2月に増えるメンタル不調「二月病」を防ぐにはどうしたらいいのか。『会社でいちいち傷つかない』などの著書がある臨床心理士の中島美鈴さんは「二月病になる人は、仕事熱心で心配性な人が多く、中でも管理職は、自分だけでなく部下の仕事までが心配の種になるため、危険性が高い。
そんな人は、認知行動療法の視点を使って『不安の悪循環』を断ち切るといい」という――。
■予兆は1月から始まっている
私はカウンセリングルームを開設して12年になりますが、毎年3月はお申し込みが殺到します。しかし、お話を聞いてみると、実はその「心の悲鳴」の予兆は1月から始まっており、2月にはすっかりクタクタになって「二月病」ともいえるような状態になっているケースが多いのです。それなのに、2月中はまだ「もうすぐ年度末だから、もう少し頑張らなくては」と我慢して無理を重ねてしまい、3月に入ってにっちもさっちもいかなくなってカウンセリングルームの扉をたたく……というわけです。また、この時期は特にカウンセリングや精神科の予約がなかなか取れず、「本当は2月に相談したかったけれど、予約が取れずに3月になってしまった」というケースも少なくないようです。
今年は、年末年始の休暇が最大9日間になるようなカレンダーで、特に二月病の可能性が高まりやすい状況です。休暇が長いと、それだけ長く仕事から離れてリフレッシュできたという方も多いかもしれません。しかし、長く休めるということは、出勤日にこなさなければならない仕事量が増えることも意味します。実際、12月の仕事納めに苦労した方も多いのではないでしょうか。休みが増えても、誰も仕事を肩代わりしてくれるわけではないですよね。
また、仕事から離れていざ自分と向き合うと、これまで言語化されなかった会社での疲労の蓄積に気づいてしまい、出社するのにうんざりしたという意見も聞きます。
■「冬季うつ」に年末年始の疲れが重なる
冬はただでさえ、日照時間が減ってメンタルの不調を招きやすく、いわゆる「冬季うつ」になりやすいことも知られています。
そこに、年末年始休暇前に仕事を頑張った疲れが重なり、その疲れを引きずったままで1月に仕事をさらに頑張って、2月に息切れしてしまうわけです。
特に危険なのが、長期休暇の遅れを取り戻そうと、1月に「ロケットスタート」を切ってしまうパターンです。ただでさえお正月は、「今年は○○を頑張るぞ」と、一年の目標を立てたりすることが多い時期です。休みの間に気分転換をして少し元気を取り戻し、必要以上に「今年は頑張るぞ」と、やる気でいっぱいになり、エンジン全開で一気に加速してロケットスタートを切ろうとしてしまうわけです。
しかし、人間の適応能力には限界があります。休暇モードから一気にフルスロットルの仕事モードへ切り替える際、心身には大きなG(重力)がかかります。1月は気合で乗り切れたとしても、その反動が2月になって「どっと」押し寄せるのです。
■「仕事熱心で心配性の上司」は危ない
実は、二月病になりやすい人は、仕事熱心なうえに、先々のよくない結果を想像しがちな心配性が多いのです。その不安をおさめるために、駆り立てられるようにして仕事をしてしまうのです。
彼らは無意識のうちに、「休んでいる間に何かが起きたらどうしよう」「スタートダッシュで失敗したら年度末が乗り切れない」といった不安を抱えてしまいます。その不安を打ち消すために、過剰なほどに仕事に没頭し、結果として燃え尽きてしまうのです。
その傾向は、管理職になるとさらに強まります。
自分の仕事だけでなく、部下の仕事の責任も抱えて、のしかかる不安がさらに大きくなるためです。
これまで私がカウンセリングを担当した方々の事例を基に、典型的な「二月病」のケースを紹介します。
■「マイクロマネジメント」はストレスを増やす
40代後半の会社員、田中さん(仮名)は、大企業の部長職を務めています。元来心配性で、いつも先々の心配をして、先手で打って対策をしてきたため、プレーヤーとしては非常に優秀でした。「備えあれば憂いなし」を地で行くタイプで、リスクを徹底的に潰す仕事ぶりは、周囲からも高く評価されてきました。
管理職になってもその「心配性」は健在です。それどころか、守るべき範囲が自分一人からチーム全体へと広がったことで、彼の不安は増幅してしまいました。
例えば、1月半ばが締め切りの仕事があると、田中さんは「もしものことがあるから」と、年末のうちに仕上げるよう部下に指示を出します。
「部下の仕事が遅れるかもしれない」

