※本稿は、藤井貴彦『伝える準備』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■長年続けている仕事日記
日記は、自分を俯瞰で見るドローン
さて、言葉を選ぶためには、たくさんの言葉を引き出しに集めておくことが大切、とお伝えしてきましたが、私は1994年に日本テレビに入社してからずっと、日記を書き続けています。
後ほど詳しくお伝えしますが、主に仕事の日記です。
しかも小さな空間に5行だけ。
書き始めた当初は仕事内容のメモだけだったのですが、今では文章として空間にびっしりと書くようになりました。
振り返ると、この日々の積み重ねが言葉選びの土台になっていると思います。
■日記でその日のコンディションがわかる
長年日記を書いていると、その日の自分がどんなコンディションなのかが見えてきます。
例えば、書いた1行の末尾が「しなければならない」というような場合、いくつかのことが見えてきます。
1つめは、その時の自分が「追いつく」立場にいるということです。
宿題をやらなければならない
電話で報告をしなければならない
お皿を洗わなければならない
これは、過去に対する仕上げが必要な状態です。
そんな時には「日々に追われているなあ」と気づくことができます。
もう1つは、「煮詰めるエネルギーが不足」しているということです。
私の日記は5行しか書けないので、
「しなければならない」というひらがな9文字はスペース的にもったいない!
また、そんな時はたいてい、ペンだけふらふら進んで、旨味の足りないおみそ汁のような日記になります。読み返してみても、どこかうす味です。
一方、好調な時は、漢字とひらがなのバランスが絶妙です。
読み返すと、俳句のようなリズムが生まれていることにも気づきます。
これは、長年書いていてもなかなかやってこない感覚ですが、主に、エキスになるまで煮詰めていない時に「しなければならない」が登場します。
また、疲れていて、他の表現が浮かばない場合にもよく見られます。
ただ、
「あれ、疲れているかも」と気づけば、こちらのものです。
日記は、自分を俯瞰で見ることができるドローンのような役割を果たしてくれます。
■寝る前に「やることリスト」を作る
なお、参考にはならないかもしれませんが、私の寝る前の習慣について書かせてください。
私は翌日にやることリストを、いらない紙の裏側に書き出していますが、そこでは「したいこと」と「しなければならない」ことをぼんやりと分けています。
それぞれを分析してみると、したいことは「未来」に関するもので、しなければならないことは「過去」に関するものです。
・後輩のサッカー実況チェック
・いただいた本のお礼
・会議室の予約
・食事会の日程連絡
・会社の歯ブラシを新しくする
・来月用企画書の作成
前の4つがしなければならないことで、後の2つがしたいことです。
このようにリスト化すると、自分が追い込まれているのか、余裕があるのかがわかります。
これを見ると「明日は30分早く起きようか」とスケジュールが動き出すのです。
■寝る前のたった10分で翌日がガラッと変わる
一方、リストアップができたら、もうひと工夫します。
その工夫とは、「完了に必要な時間」を書き添えるというものです。
・後輩のサッカー実況チェック 2時間
・いただいた本のお礼 15分
・食事会の日程連絡 10分 などなど。
お礼と日程連絡は会社への移動中にできるとか、会議室の予約は15分で終わるけど、会社に到着してからしかできないとか。やることリストから自然と明日の動きが見えてきます。
私はこの紙を、明日持っていくカバンの上にはらりと置いておきます。
寝る前のたった10分で、翌日の動きがガラッと変わります。
また、頭に余計な心配ごとが残らないので、気持ちよく眠りにつけます。
みなさんも敏腕マネージャーになった気分で、翌朝の自分にスケジュールを送っておきましょう。
Q あなたはどのような時に、自分を振り返っていますか?
■「うちの子供の相談に乗ってくれ」
自分を知るために、徹底的に書く
最近、私の周りに面白い変化が生まれています。
私の学生時代の同級生や、年齢の近い同僚から「うちの子供の相談に乗ってくれ」というオファーが増えたのです。
若手世代の後輩や学生から、将来のことを相談されることは今でもありますが、まさか同僚の子供とは!
