■電話対応の相手はいきなり社長
いきなり社長だった。
社長インタビューを申し込むために代表電話に連絡し、電話をとった女性に趣旨を伝えると、「少々お待ちください」という返事。しばらくして電話口にでてきた男性は、「うちなんか街の電器屋に毛の生えたようなものだから、何の参考にもならないよ」と断ることを前提にしたようなぶっきらぼうな対応だった。
その男性を「広報担当者」だと思っていたので、「ずいぶん失礼な社員だな」という思いがまず頭をかすめる。それでも、やりとりをするうちに「変だ」と気づきはじめたので、「電話口にでていただいているのは?」と訊ねてみた。
戻ってきたのは、「社長をやってます」との返事だった。通常なら取材申し込みの窓口になるのは、広報とか総務の担当者である。いきなり社長が登場したことに、こちらは頭が真っ白になりそうになる。それでも、なんとか取材趣旨を繰り返す。それに社長は「参考にならないよ」と繰り返す。
しばらく同じようなやりとりがあって、ようやく取材を受けてもらえることになった。受けてもらえるようになったものの、「頑固者だろうな」という第一印象が頭にこびりついて離れず、難儀な取材を覚悟した。
■「オノデン坊や」のモデルは誰なのか
取材当日、店舗の入り口に行くと、そこには社長本人が立っていた。
「来たら、そのへんの社員に訊いてくれたらわかる」と言われていたが、まさか社長本人が入り口にいるとは思わなかった。たまたまだと思っていたのだが、インタビューを終えたあとでは、「きっと待っていてくれていたのだ」と確信していた。オノデンの小野一志社長は、そういう人物なのだ。
電気街として知られる秋葉原でも老舗の家電量販店であるオノデンといえば、「オ~ノ~デ~ン坊やが未来と遊ぶ~」というインパクトのあるCMソングを思い浮かべる人も少なくないはずである。小野社長にインタビューできると決まって、いちばんの興味は「オノデン坊やと小野社長の関係」だった。
オノデンの創業は1941年で、1951年に現在の場所で「小野電業社」を設立、自社ビルを建てたのは1961年のことだった。創業者の名前は小野仁介氏で、小野社長の父親である。そうなると、「オノデン坊やのモデルは仁介氏の息子である小野社長では?」と連想しないわけにはいかない。まっさきに、それを訊ねると、小野社長に即答された。
「よく言われますが、私ではありません。モデルはいません。広告代理店がつくったキャラクターです。CMは1980年代からで、私は会社にいなかったので詳しいことはわかりませんが、当時は家電メーカーがキャラクターをつくったり、秋葉原の家電量販店もコマーシャルを流していましたから、その流れに乗ったんだと思います。
ただ、松山善三さんという有名な映画監督に制作に加わってもらったり、CMソングの女王といわれていた歌手の『のこいのこ』さんに歌ってもらったりでインパクトのある作品になったのかもしれません。しだいに他社のキャラクターが消えていくなかで、うちだけはいまだに使っています」
■CMの印象が強烈に残る「納得の理由」
小野社長に通じるオノデンの頑固さを感じる。
現在も店頭にはオノデン坊やの大きな人形が置かれ、ビルの壁面にある大型モニターには走りまわるオノデン坊やの姿が映しだされ、変わらぬCMソングが流れている。思わず「懐かしい」という言葉が頭に浮かんだのは、このCMをテレビで見かけなくなったからかもしれない。
「当時もCMを流していた帯番組としては、父親が馬主だったこともあって、競馬番組だけでした。あとは、ぜんぶスポットです」
それでも強く記憶に残っているということは、それほどスポットCMの数が多かったということでもあるが、小野社長は「うちはずっと同じCMを流してるからね。それで覚えてもらえてるんじゃないかな」とも語っていた。それくらいオノデンの景気もよかったのだろうが、現在は極端に減ってしまっている。
■家電なのに価格で勝負しない
オノデンの頑固さといえば、いまだに店舗が秋葉原の本店ひとつだけというところに象徴されている。大手の家電量販店が東京だけでなく地方にも店舗を展開しているなかで、かなりの頑固ぶりである。
家電量販店といえば、「低価格で勝負する業態」と思われているのではないだろうか。低価格を実現するためには、「大量仕入れによる大量販売」が武器になる。大量に仕入れるとなれば、メーカーも大幅な値引き要請に応じざるをえないからだ。
