■勝敗ラインが「すでに達成済み」のナゾ
わが国の総理大臣、俺たちの高市早苗さんが、記者会見で高らかに解散を宣言されました。そうですか。
ほとんど東西ポピュリズム大戦みたいな状況になってきております。すべての政党が国民ネット世論に迎合しすぎて、れいわ新選組みたいなことになってるの。
結論から言えば、高市政権の支持率が高いんだから、高いうちに選挙やっちゃえって話に過ぎないわけで、政策なんて何でもいいんですよ。雰囲気で、高市さん推しでそのまま投開票日までなだれ込めばきっと勝てるに違いない、と。
会見で出た高市さんのおっしゃる解散の理由は「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか。いま、主権者たる国民の皆さまに決めていただく。それしかない。そのように考えたからでございます」という、それってお気持ちであって、高市政権が国民に信を問うためにどうしても取り組みたい重要な政策の是非を掲げるものではないようです。
しかも、連立政権(という名の閣外協力)を組む日本維新の会さんとの合計で自民維新が過半数を超えれば勝ち、とかおっしゃってました。いや、それ勝ちのハードル低すぎねえですか。といいますかいま、自民維新ですでに過半数ですよ、1議席差でギリですが。後述しますが、これは要するに「高市早苗としては、党内や維新さんと政策を調整するつもりはあんまりないので、フリーハンドで高市早苗に国家運営を任せてほしい」という白紙委任状を有権者に求める解散なんじゃないの、と思うわけです。

■ローマ皇帝のような「全員あたしについてこい」
つまりは、“高市早苗が総理として行いたい枢要な政策を掲げて信を問う”のではなく、“アイアム高市早苗。皇帝としてふさわしいから、全員あたしについてこい”という、現代民主主義というよりはローマ帝政における形式論的な信認選挙みたいになっております。実質的な国家運営に関する政策論争になっていないのだから、選挙が形骸化して、より耳あたりの良い政策だけが並んでポピュリズムばかりが叫ばれるのは当然とも言えます。
社会保障とか成長戦略などどこに行っちゃったのでしょう。絶対的な同盟国から相対的な二国間関係となって、日本の安全保障の基盤も揺らいでいるから防衛費増額で自国のことは自国で守る、そのためには財源が必要だから消費税は下げられないって話じゃなかったですか。つい半年ぐらい前に、幹事長だった森山裕さんがそう言ってたと思うんですが……。
まあ、国際的に見ても国際法とかガン無視で大国がバリバリに中小国に攻め込んでいい感じの世界観になってきていますから、トレンドを先取りしているのかもしれません。さすが高市早苗だ、なんともないぜ。
■関係者からも「聞いてない」の声
1月9日、読売新聞さんが「高市首相が衆院解散を検討」と報じた瞬間から、永田町は奇妙な空気に包まれることになりました。まあ、みんな聞いてなかったんですよね。昨年から今井尚哉さんがなんか言ってたなぐらいで。
他方で、高市早苗さんが「働いて、働いて、働いてまいります」と力強く宣言された割に、10日ほど公邸や外交日程で解散意向をシャットアウトしていて、さぞかしすごい政策や公約が打ち出されると思いきや……いきなり2年間食料品に限り消費税廃止とかれいわ新選組みたいなことを言い出し関係者一同イスから落ちる調整が繰り返されてきたわけであります。
どうすんだこれ。
もちろん、時限的な減税の検討であり、官邸の面々からも「給付付き税額控除が国会で早期決着すれば消費税減税は見送る」と注釈は付いているわけですが、これはまあ雰囲気にのまれてうっかり減税ポピュリズムに踏み出したと捉えられても仕方がない面があります。高市早苗政権発足当初は、霞ヶ関の面々も割と張り切って高市さんを支えようという雰囲気だったのが一転、さすがに急速に後ずさりをしているようにすら感じられます。大丈夫なのでしょうか。
■安倍政権とは違う「準備不足」の露呈
とにかく「なんだかよくわからないが、とりあえず解散らしい」という状態で準備を進めるほかなかった今回の解散総選挙ですが、とりあえず具体的な政策らしきものはないっぽいのことに驚きました。てっきり高市さんの口からビックリドッキリメカ的な政策でもぞろぞろ出てくるのかと思いましたが……出てきた内容がれいわ新選組とあんまり変わらないので、高市さんの政策認識は山本太郎さんと大差ないんじゃないのって言われかねません。なんとなく雰囲気で、高市早苗さん推しで選挙準備に邁進すればいいのでしょうか。政権支持率も高いしまあいいか、って感じで。
