勢資産、ミサイル戦力を保有している。尖閣周辺では中国海警局と海上民兵の活動が極度に常態化しており、「グレーゾーン」作戦から実際の武力奪取への移行は、劇的な戦略的飛躍ではなく小幅な戦術的ステップに過ぎなくなっている。
だが能力だけが行動を決定するわけではない。
トランプの予測不可能性は両刃の剣として機能する。中国は彼が軍事的に対応しないと確信できないが、同時に対応すると確信することもできない。この不確実性は理論上、抑止を強化するはずだ。それは、敵対者は対応パターンを読み切れないからだ。
だが同時に、誤算のリスクも劇的に高める。北京がトランプのグリーンランド発言を、アメリカがインド太平洋関与よりも大西洋・北極戦略を優先する証拠と解釈した場合、米国の注意が再び東方に向く前の、短い期間ながらも、チャンスが到来したと結論づけるかもしれない。
逆にトランプ陣営が非公式に「中国の岩」(トランプが過去に尖閣をそう呼んだとされる)のためにアメリカは戦わないと示唆すれば、北京は千載一遇の好機到来と判断する可能性がある。問題の核心は、こうした戦略的評価が深い曖昧さの中で行われることだ。双方が相手の決意を推測し合い、推測を誤れば戦争に直結する。
■日本の選択肢とその限界
一方、日本がとることができる選択肢はかなり制約されている。しかも、どれも魅力的とは言いがたい。東京は軍事能力を急速に強化する選択をすることもできる。計画された対GDP比2%の防衛費目標を大幅に超えて増額し、敵基地攻撃能力を獲得し、自律的抑止力を構築する道だ。
だがこれは効果的に実現するまでに数十年を要する。さらに北京が日本の再軍備するさまを見て、今こそ侵攻の機会だと解釈すれば、日本はかえって中国の先制攻撃を誘発するリスクがある。
日本は代替的な安全保障パートナーを模索することもできる。オーストラリア、インド、欧州諸国との関係を深化させる選択肢だ。ただ、これらの国々はいずれも、アメリカの軍事的関与を代替できるだけの戦力投射能力を保有していない。
東京は北京との戦略的宥和を追求することも理論上は可能だ。だが中国が安定の対価として要求するのは、係争海域への事実上の中国支配の黙認と台湾問題での中立化だろう。これは戦後一貫して民主主義陣営との同盟を通じてアイデンティティを定義してきた日本にとって、文明的降伏に等しい。
最も現実的と思われる選択肢、つまり防衛費負担の大幅増額や、在日米軍への支援強化を通じて米国の関与を確保する、ということにも深刻な問題がある。
トランプは同盟の価値をイデオロギー的にではなく純粋に取引的に測定する。日本はすでに在日米軍基地に対して相当な財政支援を提供している。だがトランプが尖閣よりもグリーンランドの戦略的価値を上位に置くと決断すれば、日本がいくら支出を増やそうと彼の優先順位は変わらない。一貫性という概念を信じない人物から信頼性を金で買うことはできないのだ。
■制御不能な変数に依存する未来
この状況は日本のこれまでの戦略に深刻な心理的危機をもたらしている。戦後の日米安保体制は、一つの明確な前提の上に構築されてきた。日本が独力では自国を完全に防衛できない一方、アメリカの保護が揺るぎない安全保障を提供するという前提だ。
3世代にわたる日本の政治家、防衛官僚、そして一般市民がこの論理を無意識のうちに内面化してきた。その前提の潜在的無効性、つまりアメリカが危機の際に単に現れないかもしれないという可能性に直面することは、世界における日本の存在意義が根本的に変貌する可能性を意味する。それは70年間保険料を支払い続けてきた生命保険が、最も必要とする瞬間に実は無効だったと知らされるようなものだ。
日本市民にとって、これは受け入れがたい極めて切実な事案だ。
問題は中国が明日にも侵攻してくるかどうかではない。中国は、その戦略的慎重さや、経済的制約の発生、そしてアメリカがどう対応するか不確実であることなどから、少なくとも近い将来の全面的侵略をすることはおそらくないだろう。
だが根本的な問いはこうだ。中国がトランプ大統領の任期中に台湾や尖閣に対して軍事行動を起こす可能性があるのか。この問いへの答えは、トランプのベネズエラやグリーンランドに関する言動によって、「絶対にありえない」から「状況と判断次第では起こりうる」へと移行した。
不可能から考えられる事態へ――この認識の移行こそが、日本の安全保障環境における根本的劣化を意味する。
日本が直面しているのは、自らが制御できない変数に安全保障の命運が委ねられた未来だ。トランプの気分、北京の日和見主義、そしてアメリカの信頼性がこれほど無造作に投げ捨てられた後に果たして回復可能なのか。ポイントはこれらすべてが日本の制御範囲外にあるということだ。
日本の政策立案者たちの間で広がる不安は妄想でも過剰反応でもない。それは戦後70年以上にわたって日本の安全を支えてきた体制の基盤が、目の前でリアルタイムに崩壊していくさまを目撃することへの、極めて合理的な反応なのだ。そしてその崩壊の後に残されているのは、地図を解くべきパズルと見なし、神聖な国境を守るべき防壁とは見なさない指導者たちの気まぐれ以外、何もないように見える。
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スティーブン・R・ナギ
国際基督教大学 政治学・国際関係学教授
東京の国際基督教大学(ICU)で政治・国際関係学教授を務め、日本国際問題研究所(JIIA)客員研究員を兼任。近刊予定の著書は『米中戦略的競争を乗り切る:適応型ミドルパワーとしての日本』(仮題)。
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(国際基督教大学 政治学・国際関係学教授 スティーブン・R・ナギ)

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