ビジネスの場で本心を言わない相手と交渉を進めるにはどうすればいいか。弁護士の嵩原安三郎さんは「相手がどこかでウソをついている場合、『外堀の話題』から質問を投げかけてみるといい。
真っ向からウソを暴く必要はない」という――。
※本稿は、嵩原安三郎『ワンランク上の交渉力』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ウソを“さりげなく”暴く方法
すんなり情報をくれる人ばかりだったら苦労はないのですが、現実は、そう甘くありません。なかには、実情を隠したり、自分にばかり有利に進めたりするために、情報を明かさないどころかウソをつく人もいます。
では、ウソをつく人に、どう対処して交渉を進めたらいいか。まず「ウソですよね?」などと相手をウソつき呼ばわりしては、角が立つだけです。これは、いうまでもないでしょう。
弁護士という職業は、みなさんよりも、ウソをつかれることが多いかもしれません。私がよく使うのは、「外堀を埋めてウソをあぶり出す」というテクニックです。
つい先日も、保険の請求で、こんなことがありました。
「交通事故でけがをした」と主張している被害者が、より多く保険金を得ようとして、整骨院への通院について虚偽の報告をしているという情報が入ったのです。
整骨院の院長とグルになって、通院日数を大幅に水増しし、保険会社に虚偽の申告をしているようでした。
ウソをついていることは、ほぼ明らかでしたが、「ウソをついていますね」と迫るだけでは逃げられる恐れがありました。
そこで私は、「報告どおりに通院していたのなら……」と、情景を細かく描いてみることにしました。そのために刑事さながら、この案件の「現場」である整骨院にも、実際に足を運びました。
■質問を重ねると、話の矛盾や必ずボロが出る
そして保険金の申請者に、こんなふうに聞いていったのです。
「通われていた整骨院は駅からもバス停からも遠いですから、車で通院されてたんですよね。そうだ、駐車場に停めると大きな看板が見えたはずですけど、あれ、なんだったかなあ……。私、1回しか行っていないので忘れちゃいました。○○さんは何度も行かれてますもんね、覚えてませんか?」
「受付で聞いてみたら、曜日や時間帯によって混み具合がけっこう違うみたいです。○○さんが通っていたときはいかがでしたか?」
「あの整骨院は、運動療法も積極的に取り入れられていて、スポーツジム顔負けの施設があるみたいですね。○○さんも使われましたか?」
実際に毎日のように通院していれば、すべて、わけもなく答えられる質問でしょう。でも、ほとんど通院していなかったとすると、だんだん苦しくなってきます。
プロの詐欺師でもない限り、人は、完璧に整合性がつくストーリーをつくってからウソをつくわけではありません。
だから、最初のうちは、その場の機転で答えられても、質問を重ねていくと、どこかで話が矛盾するなど必ずボロが出るのです。
そこに「ウソをついている」という罪悪感も合わさって、5つほど私が質問したところで、この人もついにはウソを認めて本当は整骨院にほとんど通っていなかったことを話してくれました。
ウソをつくのは、本来、しんどいことです。真っ向から「ウソでしょう?」というと、「ウソじゃない!」と反射的に否定されるのがオチですが、外堀から埋めていけば、すんなりと本当の話を引き出すことができるのです。
■ウソを暴かず、「ウィン・ウィン」の提案を
ビジネスシーンだと、どんな質問の球を投げても、さっぱり相手の事情がつかめない場合、相手がどこかでウソをついている可能性があります。
同じような球を投げ続けても、おそらく状況は変わらないでしょう。
そうなったら、変化球を投げるしかありません。いったん議題から離れ、「ところで……」と、「外堀の話題」から質問を投げかけてみるのです。
たとえば、あなたが工場用の大型機械のセールスだったとして、ある工場に営業をかけたところ、「いま必要ないから」の一点張りだったとします。こういうときに、ひたすら商品のよさを語っても、なかなかうまくいきません。
それよりも、いったんセールスのことは忘れ、相手がいる部署の人数や、社内の人間関係、働きやすさ、他社の噂話など、一見関係なさそうな質問をいくつかぶつけてみます。
これが、「外堀の話題」です。

すると、ひょんなことから「じつは本社から予算の削減をいい渡されていてね」などといった、相手の実情が見える発言が引き出せるはずです。
つまり、「必要ない」という理由はウソで、「予算的に新しい機械を入れられない」というのが本当の理由だったというわけです。
弁護士と違って、ここで相手のウソを暴く必要はありません。
ただ、外堀を埋めたことで、「具体的にいくらの削減を求められているのかを聞き出し、新しい機械の導入がその額のコスト削減につながる」ことを示せばいい、などといった突破口が見えてきます。
「いま必要ないから」という断りやすい表向きの理由を聞いて、そのまま引き下がっているようでは交渉上手とはいえません。相手のウソを見破ったうえで、「ウィン・ウィン」となるような提案をしていくようにしましょう。
ポイント外堀を埋めてウソをあぶり出す