「出来上がったもののクオリティが低いかもしれない」

「仕事が遅れて取引先に迷惑をかけたらどうしよう」

こうした不安が頭をもたげると、田中さんは居ても立ってもいられなくなります。その結果、マイクロマネジメントが始まります。
田中「あの件どうなった? まさかまだ手をつけてないわけじゃないよね。進捗を細かく報告して」

部下「あ、はい。
今は骨子を作っているところで……」

田中「骨子ができたらすぐ見せて。僕がチェックするから勝手に進めないで」

1日に何度も進捗を確認し、ささいなメールの文面まで修正を入れる。部下が考えたプランに対しても、「ここがリスクだ」「これでは不十分だ」と、自分のやり方(=自分が安心できるやり方)を強要してしまいます。
つまり、こうした「心配性で仕事熱心」なタイプの人が管理職になると、マイクロマネジメントをしがちになり、結果的に自分の仕事を増やし、ストレスも増やしてしまうのです。
■自分で部下の成長を止めている
でも、こうした上司の態度に対し、部下たちはどう思うでしょうか。
「部長は自分のやり方以外の仕事をひどく嫌う。下手に自分たちで判断して怒られるより、指示を待っていた方が無駄な労力を使わずにすむ」
結果、部下はどんどん受け身になり、自分では何も判断しなくなります。田中さんのデスクには、「部長、これどうしましょう?」「確認お願いします」と、本来部下が処理すべき案件までが山のように積まれていきます。
田中さんは「部下が全然育たない」「自分が全部見ないと回らない」と嘆きながら、ますます負担を抱え込みます。そして休み明けの1月のロケットスタートで蓄積した疲労と、膨大な業務量、そして「自分が支えなければ」というプレッシャーにより、2月には心身ともに疲弊しきってしまうのです。
みなさんにも田中さんのような経験はありませんか? 良かれと思って先回りしているのに、気づけば自分ばかりが忙しく、部下が育っていないという状況です。
■心配性上司が陥る「不安の悪循環」
ここで活用いただきたいのが「認知行動療法」の考え方です。

田中さんのケースを分析すると、「不安の悪循環」に陥っていることがわかります。認知行動療法の研究では、不安というのは、それを取り払おうとして一時的な対処(安全行動)をすると、余計に持続してしまうことがわかっています。
「安全行動(Safety Behavior)」とは、不安や恐怖を感じる状況において、その不安を軽減したり、恐れている最悪の事態を防いだりするために行う行為のことです。田中さんの場合、「仕事がうまくいかないかもしれない」という不安を打ち消すために行っている以下の行動が「安全行動」にあたります。
□ 過度な先回り指示:締め切りのはるか前に完成させることを部下に求める。

□ マイクロマネジメント:部下の行動を逐一監視する。

□ 権限委譲の拒否:何でも自分で全てチェックし、修正する。

これらの行動をとると、田中さんは一時的にホッとします。「よし、これでミスは防げた」「自分が管理しているから大丈夫だ」と安心感を得られるからです。これが、この行動をやめられない理由です。
■「先回り」は弊害を生む
しかし、長期的にはマイナスに働きます。なぜなら、田中さんが先回りして介入してしまうことで、以下の2つの弊害が生まれるからです。

