2025年、東証で上場廃止する企業は100社を超え、過去最多を記録した。中央大学の近廣昌志准教授は「上場企業としての優位性が薄れ始めている。
アクティビスト(物言う株主)の拡大や配当性向のプレッシャーから、上場廃止を目論む企業は今後も増えるだろう」という――。
■投資家が「上場廃止」に注目する理由
上場廃止は、多くの場合、市場価格より高く買い取られるなど「上場廃止利得」が得られるため、次はどの企業が上場を廃止するのか、これを見極め予測することは株式投機のひとつの戦略だ。
2025年の上場廃止企業の割合は、東証プライム上場会社数1599社のうち45社で約2.8%、東証スタンダード1568社のうち59社で約3.8%、東証グロース613社のうち21社で約3.4%と、実数も割合も増加している。
上場廃止の理由を見ると、TOB(株式公開買付け)が圧倒的に多く、買収・合併とMBO(経営陣による自社買収)が続く。
この増加傾向は2026年以降も続くとみられる。上場企業であることは、良い人材を採用するうえで最も重要な要件のひとつで、これまで上場コストや上場維持コストをかけてでもそのステータスを維持しようとする企業が多かった。しかし、ここへきて流れが変わろうとしている。
■上場時点で「乗っ取り」リスクが生まれる
「証券市場は企業の資金調達のためにある」という教科書的な解釈を信じている人は少なくないだろう。しかしIPO(新規株式公開)で新たに上場企業になる場合であっても、必ずしも資金調達を目的としているとは言えない。
IPOは、創業者やベンチャーキャピタル等のEXIT戦略としての意味合いが大きく、創業者が保有する株式の一部を一般に売却するだけなら資本金を増やすことにはならない。それを「ダイレクトリスティング」と呼ぶ。
上場企業になるためには、証券取引所の定める基準を満たし、IRに関わる費用がかさんでしまい、そもそも会社のことを色々と公開しなければならなくなる。
それよりも何よりTOB等で買収される可能性に怯えることになる。
2025年末には、小林製薬の筆頭株主が香港系の投資ファンド「オアシス・マネジメント」になり大きな話題になった。このファンドは市場でじわじわと小林製薬の株式を買い増していたのだ。これを批判する意見も見られるが、上場している以上、文句を言うのはお門違いだ。
■「狙われやすい企業」の4つの共通点
経営陣が株式を買い占めて非上場化を目指すMBOのためには、上がりすぎた自社の株価下落はチャンスになる。一方で、時価総額が大きいと、買収する側も障壁が高くなり買収される蓋然性は低くなる。
そもそも、どのような上場企業がTOBのターゲットになりやすいのかという観点から、4点ほど紹介したい。
第1に、1株当たりの利益に対して株価が比較的低い、時価総額が小さい企業だ。業績自体は悪くないのに同業種よりも株価が低迷していると、当然のこととしてTOBでも狙われやすい。だからこそ、経営陣はMBOを真剣に検討するのだ。
第2に、ファミリー色の強い企業だ。特にオーナーによる企業統治が鮮明な企業も、上場を維持して同意なき買収に巻き込まれるより、MBOを選択するインセンティブは大きい。
さらに高配当の企業は、利益を創業家に還元しており、配当に回すより新事業に振り向けたほうが長期的に企業価値は高まると考えられる。むしろ事業拡大ができていない企業は狙われやすいともいえる。
■投資ファンドにとって魅力的に映るもの
第3に内部留保の多い企業にも注目が必要だ。内部留保とは経営上の概念で、財務諸表で言えば利益剰余金を指す。内部留保が大きいからと言って、流動性資産(現金・預金)が大きいとは限らないが、本業に直接関係のない資産を売却して配当に回せる余地が大きいとも言えることから、TOBを仕掛けられる余地も大きい。
第4に本業以外に関わる資産が大きい企業だ。これはアクティビストにとって、とても魅力的に映る。典型的な事例は、本業の事業とは別に、保有不動産からの収益が大きい企業だ。
株価にとってROA(総資産利益率)を上げることは最も重要な観点で、同じ利益ならバランスシートが小さいスリムな企業のほうが株式市場の評価は高くなる。保有する不動産をことごとく売却して得られる流動資産を配当に回すことは、株価を上昇させる手っ取り早い方法だ。
■非上場でも立派な企業はたくさんある
上場企業であるかどうかは、今でも就職活動中に学生にとって大きな基準であることに違いはない。親が安心するから、生涯年収が良いから、企業年金があるから等、学生たちは関心のある業種や企業風土よりも「上場企業であるか」を重視してきた。
これこそが上場企業が上場を維持する最大の理由といっても過言ではない。
一方で、新卒や転職の際の就職希望先に対する判断も多様化してきており、むしろ非上場企業の「穴場」や、すぐに成長機会を与えてくれる企業、年功序列ではなく実力が年収に直結する企業を選ぶ学生が増えてきていることも確かだ。
