中高年になると、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった「脳卒中(脳血管障害)」になるリスクが高まる。内科医の名取宏さんは「脳卒中は特に今のような寒い時期に起こりやすいので要注意。
生活習慣や環境を見直し、いざというときの対策を知っておいたほうがいい」という――。
■命を失うだけでなく後遺症のリスクも大
冬は脳卒中(正式には「脳血管障害」)になりやすいことをご存じですか? 脳卒中というのは、脳の動脈が詰まったり破れたりすることで、脳の働きに障害が生じる病気の総称です。
この脳卒中は、大きく3つに分類されます。一つ目は「脳梗塞」で、脳の血管が詰まり、その先の組織に酸素が十分に届かなくなる状態です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などが主な危険因子とされています。二つ目は「脳出血」で、高血圧などの影響により脳の血管がもろくなり、破れて出血することで起こります。三つ目は「くも膜下出血」で、脳の血管にできたこぶ(脳動脈瘤)が破れ、突然の激しい頭痛とともに発症することが多い病気です。
1980年ごろまで、脳卒中は日本人の死因トップでした。最近では医療の進歩や予防対策の普及により順位は下がってきましたが、それでも死因の6%余りを占め、年間10万人以上が脳卒中により亡くなります。また、脳卒中になると命を失わなかったとしても、手足のまひや言葉の出にくさ、飲み込みにくさといった後遺症が残る場合もあります。
さらに脳卒中をきっかけに認知機能が低下する「血管性認知症」が起こることも。そのため要介護の原因としても大きな割合を占めており、高齢化が進む日本では特に重要な健康問題の一つです。

■滋賀県全域を対象とした脳卒中登録研究
じつは、もともと医療現場では「冬になると脳卒中の患者さんが増える」といわれていました。ただし、こうした現場の肌感覚が正確とは限りません。そこで論文を探してみたところ、やはり脳血管障害は冬に多いという報告が複数あったのです。
なかでも現代の日本の状況をよく反映しているのが、滋賀県全域を対象とした住民ベースの脳卒中登録研究です(※1)。2011年から2013年にかけての脳卒中の症例6688例を解析したところ、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のいずれも冬季(12~2月)に多いことが示されました。
脳卒中全体では、夏季(6~8月)と比べて、冬季では約1.3倍です。この研究では、特定の医療機関に限らず、病院外で起きた急死を含めて、地域で起きたすべての脳卒中の発生が登録されました。データの網羅性という点でとても質の高い研究です。
このように一見、「当然」と思われがちな結果であっても、実際のデータを用いて丁寧に調べ、数値として示すことには大きな意味があります。調査にご協力してくださった住民の皆さんとそれを支えた研究者の努力に敬意を表します。
※1 Seasonal Variation in Incidence of Stroke in a General Population of 1.4 Million Japanese: The Shiga Stroke Registry - PubMed
■いわゆる「ヒートショック」には要注意
さて、冬に脳卒中のリスクが高まる理由は複数あります。
その一つとしてもっともよく知られているのが、いわゆる「ヒートショック」です。
正式な医学用語ではありませんが、暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室へ移動したり、寒いときに熱い湯に入ったりした際に、血圧や心拍数が急激に変化する現象を指します。こうした急な変動は、心臓や血管に大きな負担をかけると考えられています。
ヒートショック対策の基本は、家の中の温度差をできるだけ小さくすること。家屋内の温度差や温度の不安定さが、血圧変動と関連することを示した研究もあります(※2)。つまり、リビングだけでなく、廊下やトイレ、脱衣所や浴室も温めておくことが望ましいのです。
また、入浴するときには、いきなり熱い湯に入らないようにしましょう。お湯は熱くしすぎず、かけ湯をして体を慣らしてから、ゆっくり入ることが大切です。寒い早朝や深夜の入浴はできるだけ避け、体調がすぐれないときやお酒を飲んだ後の入浴は控えるようにしましょう。
サウナのあとに冷水につかる冷水浴は、個人的にはおすすめしません。急激な温度変化は血圧や心拍数を大きく変動させるため、特に高血圧などの心血管リスクがある人では注意が必要だからです。一方、健康な人においてはリスクは小さいと考えられるため、自己責任で行うぶんには差し支えないでしょう。
※2 Impact of indoor temperature instability on diurnal and day-by-day variability of home blood pressure in winter: a nationwide Smart Wellness Housing survey in Japan - PubMed
■高血圧や心房細動も脳卒中の一因になる
冬の低い気温が血圧や心拍数を上昇させることもまた、脳卒中が増える原因の一つです。
じつは血圧には季節変動があり、複数の研究において夏より冬に値が高くなる傾向が観察されています。
高血圧は、脳出血と脳梗塞のいずれにおいても重要な危険因子です。メディアでは「血圧が200mmHg以上でもまず血管が破れることはない」「血圧200mmHgを数年間放っておいたが平気だった」などといった記事が人気ですが、命を失ったり重い後遺症が残ったりしても誰も責任を取ってくれません。健康に関わる判断は、専門家の研究と議論を経て確立された「標準医療」に基づいて行うことをおすすめします。
また、冬には心房が小刻みに震える不整脈「心房細動」が起こりやすいことも原因の一つ。心房細動になると、心房内に血液がよどみ、血液が凝固して「血栓」ができることがあります。その血栓が血流に乗って脳に運ばれ、血管を詰まらせると脳梗塞を起こすのです。季節に関係なく心房細動は脳梗塞の原因となりますので、主治医と相談して抗凝固療法などの適切な治療を受ける必要があります。
■もしも脳卒中になったら時間との勝負
以上のような対策によって脳卒中を減らすことはできますが、完全に防ぐことはできません。もしも発症したら、治療は時間との勝負だと覚えておいてください。
脳梗塞では、できるだけ早く脳の血流を再開させることが、後遺症を軽くするために重要です。発症からあまり時間が経っていない場合、点滴による治療で血栓を溶かしたり、カテーテルを使って血管内から血栓を取り除いたりする方法が選択されます。
治療開始が早いほど、回復の可能性が高まります。
脳出血では、血圧を速やかに下げ、出血の拡大を防ぐことが重要です。出血が続くと脳が強く圧迫され、意識障害や命に関わる状態に進行するため、早期から厳格な血圧管理が行われます。出血量が多い場合、脳幹など重要な部位が圧迫されている場合には、血腫を取り除くための手術が検討されます。いずれにせよ発症後できるだけ早く治療を開始することで命が助かり、後遺症を軽くできる可能性が高まります。
くも膜下出血では、再出血を防ぐことが極めて重要です。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂によって起こり、再び出血すると命に関わる危険が高まります。そのため診断がついたら緊急で、開頭手術で動脈瘤を金属性クリップで挟んで破裂を防ぐ「脳動脈クリッピング術」、カテーテルで動脈瘤の内側にコイルを詰めて血栓を作って固める「コイル塞栓術」などが行われます。治療後も、脳の血管が細くなる「脳血管れん縮」、脳にたまった髄液がうまく流れなくなる「水頭症」などが起こることがあるため、厳重な管理が必要です。
■「FAST」と呼ばれるチェックポイント
いずれにせよ、脳卒中が疑われた時点で速やかに専門医療機関へ搬送されることが、予後を大きく左右します。その際の目安として覚えておきたいのが、FASTと呼ばれるチェックポイント(※3)。FASTは、Face(顔)、Arm(腕)、Speech(言葉)、Time(時間)の頭文字を取ったものです。

