「腰痛の約85%は原因が特定できない」とされてきた。しかしそれが誤解だと示した研究チームがいる。
山口大学大学院医学系研究科に籍を置く整形外科医の鈴木秀典氏は「丁寧に問診・検査すれば約8割の腰痛の原因は特定できる。大切なのは、自分の腰痛のタイプを知り、適切な治療をすることだ」という――。(企画、構成=ライター・加茂 歩)
■「約85%の腰痛は原因不明」は誤解
「どうせ病院に行っても腰痛の原因は分からない」

「原因が分からない以上、打つ手がない」
こうした患者さんの誤解を解くために実施したのが、「山口県腰痛スタディ」という研究です。
そもそも「腰痛の約85%は原因が特定できない『非特異的腰痛』である」という定説は、アメリカの総合診療医らの論文が基となっています。これが新聞で大きく取り上げられたことをきっかけに「ほとんどの腰痛は原因が分からない」という認識が広まりました。
しかし、「非特異的腰痛」は英語で「Non-Specific Low Back Pain」で、この“Non-Specific”はあくまで“画像だけでは正確な診断はできない”というニュアンスです。決して“画像以外の手段を用いても原因が分からない”ことを意味しているのではありません。
実際に臨床の場では、画像で原因を特定しやすい「ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」以外の腰痛に関しても、丁寧な問診や検査などを実施すれば、その多くが原因を突きとめられていました。つまり、上記の言説が広まることで、世間の認識と臨床の現場で齟齬が生まれてしまっていたのです。
■腰痛の原因の多くは突きとめられる
多くの腰痛患者さんの誤解を解き、実際には大半の腰痛の原因が突き詰められていることを示したい。こうした思いで、私たちは2015年4~5月にかけて山口県の広い範囲で「山口県腰痛スタディ」として調査を実施し、その成果を「山口スタディからみる腰痛診療の現状と課題」という論文にまとめました。
「山口県腰痛スタディ」では、78%の腰痛の原因を特定することができました。
「約85%の腰痛は原因が特定できない『非特異的腰痛』である」という定説の割合を、ほぼひっくり返す結果です。
この研究では、これまで「原因不明」とされてきた腰痛を次の4タイプに分類しています。皆さんの原因のはっきりしない腰痛もいずれか、もしくは複数のタイプに該当するかもしれません。
■腰痛は大きく4タイプに分けられる
1.筋筋膜性腰痛
背中から腰にかけての筋肉や筋肉を包む筋膜が炎症を起こし、痛みが発生する腰痛です。このタイプは、腹筋・背筋の筋力低下が根本原因であることが考えられます。腰のあたりに硬くなっているコリがある場合や、前傾姿勢で腰をひねると痛みが生じる場合、該当する可能性があります。
2.腰椎椎間関節性腰痛
腰椎の椎間関節に負荷がかかって炎症が起き、痛みが発生するタイプの腰痛です。背骨の関節である椎間関節の周りには、数多くの刺激センサーである「侵害受容器」が存在しており、それらが炎症を痛みとしてキャッチします。腰を後ろに反らした際に痛みが出るのであれば、このタイプの腰痛である可能性が高いでしょう。
3.腰椎椎間板性腰痛
背骨と背骨の間でクッションの役割を果たす腰椎の椎間板が変性することで、痛みが生じる腰痛です。椎間板は加齢や繰り返される負荷などにより、内部の水分が減って弾力性が低下し、変性が進みます。前かがみの姿勢になると痛みが出る場合には、このタイプの腰痛を疑いましょう。

4.仙腸関節性腰痛
仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節の炎症により発生するタイプの腰痛です。仙腸関節は仙骨と腸骨をつなぎ、骨盤を安定させる関節です。お尻のあたりを手で押して痛みが生じるのであれば、このタイプの腰痛である可能性が考えられます。
なお、この調査対象となったのは、腰痛を主訴として2015年4~5月に山口県各地の整形外科医院を初診された、323名の腰痛患者さんです。大学病院に受診されるような高度な治療を要する方々ではなく、街のクリニックを受診されるような典型的な症状をお持ちの患者さんを対象としています。そのため、日常的に腰痛に悩む皆さんの参考になる調査結果になったのではないかと思います。
なお、上記に該当しない「非特異的腰痛」もあり、この調査では22%(70例)が該当しました。社会心理的要因の腰痛などが含まれます。
■4タイプの腰痛に有効な行動
自身の腰痛のタイプが分かったとして、腰痛を改善するにはどうすればよいのでしょうか。4つのタイプに共通して有効なのが「運動療法」です。信頼性の高いエビデンスに基づく「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」においても、慢性腰痛に対する運動療法の有用性に「90.9%」の委員が合意しています。
運動の内容としては「腹筋・背筋を鍛えること」「身体の柔軟性を上げること」の2点が特に重要だと考えられます。

