高市早苗首相が決めた衆院選は吉とでるか凶とでるか。ジャーナリストの池田和加さんは「選挙の行方を決めるポイントのひとつは、高市首相を支持する人が多い若い世代。
初の女性宰相を支持する理由を分析すると、若者の思考に大きな影響力を発揮している、意外な存在がいることがわかった。今回の選挙結果も、その人物がカギを握っている」という――。
■若者の投票が鍵握る衆院選…高市人気の4つの理由
高市早苗首相は衆議院選挙に打って出ることを決意した。多くの選挙予測によると、自民勝利が濃厚との報道が多いが、2月上旬予定の投開票で国民はどんな審判をくだすのか。
そもそも2025年10月、日本初の女性総理となった高市早苗氏への評価は当初、二極化していた。一部メディアや識者は「反女性」「ジェンダー平等の後退」「軍国主義者」と批判した。その一方で、各種世論調査の結果を見ると若者からの人気が際立っている。なぜ若い世代は高市首相を支持するのか。筆者が考える理由は4つある。
理由①:「頑張れば報われる」ロールモデルへの渇望
批評家・三宅香帆氏は著書『考察する若者たち』(PHP新書)で、現代の若者が「報われたい」と強く願望していると指摘している。「親ガチャ」という言葉が常用化するほど格差が大きくなった日本で、ラノベやアニメで“転生もの”が人気の理由を、三宅氏は「それは反転して、報われる努力をできる場所に社会がなっていない、ということの証である」と分析する。
経済的・文化的資本をもった親をもつか、生まれ持ったスペックが高くない限り、人生で成功するのは無理ゲーという意識が若者に浸透している。

世襲議員が多い中、母親が警察官で父親がサラリーマンという一般家庭出身の高市首相は、「頑張れば報われる」を体現している。父親に4大進学を反対され、バイトで学費を稼ぎながら地元・関西の神戸大学(経営学部)を卒業した努力家だ。世襲議員を含む男性優位の政界で、30年以上かけて総理の座を掴んだ。
読売新聞が行った緊急世論調査(2025年10月実施)では、18~39歳の若年層における支持率が80%で、前任の石破内閣時の15%から実に65ポイントも急上昇した。また、産経・FNN調査(2025年12月実施)では18~29歳の支持率が92.4%に達した。これらは政権交代によって若者の支持構造が劇的に変化したことを示している。
前出・読売の調査で、支持理由として最も多かったのは「政策に期待できる」(41%)であり、「年収の壁」の見直しや給付付き税額控除の導入、成長分野への国家投資が評価されている。出自による格差が固定化されつつある現代において、再分配と成長の両立を掲げる政策は、若者にとっての「切実な希望」として映っているようだ。
筆者が10代後半から30代後半の日本人男女に取材すると、やはり高市首相を支持している人が多く、このように語っていた。
「これまでのおじいさん議員のように、銀座の高級クラブで飲食などせず、家で翌日の仕事の準備している姿に好感がもてる」(26歳男性 都内美容師)
「説明がわかりやすい」(19歳女性 横須賀 ネイリスト)
「話すときに笑顔で明るく、礼儀正しい」(20歳女性 都内大学生)
「G7でスマホをいじっていた前首相とは違う」(20歳女性 高知 公務員)
「日本が変われるということを世界に証明するために、男性として女性総理を応援したい」(38歳 徳島 教員)
「新しいことをしてくれそう」(18歳男性 北海道 高校生)

インフレ傾向はとまらず物価高対策は十分と言えない中で国民の生活は苦しいまま。また、いわゆる「台湾有事」を巡る国会での発言などもあり、日中関係はギスギスしている。高市首相が就任後に「いい仕事」をしたとはいえないだろう。

