お金がたまる人と、たまらない人の違いはどこにあるのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「年収の差でも、節約の上手下手でもない。
実は、日々のお金の扱い方にある“ある思考のクセ”が、資産形成の結果を大きく分けている」と語る――。
■「色のないお金」の落とし穴
2026年が始まった。年のスタートは貯蓄のスタートと張り切っている人もいるに違いない。そのお金は何のために貯めるのだろうか。
よく、「お金には色がない」とも言われる。どんな稼ぎ方をして手にしたとしても、財布に入れてしまえば同じお金だ。また、「何用」とのラベルがついていない以上、何に使っても自由、お金は支払い手段でしかない。
さて、お金に色がないと考える人と、色がついていると考える人の、いずれがより貯蓄に成功しやすいだろうか?
お金に関して、人間はいつでも合理的に判断しているわけではない、という認識が広がったのは行動経済学ブームのおかげだ。ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏は「メンタル・アカウンティング」という心理構造を提唱している。
「心の会計」「心の財布」とも言われ、その意味するところはこうだ。人間は自分の財産を、色のない同一のものと捉えているのではなく、心の中で無意識に仕分けを行っているというもの。一生懸命働いて得た給料は大事に扱うが、宝くじで当てたお金は泡銭だからぱあっと使っていいのだ――というように。

■「先取り貯金」という色を付けても…
貯蓄についても、不思議と仕分けがされている。毎月5万円の先取り貯蓄をしている人がいるとしよう。しかし、このところ物入りが続き、赤字になる月が連続した。カードのリボ払いでなんとかしのいでいるが、どんどん赤字が膨らむ一方だ。
はたから見れば「いや、それなら先取り貯蓄をやめるか、貯蓄額を減らせばいいだけじゃないか」と思うだろう。しかし、当人の中では「先取り貯蓄」と「生活費」は別会計だ。
それぞれのお金は別のラベルがついて仕分けされているので、二つが同じ「自分のお金」だとは認識しない。そのため、本来なら赤字家計でないはずなのに、なぜかリボ払いの金利を払っているという矛盾が起きてしまう。これこそ非合理と言える。
使えるお金があるのに、それが赤字を引き起こすという意味では、メンタル・アカウンティングは悪だろう。その「心の仕分け」を取り払うことができれば、無駄な利息を払う必要もない。まさに「お金には色がない」のだから。
お金をいちいち仕分けしないほうが効率よく資産を増やせる、という結論が導き出されるはずだ。
だが、事はそう簡単ではない。最初に述べた通り、私たちは非合理的な存在なのだ。同じお金に対して、毎回違う判断を下している。コンビニおにぎりが200円近くしたら「高いなあ、やめておこうか」と感じるだろう。しかし、松阪牛が50%オフで1パック1200円と値下げされていたら迷わず飛びつく。
同じ食費だというのに、まさに「別会計」だ。日常的に手持ちのお金に別の色を付けているのが私たちなのだ。
■貯蓄は「効率」より「続く仕組み」
資産形成にとっても、この仕分けは存在する。本来、貯蓄や投資にとって大事なのは元本をなるべく増やすことだ。年0.5%の金利は同じだとして、元本10万円と元本100万円でどちらの方が利息を多く受け取れるかは言うまでもない。
しかし、現実には100万円を○用と●用、△用……と細かく分割して預け分けしている人が多いのではないか。
果たして、それは間違いだろうか?
「効率よく貯めるため」なら、細かく預け分ける行動はノーかもしれない。が、筆者がかつて取材したため達人主婦の中には、10項目近い「○○用積立」を毎月続けている人がいた。
それぞれが1万円ずつとすれば月10万円となり、本来なら10万円まとめて積み立てる方が合理的かもしれないが、これは「効率」よりも「ゴールまでのプロセス」を重視した結果だろう。
10本の積立ゴールは、期間と金額それぞれが違うからだ。その達成感は、10万円をまとめて積み立てし、その塊を後で分割するのでは味わえない。貯蓄は厳しい道のりだからこそ、目的に近づくプロセスを可視化することで励みになる。
ラベルを張ることのもう一つの効果は、「お金の聖域化」だ。わかりやすい例が学資保険だ。読んで字のごとし、子どもの教育費のために使うお金というラベルがついている。満期が来た時に、それを家族旅行の費用にしようとは思わない。
■教育費は「色」をつけたほうが貯まる
「令和8年度税制改正大綱」にNISAの拡充が盛り込まれたが、その中で、つみたて投資枠の対象年齢を0歳から17歳まで広げるとある。新「こどもNISA」とも称されるこの制度は、次世代の資産形成を支援する観点からだというが、積立用の資金を出すのは親だろうから、ほぼ教育費用と想定しているだろう。

