■「テレビ=オワコン」論への違和感
「テレビはオワコン」という言説が広がるが、私はそうは見ない。背後にあるのは、インターネット広告の伸長と地上波の相対的な地位低下だ。
2019年、広告費でテレビはインターネットに抜かれた。テレビ局員だった私は、その年を「テレビ屈辱の年」と呼んだ。
それでも、広告費だけで勝敗を判断するのは早計だ。
「テレビはオワコンにならない」……私がそう考える理由はまず、テレビには24時間365日コンテンツを供給し続ける“運営力”があるということだ。
しかし、それだけではない。2024年の日本の総広告費は7兆6730億円。そのうち、インターネット広告が3兆6517億円(構成比47.6%、前年比+9.6%)、新聞・雑誌・ラジオ・テレビを含むマスメディア広告が2兆3363億円(+0.9%)だった(電通「日本の広告費2024」)。広告市場全体は前年より拡大している。しかも、そのうち地上波テレビ広告費は1兆6351億円で前年比+1.6%である。
そんななか、テレビは広告依存度を下げるため、収益構造の変化を模索している。ここを見落とすと現状認識を誤る。
■IPと差別化が命運を握っている
中央集権で5局が覇を唱えた時代は終わった。これから淘汰の合戦は避けられない。問題は、誰が覇権を握るかだ。
ここでの鍵は、「IP」と「差別化」である。
IPとは知的財産(Intellectual Property)の略で、番組・キャラクター・映画・アニメを権利として管理し、二次利用・商品化・配信・イベントで価値を拡張する仕組みだ。単なる放送枠の販売ではなく、コンテンツを資産として長期にわたりキャッシュフローを生む戦略である。
ジブリ作品や『ポケモン』『NARUTO』のようなアニメシリーズは典型で、映画興行・配信・グッズ・ゲーム・イベントへと縦横無尽にマネタイズを展開する。テレビ局は「Creation(創出)」から「Operation(運用)」へ――すなわちIPを回す“商社”へと機能を転じた。
その前提はすでに各局で共有済みだ。
日テレはHuluと映画・イベントでIPを長期回収、テレ朝は長寿IP+Abemaで再接触の導線を敷く、TBSは共同制作と外部SVOD(定額動画配信)連携で海外攻略、テレ東はアニメ輸出とゲーム連動で外貨の兵糧を厚くする、フジはFODとWebtoon共創で新フォーマットの新兵器を試作。
配信を巻き込んだ「テレビ戦国時代」に突入し、IP重視作戦はどの軍勢も同じ。勝敗を分けるのは、いかに他軍と差をつけるかだ。似た陣形は城を奪い合って共倒れするか、同盟・家中再編で延命を計ろうとする。いずれにせよ城の数は減る。
■どこが最後まで生き残れるか――有力候補の日テレ
では、そんな「テレビ戦国時代」における覇者は誰なのか。
私は、その可能性が最も高いのは日本テレビとテレビ東京だと観ている。理由は単純で、地上波の広告収入が痩せても耐えられる「多層の収益布陣」が他の3社より先んじているからだ。日テレとテレ東は、放送の上に「IP×配信×海外×イベント」を積層させる攻めの陣を整え、“稼ぎに行く”構造を作り上げている。
日本テレビの戦果は明快。2025年3月期の通期実績は売上4619億円、営業利益549億円、純利益460億円。スポット増収とジブリ関連イベントが収益を押し上げた。
要害は国内SVODであるHuluを自軍(日テレHDの連結子会社HJホールディングス)で運営し、「地上波→配信→イベント→映画→海外番販」の補給線を束ねていることだ。自前パイプは人気IPの回収期間を伸ばし、興行・展示・物販・音楽へ波及させる。映画・イベント・ライツの複合領域で事業収益が拡大し、放送依存を下げつつ利を積み上げるスキームを整えている。
さらに、2023年9月21日に日テレHDがスタジオジブリの子会社化に向けた合意を公表(のちに子会社化)。巨大IPが展示・常設施設・商品・音楽までロングテール化を促進することとなった。Hulu+映画・イベント+海外ライツ――三つ巴の同盟が、広告環境の変動に対する耐性を生み出しているのだ。
■外貨を稼ぐテレ東
テレビ東京が「覇者」と聞くと違和感を抱く人もいるだろう。地上波広告依存の時代には在京5局のなかで「最弱最小」と言われ、視聴率も最低、常に他局の後塵を拝してきたからだ。だが、いまやテレビ東京は、アニメIPの国際収益化で他局が到達できない高度な“外貨獲得”を実証している。
2025年3月期の連結売上は1558億円(+4.9%)。アニメ・配信の権利ビジネスが伸長する一方、制作費増で一時的に利が削れたが、中期経営計画(2025~27年度)では、2027年度に売上1650億円、営業利益115億円を目標としている。
