回転ずしの「スシロー」が中国で好調だ。日中関係が冷え込む中、日本の外食チェーン店が人気を集めるのはなぜか。
中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵さんは「ネタの新鮮さ、種類の豊富さだけではない。人気の背景には、中国人の意識の変化がある」という――。
■上海にオープンした店舗では「14時間待ち」
景気の低迷が伝えられる中国で、日本の回転ずしチェーン「スシロー」の快進撃が止まらない。
昨年12月6日、上海にオープンした店舗ではなんと約700組が最大14時間待ちという盛況ぶりだった。昨年11月末から、高市早苗首相の国会答弁をきっかけに日中関係が急速に悪化している。日本に対してさまざまな圧力を掛け続ける中国でいま、なぜ“日系”の「スシロー」の人気が高まっているのか。
「さすがに初日は混むだろうなと思って避けたのですが、1週間くらい経った平日の夜の早い時間帯を狙って行ってみたら、やはり3時間待ちで驚きました。整理券だけ取って、いったんオフィスに戻り、出直したのですが、日本旅行で食べたのと同じで、とてもおいしい上に、日本では見かけなかったメニューもあって楽しめました。待ち時間を短くするために行列に並ぶ“代行業者”まで現れたらしいですが、私はまた、空いている時間に行ってみようと思います」
こう語るのは、上海市内の会社員の男性、張さん(32歳)。張さんは昨年12月、上海にオープンした「スシロー環球港店」を訪れたときの様子を興奮ぎみに話してくれた。張さんが勤務する会社は、まさにこの「環球港」という巨大なショッピングセンターに隣接するオフィスビルにある。会社から歩いて10分以内で到着できるので、オープンを待ちわびていたという。
同日にオープンした「スシロー中山公園龍之夢店」も同様に大混雑していて、張さんの友人はそちらに出かけたそうだ。
■快進撃の背景に「3つの理由」
「スシロー」といえば、売上高、店舗数などで日本のトップを走る回転ずしチェーンだが、近年は海外進出が目立つ。とくに中華圏への進出が多く、25年10月末時点で、海外の「スシロー」店舗232店のうち中華圏には168店舗と7割以上が集中している。中華圏は台湾、香港、中国だが、いずれも「成功」といえる順調さだ。とくに、中国は政治的問題があり、進出にはリスクが伴うが、25年11月、9月期の連結決算について記者会見した山本雅啓社長は「海外のスシロー事業は中国を中心に非常に好調だ」と自信をのぞかせた。好調の背景には何があるのか、私なりに分析する。
1つ目は、日本と同様、ネタの新鮮さ、種類の豊富さが挙げられる。メニューを見ると、たとえば「カラスガレイ塩麹炙り」(10元=約220円)、「たいらぎ貝バジル海ぶどうのせ」(15元=約330円)、「牛すき焼きカルビフォアグラのせ」(8元=約176円)といった珍しいオリジナル寿司や、季節限定の「あっさり蟹ラーメン」(39元=約858円)、「たっぷりフレッシュ苺パフェ」(32元=約704円)といったメニューがこれでもか、というほど豊富にある。上海の2店舗では現在、京都の辻利茶舗とコラボした特製プリンなどを提供中で、店によっては個室も用意されているという、ファミリーレストランも顔負けの充実ぶりだ。
■不況の中国でウケる「平替」とは
日本の回転ずしでも、寿司以外にラーメンやうどん、天ぷら、スイーツなどのメニューはあるが、中国の「スシロー」のメニューを見ると、その種類は日本を大きく上回る。前述の張さんも「日本では生ものが新鮮だから、奇をてらったメニューはそんなに頼んだことがなかったのですが、こちらでは、逆にそういうメニューを頼んでしまう。でも、それが中国人の口に合うように工夫されていて、ボリュームがあっておいしい。
家族で行く人が多いし、寿司だけだと幼い子どもは飽きてしまうと思いますが、これなら家族みんなが楽しめますね」と話す。私も他の店舗で食べた中国人のSNSを見たことがあるが、ファミリーで滞在している人が多く、一種のイベント、行楽のような感じだった。
2つ目の理由は、コスパの良さだ。中国では、とくにコロナ禍以降、不動産不況や消費不振が顕著になっており、デフレ圧力が強まっている。かつてなら、見栄をはって「高級店で優雅に食事する私」といった写真をSNSにアップして自慢することが「いきがい」だったような人が、昨今では様変わりしている。高級店はどこも閑古鳥がないており、お手頃な店に食事に行く人が増えている。中国では「平替」(ピンティ=手頃な価格の代替品)という言葉がはやっており、安くて、しかもおいしい(あるいはお得な)商品を買ったり食べたりすることを喜ぶなど、人々の意識が変わった。