子の年齢が12歳以降は当人の同意を得たうえで親権者による払い出しを可能とするというが、その用途として「学校の入学金または授業料その他の教育費、または生活費に限る」とはっきり書いてあるくらいだ。
前述の「メンタル・アカウンティング」の視点からすれば、どうせ親が積立資金を出すのなら、素直に親の上限枠を広げたほうが、積立できる金額が増えて、それこそ効率的ではないかと思うが……。
しかしながら、教育費用というラベルが全くなかった場合はどうか。相場が跳ねて、大きな含み益が出た局面で、ついつい売却したくなるかもしれない。何に使ってもいいと言われれば、そのハードルはぐんと下がる。
児童手当はじめ、子育て世帯用の給付は数々あるが、これを「色のつかない」親の口座にそのまま入金してしまえば、何に使おうかという意識もなく、そのまま家計費に紛れて消えてしまうかもしれない。我こそは貯蓄下手だと自覚している人ほど、お金にがっちり「○○用」というラベルを張って仕分けしたほうがいい。
■お金がたまらない人の3つのパターン
浪費を防ぐ効果があるラベリングだが、最初に書いたような「貯蓄があるのに赤字」という落とし穴もある。そこに陥らないためにはどうすればいいだろう。それが積立資金なら、次の三点をチェックしたい。
①積立金額が目的にあっているか?
NISAやiDeCoのように、積み立ての目的が老後資金なら、20年30年と長期間にわたって続けられる現実的な金額にするべきだ。むやみに大きな金額を設定してスタートすると、その額を継続できなかったり、それ以外に貯蓄ができなくなる。

急にお金が入用になった時に使える貯蓄は必要だ。iDeCoは一定の年齢まで引き出せないし、NISAは随時売却できるとはいえ、相場次第ではマイナスになりかねない。小さな金額からスタートして、余裕ができたならその時点で積立額を増やせばいい。
②金額の根拠を「平均値」で決めていないか?
人間は「他の人はどうしている?」が気になるものだ。「この年代なら、貯蓄は平均額で○○万円」「積み立てに回す金額は平均で○○%」を知りたがる。その平均値より、自分の数字が低いと焦ってしまう。
しかし、平均がいかにあてにならないかは、ビジネスパーソンならご存じのはずだ。それに惑わされ、身の丈に合わない金額を決めてはいないか。たとえ年収が同じでも、家族構成、住居費の額、住んでいる地域等で、かかる家計費は全く異なる。平均金額を参考に決める前に、我が家の支出の現状をきちんと把握し、無理のない金額を算出しよう。
■「無理なく続けられる」がベスト
③メンテナンスや見直しをしているか
上記の①②で適切な金額を設定したつもりでも、「メンタル・アカウンティング=心の会計」に引きずられないためにはメンテナンスが欠かせない。積立が実は家計を圧迫してはいないか、当初は問題なかったがライフステージの変化に沿って金額を見直すべきではないか――などだ。

積立貯蓄・積立投資は「先取りだから忘れていられる」「ほったらかしでいい」とよく言われるが、本当に貯め上手な人、お金持ちになる人は自分の資産状況をほったらかしのまま忘れていることはない。無理なく続けるためのメンテナンスを忘れず、定期的に残高もしっかりチェックする。その手間を惜しむ人は、真のお金持ちにはなれないだろう。
■「使っていい貯蓄」が人生を楽にする
本来お金に色はないというのは、最初に書いた通りだ。だが、あえて色付けし、用途をラベリングすることで、「使えない」呪文を施し、無駄遣いを防ぐこともできる。
だが、使えないお金ばかりだと気詰まりだ。あえて「好きに使っていい」お金を貯めておくのも楽しい。月に3000円でも5000円でも、外食を一回我慢する程度のお金を積み立ててはどうだろう。
3000円なら年に3万6000円、5000円なら6万円と決して大きな金額ではないが、目的も用途もなく、好きに使っていい貯蓄があると心がのびやかになるものだ。それこそ、そのお金には何色もついてはいない。お金の支配から解放され、自由になれる。貯蓄や資産形成がうまくいかない人が少なくないのは、楽しさよりも「使えない」苦しさのほうを強く感じるからだろう。
人間は楽しいことには熱心になるものだ。「使っていい用積立」の楽しみを加えることで、マイナスオーラを中和し、貯蓄に前向きな気持ちになれるのでは。上手にラベリングを活用してほしい。

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松崎 のり子(まつざき・のりこ)

消費経済ジャーナリスト

『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。

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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
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