海外売上比率を17%から2035年には40%へ引き上げる長期布陣を掲げ、『NARUTO』『BORUTO』『ポケモン』『SPY×FAMILY』などのIPをゲーム連動・商品化・配信権販売・イベントで多層的にマネタイズを実現。
キー局の中で最も小規模というテレ東の体制が、逆に強みになっている。大規模局にはないスピード感で、海外市場や新規IPに柔軟に対応し、制作費増というデメリットを飲み込みながら、IPの在庫回転と同時展開で、したたかにキャッシュフローを伸ばしている。
■二強に劣後するテレ朝・TBS
二強のマネタイズに比べ、他局が劣る理由は数字が如実に語っている。
テレビ朝日は、動画配信サービスAbemaをサイバーエージェントと共同運営するが、3240億円の2025年3月期連結売上のうち、テレビ放送事業が約72%(2334億円)であるのに対して、インターネット事業の売上は約9.2%の296.6億円に過ぎない。
Abemaなど配信収益の寄与は限定的、かつ海外ライセンス・権利収益も本邦向けが90%超、海外比率10%未満。テレ東が目指すような外貨獲得モデルには、到底及ばない。
『今日、好きになりました。』『愛のハイエナ』『シャッフルアイランド』など、Z世代で強い到達を見せAbemaのSNS動画は年間100億回再生を超える戦果を上げてはいるが、テレ朝全体でみると、IPを核にしたゲーム連動・海外ロイヤリティ・現地イベントの多面的収益化は、二強に比べまだ細身である。
TBSは、配信においてはU-NEXTとの連携・資本提携(Paraviを統合)によるモデルで、純粋な自前SVODではない。U-NEXTは2025年11月1日付で「有料会員500万人突破」を公表。Paravi統合後も国内VOD市場上位規模にあり、TBS作品の独占配信でARR(年間のサブスク収益)を拡大してはいるものの、これは完全な自前の補給線とは言えず、プラットフォーム側に依存するモデルだ。
IPの海外現金化も外部経路依存が大きい。強化中ではあるが、日テレのような「自前SVOD+イベント+映画」の垂直統合には未達である。
■広告市況に左右されるフジ
フジテレビについては、放送局単体ではなく、非メディア事業を含めたグループ構造そのものが経営リスクを左右しているため、連結主体であるフジ・メディアHDの数字を見る必要がある。フジ・メディアHDは、2025年3月期の連結売上高5507億円(前年比-2.8%)、営業利益183億円(-45.4%)、当期純損失201億円(赤字転落)という結果を出した。都市開発やホテルなど非メディア事業で補完を図るものの、メディア&コンテンツの基盤が崩れると連結全体が揺らぐ構造が露呈した。
IP戦略の厚みは一定あれど、海外ライセンス収益比率は一桁台(IR資料に「本邦向け外部顧客売上が90%超」と記載)、外貨の兵糧は痩せている。
自社運営のSVODサービス(FOD)はあるが、規模は限定的で、収益構造は依然として外部プラットフォーム依存度が高い。結果として、広告市況の風向きが業績を直撃しやすい。
さらに、一連の不祥事対応でスポンサー離れや番組打ち切りが相次ぎ、ブランド価値と広告収入に深刻な打撃を受けた。第三者委員会の調査(報告書は2025年3月31日公表)でガバナンスの脆弱性が露呈し、HD全体の経営リスクが一層顕在化する事態にも発展した。
■稼ぐ条件「IP×配信×海外×イベント」
日テレとテレ東の強みは、放送が弱含む局面でも利を引ける「多層ポートフォリオ」にある。
日テレは自前SVODのHulu+ジブリなど映画・イベントIPで、国内重心の“体験×映像”回収を強化し、海外番販で外貨を積む。テレ東はアニメIP輸出で海外比率を計画的に引き上げ、ゲーム・配信・商品・イベントの四輪駆動で現金化の速度を上げる。
他局の弱点は、純粋な自前プラットフォームの欠如(TBS)、海外偏重のIP収益不足(テレ朝)、非メディア事業で補ってもメディア基盤の不調が連結を侵食(フジ)。ここに広告依存が重なると、景気変動への耐性が薄い。
では、これからの戦況予測はどうなるのか。
広告依存度が高い局同士の提携や、配信基盤を持たない局が外部プラットフォームと資本関係を深める動きは加速するだろう。フジとTBSの協業、テレ朝とAbemaのさらなる統合は現実味を帯びてきている。
■機材の優劣より大事なこと