それでも、おじいさんが支配するというこれまでの自民党のイメージを覆し、日々の生活で「報われる」仕組みを作ってくれる兆しを若者は感じ取っているのだ。
■衆院選で高市自民勝利のカギは若者の「母親」か
理由②:昭和時代を生きた親世代の影響力――若者は誰の言葉を聞くのか
公益財団法人「明るい選挙推進協会」がした「第50回衆議院議員総選挙全国意識調査」(2025年3月発表)によると、18~29歳の情報源は、第1に「インターネット・SNS(51.1%)」、第2に「テレビ・ネット配信(29.5%)」、第3に「家族や知人(10.1%)」となっている。
ネット、SNSやTVが主な情報源となっているが、別の統計にとても興味深いデータがある。博報堂生活総合研究所が2024年の19~22歳を対象にした「若者調査」では、「価値観や考え方に一番影響を与えている」のは母親(41.2%)、同性の親友(32.9%)、父親(20%)という結果が出た。
30年前の同調査と比較すると、かつては「同性の親友」が一番影響を与えていた。ところが、現在では母親(21.6%→41.2%)がトップの座を占めている。
博報堂生活総研は『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)で、Z世代が一番影響を受けているのは親友ではなく母親であり、Z世代の親世代は子どもに寄り添う「メンター親」だと定義する。
若者はデジタルから情報を獲得しながらも、最後は親にアドバイスを求め、「親フィルターがかかっているから安心」(生活総研:加藤あおいさん)だという。
「Japan Is Back」と昭和回帰を謳う高市首相の主張が、不景気な時代しか知らない若者に支持されている。このキャッチフレーズに対して、若者が旧弊な時代に逆戻りするということではなく、ポジティブに受け取っているのは、親世代が「日本が豊かで、強かった時代」の中で育ち、それを子どもたちに伝えている可能性があるのではないか。
親の「高市さんは真面目」という評価が家庭内での会話などを通じて、若者に伝わる。SNSの炎上ではなく、信頼する親の一言が政治観を形成することもあるかもしれない。

今回の衆院選で、影響力の強い「母親」の意向が働き、票がどう動くのか、注目される。
理由③:選挙の推し活化
こういった高市首相に対する好印象がSNSなどを通じて「サナ活」という推し活マーケティングに後押しされ、人気が盛り上がっている側面もある。
X(旧Twitter)では「#サナ活」というハッシュタグが拡散し、高市首相が愛用するバッグやボールペンが「特定」され、注文が殺到しているという。
都内にある濱野皮革工藝のトートバッグは9カ月待ち、三菱鉛筆のジェットストリーム(ピンク)は売上が約2倍になるなど、高市首相と「おそろい」を求める若者が増えている。また、国会答弁の切り抜き動画がSNSで拡散され、「かっこいい」「説明が分かりやすい」と称賛されるなど、アイドルのファンが行うような「推し活」文化が、政治の世界にも広がりつつある。これは石破前首相以前にはほとんどなかった現象だろう。
特徴的なのは、「高市首相の成功=日本の成功=自分たちの成功」という感覚が若者に存在することだ。高市首相の言動を見て「私たちも頑張ろう」とSNSで盛り上がる。これは自民党や現政権への応援ではなく、高市氏個人への共感と「一緒に日本を変えたい」という参加意識に基づいているのではないか。高市氏にとっては、政治とは別ベクトルの新たな層の岩盤支持者を得たということかもしれない。
中央大学の山田昌弘教授は、「選挙の推し活化の予兆は、2024年7月の東京都知事選で石丸伸二氏が大健闘したことに表れていた」と分析し、「政治の世界にまでも『推し』の力が押し寄せている」と著書『希望格差社会、それから 幸福に衰退する国の20年』(東洋経済新報社)に記している。
こうした現象を「ポピュリズム」として警戒する声もある。
しかし、既成政党への不信感が高まり、投票率が低迷する中で、推し活文化が若者を政治参加に向かわせているという側面は見逃せない。実際、前出の読売新聞の調査では、若者の支持理由の4割以上が「政策に期待できる」であり、単なる人気投票ではないこともわかる。
■ネット社会が若者の高市氏支持の要因
理由④:オンラインハラスメント・コーリングアウト・キャンセルカルチャーへの疲労感
経済政策への期待だけでなく、SNSを中心に広がる「コーリングアウト」(※1)、「オンラインハラスメント」「キャンセルカルチャー」(※2)に対する疲労感や警戒感も、若者の高市氏支持の要因になっている。