1.「最悪の事態は起きない」という学習ができない
常に自分が介入しているため、「自分が介入しなくても、部下はなんとかできるかもしれない」「多少のミスがあっても、リカバリーできるかもしれない」という現実を体験するチャンスが永遠に失われます。その結果、「私がいないと大変なことになる」という誤った信念(認知)が強化され続けます。
2.部下の成長機会を奪う
部下は失敗から学ぶ機会も、自分で考えて成功させる機会も奪われます。結果として部下のスキルは上がらず、田中さんの「部下は頼りない」という不安が、現実のものとなってしまいます。自分の不安への対処が、皮肉にも部下の成長を阻害し、自分の首を絞める悪循環になっているのです。
では、どうすればこの悪循環から抜け出せるのでしょうか。
■不安を手放す「実験」
対策としては、不安を恐れずに手放して、結果どうなるかと見極めること(これを行動実験といいます)が有効です。
「行動実験(Behavioral Experiment)」とは、自分の持っている不安や信念(例:「任せたら失敗する」)が正しいかどうかを、実際の行動を通して検証してみる手法です。頭の中で考えているだけでなく、あえて不安な状況に身を置いてみるのです。田中さんは次のような行動実験を計画しました。
【実験の仮説】

田中さんの不安:「細かく指示を出さず、部下に任せたら、締め切りに間に合わず、クオリティも崩壊するだろう」
【実験内容】

「1月半ばの締め切りの資料作成について、あえて途中経過のチェックをしない。期限と目的だけを伝え、最終的なアウトプットが出るまで口出しせずに任せてみる」

これは田中さんにとって、非常に勇気のいることでした。
「もし失敗したら……」と考えると、喉の奥が詰まるような不安に襲われます。ついつい「順調?」と声をかけたくなりますが、そこをグッと堪えます。不安に暴露されることを恐れていては、管理職の成長はないからです。
実際に田中さんが勇気を出してこの実験を行ってみたところ、驚くべき結果が待っていました。部下たちは最初こそ「部長、本当にいいんですか?」と戸惑っていましたが、次第に「今回は部長が任せてくれている」「自分たちでやるしかない」と気づき、チーム内で相談を始めました。これまでは田中さんの顔色を伺って停止していた思考が、動き始めたのです。
■「意外と大丈夫だった」を体験する
締め切り当日。提出された資料は、田中さんが自分で作るものとは構成が少し異なっていました。しかし、要点は押さえられており、顧客への提案としては十分なレベル(80点)でした。致命的なミスも、崩壊もありませんでした。
田中「なんだ、自分がつきっきりにならなくても、彼らはちゃんとできるじゃないか」
田中さんは、肩の荷が下りるような感覚を覚えました。
こうして「最悪の事態」が起きないことを体験(実験)することで、田中さんの過度な不安は自然と減っていきました。
さらに副次的な効果もありました。部下たちも「信頼してもらえた」と感じ、責任感を持ってのびやかに仕事をするようになったのです。チームの雰囲気も明るくなり、田中さんに相談(承認伺いではなく、建設的な相談)に来る回数も増えました。
部長自身の不安も自然に減っていくし、部下も信頼してもらえて自分の責任でのびやかに仕事ができる。まさに一石二鳥の効果が生まれたのです。
■二月病を防ぎ、強いチームを作る
「二月病」の背後には、真面目さゆえの不安と、その不安を解消しようとして逆効果になってしまう心理メカニズムが隠れていることがあります。
田中さんのように、良かれと思ってやっていることが、実は自分を苦しめる「安全行動」になっていないか、一度振り返ってみてください。もし「自分がいないと回らない」と思い込んでいる業務があれば、それは「行動実験」のチャンスかもしれません。小さな案件からで構いません。「あえて手放す」実験をしてみることで、案外、世界は回っていくことに気づけるはずです。
春にはゴールデンウィークもありますし、今年のシルバーウィークもかなり長いので、同じことが起きそうです。
大型連休の前には、自分の不安を点検してみることをおすすめします。自分の不安をコントロールし、部下を信じて任せること。それが、上司の「二月病」を防ぎ、強いチームを作る一番の近道なのです。

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中島 美鈴(なかしま・みすず)

臨床心理士

福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。

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(臨床心理士 中島 美鈴)
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