思い返せば、安倍晋三さんが得意としたサプライズ解散というものは、解散は総理の専権事項であって、例えば消費税増税の是非など国論を二分するような争点があり、国民がわいわい議論しているところにパッと解散を宣言するものでした。そして裏では、党務も候補者擁立も争点整理も、いわば「戦争準備」が着々と進められていたからこそ、サプライズされても現場は対応できたわけです。「一億総活躍社会」とか、わかりやすい政策をパッケージにしたスローガンもちゃんと策定してね。
■公明党が立憲民主党と合流の衝撃
2014年のアベノミクス解散では、この解散の立役者でもある今井尚哉さんが政務秘書官として、GDP速報値のマイナス成長を引き金に増税延期という国民が反対しにくいテーマを争点に据え、徹底した極秘と抜き打ちの演出で自民党を大勝に導きました。

ところが今回は、19日になってようやく争点らしきものがぼんやり見えてきた程度であり、「さすがにどうなのか」という反応が党内外から噴出するのは当然とも言えます。奇襲をするのに味方を欺くのは兵法として仕方ないにしても、普通は「怠らず準備しておけよ。常在戦場や!」と必要な準備はちゃんと実施させ臨戦態勢を敷いてからやるものではないか、という異論が出るのも当然でしょう。味方も驚く圧倒的進軍をするべきところが、味方が置いていかれて大将だけドラム叩いて突撃って風情なのはさすがに困ります。この状況をわかっていてどうにかしようとしていたのは、主戦派の中でも高市側近の木原稔さんだけだった、という状況でした。
そんな混乱のさなか、野党側では衝撃的な動きがありました。立憲民主党さんと公明党さんが、希望する立候補者が参加する「中道改革連合」なる新党を立ち上げ、統一名簿方式で選挙協力を進めると発表したのです。えー。26年間にわたって自公連立を当然のものとして選挙を戦ってきた現場からすれば、「え、え、公明党さん、本当に向こうに行っちゃうの」という衝撃は相当なものがあります。愛想を尽かされて、離婚を突きつけてきた配偶者が新しいパートナーと再婚したような心境でしょうか。
「さようなら、公明党さん……幸せになれよ」とは思いつつも、公明党さんが離れて失う票はまあまあ読めても、高市人気や維新さんとの連立で得られる票はまったく未知数であり、各陣営は不安でいっぱいです。
■「中道改革連合」への冷ややかな視線
公明党さんの連立離脱については、その後も公明党さん各位とはずっとやり取りさせていただいておりましたが、自公間のコミュニケーション不全がありました。
高市さんの解散決断について公明党さん側には情報がなく、連絡ルートだった木原誠二さんはすでに失脚してしまっています。残念。その結果、冷え切った夫婦関係のように実も情もない会話しかできない公明党さん内で疑心暗鬼が広がり、存亡を賭けて立憲民主党さんとの合流に舵を切ったというのが真相のようです。
女房に出ていかれたダメ亭主の側からしますと「あんな男(やつ)のどこがいいの」って言いたくなりますが、ときすでに遅し。普段からちゃんと緊密に話ができていれば、こういう事態にはならなかったはずであり、非常に残念なボタンの掛け違いと言わざるを得ません。
で、ここで各社の世論調査を見てみますと、高市内閣の支持率は依然として高水準を維持しています。NHKの1月調査では支持62%、不支持21%。朝日新聞では支持67%、不支持23%。特筆すべきは40代以下の若年層での支持率の高さで、50代以下では軒並み70%台に達しています。内閣支持率が高いこと自体は良いことでしょう。
■共産党に突きつけられる「レクイエム」
一方、政党支持で見ますと自由民主党も大したことはありませんが、それ以上に新しい門出となった中道改革連合への期待も冴えません。朝日新聞の調査では、新党が高市政権に対抗できる勢力になると思うかという問いに対し、「ならない」が69%を占め、「なる」は20%にとどまりました。
比例投票先でも9%程度です。ここから選挙に向けて新しい党名や取り組みが有権者の間に浸透していけばまた話は違ってくるかもしれませんが、乾坤一擲の打開策として婚活からのスピード再婚をした割に何とも微妙な数字です。
中道を名乗りながらも、有権者には左派色が強いと見透かされているのかもしれません。というか、中道改革連合から出馬を決めた有田芳生さんとか、公明党の皆さんは票を投じることはできるんでしょうか。普通に小選挙区の公明党さん票はF票含めて国民民主党さんとかにバラバラに流れ、比例で公明党さん議員だけを当選させようとしたらそうなってしまうんじゃないかとすら思います。
さらには、この座組みから切り離された日本共産党さんはいよいよ存続の危機に直面しそうです。これは自由民主党に対する離別というだけでなく、現実を直視しない政策を掲げ続けてきた教条的左翼勢力へのレクイエムにもなるなんじゃないかと思ったりもします。念仏かもしれんけど。玉突き的に「立憲共産党」と揶揄されながらも長く立憲さんと共闘していた日本共産党さんが強制離縁させられ、ほとんど不倫の果てに亭主を寝取られた共産党さんの境遇に思いを馳せざるを得ません。