筆者は大学のゼミ生に『四季報・未上場会社版』(東洋経済新報社)を見せて、世の中には非上場でも産業の基幹をなす立派な企業の存在を伝えている。未上場企業が持っている上場企業にない魅力を知ってほしいからだ。
■上場のメリットよりデメリットが目立つように
上場企業を英語で“Listed Company”や“Public Company”という。Listedは言葉通り証券取引所のリストに挙げられるという意味で理解しやすいが、Publicについては「公共」と訳すものではない。Publicとは、対価さえ支払えば誰でもアクセスできる、つまり株式を購入すれば誰でも株主になれる会社という意味だ。だからこそ、四半期ごとの決算を公開する必要に迫られる。
長年にわたり新規株式発行による増資を行っていない上場企業が、より多くの自社の情報を公開しなければならず、手間も費用もかかるのに、上場を維持し続けているのは、優秀な人材を確保するためだ。
しかし、就活生や転職希望者の基準が変わりつつある今、企業にとって上場し続けるインセンティブもじわじわ低下している。未上場・非上場で社員の年収が高い企業が増えると、上場企業というブランド価値が薄れる一方、買収される可能性という「恐怖」が目立ち始める。
だからこそ、MBOで上場廃止を狙う企業が今後も増えていくと予想される。
これはTOBやアクティビストの介入を避けるためでもある。
■「物言う株主」は企業にとって悪者なのか
アクティビストから口出しされる企業側からすると、短期的な株価上昇が求められ、創業者の理念や歴史などを軽視されると良い気はしないはずだ。だがアクティビストをはじめとする投資ファンドは、株価を上昇させたうえで彼らもEXITすることが目的なのだ。
支配ではなく株価上昇が目的であれば、既存株主である創業家にとっても悪いことばかりだけではない。
アクティビストが関わり、投資ファンドによる株式保有が増えると、その企業の株価が上昇しやすいことは,証券市場や企業統治の研究分野ではよく知られている。株価が上昇することと、企業業績が改善することとは必ずしも同義ではないものの、低迷するよりは、ROA上昇など根拠を伴う好調な株価のほうが歓迎すべきだろう。
もちろんアクティビストが「物言う株主」だからといっても、株価が上がり続ける保証はない。ひとつ注意が必要なことは、アクティビストが有する株式を、時の市場価格を下回る価格で次のファンドに売り渡すこともあるという落とし穴だ。
先述したアクティビストとしての投資ファンド「オアシス・マネジメント」は、昇降機メーカー、フジテックの株式を取得し、2020年1月の株価約1740円から2025年1月には6100円へと、3.5倍に大きく株価を上昇させた。その後、市場で6200円だったフジテックの株式を、2025年7月になんと1株5700円で売却すると発表した。オアシスとしては確実に次のファンドに売却するために「値引き」したことになる。
■「外圧」に耐え続ける上場企業は偉い
上場を維持する企業は、それでも社会的に偉い。
証券市場が十分に機能するためには、優良企業が上場した状態にいなければならない。
企業が利益を出せるのはもちろん優秀な財やサービスを提供できる能力がある証左であるが、もう一つ、「配当」という利益を社会にパブリックに分配する仕組みは忘れてはならない側面だ。年金の運用も、だいぶ社会に浸透した投資信託も、株式市場のおかげで成り立っている。
カラフルで妙なピンバッチを胸につけて連帯感を得るより、社会の中で利益を出し、そしてその利益が広く株主の配当となる、それこそが根本的な上場企業、そして証券市場の社会的責任というわけだ。
「物言う株主」を排除するために非上場を選ぶのか、「外圧」によって現状の課題を克服するのか――。資本主義がもっと効率的になることは社会的に歓迎されることではないか。

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近廣 昌志(ちかひろ・まさし)

中央大学准教授

1978年広島県生まれ。中央大学商学部金融学科卒業。中央大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(金融学)。愛媛大学准教授を経て2022年より現職。専門分野は貨幣金融論・貨幣供給理論。主な出版物に『60分でわかる金利 超入門』(監修)技術評論社 2025年、「通貨と銀行」(『入門銀行論』2023年、有斐閣、第2章の一部所収)、「管理通貨制と中央銀行」(『新版 現代金融論』2016年、有斐閣、第5章所収)他。
ピアノという楽器が好きで、自身のYouTubeチャネル「ちかひろピアノ」を開設している。

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(中央大学准教授 近廣 昌志)
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