物価高で食費の節約を余儀なくされている人は非常に多い。管理栄養士の成田崇信さんは「食事の栄養や楽しみも大切にしつつ、上手に出費を減らすコツを知っておいてほしい」という――。

■統計にもはっきり表れている物価高
今の日本では所得はなかなか上がらず、さらには極端な円安も続くなか、お米をはじめとした生鮮食品や燃料の価格は大幅に上昇し、多くの家庭が食費などの生活費を切り詰めなければならない事態に陥っています。
実際、総務省が公表している消費者物価指数によると、食料品の価格は2020年を100とした場合、2025年11月には128.6と大きく上昇。とりわけ米の価格は223.4で、倍以上になっています。当然ながら、総務省の「家計調査2024」よると、消費支出に占める食料費の割合である「エンゲル係数」も28.3%と、2005年の22.90%から大幅に上昇しているのです。
こうなると、テレビや雑誌、ネット記事などで食費節約術が特集されがちです。「家族4人で1カ月の食費2~4万円」などという非現実的な節約術が紹介されることも少なくありません。家計簿や献立例が出てくるため「うちでもできるかも」と思ったり、「うちは食費を使いすぎかも」と罪悪感を持ってしまったり、買い物や調理をしない家族に「もっと減らせる」などと誤解されたりすることもあるかもしれません。しかし、極端な節約術を実践すれば、健康への悪影響が懸念されるので注意が必要です。
■健康を害すような食費節約術はダメ
こうした極端な節約術に翻弄されないためには、体を維持する栄養を確保するために必要な食べ物はどのくらいで、それを購入するにはいくらくらいのお金がかかるのか、だいたいの相場を知っておくことが大切です。
学校給食は大量仕入れで食材を比較的安く購入できますが、それでも栄養価を満たす食事食材費は1食あたり250~300円ほど。これを単純に家族4人で1日3食に当てはめてみると、9万円から10万8000円という金額になります。もしも本当に家族4人で1カ月3万円の食事だとすると、1人分は1食100円もかけられないことになるわけです。
これでは、ご飯に卵1個分と漬物少々しか食べられません。
メディアで紹介される極端な節約術のほとんどは、よく見ると「お米は実家から送ってもらう」「交際費や外食は別」「子どもの給食費は含まない」などといった但し書きがついています。食費節約術を評価する際には、何が食費に含まれるのかを事前にしっかり確認すべきです。
なお、家族4人が栄養不足にならない程度の食費(給食費も含む3食+間食)は、米価高騰がおさまらない限り、どんなに節約に努めても月8~9万円はかかると考えましょう。
■見切り品や特売品を狙うといいか
では、見切り品や特売品を狙う節約術はどうでしょうか。確かに自宅で最初に献立を決めてから買い物へいくよりも、その日に特売になっている食材を購入して献立を組んだほうが節約につながります。
ただし、見切り品や特売品だけで栄養バランスの取れた食事を作るのは難しいでしょう。また、そうした商品が売り場に出される時間帯に買いにいく必要がありますが、会社員や子育て中の人は難しい場合も多いだろうと思います。
しかも、残念ながら、この方法には根本的に大きな欠点があります。見切り品や目玉商品などの特売品を積極的に狙う方法が有効なのは、通常価格の商品を購入してくれるお客さんが十分にいるから。見切り品には数に限りがありますから、それを狙う人ばかりになれば、その節約術は成り立ちません。
また、お客さんが特売品しか買ってくれないと店は利益を出せなくなるので、商売が成り立たなくなります。
同時に店は従業員に十分な給与を支払えなくなりますから、国民の購買力が低下するわけです。このような貧困の連鎖を生んでしまう持続可能性の低い節約術を「SDGs」と喧伝するメディアがあるのは問題でしょう。
■規格外野菜をたくさん売るのは不可能
そのほか「規格外の野菜は形が悪いだけで栄養はあるので、もっとたくさん活用すれば安く買えるだけでなく、フードロス対策にもなる」という一見よさそうに思える主張にも問題があります。
野菜に規格があるのは品質を保つため、また運搬時の効率を上げてコストを下げるためです。それなのに規格外の野菜を安く売るとなると、正規品の売り上げは落ちることが予想され、農家の収益は苦しくなり、生産を継続できなくなります。つまり、これも持続可能性を考えると望ましくない方法です。
「たまたま規格外の野菜を安く買えてラッキー」ぐらいであればいいのですが、多くの人が規格外を求めるようになれば破綻することは明らかでしょう。
普段は広く食べられていない「未利用魚」の利用も、需要が増えれば、その魚を目的とした漁獲が行われるようになるかもしれず、持続可能な資源管理とは矛盾してしまいます。
裏技的な節約術は、それを利用する人が少ないからこそ通用するのです。多くの人が物価高に困っている現状の切り札にはなりません。
■「かさ増し」をすればいいわけではない
一方、食費を節約しても満足感を損なわないよう、ボリュームアップ食材を活用するレシピも増えていますね。「なるほど!」と感心するものもありますが、栄養価が高いと紹介されているものの、実際には栄養バランスを崩しかねないレシピもあるので注意が必要です。