■「傷もの議員」を再利用する参政党
参政党さんは政党支持率こそ低いものの、投票意向では7%台とそこそこの数字を維持しており、政治に詳しくない層をかき集める力は健在のようです。
どうも日本各地で自民党ほかで問題を起こして追い出された傷物議員を続々と落ち穂拾いして、参政党公認のお札をつけて選挙区に出荷する予定になってまして、議員辞職や自民離党するべき理由があって追い出されたのに、政治家であることに未練を残している怨霊や地縛霊みたいな状態をまとめて引き取り再出発させてしまう参政党さんはさすがです。いや、あれはヤベェぞ擁立はやめておけよお前らが危ないぞ、と言いたいところですが、なんか楽しそうにやってるし、彼らが好きに歩んでいる道なので背中を見送りたいと思います。
グッドラック。
しかし、地方組織を充実させつつある参政党も本質的には反ワクチンや「小麦は毒」など陰謀論やトンデモ反知性の側面も持ち合わせていますから、そういう現状不満を抱く層かき集めるならかなりいけるのかもしれません。もっとも、本来なら、サプライズ解散の前にこのような陰謀論やガセネタなどSNS上のデマ対策やネット選挙のルール整備を進めておくべきだったのではないでしょうか。公職選挙法改正もそのままですしね。
■維新「首都機能バックアップ」論の矛盾
連立政権(という名の閣外協力)を組む日本維新の会さんも比例投票先では10%以上を確保しており悪くない数字です。ちょっと前の燻ってる維新さんの低迷ぶりからすると、かなり光明が見えはじめる数字にも感じられます。良かったね。
ただ、大阪府知事選と大阪市長選のダブル選挙に打って出るという不思議な挙動には首をかしげざるを得ません。何してんの。大阪都構想や副首都構想を掲げていますが、東京の首都機能が直下型地震で喪失された場合のバックアップを想定するなら、同じ南海トラフで被災リスクのある大阪よりも、福岡や新潟、金沢といった地域のほうが適切ではないでしょうか。しかも大阪都構想は過去2回の住民投票で否決され「もうやらない」と言っていたはずなのに、また蒸し返すというのは組織としての一貫性が問われます。
自民党大阪府連もブチ切れて青山繁晴さんを衆議院に鞍替えさせちゃうぐらい激おこです。朝日新聞の世論調査でも、このダブル選挙について「納得できない」が46%で「納得できる」の35%を上回っており、大阪府を含む近畿地方に限っても「納得できない」が50%に達しています。なんだかんだ、大阪府知事選と大阪市長選はそれなりに税金かかりますからね。
■玉木雄一郎氏が“激怒”したワケ
国民民主党さんは無難に堅調な推移を見せています。連立与党には入らないものの政策実現を優先し、早々に年度内予算成立への賛成を表明して高市政権の運営に寄与しました。ところが突然の早期解散によって、何のために予算に賛成したのかよくわからないことになり、玉木雄一郎さんが激怒するのも無理はありません。
本来なら公明党さんは立憲民主党さんではなく国民民主党さんと組んだほうが、若年層に支持される勢力として躍進できたのではないかとも思います。高齢者に支持される立憲民主党さんと高齢者に支持される公明党さんが一緒になったところで、高齢者からの支持がまあまあ集まる中道改革連合になるだけですからね。得意としているところが被っているよりは、国民民主党さんのように若い人が支えている支持層のところと組んだほうが公明党さん的には良かったんじゃないかとすら思います。
■なぜ国民民主党は「新党」と距離を置くのか
そして、中道改革連合として国民民主党さんにも参画を求める話はあるのでしょうが、玉木雄一郎さんや榛葉賀津也さん、伊藤孝恵さんからすれば、立憲さんとは単に支援団体としての連合が一緒であったというだけで、連合の中でも大手組合ごとに取り組むべき政策も違いますから敬意を示しつつも合流指示は無視でいいという話になります。ことあるごとに弟分的な手下扱いをしてくる安住淳さんの手を握るように見えるのも屈辱でしょうしね。
国民民主党さんからすれば、自民党中心の少数与党政権に国会運営での賛成をチラつかせながら自分たちのやりたい政策をのませていくほうが利得が高く、そういう面倒くさい国会運営が嫌だから高市早苗さんも解散に踏み切ったとさえ言えます。
高市早苗さんからすれば、そういう連立政権(という名の閣外協力)を組む日本維新の会さんやいちいち面倒くさい交渉をしなければならない国民民主党さんとの調整なしに国会が満足に運営できないことに我慢がならないのでしょう。それだけでなく、鈴木俊一さん以下自民党現執行部との連携が途絶えがちで「傷モノ」の剛腕・萩生田光一さん経由で意志疎通しようとされるのも、自らの足場である自民党ですら、ことあるごとにコミュニケーションを取らないと言うことを聞いてくれない状況が高市さんにとって嫌なのだともいえます。
