■グリーンランド取得で後世に名を残したい
トランプ氏は今月、ホワイトハウスでの発言で、グリーンランドを取得し米領とする意欲を強調。「シンプルな方法で取引したい。できなければ“困難な手段”を取る」と発言し、軍事力の行使も厭わない方針を暗に示した。
米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでは、「所有権は非常に重要だ。成功のために心理的に必要だと感じる」と語っている。
なぜグリーンランドなのか。建前は安全保障だ。ロシアからアメリカへ飛来するミサイルの軌道となるほか、トランプ氏は、近海に中国やロシア籍の船舶が出没すると主張。条約による土地の使用権では満足せず、領有を求める理由については説明しなかった。
専門家は首をかしげる。
シンクタンクのデンマーク国際問題研究所のリン・モーテンスガード氏は、米フォーチュン誌に対し、「(グリーンランド獲得の理由が)月曜は資源、火曜は国家安全保障、水曜は国際安全保障と、説明が日替わりで変わる」と指摘。「私にはエゴの問題に見える」と述べ、アメリカの大統領史に功績を残したいだけではないかとの見立てを示した。
1898年、マッキンリー大統領の下でハワイ併合決議(ニューランズ決議)が成立し、ハワイはアメリカ合衆国の領土に編入。当時は反帝国主義者やハワイ先住民たちからかなりの批判を受けたが、後に功績が認められた。
■武力行使ならNATOへの攻撃と解釈される
そもそもアメリカは、グリーンランドにすでに軍事拠点を確保している。よって、安全保障のため取得が必要との論理は成立しない。
イギリスの国際問題研究機関チャタムハウス(王立国際問題研究所)は、1951年の米デンマーク防衛協定に基づき、グリーンランド北西部のピトゥフィク宇宙基地を現在運用中だと指摘。この基地には、弾道ミサイルの早期警戒を担う部隊が常駐する。
さらに、冷戦期にはデンマークの主権を侵すことなく、グリーンランドに最大6000人を駐留させた実績もある。グリーンランドの主権を奪う必要性は見当たらない。
グリーンランドを取り巻くトランプ氏の発言には、事実誤認も目立つ。「ロシアと中国の船がグリーンランド沿岸のあちこちにいる」と述べたが、アメリカの外交政策専門誌レスポンシブル・ステートクラフトは、両国の艦船はバレンツ海やベーリング海など、グリーンランドから数千キロも離れた海域で活動していると解説している。
アメリカ議会からも異論が上がっている。米公共ラジオNPRによると、デンマークとの友好関係を推進する超党派の議員グループ「デンマーク友好議員連盟」のホイヤー、ムーア両共同議長が共同声明を発表。「威嚇は無用に危険だ」「同盟国への攻撃はNATOへの攻撃である」と警告した。
根拠となっているのが、NATO条約第5条の集団防衛条項だ。仮にアメリカが「困難な手段」を選び、デンマーク領であるグリーンランドを攻撃したならば、それはNATO全体への攻撃とみなされる。両議員は「我々はグリーンランドから必要なものすべてに既にアクセスできている」と強調し、デンマークがこれまで米軍の追加配備やミサイル防衛の増設に応じてきたとも加えた。
■品位1%未満の「馬鹿げた解決策」
トランプ氏の真の狙いともみられるのが、レアアースをはじめとする資源の入手だ。
だが、米CNBCによると、グリーンランドのレアアース鉱石の品位(有用成分の含有率)は1%未満。アメリカや中国など主要産地では5~10%以上が標準だ。すなわち、同じ量の資源を得るためには、主要産地の10倍もの岩石を掘り出す必要がある。
オーストラリア国立大学のジョン・マブロジェネス教授(経済地質学)はCNBCに対し、グリーンランドという「インフラも設備も労働力もない場所」で、「主要産地の10倍の岩石を動かさなければならない」作業は現実的でないと指摘。
採掘現場の環境は過酷だ。米経済誌フォーチュンによると、グリーンランド北部では採掘が可能なのは年間わずか6カ月。道路網もエネルギーインフラも整備されていない。アメリカの鉱物開発企業テキサス・ミネラル・リソーシズのアンソニー・マルケーゼ会長は議会証言で、「数千億ドル規模の投資と10~15年が必要だ」と述べた。稼働中の鉱山はグリーンランド島内に1カ所のみ。「資源の宝庫」という触れ込みは、現実からかけ離れている。
さらに、仮に採掘できたとしても、根本的な壁が立ちはだかる。中国は世界のレアアース精製能力の約90%を握っているのだ。グリーンランドで鉱石を掘り出しても、加工するには結局のところ中国に送らなければならない。中国依存からの脱却を掲げながら、中国に頼らざるを得ないという矛盾だ。
■「モスクワへの最大の贈り物」になりかねない
アメリカの利益にならないだけなら、まだ国際社会への影響は少ない。
トランプ氏はグリーンランド併合を正当化するために、「中露に対抗するための安全保障」の強化を掲げる。だが、併合がもたらす恩恵を実際に受けるのはロシアにほかならない。