(※1)差別的・不適切な言動を公に指摘し、責任を問う行為

(※2)問題発言などを理由に、個人や団体を社会的に排除・ボイコットする動き
博報堂生活総研の2024年「若者調査」では、「コミュニケーションを円滑にするものは何か」という問いへの回答に、第1位「まめに会う(57.3%)、第2位に「相手のことを否定しない(50.7%)」がランクインした。
30年前の同調査でも第1位は同じ「まめに会う」だったが、「共通の趣味」が第2位であった。それが直近の調査では、「相手を否定しない」が21.1%から50.7%へと倍増している。つまり、不適切な発言や行動がすぐに批判されるコンプライアンス重視の時代を生きる若者にとって、相手との摩擦を避けることが円滑なコミュニケーションなのだ。
このような若者の心理とは逆行するように、SNSでは、学者やジャーナリストなどの識者でさえ、意見の異なる人の言葉尻をとらえて、その人を煽り、いじめ、糾弾し、キャンセルしようとする投稿が日々見られる。
高市批判も「選択的夫婦別姓に反対だから反女性」「軍事費をGDP比2%に上げるから軍国主義的」などと、複雑な立場を単純なラベルに還元し、レッテルを貼ろうとする傾向がある。こうした二元論に疲れやうんざり感を抱く若者もいるのではないか。
面白いのは、このような現象は日本に限らず、複数の国で観察されているということだ。政治体制が異なる国々でも、若者が同じ国際的なSNSプラットフォーム(Facebook、Instagram、X、YouTubeなど)を使用することで、共通の経験をしている点だ。


筆者が働くハンガリーの首都ブダペストのユース・リサーチ・インスティテュートが2023年に同国の若者1000人(15~39歳)を調査したところ、59%が「ソーシャルメディアはイデオロギーのバイアスがかかっている」と回答し、そのバイアスはリベラルに偏向していると回答したのは半数、保守偏向だと答えたのは29%だった。その結果、全体の約8割がSNSは国レベル、もしくはEUレベルで規制したほうがよいという感想をもっていた。(Youth + 5 Observations on 15-39-year-olds in Hungary)
ハンガリーと日本では政治体制も歴史的背景も大きく異なるものの、若者が日常的に接するSNSプラットフォームは同じであり、そこで経験する「オンラインハラスメント」「コーリングアウト」「炎上文化」「キャンセルカルチャー」は国境を越えて共通している。
■「努力すれば報われる」希望を見出している
高市首相が日本の若者に支持される背景には、こうしたSNS空間での「正しさの押し付け」への疲労感があり、それとは対照的に映る、「本音で語る女性政治家」の姿勢を評価している可能性がある。ただ、これはあくまで複数ある要因の一つであり、前述の経済政策や親世代の影響など、多面的な要素が絡み合っている。
無論、高市首相を支持しない若者もいる。選択的夫婦別姓への反対など、ジェンダー平等に逆行する姿勢には批判もあり、筆者自身も高市首相の考えとは相いれない部分もある。
それでも、若者の多くは「高市=反女性」「高市=軍国主義者」という単純すぎる図式を拒否している。総務大臣や経済安全保障担当大臣としての経験、そして首相就任後に打ち出した積極財政による経済成長戦略、「年収の壁」見直しや給付付き税額控除といった具体的な経済政策、さらに児童ポルノ禁止法改正の実績や女性の健康課題への取り組み姿勢から、前述したような「努力すれば報われる」希望を見出しているのではないか。
今の若者にとって政治はイデオロギーではなく、生活の問題だ。家賃、就職、給料、子育て、性犯罪、介護――具体的問題を解決してくれる政治家を求め、SNSの炎上から距離を置き、親世代の価値観を参照しながら静かに判断する若者たち。
大人世代も政治家も、彼らの判断を信じ、その声に耳を傾けることが日本の未来を考える上で極めて重要だと言えるのだ。


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池田 和加(いけだ・わか)

ユース・リサーチ・インスティテュート(YRI)研究員・ジャーナルマネージャー/フリーランスジャーナリスト

文化、社会、ジェンダー、家族政策などについて様々な国際的メディアから日本語と英語で発信。ハンガリーの研究機関で若者研究にも携わる。

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(ユース・リサーチ・インスティテュート(YRI)研究員・ジャーナルマネージャー/フリーランスジャーナリスト 池田 和加)
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