■71歳で宅地建物取引士を取得
秋葉原にある家電量販店の老舗「オノデン」の小野一志社長の名刺には、「代表取締役社長」と、もうひとつ「宅地建物取引士」という肩書が記されている。宅地建物取引士(宅建士)の資格は、毎年20万人前後が受験して、その合格率は15~18%という難関の資格である。家電量販店社長の肩書としては、いささか意外な組み合わせに思える。
「去年(2024年)、取ったんですよ」という小野社長の言葉には、失礼ながら、わが耳を疑った。小野社長は1953年生まれなので、71歳で取得した資格ということになるのだ。肩書の不具合さ以上に、難関突破時の年齢に驚かざるをえない。資格を取得した理由を、小野社長は次のように説明する。
「会社の経営基盤を固めるために、社宅とか倉庫だった建物を賃貸しています。その関係で不動産業界の方たちとも話をしなければならないので、話が合うには専門知識が必要だと思い資格を取りました」
なるほど、と思うものの、同時に「そこまでする?」という思いも頭をよぎる。しかし、そこにオノデンの強さの根っこがあり、冷蔵庫やエアコンという一般的な家電を売り上げの柱にできている秘密があるのだ。
■電球1個でも社員が交換に行くことも
オノデンは社是として、「親切な電器店」を掲げている。これをつくったのは小野社長で、1995年に社長に就任したときだった。どういう意味なのか、小野社長に説明してもらった。
「わかりやすく言うと、『電球を取り替えてほしい』というお客さんもいるわけです。そういうお客さんには、うちの店員がお客さんのところに届けて、取り付けのお手伝いをします」
そして、「昔の街の電器屋さんは、そういうことを普通にやっていました」とも付け加えた。家電量販店の存在しなかった時代には、電器製品は街の小さな電器屋で購入するものだった。電球ひとつでも届けてくれたし、顧客が高いところに上がれない年配者なら、ごく普通のように取り付けもやってくれた。
若い人には想像もできないかもしれないが、昔のテレビには真空管が使われていた。その内部に封入された電極がよく切れてテレビが観られなくなってしまったものだ。そんなときは街の電器屋に連絡すると、夜でもやってきて真空管を交換してくれた。
街の電器店がやっていたことを、現在のオノデンはやっているというのだ。まさに「電器店」、それも「親切な電器店」である。
■社長自身が静岡まで家電を設置しに行く
ほとんどの家電量販店では、売るのは店員だが運搬して設置するのは運送会社の人というぐあいに分業になっている。しかしオノデンでは、売った人と運んで設置する人が同じの場合が少なくないという。「少なくない」というのは、全部をそうしているわけではなくて、「必要があれば」が前提になっているからだ。
小野社長自身も静岡県の下田まで運んで設置までしたこともあるというが、社長の得意客で、別荘で使う家電一式だったという事情もあった。そこまで遠くなくて、どうしても助けてほしいということなら、オノデンの社員は喜んで自ら配送も設置も請け負うという。
とはいえ、配送のために売り場から社員が抜ければ、戦力が削がれることになる。普通の経営者感覚からすれば、トンデモナイということになるはずだ。しかし、「ちょっと悩むけど、オノデンの社長としては『行ってこい』と言うしかない。どうしても困っているというなら、行くしかない」と言って、小野社長は笑った。
販売した商品が動かないといった連絡が顧客からあれば、設置の仕方などの問題で自分で解決できそうだと判断すれば、売り場の店員が出かけていって解決する。
■メーカーからの「ヘルパー」には頼らない
そういう「親切」だけでなく、「親切な説明」もオノデンの特徴である。「友だちとかが来たら、その人のために絶対に役立つ商品を薦めるでしょう。それと同じことを、どんなお客さんにもやっているだけです」と、小野社長。
自信をもって薦めるには、それだけの商品知識を必要とする。オノデンの社員は、それだけの知識を身につけているという。自然に身につくわけがなく、それぞれがかなり勉強しているし、売り場ごとの勉強会も開いたりしているそうだ。このあたり、71歳で宅建士の資格をとった小野社長の姿勢に通じるものがある。親切な電器屋は、かなりの努力の上に成り立っているといえる。
「店にやってくるお客さんは、予習して、それなりの知識をもってやってきます。それに負けない説明ができないと、店員として恥をかくことになります。
家電量販店で店員に説明を求めても、満足のいく答えが返ってこないという経験をしたことのある人もいるのではないだろうか。
「ヘルパー」と呼ばれるメーカーからの派遣社員がいる家電量販店も多いが、そういうヘルパーは自社製品を売るために派遣されているので他社製品について詳しくはないし、「そういう使い方なら、こっちのほうがいいですよ」と他社製品を薦めるわけにもいかない。
オノデンにはメーカーからのヘルパーがいない。だからメーカーに遠慮せず、顧客のニーズに合った商品を薦められる。そのためには、しっかりした商品知識が必要になる。
■他店より5000円高くてもオノデンで買う
「価格の比較表を手にして来店されて価格交渉をするつもりだったお客さんでも、店員の説明に納得して、安い他店ではなく、うちで購入していただくケースも珍しくありません。他店よりも5000円高くても『オノデンさんのほうがちゃんと説明してくれたから』と言って買ってくれるお客さんがいるんです」と、小野社長は自信ありげに言う。
そのときに買ってもらうだけでなく、それが顧客とオノデンとの長い付き合いにも発展している例も数多いという。
「大学入学で東京に来て、オノデンで冷蔵庫を買ってもらったお客さんが、就職するときに買い替えるとなって、またオノデンで買ってくれる。結婚してまた買い替えとなっても、うちを利用してくれる。そのお子さんが独立するときに家電製品が必要になって、うちを薦めてくれる。そういうふうに続いている関係が、いくつもあります」
