※本稿は、佐藤優『残された時間の使い方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■搾取をするには長時間働かせることが一番
マルクスによれば資本主義の本質は搾取であり、その構造そのものだということです。そして、ここで時間というのが大きなポイントになります。
マルクスによれば、剰余価値を増やすための一番の方法は、労働時間をできるだけ延長するということです。
労働時間が長ければ長いほど、生産量は増えます。その分搾取できる額が増えるというわけです。
しかも悪質な会社では、本来残業代は就業時間内の賃金にプラスして支払わなければいけないのに、通常の賃金のままのところがあります。
さらには残業に関して完全に未払いのケースもあります。中小企業やベンチャーなどに多いと言われますが、大企業とて例外ではありません。
昨今は働き方改革で、大きな会社ほど表向きは一切残業させないというところも増えています。ただし、実際はそれでは仕事が終わらず、社員が半ば自主的に自宅に仕事を持ち帰る“隠れ残業”も増えているようです。
資本主義が台頭してきた時代は、国家からの様々な規制がありませんから、それこそ資本側がやりたい放題の時期がありました。
さすがに1日24時間働かせることは不可能でも、工場が機械化され、24時間稼働するようになると、交代制で過酷な長時間労働をさせるようになる。健康被害から病気になり、早死にする労働者が増えました。
■1日12時間労働という制限で反対運動も
マルクス曰く、「1日24時間の労働をわがものにするということこそ、資本主義的生産の内在的衝動なのである」と。
1833年にイギリスで工場法が定められ、1日12時間労働という制限が加わった時、なんと資本家たちによる反対運動が起きました。それほど長時間労働が当たり前だったわけです。
1日8時間労働が定着したのは20世紀を過ぎてからで、ようやく時短をはじめ労働条件の改善が進み始めました。
そこにはソビエト連邦など社会主義国家が誕生したことが大きいでしょう。資本主義側も労働者の搾取ばかりを進めると、結果として国力の低下や社会主義革命を招くという危機意識がありました。
改良型資本主義と呼ばれる資本主義の体制を守りつつ、国家単位で社会福祉を充実させる動きが生まれたのです。
ただし、資本主義の本質は基本的には変わりません。社会主義、共産主義国家が勢いを失った今、対抗勢力がなくなった資本主義は再びその本質をむき出しにしつつあります。
その一つの表れが新自由主義です。自己責任というロジックで自由競争原理を肯定し、搾取をさらに進める動きが加速しました。
マルクスによれば、資本主義の内在的衝動とは、できる限り長時間労働をさせてその剰余価値を吸い取ることにあります。時間泥棒の正体とは、まさに資本であり、その構造だということを見極めなければなりません。
■大切な時間をスマホに削り取られている
ところで、今お話ししているのは資本主義社会における生産活動の部分です。つまり、私たちが労働を対価として賃金を稼ぐ局面における時間の搾取の実態です。
時間が削られているのは、お金を稼ぐ場面だけではありません。
先ほどお話ししたように、私たちは日常的に生活する場面においても、時間をどんどん削られています。
その一つの例が、SNSなどの発達による時間泥棒ということです。
この時間泥棒はインターネットやSNSだけではありません。私たちが娯楽として楽しんでいる様々なことが、時間泥棒の側面を持ち合わせています。
典型的なのがゲームでしょう。
中には課金されるものがあり、熱中しているうちに大変な額になってしまう。お金と時間の両方を同時に削り取られるのがゲームです。
その他、パチンコやスロット、競馬や競輪などのギャンブルも、お金と時間の両方を奪う現代の時間泥棒の典型例だといえます。
■ドーパミンの分泌を促し、覚せい剤に似た作用
ゲームなどに共通するのは、その依存性です。
とくにパチンコやスロットは、当たりを引くまでの様々な演出や派手な音響、点滅する電飾などで、実に巧妙に射幸心を煽ります。
脳内麻薬といわれるドーパミンの分泌を促すことで、一種の覚せい剤に似た作用を持ち依存性を高める仕組みになっています。
そのため一度依存状態になってしまうと、覚せい剤と同じでなかなか止めることができません。完全な依存症となり、社会生活から逸脱してしまう人が今でも後を絶ちません。