■繰り返される「高市早苗的行動」
思い返せば、解散のような重要な局面で1月9日に読売さんの観測記事が出てから連休中ずっと公邸に籠り、外交日程が終わる19日の発表まで10日も正式に表明しなかったのも、かつて政調会長在任時にある政策案件で調整に手間取り数日間にわたって連絡がつかなくなって大騒動になったのも、前回23年奈良県知事選で保守系前職知事を降ろす調整をしないまま総務大臣時代の秘書官・平木省さんを立ててしまって共倒れし、お膝元で維新系知事が爆誕してしまったのも、すべて「高市早苗の高市早苗による高市早苗的行動」が同じように繰り返されてきた歴史とも言えます。
やりたいことがあるのはわかるが、その決定に至った意志が伝わらず、ちゃんとコミュニケーションを取らないので周囲が混乱し、どうしようもなくなって雲隠れしてしまうわけです。安倍晋三さんの愛弟子を自認しながらも、その安倍派であった清和研究会への再合流を周囲が認めなかった遠因もここにあるわけで、仮に乾坤一擲の解散総選挙が高市早苗さんの圧倒的な政権支持率を追い風に大勝するとしても宰相としてどうか同じ過ちを繰り返さず、油断のないよう先を見ながら政権運営に邁進してほしいと願うのです。
■政権内に「きちんとした脇役」が不在
そして最大の疑問は、冒頭で書きました通り、勝敗ラインが「自民・維新で過半数」という点です。それはすでに現状でクリアしているではありませんか……。諸葛孔明が横から出てきて他にすることはないのですかと言われるレベルでよくわからないハードルになっています。
そもそも解散の大義が曖昧である以上、高市早苗政権を有権者が選ぶのかどうかを問う解散なのだとするならば、せめて「自民党単独で過半数」とか「自民・維新で安定多数以上」といった目標を掲げるべきではないでしょうか。普通は、解散するからには政権として最優先で取り組みたい重要な政策や国家方針があって、その実現のためにどうしても安定多数を目指したい、だから国民に信を問う、というのが筋のはずです。
すなわち、高市早苗政権の最大の問題は、高市さんが自分自身で考え、推進していくことに支持が集まっているのはすばらしいことなのに、それが正しいのか間違っているのか、周りに方向を指し示すことのできる「きちんとした脇役」が不在のようである、という点です。総理として推進したい何かがあるというパッションはあるけど、その「何か」は実際には不明で、読売さんの解散観測報道から10日間、これといった名案も出ないまま「食料品に限り2年間消費税減税」とかいうれいわ新選組のようなことを推進しようとしてしまう。どうしてこうなった。
■全政党が「れいわ化」する異常事態
そして、それには当然、目下の物価高、歯止めの効かない円安、急上昇する国債金利、インフレに比べて低迷する日本の成長率、進まない賃上げ、世界で立ち遅れる学術研究、地方で暮らせないレベルで衰亡する医療インフラ――このあたりの統合的な政策群というものを、人気のある高市早苗さんが政策パッケージとしてうまくまとめて出していけば良かったのにと毎度思います。
結果として、今回の解散総選挙は、ポピュリズム大戦の様相を呈しつつあります。政権与党だけでなく、公明党さんが中道改革連合として「食料品に限り消費税0%を検討」とか「インボイス制度撤廃」などと言い出しました。いや、公明党さんと夫婦生活してたとき、インボイスぐらいはわかってたはずでしょ……なんでみんな、続々とれいわ新選組みたいなことを言い出してしまうの。結果として、財源問題や円安・物価高対策について深い議論がないまま、国民ウケしそうなバラマキ的な政策ばかりが与野党双方から飛び出してくる。働いて働いて働くとおっしゃっていた割に、大してすごい政策が出てくるわけでもない。これって何のための解散だったのでしょうか。

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山本 一郎(やまもと・いちろう)

情報法制研究所 事務局次長・上席研究員

1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。

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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)
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