年金額の「手取り」は想像より少ないかもしれない。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「ねんきん定期便に記載されているのは“額面”の金額であり、手取り金額ではない。
実際には、所得税や健康保険料などが差し引かれて支給される」という――。
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーを考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■きちんと老後資金を把握していたのに…
現役世代の方はご両親などから嘆きの声を聞いたことがあるかもしれませんが、年金の手取り額が減り続けています。「“ねんきん定期便”で確認しているから大丈夫」という方も今一度本稿で、思わぬ“落とし穴”にハマっていないかチェックをお願いします。
「この年金の額、間違ってますよね?」
ある日、知り合いの60代ご夫婦が血相を変えて私のもとにやってきました。大藤さん夫妻(仮名)は夫が定年退職し、昨月はじめて年金を受給。その振り込み金額を見て、慌てて私のところに駆け込んできたのです。
大藤夫妻は、夫の年収が現役時代は平均600万円程度で、いわゆる高給取りの会社員でした。妻はずっと専業主婦で働いたことはなく、国民年金でいう「第3号被保険者」の立場です。そんなご夫妻はハガキで毎年送られてくる「ねんきん定期便」をチェックし、老後資金について試算してきました。
つまり、大藤夫妻は準備を怠っていたわけでもなく、むしろきちんと老後資金を把握し、計画されてきたわけです。
■「ねんきん定期便」に書いてあった金額と違う
大藤夫妻のねんきん定期便のハガキを見せてもらうと、「老齢年金の見込み額(年額)」として、夫が約200万、妻が約50万と記載がありました。夫妻はこの金額を見て、「月額の年金を2人合わせて約20万円と見積もっていた」と話します。
しかし、実際に振り込まれた年金はというと、2人合わせて18万円ほどで、2万円足りないというのです。なぜ大藤夫妻の手取りがねんきん定期便の額面より少なくなってしまったのでしょうか。ここがまさに今回の“落とし穴”だったのです。
私自身、この連載で何度も、「ねんきん定期便は必ず毎年チェックしましょう」と話してきたように、大藤夫妻も毎回欠かさずチェックしていたわけですが、実はこのねんきん定期便に記載されている「老齢年金の種類と見込み額(年額)」(※50歳以上の方の「ねんきん定期便」に記載)に書かれた金額は、あくまで額面の金額であり、手取りの金額ではないのです。では何が差し引かれているのか、解説していきます。
■健康保険料も介護保険料も払い続ける
実際に銀行口座に振り込まれるのは、年金の額面から「所得税」「住民税」「国民健康保険料(75歳以上は後期高齢者医療保険料)」「介護保険料」が差し引かれた金額です。大藤夫妻の夫の例で数字を見てみると、額面200万円の場合、手取りの年金額は月約15万円となり、約12%が税や社会保険料で差し引かれることになります。もらえる年金額やお住まいの自治体によって異なりますが、2026年時点では、額面の年金額からおおむね「10~15%」が税金や社会保険料で差し引かれると考えておくといいでしょう。
ここまでの説明でおわかりかと思いますが、大藤夫妻の「この年金の額、間違ってますよね?」という問い合わせに関しては、「残念ですが、合っています」というお返事となりました。

そもそもですが、「住民税や所得税といった税金=現役時代に払うもの」と勘違いされている方は少なくありません。特に、健康保険料や介護保険料は年金制度と混同されることが多く、「60歳になったら払わなくていい」と思われている方が非常に多いです。
正しくは、健康保険料の支払いは75歳の誕生日を迎えるまで続き、75歳以降は後期高齢者医療保険料を亡くなるまで一生払い続けます。また、介護保険料も40歳以降は介護サービスの利用中含め、原則として亡くなるまで支払いがあります。また、年金が少ない人であっても支払いが免除になるわけではないので、この点にも注意が必要でしょう(ケースによって軽減や減免はあり)。
■額面の年金額から10~15%を引いて考える
将来もらえる年金を試算する場合、額面の年金額からおおむね「10~15%」を差し引いて考えましょう、とお伝えしたばかりですが、今後も年金の手取り額は減り続ける可能性があります。というのも、2000年からの25年間で、年金の手取り額は約18万円も減少している“実績”があるからです(東京都文京区在住・65歳の年金生活者・公的年金と企業年金合わせて年200万円の場合の試算。詳しくは【Money & You TV】「【悲報】年金生活者の『手取り』は減り続けているという衝撃の実態」で解説しています)。
手取りが減り続けている要因は、社会保険料の増額と税制改正です。2000年にはじまった介護保険料は年々増額を続けていますし、高齢者向けの税制上の優遇措置としてあった老年者控除も2005年に廃止に。そして、2007年には所得税・住民税の定率減税が廃止され、国民健康保険料も値上がりが続くなど、この25年の間、年金の手取りが減る動きがずっと続いてきたのです。
少子高齢化時代の中、社会保険料が減少するとは考えづらく、となると、今後も年金の手取りの減少傾向は継続する可能性が高いでしょう。
ちなみに、現在、2024年度末における厚生年金(第1号)の平均年金額は額面で男性約17万円、女性約11万円となっています(厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。
■医療費控除は必ずチェックする
減り続ける年金に対応するにはどうすればいいか。現在年金で生活している方の場合、「節税」が第一にあげられます。ちょうど確定申告の時期ですので、まずは医療費控除をチェックしてみましょう。年金生活者の場合、所得200万円未満に該当する方が多いと思いますので、その場合、医療費が所得×5%を超えていれば医療費控除が使えます(例:所得100万円であれば年間医療費5万円以上)。
病院ではなく市販薬を使用している場合、セルフメディケーション税制がおすすめですが、医療費控除との併用はできませんので、シミュレーションしてみて、より節税効果の高い制度を使って確定申告をしましょう。
その他、節税効果はありませんが、返礼品がお得に手に入る「ふるさと納税」の活用もおすすめです。生活必需品やふだんよく食べる食材などを返礼品として手に入れられれば、節約になる可能性があります。
■「繰り下げ受給」もおすすめ
引退までまだ時間のある現役世代は、NISAとiDeCoでお金を育てることが最も効果的です。「長期・分散・積立」でコツコツと資産形成をしていきましょう。また、2025年度の税制改正により、iDeCoの加入年齢が一定の条件を満たせば70歳未満に引き上げられることになった(施行は2026年12月1日)ので、年金生活者の方もはじめやすくなりました。NISAでいえば年齢制限はありませんので、余力がある方はぜひ検討してみてください。

そして、働き世代の皆さんには、より長く現役を続けて老後資金を貯めつつ、年金をもらう時期を遅らせる=「年金の繰り下げ受給」もおすすめしたいと思います。年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、年金の受け取りを1カ月遅らせるごとに年金額が月0.7%増額され、増額された年金額が生涯続きます。年金の受け取りを75歳まで遅らせた場合、最大となる84%の増額となります。仮に65歳で受け取れる年金額が月額15万円の場合は27.6万円となり、この年金額が生涯続くことになるので、かなり大きな違いですよね。
ただし、年金の金額が増えるということは、今回お伝えした税金や社会保険料が増える可能性もあり、増額分がまるまる手取りにならないことには注意が必要です。
ここまで駆け足で説明をしてきましたが、ポイントとしては、ねんきん定期便を見る時は、額面の年金額からおおむね「10~15%」を差し引いて考えること。そして今後も年金の手取り額は減る可能性があることを覚えていただき、安心の老後に備えていただきたいと思います。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)

Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士

慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。
FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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