■「苦手な人」「困った人」との付き合い方
ビジネスの場といえども、相性の悪い人というのは、いるものです。
人間ですから、「うわ、この人は苦手だな……」と思ってしまう。なかには、感情的にものをいう、あまりにも非論理的で話が嚙み合わないなど、いわゆる「困った人」「残念な人」もいます。
プライベートと違って、ビジネスでは、こうした人たちとも付き合わなくてはいけないのがつらいところですね。
とりわけ、交渉では密なやり取りが求められます。その案件にかかっている間は、誰よりも多くの時間を、一緒に過ごさなくてはいけない場合もあるでしょう。

さて、どうしたらいいでしょうか。
そんな場合に私が駆使するのは「想像力」です。相手を観察し、あれこれと想像すると、それと反比例するように、相手に対する苦手意識が薄くなります。困った人や残念な人とも、話が通じやすくなるのです。
正直なところ、苦手な人の顔は、あまり見つめたくありません。そこで私はそっと目線をそらし、相手の持ち物などを観察して想像をめぐらせます。
「今日は、いいスーツを着てるな。さては勝負服? ということは仕事後にデートか? だったら機嫌がいいかも?」

「かばんも手帳も靴も上質な革製に見えるけど、ペンは、安い文具メーカーのだな。あまり細部は気にしない人なのかな? それとも、見栄えより機能性で気に入ったものを使い倒す、こだわり派?」
見てのとおり他愛のない想像ばかりですが、こうして持ち物から相手の機嫌や人柄を想像してみると、それが意外と、隠れていた情報を引き出すカギになったりするのです。また、自分自身の気持ちも落ち着かせることができます。これも大きなメリットです。
■日ごろから「人を見ては観察、想像する」クセを
困った人、残念な人が、非論理的なことを一方的にまくし立てているときなども、この「観察→想像」の技が使えます。

まず、会話が成り立たないとき、相手と同じ土俵に立つのは得策ではありません。「感情vs.感情」「非論理vs.非論理」の泥沼にハマってしまい、何ひとつ建設的な話ができなくなるからです。
そんなときは、「よし、観察→想像だ」と意識する。まずそれだけで、感情的にいい返したい気持ちがスッと収まります。そして、あらためて冷静な目で相手を観察し、想像をめぐらせてみるといいでしょう。
「なんで、こんなギャンギャンいうんだろう。上司から相当きつくいわれてるのかな?」

「今日はずいぶんイラついているようだけど、家庭で何かあったのかな?」
などなど。
すると、どうでしょう。相手に対する腹立たしさは一段と収まり、むしろ、同情に似た感情が湧き上がってくるはずです。「この人も大変なんだな」――こう思うことで「困った相手の態度」から意識が離れ、「相手と交渉の場」につくことができるようになるのです。
「困った人」というのは、別のところでも煙たがられている可能性が高いものです。誰もが敬遠するような人と、自分だけが上手に交渉を進められたら、大きな達成感がありますし、周りからの見る目も変わってくるでしょう。
これこそが交渉の醍醐味であり、楽しさだと私は思います。
この「観察→想像」の技の精度を高めるために、日ごろから「人を見ては観察、想像する」クセをつけるというのも、おすすめです。
■通勤時に交渉力が上がるゲーム習慣
たとえば、駅で歩きスマホをしている人がぶつかってきた。一瞬、イラッとしますが、ここで、すかさず「観察→想像」です。
「焦った顔だったな。緊急のメールでも入ったのかな」

「ずいぶんギョッとした顔だったけど、ひょっとして、彼氏が別の女性と会っている写真が、友だちから送られてきたのかも?」
または、通勤電車に、スマホゲームにかじりついているオジサンがいる。「いい年してスマホゲームに夢中って、なんか情けないなあ」と思うかもしれませんが、ここでも「観察→想像」です。
「年齢的には、大きな子どもがいるくらいかな。ひょっとして孫もいたりして?」

「スマホゲームに夢中なのは、もしかしたら、孫と話題を合わせるためなのかな?『ポイントを稼いで』って孫からねだられたのかも……?」
などなど、ちょっとしたゲーム感覚で観察、想像してみるのです。
これが、相手の視点に立ってみるというトレーニングになります。
想像が合っているかどうかは関係なく、つねに相手の身になって考えてみる、そういうクセをつける、ということ。このゲームを習慣づけると、交渉力が上がるだけではなく、通勤時間も楽しくなりますよ。
ポイント

非論理的な人には「観察→想像」で対応

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嵩原 安三郎(たけはら・やすさぶろう)

弁護士

大阪府中小企業青年中央会理事。一般社団法人弁護士EAP協会理事。一般社団法人終活レスキュー協会理事。一般社団法人境港観光協会監事。1970年、沖縄県生まれ。京都大学卒業後、29歳で司法試験合格。2007年にフォーゲル綜合法律事務所を立ち上げる。現在は、協力弁護士も併せて弁護士9名を擁する事務所に成長。全国の損害保険協会で「保険犯罪防止セミナー」を行ない、「交渉で不正を自白させる」方法を指導するなど、セミナー、講演を多数行なっている。また、弁護士による「退職代行」のパイオニアとして、これまで2万人以上を退職させてきた。「情報ライブ ミヤネ屋」「キャッチ!」などテレビやラジオなどのメディアでも活躍中。

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(弁護士 嵩原 安三郎)
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