F(Face)は顔のまひで、笑ったときに口の片側が下がるなどの変化がないかを見ます。A(Arm)は腕のまひを意味し、両腕を上げてもらったときに片方が下がってしまわないかを確認します。S(Speech)は言葉障害を意味し、ろれつが回らない、言葉が出にくい、話を理解できないといった症状があれば要注意です。FASのいずれか一つでも当てはまれば、脳卒中を強く疑います。
最後のT(Time)は時間を意味し、これらの症状に気づいたらすぐに119番通報することが重要だという意味です。「様子を見る」「少し休めば治るかもしれない」と迷う時間が、回復の可能性を下げてしまいます。できるだけ早く気づき、すぐさま救急要請することが最も大切だということを、ぜひ覚えておいてください。
※3 Signs and Symptoms of Stroke
■インフルエンザなどの感染症予防も大事
まとめると、滋賀県の住民ベース研究が示すように、脳卒中は冬に多く発症します。その背景には、ヒートショック、寒さによる血圧上昇、心房細動などの不整脈といった複数の要因が重なっています。予防の基本は、家の中の温度差を減らす工夫などの生活習慣、血圧管理などでしたね。
さらに冬に流行しやすいインフルエンザなどの感染症にも注意が必要です。じつはウイルス感染に伴う脱水や炎症、不整脈は、脳卒中の引き金になる可能性があります。
対策は、手洗いなどの一般的な感染対策とワクチンの接種です。インフルエンザワクチンの接種と脳血管障害発症の減少の関連も報告されています。
その一方、どれだけ注意していても脳卒中の発症を完全に防ぐことはできません。だからこそ、症状に気づいたときに「すぐ行動できるか」が何より重要になります。FASTを家族や周囲と共有し、こうしたサインがあったら、迷わず救急要請しましょう。それが後遺症を減らし、命を守る最も確実な対策です。寒い季節は特に、脳と血管を守る意識を持って過ごしてください。

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名取 宏(なとり・ひろむ)

内科医

医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

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(内科医 名取 宏)
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