王立国際問題研究所のロシア専門家であるケイア・ジャイルズ氏は、カタールの国際ニュースメディア・アルジャジーラに対し、グリーンランドへの軍事侵攻は「モスクワに差し出せる最大の贈り物になりかねない」と警告する。アメリカのような大国がその勢力圏、いわゆる「裏庭」で自由に行動して良いのならば、ロシアもこれに倣いかねないからだ。
■2014年のクリミア占領と変わらない
実際のところ、グリーンランドを狙う構図はまさに、ロシアによる過去の蛮行にも近い。
ウクライナの首都キーウに拠点を置くシンクタンク「ラズムコフ・センター」で外交・安全保障を担当するオレクシー・メルニク氏は、ウクライナの英語ニュースメディア・キーウ・インディペンデント紙の取材に応じた。彼は、トランプ大統領のグリーンランドに対する姿勢が2014年のロシアによるクリミア占領と不気味なほど似通っていると指摘する。
ちょうどアメリカがデンマーク領グリーンランドに軍事拠点を構えているように、ロシアも併合前のクリミア半島に軍を駐留させていた。その上でロシアは、武力による併合という強硬な手段に訴えた。
クリミア併合後、プーチン大統領は厳しい制裁を受け、西側との関係は崩壊した。メルニク氏は、「トランプが2014年のプーチンと同じように行動すれば、結果もかなり似たものになるだろう」と警告する。
■アメリカの信頼は中国以下に
ロシアだけではない。グリーンランド獲得計画は、中国にも思わぬ恩恵をもたらしかねない。
アメリカの外交政策シンクタンク「レスポンシブル・ステートクラフト」は、デンマーク情報機関による分析を引用。アメリカが予測不可能な行動を続けることで、各国が中国との結びつきを強める要因になっていると指摘する。
米シンクタンクのカーネギー国際平和財団も、批判的な視点を示す。トランプ氏が「モンロー・ドクトリン」を復活させれば、中国の拡張主義を正当化する論理を与えかねないとの分析だ。モンロー・ドクトリンは1823年にジェームズ・モンロー米大統領(当時)が表明したもので、欧州諸国による西半球への干渉を拒否し、アメリカの勢力圏を確立する外交原則を指す。
同財団によれば、中国の当局者はすでに南シナ海における領有権主張を、かつてのアメリカの論理になぞらえ正当化している。アメリカはカリブ海を「アメリカの湖」として支配しようとした歴史がある。今日、アメリカが「大国は自国の裏庭を支配できる」という論理を振りかざせば、中国も同じ理屈で南シナ海の支配を主張できてしまう。
中国脅威論を掲げて中国の拡張主義を批判するアメリカ自身が、自らの行動によってその批判の論拠を崩壊させている構図が浮かび上がる。
■日本やアジアで高まる中露の影響力
モンロー・ドクトリンの復活により、日本にもロシアと中国の脅威が降りかかりかねない。
カーネギー国際平和財団は、中露がアメリカの強硬な領土拡大策により正当化の口実を得たならば、これはフィリピンやベトナムなど中国の拡張主義に対抗する国々にとって、不都合な前例になりかねないと論じる。
これまでアメリカと友好的であった同盟国であっても、圧力から逃れられるとは限らない。デンマークがその証左だ。
米CNNによると、人口わずか600万人の同国は、アメリカ主導のアフガニスタン戦争で43人、イラク戦争で7人の兵士を失った。人口比でみれば極めて高い犠牲を払ったにもかかわらず、それでもグリーンランドをめぐり、侮辱的な扱いを受けている。
CNNは、「このように扱われた友人(同盟国)は、次にアメリカが助けを求めたとき、協力しないおそれがある」と警鐘を鳴らす。
■NATOの崩壊が懸念される
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は警戒を強める。1月4日、中東カタールの国際放送局アルジャジーラに対し、もしアメリカがグリーンランドを攻撃すれば、NATO加盟国への攻撃となると強調。「(そうなれば)すべてが終わる。NATOも、第二次世界大戦後の安全保障体制も」と警告した。
シカゴ大学の国際政治学者ジョン・ミアシャイマー教授は同メディアに対し、ウクライナ情勢への対応が続く中でグリーンランド侵攻の可能性も浮上すれば「NATO同盟を根本的に破壊する二重の打撃になりうる」と分析。「NATOは抜け殻となり、事実上崩壊するだろう」と述べる。
アメリカが自国の安全保障を強化するという名目のもと、戦後80年かけて築かれた国際安全保障の枠組みが崩壊しようとしている。仮にトランプ氏が真にロシアや中国の脅威に対抗しようとしていたとしても、狙いとは正反対に中露が増長する不安が拭えない。
中露と地理的に近い日本においても、台湾有事のリスクをはじめ、安全保障面で一定の影響を受ける状況が懸念される。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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