※本稿は、嵩原安三郎『ワンランク上の交渉力』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■本音が見えてくる「仮定」の問いかけ
一見、通らないかに思われた提案が、相手の本音を徹底的に引き出したことで、よりよい形で成就する――。
そんなミラクルを起こせるのは、本音を引き出す交渉術の醍醐味の1つです。
まず、相手の本音がどこにあるのかわからない状態で、「こうしたほうがいいに決まっている」といった決めつけは禁物です。
決めつけてかかったとたんに、「あなたの提案には乗れない」と、交渉の扉を閉じられてしまうでしょう。
ここで問われるのは、いうまでもなく「聞き出す力」。そして、聞き出すには、自分の提案に、ある程度の「遊び」、つまり「変更可能な余白」を持たせたうえで、相手に問いかけていくことです。
では、どう問いかけたらいいか。簡単です。「もし~」と聞いていけばいいだけなのです。
「もし~」というのは、「もし~だとしたら、どうでしょう?」という具合に「仮定の話」をすることで、本音を引き出すという問いかけテクニックです。「明るい将来」を仮定するイメージです。
私の知人のケースなのですが、以前、こんなことがありました。
古くから住んでいる人が多い住宅地に、介護施設建設の案が持ち上がりました。
ところが、その地域の住民会の主要メンバー2人が、普段から折り合いが悪く、なかなか話が前に進みません。
■介護施設の建設に反対の相手でも前向きな姿勢に
この2人を、仮にAさん、Bさんとしましょう。
Aさんは介護施設の建設に賛成、Bさんは反対。しかし建設するには、Bさんの土地の一部を買い上げる必要がありました。つまり、Bさんが「うん」といわない限り、建設できないというわけです。
Aさんの代理人となった私の知人は、早速Bさんの元へ向かいました。
当然ながら歓迎されるわけもなく、延々とAさんに関する愚痴を聞かされましたが、知人はBさんのお話の大半が過去を懐かしむことであることに気づきました。
知人は、「ここには長く住まれているんですね」とBさんを昔話に誘導しました。Aさんへの悪口を忘れて、楽しそうに子どものころの話をされるBさんに、知人は、このように切り出しました。
「Bさん、もし、この地域に大きな施設ができたら、どうでしょう?」
これには「そんなの賛成できない!」と返されてしまいましたが、さらに知人は問いかけました。
「じゃあ、もし、の話ですよ、もちろんナシだとは思いますが、もし、その施設に、他地域に移り住んだ人たちが訪ねてくることになったら、どうでしょう?」
すると、これも頭ごなしに否定するかと思いきや、Bさんはちょっと思案顔になりました。「そういうの、いいなあ」と、前向きな姿勢すら見られたといいます。
■あっさり賛成に転じ、素敵な憩いの場に
知人は、さらに問いかけました。
「もし、たとえば子どもたちが遊べるスペースもあったりして、夏にはバーベキュー、お正月には餅つき大会が開かれたりする場所になったら……どうでしょう? Bさんは、もし、どんなことがあったらみんなが集まってくれると思いますか?」
この後も質問&応答は続きましたが、結果として、Bさんはあっさり賛成に転じ、介護施設の建設と相成ったのです。
知人は、「もし~」の問いかけによって、「地域を活性化させたい」というBさんの本音を聞き出しました。
最後の決め言葉は、「この地域の再活性化は、AさんとBさんの2人の力なくしてできないように思えます。ここは協力して、他地域からも人が集まる、素敵な憩いの場をつくりませんか?」だったそうです。
こうして単なる介護施設ではない、「人が集う」という付加価値のある施設にすることができたのです。
もし、知人が「介護施設の建設ありき」と決めつけて話していたら、対立は解消できなかったに違いありません。
その施設がどういうものだったら、Bさんも乗り気になってくれるのか。そこを「もし~」の問いかけで相手の考えを丁寧に聞き出したからこそ、うまくいったのだと思います。
ポイント
「仮定の話」を繰り返す
■「しょーもない情報」こそ宝
交渉とは、つまるところ「人と人との間」で行われるものであり、もっとも問われるのは、やはり「信頼」です。
「そんなことは百も承知。だけど、信頼を得るのが難しいから困ってるんじゃないか……」なんて声も聞こえてきそうですが、「信頼を獲得せねば」と身がまえてしまうと、かえって相手は警戒心を強めかねません。
もっと気楽に考えればいいのです。
相手は、自分と同じ人間です。では自分は、人間として何をされたらうれしいでしょうか? どんな人に信頼感を抱きますか?
挙げ出したらキリがないとは思いますが、おそらく万人が共通して持っているのは、「認知されたい」という欲求です。つまり人は、「人として他者から関心を持たれるとうれしい」のです。
交渉相手においても、それは同じ。そう考えれば、「あなたも私も人ですよね。人として、あなたに関心がありますよ」ということを、さりげなく示すというのは、相手を喜ばせ、信頼につなげる方法といえるでしょう。
それには、まず、相手が「どういう人なのか」という情報を集めておくことです。
交渉に臨む前に、相手企業はもちろんですが、実際に相対する担当者のSNSをチェックする。
その情報は、交渉に入る前の世間話で使うというのもアリですが、さらに効果的なのは、「交渉の終わり際」です。
■去り際に出すことでプラスの印象を与えて離れる
「では、続きは次回に」となってから、「そういえば○○さんってジョギングがご趣味なんですね」などと話題に出すのです。
すると、相手は認知欲求が満たされた状態で、その回を終えることになります。
「交渉のはじめ」にこの方法をとる人がいますが、私は「去り際」をおすすめします。はじめだとどうしても相手に「媚びを売っている」「親近感を持たせて油断させようとしている」と捉えられ、せっかくの情報が活かせません。
しかも、交渉内容がヒートアップしてしまうと、そんな親近感はふっとんでしまいます。一方去り際なら相手を驚かせつつ、最後にプラスの印象を与えることができます。
いい換えれば、あなたに「いい印象」を抱いた状態で、いったん離れることになる。その印象は次に会うときまで続くため、次の交渉では親近感が増し、ざっくばらんな本音トークなどもしてくれるようになるでしょう。
このように、「お互いに人」「人としてあなたに関心がある」と示すのは、簡単でありながら、大きな効果が見込めるのです。
ポイント
去り際に「認知欲求」をくすぐる
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嵩原 安三郎(たけはら・やすさぶろう)
弁護士
大阪府中小企業青年中央会理事。
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(弁護士 嵩原 安三郎)

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