※本稿は、ベサニー・アレン著、秋山勝訳『中国はいかにして経済を兵器化してきたか』(草思社)の一部を再編集したものです。
■アメリカが再び軍事力を高めているワケ
1992年大統領選に勝利したビル・クリントンは、軍事予算を民間のインフラや研究プロジェクトに充てることを約束していた。
その目的を果たすため、カリフォルニア大学バークレー校の教授で、産業政策の提唱者ローラ・タイソンを大統領経済諮問委員会の委員長に抜擢したものの、結局、クリントン政権の経済政策を進めたのはタイソンではなく、旧来通りの自由市場を主張するエコノミスト、ロバート・ルービンとローレンス・サマーズだった。
クリントンは転換政策を放棄し、流動性を高め、財政赤字の削減と自由貿易に焦点を当てた経済政策を目ざした。クリントン政権に続くジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの両政権でもこの基本方針は踏襲されていく。
アメリカの政策担当者がこのような前提を考え直すようになったのは、それまでにない、3つの決定的な要因が関係していた。ひとつは中国の台頭であり、2つ目はトランプの大統領就任、そして3つ目がこれまで触れてきたように新型コロナウイルスのパンデミックにほかならない。これらが触媒として作用していた。
■人民解放軍とファーウェイのただならぬ関係
1990年代以降、中国は「軍民融合」という戦略を進めてきた。この戦略は中国の民間部門と軍事部門の境界を取り払い、軍民双方の技術進化の向上を図ることを目標にしてきた。習近平はとくにこの戦略を重んじており、2010年以降、人民解放軍の能力を大幅に高めることになった。
軍民融合戦略では、企業行動と国家の目標の境界線は事実上曖昧にされている。通信機器メーカー大手のファーウェイはこうした事例のもっとも顕著な例のひとつだ。名目上、民間人が所有しているが、CEOの1人である任正非は、1987年に会社を創業する以前、人民解放軍に所属していた経歴がある。
アメリカをはじめとする西側諸国は、ファーウェイがスパイ行為や知的所有権の窃盗に関与していると考えてきた。
アメリカの産業政策が戦時中の過去の遺物ではないという新たな気づきは、少なくとも理屈のうえとはいえ、米中が競合するいくつかの産業分野――電気通信機器や人工知能のような重要分野への投資をはじめ、半導体産業からの中国の締め出し、さらには製薬産業へとただちに影響が及んだ。
■「通信の秘密」の危機
ここでもファーウェイはまたとない例を提供している。国家安全保障を担当するアナリストは、中国の巨大通信機器メーカーに、5G(第5世代移動通信システム)のグローバルなネットワーク展開の支配を許してしまえば、世界中の情報ハイウェイにアクセスできるようになると何年も前から警告してきた。
企業にとって5Gの支配は大きな力を授かることを意味するが、中国政府とファーウェイの密接な関係、政治的忠誠を民間企業に全面的に求める北京の明確かつ厳しさを増す一方の方針を考えればなおさらだった。
ファーウェイは、政府当局者からのデータ引き渡しの要求は断固はねつけると主張するが、その拒絶を担保する法的根拠はなさそうだ。2017年に施行された「中華人民共和国国家情報法」には、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行う」ことが義務づけられている。
■「企業努力」だけでは説明不可能な価格設定
ファーウェイは、幹部の才気と努力だけで世界に名だたる企業となったわけではない。
2019年12月に報じられた『ウォール・ストリート・ジャーナル』の調査で明らかにされたように、同社は2008年以来、中国政府から有利な融資条件や優遇税制措置、あるいは補助金などのかたちで750億ドルにものぼる公的支援を受けていた。
ファーウェイの主要なライバル企業だったフィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソンも国の支援を受けていたが、ファーウェイに比べればその金額ははるかに見劣りがした。
こうした巨額の資金援助でファーウェイは世界的な巨大企業に成長できたのである。その価格競争力は競合他社を最大で30%もしたまわり、他国の企業が対抗することはほぼ不可能だった。
早くも2012年の時点で、下院情報特別委員会は、中国の通信機器メーカーのアメリカ進出を阻み、主要なインフラ契約を阻止するように働きかけていた。
このときは中国企業の進出は食い止められたとはいえ、その後の数年のあいだ、アメリカの通信機器メーカーが5Gの競合企業になることを妨げていた市場の失敗についてはこれという措置は講じられず、この機に乗じてファーウェイが競合他社をしたまわる価格で販売、世界的な支配力を獲得することを許してしまう。
■ファーウェイの台頭を許した3つの失敗
いずれにせよ、こうした措置はせいぜいのところ守りにすぎなかった。根本的な問題に向き合えなかったのは、欧米の新自由主義の信者たちが、これらの問題は理論上、そもそも存在しえないと決めつけていたからである。
だが、台頭してくる中国の経済力と政治力が突きつける問題は、市場の自由競争でどうにかなるようなものではなかった。
その理由として、少なくとも3つの市場の失敗が進行していたことがあげられる。まず、中国政府が国際市場に介入し、自国企業に独自の国家支援を行っていたこと、第2に非自由主義的な政治的インセンティブで市場の機能そのものがゆがんでしまったこと、そして民間企業ならではの有無を言わせない傾向――つまり、法によって強制されないかぎり、なによりまず利益を追求することに企業は向かっていき、その前では優先されるべき、社会的に大きな目的であっても意味はなさないのである。
■「欧米の敗北」に変わりはない
こうして、ファーウェイをめぐる論議は何年も膠着状態に陥ってしまう。欧米の政治経済の指導者たちは、理論上の足かせにとらわれていた。
彼らの理論にしたがえば、中国政府の産業政策のおかげでファーウェイを世界的な成功に導けたと見なすことはできなかった。それを認めてしまえば、政府による大規模な介入が有効だと認めてしまうことになる。
そう考えるよりも、ファーウェイはなんのリスクももたらさず、いかなる警告も単に国家安全保障がらみの想像の産物であると考えたほうが楽だった。あるいはファーウェイへの国家支援は、国家の介入がつねにそうであるように、最終的には裏目に出るので、したがって何も心配することはないと考えれば済む話でもあった。
ある意味でファーウェイは極端なケースだったと言えるだろう。5Gの分野では誰が見てもグローバル・チャンピオンで、発展途上国という市場で戦うには、価格競争力の点でノキアやエリクソンにはほとんどの国で勝ち目がなかった。
ただし、中国政府が直接アクセスできる5Gで動く世界とはどんな世界なのか、それをいささかなりとも想像してほしい。
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ベサニー・アレン
ジャーナリスト
ニュースサイト「アクシオス」の中国担当レポーター。「パナマ文書」の分析で知られる国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の「中国文書」プロジェクトの主任記者、『フォーリン・ポリシー』の記者・編集者を経て現職。2020年にロバート・D・G・ルイス・ウォッチドッグ賞を受賞、さらにこの年、ジャーナリズム界の勇気をたたえるバッテンメダルの最終選考に選出される。中国語が堪能でこれまで中国に4年間在住。現在は台湾で暮らしている。
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(ジャーナリスト ベサニー・アレン)

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