資本主義社会では、このように消費者や利用者の意識や脳に心理的、化学的に作用を加えることで、一種の依存症的な状態に落とし込み、商品を売ることで利益を生もうとします。
また、マスメディアなどを通じて流されるコマーシャルなど、同じ情報を繰り返し流すことで消費者の意識と無意識に働きかけ、購買意欲を高めるというのも、企業の販売戦略の一つです。
資本主義社会では消費する側は、つねに依存症的な体質に仕立て上げられていく危険性があることを認識しなくてはなりません。
■漫然と過ごしているとお金と時間を削り取られる
現代社会は生産から消費まで、すべての段階にわたって時間泥棒がはびこり、虎視眈々と私たちのお金や時間を奪おうと狙っていることがわかります。
漫然と過ごしていると、ついつい自分のお金も時間も削り取られます。
どんどん忙しくなると同時に、金銭的にも時間的にも、そして精神的にも余裕がなくなっていく。まさに50年前にエンデが描いた世界が、より先鋭化した形で現実となっているのです。
残念ながら、私たちはこの構造から完全に逃れることはできません。娯楽や様々な誘惑をすべて絶ち、世捨て人のように生きるのは実際には難しいです。
たまにはハメを外してお酒を飲んだり、のめり込まない範囲でゲームやギャンブルをやってみたりすることも、生活に潤いを与えたり気分転換する意味では有効です。
友達や仕事の仲間たちとコミュニケーションをするためには、SNSも使わねばなりません。
ただし、完全にシャットアウトすることは難しくとも、時間泥棒が一体どんな顔をしているか、どんなものなのかを認識していることが大事です。
貴重な時間を他者に奪われているという実感があれば、かなりの部分を自己コントロールすることができるようになるはずです。
時間を有意義に使うためには、まずは私たちの周りを取り囲む構造や仕組み、カラクリを理解する必要があります。その中で時間を奪う者の実体や本質を認識することが肝要なのです。
■その便利さや心地よさは他者の利益につながっているか
では、どうやって自分から時間を奪う者を見極めるか?
まずは資本主義や新自由主義の仕組みや本質を理解することが大切です。
ただし、それほど難しく考えなくともわかりやすい方法があります。
私たちがふだん日常の中で便利だとか心地よいとか、楽しいと感じていることが、他者の利益につながっているかどうか。この点を意識するだけでも、見極める際の大きなヒントになります。
明らかに他者の利益につながっているものであれば、それは彼らの利益拡大のために、自分の時間を奪われている可能性が高いと判断できます。
前述したゲームやギャンブルなどは典型的でしょう。私たちがそれを楽しむことで、一番利益を上げているのはゲームを作り販売する人たちです。ギャンブルで言えば、いわゆる胴元と呼ばれる主催者です。
彼らは自分たちの売上げや利益を伸ばすために、様々な手段を通して私たちの欲望を刺激し、お金と時間を使わせようとします。
SNSにしても、それによって一番利益を上げているのはプラットフォームを作り運営している主体です。Facebookの創設者のマーク・ザッカーバーグはいまや資産が2000億ドル、日本円にして約30兆円だといいます。大国の国家予算くらいの資産を持っているのですが、それは全世界の人を巻き込むプラットフォームを確立したからこそでしょう。
プラットフォームを利用したり、参加する人が増えれば増えるほど、特定の個人や企業が儲かる仕組みが様々な形で蔓延している。インターネットが発達したことによってそれが一気に進んだわけです。
時間泥棒によって、有限な自分の時間を削られることをできる限り防ぐには、まずはその仕組みと現実を理解することが大前提となるということです。
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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で国策捜査の裏側を綴り、第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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