1.腹筋・背筋を鍛える
そもそも人間の身体は、腰椎の前弯・胸椎の後弯・頸椎の前弯という「脊椎アライメント」により頭部を骨盤の中心に据えることで、身体全体のバランスを保っています。この姿勢は力学的に腰に大きな負荷がかかりやすいのです。
だからこそ、お腹周りと背中の筋肉を鍛えて、お腹の前と後ろから腰を支えることが重要です。いわば筋肉による“天然のコルセット”をつけるイメージですね。
■運動する際に重要な観点
2.身体の柔軟性を上げる
身体の柔軟性が低下していると、前屈などの動作を腰だけで行いがちになり、腰への負荷が大きくなります。そこで、股関節周りの筋肉やハムストリングス(太ももの裏の筋肉)の柔軟性を高めるようにします。それらの筋肉が腰の動きをカバーし、結果的に腰の負担が軽減されることを狙っているわけです。
こうした運動療法はとくに10~50代まで、幅広い年代に推奨されます。60代以降の方にも運動療法は有効ですが、加齢による脊椎アライメントの変化などから、運動だけでは十分な改善がみられないケースも一定見受けられます。
ここまで、4つの腰痛タイプに共通して「腹筋・背筋を鍛えること」および「身体の柔軟性を上げること」が大切であることを述べました。そこで、腰痛改善が期待できるマッサージ・体操を4つのタイプ別に紹介します。いずれも1分程度でできる、簡単なものですので、ぜひ空き時間に実践してみてください。

■4つのタイプ別マッサージ・体操
筋筋膜性腰痛の方向けの運動
筋筋膜性腰痛には、テニスボールを用いたマッサージが有効です。仰向けになり、痛みやコリのある部分にテニスボールを置き、気持ちがいい程度にボールを動かしてマッサージをしてみましょう。コリのある部分の血流が良くなり、筋肉が柔らかくなることで、痛みが和らぐ可能性があります。
腰椎椎間関節性腰痛の方向けの運動
腰椎椎間関節性腰痛の方は、ヨガのいわゆる「キャット&カウ(猫と牛のポーズ)」をやってみましょう。四つん這いになって「息を吐きながら背中を丸める」→「息を吸いながら背中を反らせる」運動をゆっくり5回ほど繰り返します。尾骨→仙骨→腰椎→胸椎→頸椎と、お尻から首の順に動かす意識を持つことがポイントです。関節同士の間が広がり、こすれにくくなることで炎症が収まる効果が期待できます。
腰椎椎間板性腰痛の方向けの運動
腰椎椎間板性腰痛は「マッケンジー体操」で改善が期待できます。「うつ伏せに寝る」→「両手を肩幅の位置につける」→「両肘を伸ばして2秒キープ」というシンプルな体操を、10回程度繰り返してみましょう。
うつ伏せになれない場合は、立った状態で「肩幅に足を開く」→「手のひらを腰上にあて、上体をゆっくり反らして3秒程度キープ」でも構いません。椎間板の圧力が分散され、痛みの軽減が期待できます。
仙腸関節性腰痛の方向けの運動
仙腸関節性腰痛には、仙腸関節や殿筋(お尻の筋肉)をゆるめる運動が推奨されます。
中でも「仰向けの状態で、足を肩幅に開いて片膝を立てる」→「膝を左右に倒す」という運動が簡単かつ効果が実感しやすいと思います。仙腸関節や殿筋がゆるめられることで、仙腸関節の負荷が減る効果が期待できます。
繰り返しにはなりますが、4つのタイプの腰痛のうち、1つのタイプが該当することもあれば複数のタイプが重なっている場合もあります。原因を1つだと決めつけず、紹介した体操・マッサージをいくつか試してみてはいかがでしょうか。

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鈴木 秀典(すずき・ひでのり)

山口大学大学院医学系研究科整形外科学 准教授

専門は脊椎脊髄病学、脊椎外科。医療現場の第一線で、運動器疾患の治療に従事している。

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(山口大学大学院医学系研究科整形外科学 准教授 鈴木 秀典 企画、構成=ライター・加茂 歩)
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