ただ、若い人の悩みというのはだいたい共通していて、
・将来、何になればいいかわからない
・今の仕事にやりがいが見つからない
・自分がこの会社で何をすべきかわからない
といった「人生のエンジンがかからない状態」の相談です。
そんな時に私が勧めるのは、書くことです。
エンジンがかからないみなさんは、その前に「やりたいことがわからない」のではないかと思います。やりたいことが見つかった時、私たちはとんでもないパワーを発揮し、前に進めます。
壁にぶつかったとしても、そのエネルギーと勢いで乗り越えられるはずです。
私も大学生の頃、自分がどんな仕事をしたいのかわかりませんでした。
アナウンサーになれたらいいなとは思っていましたが、米俵の米1粒ほどの確率で、現実としては他にも就職希望を持っていなければなりませんでした。
その前にまず、自分のことがわからなければ就職活動ができない。
そこで行ったのが「徹底的に書く」ということです。
■自分の方向性を決めるためにひたすら書く
何をしたいのかを書くという作業ではなく、自分の好きなこと、いやだと思うことを書けるだけ書くことにしました。
それが自分の方向性を決めると思ったからです。
初めのうちはいくつも頭に浮かんで、すいすい書き出すことができました。
しかしだんだん勢いは落ち、次第に苦しくなってきます。
大学ノート1枚をびっしり埋めるところまではきましたが、その次が出てきません。
それでも何とか書き出して、母親にも聞いて、友だちにも聞いて、さらに書く。
起きたら書いて、寝る前に書いて、思い出したら書いて。
これを3日ほど続けました。
晴れて、3ページ分の好きなこと、嫌いなことリストができ上がりました。
そのリストを見直してみると、実は同じような項目がいくつも見つかります。
次のステップとして、その似たような項目を集めて、言葉の吸収合併をしていきます。
例えば、
「誰かのために働くこと」
「ありがとうと言われること」
「人の役に立つこと」
それぞれは違う内容ですが、その芯は同じです。
この3つの言葉を「誰かのために働くこと」に代表させ、吸収合併します。
もちろん、新たな別の言葉を生み出してもかまいません。
今考えると、これが「煮詰める」作業だったのかもしれません。
さてさて、3日使って書いたその結論は何だったのかというと、
サッカーのそばにいたくて、
テレビを見るのが好きで、
お酒が飲めたらよい(笑)。
煮詰めた結果はシンプルですが、煮詰めたことで頭の中の整頓ができました。
そこからは、この3本柱に沿った企業を受けようと思ったのです。
■どの面接でも堂々と答えられた
私が資料を集めたのはテレビ局に始まり、ユニフォームやスパイクを作っていたスポーツメーカー、Jリーグのスポンサーをしていた飲料メーカー、競技場の芝の管理会社、そして、サッカー協会で仕事をするにはどうしたらいいかまで考えました。
その過程で全国のテレビ局を受けてアナウンサーを目指すことも考えましたが、サッカーの中継をしていないテレビ局もあり、3本柱から外れてしまう。
結局、私はアナウンサーとしての就職活動ではなく、自分で書き出した希望の「たて軸就職活動」を選択しました。
そのためか、どの面接でも軸がぶれず堂々と答えられました。
一方、うまく答えられなかった場合はご縁がないのだと考えることができました。
結果として、特に才能もない私がアナウンサーになれましたが、志望動機の軸の強さが力を貸してくれたことは間違いありません。
どんな仕事でも料理でも、下ごしらえがとても大切ですね。
あとは前に進むだけという状況がつくれたら、やりがいは自然に備わると思います。
私が言葉を積み重ねるようになったのは、ここが原点です。
Q あなたの「人生のエンジン」がかかるのは、どのような時ですか?
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藤井 貴彦(ふじい・たかひこ)
日本テレビアナウンサー
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年2月にはバンクーバー五輪の実況担当として現地に派遣された。同年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。
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(日本テレビアナウンサー 藤井 貴彦)

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