例えば、少し前に「肉や魚の価格が高騰しているので、栄養価の高いモヤシやキノコでかさ増ししましょう」と紹介しているネット記事を読んでとても驚きました。モヤシやキノコなどの野菜には確かに栄養はあります。でも、肉や魚に豊富に含まれているタンパク質や鉄などのミネラルなどは十分に含まれておらず、代替品にはなり得ない食品です。
かさ増しでよく見かける例として、モヤシやキノコの他に、カリフラワー、しらたき、こんにゃく、麩などがすすめられていますが、同様の理由でおすすめできません。
■雑穀などを米に加えるのはおすすめ
こうしたかさ増しレシピは、肉や魚を摂りすぎている人向けでしょう。特に成長期の子どもには、タンパク質が必要です。肉や魚、卵、豆腐、大豆などをしっかり摂れるようにしてください。
食材の値段だけを考えてかさ増しを続けていると、将来的に栄養素欠乏症に陥る事態も考えられます。特に微量栄養素不足の影響は、数年後にわかることもあるので注意が必要です。
ただ、もちろん、かさ増し食材のすべてが悪いわけではありません。例えば、高騰するお米のかさ増しとして雑穀や米粒麦(押し麦)を混ぜて炊いた雑穀ごはんは栄養価アップにも繋がりますし、食材費を抑える効果もあるのでおすすめです。
では、どうしたら必要な栄養を摂りながら、食費を抑えることができるでしょうか。
人それぞれ家庭環境も嗜好も、必要な栄養の量も違うので正解はありませんが、持続可能な節約のコツをお伝えします。
■健康的に無理なく食費を抑えるコツ
1:不足しがちな食品や栄養素を覚えておく
貧困や節約などで食事にお金をかけられなくなると、おなかを満たすために高エネルギー(カロリー)の食事になりやすい傾向があります。節約中は炭水化物や油が多い食生活になっていないか、野菜を十分に食べているかどうかを意識しましょう。肉や魚を食べる頻度が減るとタンパク質や鉄が不足しやすくなります。買い物の際にはお財布と相談しながら、肉、魚、卵のようなタンパク質をしっかり摂れる食材も購入してください。大豆製品も良質なタンパク質源になります。
2:食材の置き換えで栄養バランスを維持
前述したように肉は高いからと、代わりに野菜でかさ増しすれば、栄養が偏る心配があります。肉であれば、牛肉を鶏肉にするなど、比較的価格の安い食品への置き換えがおすすめです。循環器疾患のある人では牛肉を鶏肉に置き換えることで血中脂質の改善も期待できるかもしれません。葉物野菜が高いときには根菜類やかぼちゃなどの果菜類に、ご飯が高いときには麺類やパンに、というように同じカテゴリー内での置き換えが栄養不足対策に有効です。
3:価格の割に栄養価の高い食品を活用
すでに実行している人も多いと思いますが、昔から「物価の優等生」といわれてきた栄養価が高い割に安い食品を利用しましょう。卵や牛乳、鶏肉、冷凍アサリ、小松菜や水菜、大豆加工品などがあてはまります。
甘味料を加えていない野菜ジュースもおすすめです。少し手間はかかりますが、乾燥大豆や小豆などは非常に安価で、微量栄養素も豊富な非常に優れた食品です。この機会に活用してみてもいいかもしれません。
4:完全栄養食や大人用粉ミルクを摂る
買い物に時間をかけられない人、料理が苦手な人は、ここまでに紹介した3つのポイントを実行するのは難しいと思います。そういう人におすすめしたいのが、完全栄養食や大人用粉ミルクです。物価高では購入する食品に偏りが生じやすく、微量栄養素不足が懸念されます。最近流行している大人用粉ミルクは、飲むだけで手間がかからず不足しやすい栄養素を補えるのがよいところ。育児用ミルクは乳糖を含むため、大人が飲むと下痢をする可能性があるので要注意です。冷凍やインスタントの完全栄養食もおすすめですが、価格が高いこと、食後の満足感が乏しいことがやや気になります。豆や種実類、果物など、食物繊維のとれる歯ごたえのよい食べ物を合わせると、完全栄養食の弱点を補強できるでしょう。
■自分に合う方法を見つけて長く続ける
他にもさまざまな食費節約術があると思いますが、大切なのは自分に合う方法を見つけたり、自分流にアレンジしたりして、コツコツと長く続けていくことです。
例えば1週間分の献立を考えて必要な食材を一気に購入する節約術は、食品ロスを減らすこともできていい方法ですから、私も参考にしています。
でも、我が家では仕事が長引いて帰宅が遅くなったり、家族が外食してきたりして計画通りにはなりません。なので、大体3~4回分ぐらいの献立を決めておき、後は臨機応変に対応できる日持ちする食材を買い置きしています。こうして自分のスタイルに合わせてアレンジすれば続けやすいのです。
最後に節約も大事ですが、ぜひ食事の楽しさも大切にしてください。これは失敗談ですが、私が節約を意識しすぎていた頃、家族は「食事が全然楽しくなかったけど我慢していた」そうで、後で大いに反省しました。
物価高で多くの方が大変な思いをしていますが、そんななかでも楽しみながら健康的な食事ができるよう栄養について参考にしてもらえたら幸いです。

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成田 崇信(なりた・たかのぶ)

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。主にインターネット上で「食と健康」に関する啓蒙活動を行っている。猫派。著書に『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)、共著書に、『薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)、『謎解き超科学』(彩図社)、監修書に『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ』(オレンジページ)がある。

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(管理栄養士、健康科学修士 成田 崇信)
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