大量に仕入れたものを大量に販売するには、どうしても多店舗が必要になる。多店舗展開は「低価格勝負」のためには必須のはずである。その王道をオノデンは否定している。
小野社長は、「うちはレッドオーシャンには参加しない」と言い切る。レッドオーシャンとは、価格競争や顧客獲得競争が激しい市場を指す言葉である。
家電市場は、まさにレッドオーシャンでしかない。
そんななかでも、低価格勝負をしないと言い切る家電量販店がオノデンなのだ。社長の個性そのままなのか、オノデンは頑固である。
■オンラインショップは“訳アリ品”で勝負
しかし取材がすすむうちに、最初の小野社長に対する頑固という印象は薄れてきていた。言葉ひとつひとつには揺るがない信念のようなものを感じさせるが、訳のわからない頑固一点張りではない。応対の姿勢は柔らかいし、質問には真摯に答えてくれる。頑固さと柔らかさを併せ持つ人物である。
店舗数を拡大しない頑固さの一方で、オノデンはじつは柔軟な店舗展開を実行してきている。そのひとつがオンラインショップである。家電もオンラインショップで購入する消費者が少なくないなかで、家電量販店では不可欠の販路となりつつある。
ただし、「オンラインショップには商売になるものしかださない」と小野社長は言った。オンライン販売は、それこそレッドオーシャンの世界だ。消費者はネットサーフィンでもって少しでも安く売っている店を探すし、価格比較のサイトさえある。そういう世界で、レッドオーシャンに参加しないオノデンが戦えるのだろうか。
「たとえば、最新型より安く売れる3年前の型落ち(旧モデル)エアコンだったりします。ほかの店は在庫がないから売ろうにも売れません。うちだけが売るので、売値は安くても粗利は多い」
■“一店舗だけの強み”で他店と差をつける
なぜオノデンが3年前の商品を持っているのか。そこには、“一店舗だけの強み”がある。
そもそも3年前の商品はメーカーの在庫も少ないので、多店舗展開をしている店だと全店舗に置けないので、仕入れできない。同じ系列なのにA店舗にはあるけれどB店舗にはない、とは言えないからだ。その点、オノデンは1店舗なので、メーカーに1台しか在庫がなくても仕入れて店に置ける。
「創業者である父親は、そんな商品を“猫またぎ”と呼んでいましたけどね」と言って、小野社長は笑った。
猫またぎとは「魚好きな猫も跨いで通るほどマズい魚」という意味で、つまり多くの家電量販店が見向きもしない商品というわけだ。しかし、オノデンにとっては猫またぎどころか“お宝”である。
家電の最新機能を追わない消費者は、型落ちでもリーズナブルな商品を選ぶ。そんな型落ちを求めてオノデンに足を運ぶし、リーズナブルさに惹かれてオンラインショップで購入してくれる。安いものを探してネットサーフィンしているとオノデンの型落ちだが安い商品にたどりつき、「最新機のなんていらないし、この性能でこの価格なら型落ちでもラッキー!」と考える消費者に購入してもらえる。
レッドオーシャンに参加しなくても、結果的に価格競争に勝ってしまっていることになる。
■店舗の4階にはメイドカフェが営業
そういう客層が増えてもいるので、これからもオノデンではオンラインショップを広げていくつもりだという。そうなると知名度が重要な要素になってくる。先ほど小野社長が、「(CMを)またやりたい」と言ったのは、そういう戦略があるからだ。
柔軟さといえば、気になるものがある。道路の反対側からオノデンのビルを眺めると、4階に不思議なものが見えるのだ。メイド帽らしきものを頭につけた女性が行ったり来たりしている。ビルに近づいてみると、そこには「メイドカフェ発祥の店」の看板があった。
電気街のイメージが強かった秋葉原も、現在では“オタク”と呼ばれるサブカルチャーの中心地へと変貌しつつある。それを象徴する存在がメイドカフェであり、街を歩いていればメイド姿の呼び込みをあちこちで目にする。
「あのメイドカフェをやっている会社が作っているグッズを仕入れたいと話をしていたんですが、『どうせなら、ワンフロア全部使ってみたらどうですか』ということになったんです」
いまやオノデンの4階は、メイドカフェだけでなく、キャラクターアパレルやグッズといったサブカルチャーの店が集まるフロアとなっている。オノデンのビルは電気製品もあればサブカルチャー文化とグッズもある、まさに秋葉原という街を象徴する存在になっている。