前編の終わりに、オノデンの売り上げを支えているのは冷蔵庫やエアコンといった大型家電だという話をしたけれど、それはこうした買い替え需要や代々にわたる顧客層がいるからでもある。
■「親切な接客」は創業以来の伝統ではなかった
そうした顧客を個人的にももっている社員が、オノデンには多く存在する。しかも、「うちは社員が辞めないんですよ」と嬉しげに小野社長も言うほど、社員が長く勤めつづけている。
だからこそ、顧客との関係は続き、オノデンの売り上げを支えている。オノデンにも60歳といういちおうの定年はあるが、それを超えて働いている社員は多い。最年長は、2025年末で退職されたが、なんと80歳だったそうだ。
オノデンの職場としての居心地の良さにくわえて、「親切」を裏付けているプロ意識をもてる職場だからなのだろう。そういうプロがいるからこそ、顧客も信用し、長い付き合いになる。
しかし、オノデンの「親切」は創業以来のものではない。1976年に大学を卒業した小野社長が就職したのはオノデンではなく、古賀鋼材(現・古賀オール)という老舗の鉄鋼商社だった。「父親からも『来い』とは言われなかったし、日本の基幹産業で働いてみたいという気持ちがあったからです」と、その理由を小野社長は語った。
オノデンに入社したのは社長就任の10年前、1985年のことで、父親に呼ばれたからだった。
「当時の秋葉原は、『安く売ってやるよ』という態度でした。オノデンも同じようなものです。価格競争が激しくなってくると、そういう売り方では売れないわけで、よその店との差別化で社員も悩むわけです」
■拡大路線ではなく、大手がやらないサービスで差別化
そこから「親切」につながっていくのだが、そこでは小野社長が大きな役割を果たしていた。
大学を卒業した古賀鋼材では営業として働いたが、「鉄鋼メーカーも新しい商品に進出する時期だったので、私もかなり商品を勉強して提案をしていました」と小野社長は言う。そうやって築いた顧客との関係は、オノデンに移ってからも続いた。
「オノデンに移ってからも、古賀鋼材のときの得意先が大手町にあったので、自転車で行って『まいど!』と注文をとりにいって、贔屓にしてもらいました」と、小野社長は言った。商品知識のある優秀な営業マンだったからこそ、退社後も大事にしてもらえたのだ。
オノデンでも古賀鋼材の営業マン時代と同様に、商品を勉強して顧客の要望に応え、そして自ら届けるなど相手の立場にたったサービスを実行する。そんなやり方はライバル店もやっていなかったし、オノデンでもやっていなかった。
そのうち他店では、店舗の大型化、多店舗化をすすめる動きが活発化していく。大量仕入れで低価格を武器にしていく拡大路線を選択していくのだ。
一方のオノデンは、拡大ではなく「拡充」の道を選択していく。多店舗展開はせず、小野社長がやっていたような商品知識で顧客の要望に応え、店頭で販売の担当者が顧客の家まで運んで設置するという細やかなサービスを展開するようになっていくのだ。
■スマホもアップル製品も扱わない
ただし、小野社長は自分のやり方をほかの社員にも強要したわけではない。小野社長のやり方を見て学んだところはあったはずだが、社員自らが変わっていったのだ。「競争が激しくなれば、どうにかしなければいけないと誰でも考えますよ」と、小野社長。現在の、「親切な電器屋」に変貌していく。
「親切な電器屋」を社是としたのは1995年だが、そのときには社員の多くが実践していることを明文化したにすぎない。「社員が『きょうも親切な電器店をやっちゃったよ』と普通に話していましたからね」と言って、小野社長は笑った。
オノデンには、ほかの家電量販店では目立っている携帯電話の売り場がない。その理由を小野社長は、「携帯電話の購入手続きは面倒で、それに精通した社員の養成には手間がかかりすぎます」と説明した。
それならヘルパーに来てもらえばいいと思うが、そうなると複数の会社からの派遣になるので「親切な電器屋」にならなくなるリスクがある。「携帯電話は販売台数によるインセンティブで儲ける商売ですが、1店舗しかないとインセンティブが稼げない」とも、小野社長は言った。オノデンでは扱いにくいし、扱う必要もないのが携帯電話だといえる。
もうひとつ無いといえば、オノデンにはアップル社製品が置かれていない。その理由を訊ねると、「やりたいんですけどね」と小野社長がポツリと言った。
アップル社製品は人気なので、どこの店でも扱いたい商品だ。そのためか、取り扱える店をアップル社側で選別しているようなのだ。「ひとつの店舗しかないオノデンは販売台数も少ないので扱わせてもらえません」と、小野社長。ひとつしか店舗のないデメリットである。
それでも、オノデンは売り上げを伸ばしている。それを支えているのは頑固さと柔軟さ、なにより小売りの現場で失われつつある「親切な電器店」を実践していることである。
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前屋 毅(まえや・つよし)
フリージャーナリスト
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(KKベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『日本の小さな大企業』(青春新書インテリジェンス)などがある
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(フリージャーナリスト 前屋 毅)

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