広告主が重視するのは二つ、テレビ+配信の「総リーチ」と、両者の重複視聴を除いた新規到達「インクリメンタルリーチ」だ。局は、放送と配信の視聴データを統合し、広告主に一体的な効果を示す仕組みを整える必要がある。
また、広告料金は大型イベントや特番に合わせて柔軟に設定することが求められる。
制作費高騰への対策としては、AIと自動化の導入が鍵になる。これらの変化にいち早く対応できる局が、次の10年で覇を握る――そう指摘しておきたい。
今後のテレビの未来を決めるのは、配信との差別化をどう図るかだ。
機材の優劣ではない。鍵は、「今この瞬間」を動かせるかどうかにある。
テレビの強みは、同時視聴の“熱量”“公共性”、そしてそれらを行動に繋げる“導線”の3点だ。これらを「ライブ×現場×商流(行動導線)」といった戦略軸として太くする。テレビ局が勝つ道は、この三本柱の徹底強化に尽きる。
■プラットフォーム依存では生き残れない
視聴者分析も重要な戦略だ。
視聴者は「ながら視聴」から離れ、イベント視聴+SNS拡散へ傾く。短尺の縦型動画が拡散の主戦場となり、長尺番組は“皆で観る儀式”として残る。
局は番組制作の初期段階から、縦型抜粋やハイライト、出演者による拡散を仕込み、SNS(ソーシャルメディアでの話題化)とEC(電子商取引での即時購買や参加申込み)へ即時接続する導線を組み込まなければならない。狙いは「視聴→拡散→行動(購買・参加・投票)」の三拍子を、番組企画の瞬間から立ち上げることだ。この導線が、広告主の評価指標(到達/効果測定/料金設計)にもそのまま反映される。
国内の「ライブ×現場×商流」を基盤として、次は外貨をどう積み上げるかが将来に向けた論点となる。
米国のSVOD一本足は権利コストと解約率の波に翻弄されやすく、欧州の公共放送はニュースと教養で「信頼」を資産にする。日本の局が取るべきは、「放送+配信+イベント+EC+海外ライツ」のハイブリッド型だ。
無料のFAST(広告付き無料ストリーミング)とAVODチャンネルで人気番組や名作コンテンツのアーカイブ作品を再資産化しつつ、地域イベントやスポーツなどライブ性の高い現場を強く抱える。過去資産で長期的な収益を積み上げながら、ライブで瞬間的な熱量を生む――この二つを両輪として回すことが、版図拡大の鍵になる。
■オワコンなのは「広告一本足モデル」
ローカル局が炭焼き小屋と化しつつあるいま、「キー局」という言葉自体が死語になる可能性は高い。電波は、かつての“権威”ではなく、ただの物流インフラになる。
コンテンツの主役は、放送局ではなく、IPを運用する“コンテンツ商社”、ライブイベントを仕切る“興行会社”、配信基盤を担う“テクノロジー企業”だ。スポーツ権利は共同保有、ニュースは地域ブロックで統合制作し、コストを徹底的に削る。制作会社の持株化、人材の流動化が進み、「番組を作る会社」より「繰り返し回収できるIPを回す会社」が主役になる。
商社がテレビ局を買収する未来も、決して荒唐無稽ではない。
局が生き残る条件は、電波という“器”の最適化と、IPという“商流”の最適化を別々に極めることだ。
今後の課題は明白だ。
一つ目は、制作費の高騰。アニメ・ドラマとも単価上昇が収益を圧迫する。解決策は国際共同制作やIPの長期回収で単価を平準化すること。
二つ目は海外展開リスク。検閲や規制、為替変動に備え、契約は二次利用前提で救済条項まで設計する必要がある。
三つ目は、計測の高度化。広告主が求める「テレビ+配信の総リーチ」を正確に示すため、重複視聴を排除した新規到達の測定精度を高める必要がある。
「オワコン」なのは広告一本足モデルであり、テレビではない。軽率に「テレビは終わった」と断じるのではなく、その変化を注視し続けるべきだ。
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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、日本メディア学会、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員、放送批評懇談会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。
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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)

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