■台北市街を再現して「斬首作戦」訓練
1月3日に実行された米軍によるベネズエラ攻撃で、ニコラス・マドゥロ大統領が拘束された。これをきっかけに、中国軍による台湾への「斬首作戦」の可能性がメディアで取り上げられるようになっている。
斬首作戦とは、要人の暗殺や拘束によって敵国の指揮系統の無力化を図る手法を指す。中国は以前から台湾を念頭に置き、この作戦の準備を行っている。
中国軍最大の訓練場である朱日和合同戦術訓練基地(内モンゴル自治区内)には、2015年に台湾総統府を模した建物が造られた。その後も外交部(外務省に相当)や司法院、国防部後備指揮部を模した建物が続々と建てられ、台北市街地を砂漠の中に再現。模擬総統府と模擬司法院をつなぐ全長280メートルの地下道まで存在している。ここで台湾指導部を排除する作戦の訓練が行われているのだろう。
■台湾指導部を排除し、短期決戦で終わらす
なお、直近では1月16日、国営中央テレビの軍事チャンネルで放送された動画をもとに、中国共産党系メディアが斬首作戦の訓練の様子を伝えている。具体的な場所や時期、部隊名などは伏せられていた。
中国の斬首作戦は台湾の指導部を初動で排除し、国家としての意思決定を不可能にすることで、短期間で戦争を終わらせることを目標としたものだ。これが達成されたとき、作戦は「成功した」といえる。
しかし結論から言えば、台湾に対する斬首作戦は成功の可能性が極めて低い。むしろ実行した瞬間に中国自身が戦略的失敗へ踏み出す構造を内包している。
■民主制の社会には通用しない
考えてみれば当然のことだが、斬首作戦が有効に機能するのは、権力が一人の指導者に極端に集中し、その人物が国家そのものを体現している体制に限られる。北朝鮮がまさに典型例であり、ベネズエラもそれに該当するだろう。
だが台湾は、その正反対に位置する。
台湾は民主制が敷かれており、権力は分散され、制度化された継承システムと官僚機構によって統治が維持されている。総統や一部の政治指導者が排除されたとしても、副総統、行政院、国防部、地方政府が即座に機能を引き継ぐ。軍の指揮系統も個人に依存しておらず、制度として構築されている。つまり「政治指導者の首を取れば国家が止まる」という前提条件そのものが成立しない。
■台湾社会は徹底抗戦の意思を見せる
そして台湾に対する斬首作戦には、より致命的な矛盾がある。
まずひとつには、台湾社会の反発だ。もし政治指導者が殺害されれば、台湾社会は「侵略」としてこれを受け止める。中国が唱えてきた「中台統一」や「内政問題」といった文言はすべて無効化され、台湾内部の親中派は沈黙せざるを得ない。社会全体に徹底抗戦の意思が最大化し、市民の戦争への動員は加速する。抵抗は長期化・ゲリラ化し、泥沼の消耗戦に突入するだろう。
そして国際社会からも同様の反発を招く。前述の通り、中国は一貫して台湾問題を「内政問題」と位置づけ、武力行使の正当性を装おうとしてきた。だが、斬首作戦の実行はこの建前を一瞬で破壊する。民主国家の政治指導者を意図的に殺害することは、国際社会において最も非難される行為のひとつだからだ。
台湾有事で中国にとって最も重要なのは、アメリカと日本の介入をどれだけ遅らせられるかである。初動の数日間の時間稼ぎができるかどうかが、その後の戦局を大きく左右する。
■日米の即時参戦と経済制裁を招く
混乱、分断、疑心暗鬼を生み出し、台湾社会と国際世論を操作するために、SNS、動画プラットフォーム、匿名掲示板、親中的メディアなどを通じて、「抵抗しても勝ち目はない」「米国は必ず台湾を見捨てる」「戦えば都市が壊滅する」といったメッセージを拡散するだろう。
こうして恐怖を強調すると同時に、「平和統一なら生活は守られる」「今なら交渉できる」という“逃げ道”も用意する。これは事実と半分の真実、そして嘘を巧妙に混ぜた心理操作だ。
しかし軍事行動の過程で斬首作戦が実行されれば、認知戦は一気に収束する。被害者(台湾)と加害者(中国)の構図が明確になり、中国に有利な空気は消える。国際世論は「被害者」である台湾を中心に固まるだろう。
そして民主国家の政治指導者が殺害されたとなっては、アメリカが参戦を躊躇する理由は存在しない。日本にとっても、存立危機事態の認定が極めて容易になる。
つまり斬首作戦は、介入を遅らせるどころかアメリカと日本の参戦を即時化させる最悪のトリガーなのだ。同時に、国際社会からの経済制裁も最大化する。国際的包囲網が最短距離で形成されることになるわけだ。
■長期戦化すれば国内体制が揺らぐ
このように、斬首作戦は成功する確率が極めて低く、失敗した場合の戦略的コストも致命的だ。それでも中国はこの作戦を放棄しない。
中国があくまで長期戦を避けたい理由は、国内体制の都合によるものだ。
戦争が長期化すれば、戦死者の増加、雇用の悪化や物価高による社会不安が不可避となる。経済制裁が長引いて国際市場に戻れなければ、若者と中間層には不満が蓄積していく。「中華民族の偉大な復興」という物語は、経済停滞という現実を前に空洞化することとなる。
こうした状況は、民主国家以上に共産主義体制を内側から蝕む。選挙で政権交代が起きるわけではない中国にとって、社会不安はそのまま統治の正統性への疑念につながるからだ。だからこそ中国が許容できる戦争の形は、大規模な兵力を投入して、短期間で、決定的な勝利をもたらすものでなければならない。
■台湾上陸作戦はより難易度が高い
そして、斬首作戦が選択肢として残り続けるもうひとつの理由は、ほかの選択肢がより厳しいという現実にある。
台湾への上陸作戦を実行した場合、中国側の損害は甚大で、成功の確率も高くない。台湾海峡は平均約180km、最短でも約130kmあり、数十万人規模の兵力を大量の艦船で海上輸送しなければならない。
圧倒的な制空権・制海権・事前制圧・同盟国連携という条件がそろって初めて成立した「ノルマンディー上陸作戦」(第二次世界大戦中の1944年6月6日に連合国軍によって行われた、ナチス・ドイツ占領下のフランス北部への史上最大の上陸作戦)のようにはいかないのだ。
また、海上封鎖は長期化しやすく、米国や日本の介入を招く可能性が高い。この選択肢と比べたときに、斬首作戦は成功の可能性は低くとも短期決着の可能性が理論上は残ることから「まだまし」と位置づけられてしまう。
■習近平が抱く危険な幻想
習近平体制は、体制を内側から蝕む長期戦ではなく、短期間で決着がついたかのように見える勝ち方を必要としている。だからこそ、台湾の指導部や指導中枢を一気に無力化し、抵抗の意思そのものを奪うという発想は魅力的に映るのだろう。
斬首作戦はあくまでも「理論上実行可能」な選択肢にすぎないのだが、中国指導部はこれによって短期間で勝利を手中に収めることができるという「幻想」を抱いている。この「幻想」が存在する限り、中国にとっても日米を含む関係国にとっても、台湾有事は誤算とエスカレーションの危険を常に孕む、最も危うい紛争であり続ける。
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宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。中国・北朝鮮を担当。
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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)

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