■1階フロアに「家電以外の商品」を置くワケ
さらにオノデンの1階は、どこかの観光地の土産物店と見まごうばかりの品物が所狭しと並べられている。キャラクターのフィギュアが京人形風の人形と並んでいるし、民芸品に鉄瓶、キャラクターのTシャツに爪切り、キーホルダーまで雑多で豊富な品揃えだ。家電製品もあるが、ヘアドライヤーやアイロンなどは海外向けとなっている。
つまり、訪日外国人旅行客、つまりインバウンド客を強く意識したフロアになっているのだ。電気街としての秋葉原、オタク文化の中心地である秋葉原、それを求めて集まるのは日本人だけでなく、インバウンド客も多くが押し寄せる。そうしたインバウンド客を取り込む店づくりになっているのだ。
「必要とされるものがあれば仕入れる努力はします。インバウンド客からすれば、ここは電気専門店ではなくて、日本のものを売っている店でしかありません。インバウンド客と話していて、必要とされているものがあれば仕入れます。だから、うちには酒もあれば、爪切りだってあるんです」と、小野社長は説明する。
ひところの日本は中国人観光客の“爆買い”で大いに潤った。秋葉原も例外ではなかったが、それもひと段落着いた印象である。日中関係が険悪になって中国人観光客は減少ぎみだが、それでも秋葉原を歩けば、あっちでもこっちでも外国語での会話が飛び交っている。そうしたインバウンド客が存在するかぎり、必要とされる日本のものがある。その需要に、オノデンは敏感に応えている。
■インバウンド客の売上割合は15%
とはいっても、オノデンがかなりの売り上げをインバウンド需要に頼っているというわけではない。小野社長に訊ねてみると、すぐに答えが戻ってきた。
「全売上に占めるインバウンド客の割合は、金額的には15%くらいですね」
そんなものなんですか、と思わず素直な感想が声にでてしまった。それに、ニコニコしながら小野社長は、「だって、インバウンド客は冷蔵庫とかエアコンは買いませんからね。爪切りを何十個買ってもらっても、冷蔵庫1台分の売り上げにはかないません」と返してきた。
冷蔵庫やエアコンに比べれば、ドライヤーやアイロンの売り上げは大きくない。フィギュアやTシャツ、キーホルダーなどのお土産物となると、もっと小さい。薄利多売という言葉があるけれど、それが成り立つほどインバウンド客相手の商売は甘くはない。
■一番売れているのは「普通の家電」
それでも小野社長は、「オノデン全体の売り上げは公表していませんが、すこしずつ伸びてきています」と言う。
店舗を必要としないオンラインショップで稼いでいるのかとかさねて訊いてみると、「ひとつだけしかない店舗の売り上げが全体の7割から8割を占めています」という答えが戻ってきた。店舗の売り上げといっても、インバウンド客での売り上げは先ほど説明があったように15%でしかないし、サブカルチャー関連で大儲けしているとも思えない。
いったい、オノデンは何で儲けているのか。オノデンでいちばん売れている商品は何なのか、単刀直入に訊いてみた。
「冷蔵庫とか洗濯機、エアコンといった家電製品です。そう答えると、よく『普通の電器屋じゃないか』と言われますけど、『そうです。普通の電器屋です』と答えます」と言って、小野社長は大きく笑った。
なぜ、普通の家電製品がオノデンの経営を支えるほど売れているのか。それが知りたくて、思わず身を乗りだしてしまった。
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前屋 毅(まえや・つよし)
フリージャーナリスト
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(KKベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『日本の小さな大企業』(青春新書インテリジェンス)などがある
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(フリージャーナリスト 前屋 毅)

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