■物価高の都市部では「お手頃感」
価格帯は1皿10元(約220円)を中心に、寿司類は28元(約616円)くらいまで、一品料理は30~40元(約660~880円)くらいまである。寿司と一品料理を合わせて注文すると100元(約2200円)では足りず、120元(約2640円)くらいにはなる。円安なので日本円で換算すると、家族4人で行ったら1万円を超えてしまうが、それでも物価が高い中国の都市部では、かなり「お手頃感」が強い。大きな買い物を控えている中国人にとって、「回転ずしくらい、全然贅沢ではないよね」といった感覚があるようだ。
3つ目の理由としては、アジア進出の順番、巧妙さではないか、と私は考えている。
「スシロー」を運営するFOOD & LIFE COMPANIES(F&LC)は、中華圏では2018年に台湾に初出店を果たした。以降、2019年に香港とシンガポールに進出。これら3カ国・地域の中で店舗数を増やし、地場を固めてきた。香港にはすでに40店舗あり、中国と同じく景気が悪化する中で急成長を遂げている。今月1日、日本の「ちいかわ」とのコラボで、グッズが購入できるイベントを開催したところ、午前5時から開店待ちの顧客が並んだという。
■あえて台湾・香港から始めたワケ
台湾、香港に続いて、中国本土で最初に開店したのは、意外にも広東省広州だった。広州は香港から直通電車に乗って1時間未満で行ける中国の大都市だ。香港から中国に「安さ」を求めて買い物に出かける人が増えている中、逆に広州から香港にも以前より気軽に行けるため、情報もすぐに拡散される。
香港での「スシロー」人気が不動のものになってから広州に中国1号店が開店したことは、進出の順番として「手堅い」と感じる。これまでも、中国での「流行」は台湾や香港を経由して中国に持ち込まれることが多かったからだ。いきなり中国に進出するのはリスクが大きいが、同じ中華圏の地域で人気が出て、地盤を固めることで、現場では店舗運営の経験を積むことができる。
もちろん、台湾や香港と中国本土では味の好みなどは異なるが、この3地域の人の往来は激しく、「香港旅行に行ったときに食べた回転ずしをまた食べたい」といった気持ちになる人は日本旅行に行った経験のある人よりも多いはずだ。
台湾、香港からじわじわと北上して中国に「噂」を広めていくことができた点は大きかったのではないだろうか。
また、「日系」であることは、現在の日中関係の冷え込みぶりからすると「不利に働く」と考える日本人がいるかもしれないが、それはほとんど関係ない。台湾、香港の人々の日本旅行好きは以前からで、そこから中国に情報が伝わっているため、中国の人々も「今は気軽に日本に行けなくなったから、こっちで日本の回転ずしを食べよう」というモチベーションにつながっている。
■「くら寿司」との明暗を分けたもの
その点、25年末に中国からの撤退が明らかになった「くら寿司」は出店先の選定で、リスクが大きかったのではないかと感じている。「くら寿司」は2020年1月に中国進出を発表したが、運悪くコロナ禍になってしまい、開店は3年遅れて2023年になった。しかも、1号店は上海だった。上海は中国で最も洗練されていて、グルメの激戦地だ。いきなり「本丸」に乗り込み、勝負をかけた形となったが、進出直後に中国が日本産水産物の輸入を停止したことなども逆風となり、撤退となった。
「スシロー」は最も競争が激しい上海を「後回し」にしたことで、「いつになったら上海に店舗ができるのだろう?」という期待感が高まったのではないだろうか。F&LCでは中華圏の店舗数を26年9月期までに320店舗まで増やす計画で、海外の売上比率も30%以上を目指している。日本の少子高齢化などもあり、海外売上比率を伸ばしたい企業は多いが、「スシロー」はどこまでその比率を伸ばすことができるのか、生き残りをかける他の外食産業も注目している。

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中島 恵(なかじま・けい)

フリージャーナリスト

山梨県生まれ。
主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)
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