※本稿は、藤井貴彦『伝える準備』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■仕事日記の始まり
日記は自分自身へのインタビュー
私が日記を書き始めたのは、アナウンサーとして日本テレビに入社した直後でした。
新人アナウンサーの仕事内容は、部内の雑用も含め多岐にわたります。
当時はまだ、社内のどこでも煙草が吸えたこともあり、朝一番は灰皿の片づけから始まります。その後、コーヒーをドリップし、冷蔵庫の飲み物を補充し、電話も受けました。部内のテーブル拭きなどなど、今では懐かしい駆け出しの仕事もたくさんありました。
そこに、新入社員としての人事研修、発声練習、ニュース読みの練習、先輩の放送チェックなど、本来のアナウンサーの仕事が重なります。
さらに、新人アナウンサーの密着取材、番組PRの録音、夜のスポーツニュースの生放送と、まさに息つく暇もなく時間が過ぎていきました。一日として同じ仕事がない中、自分が仕事に溺れてしまっているのが、はっきりとわかりました。
「このままでは仕事に自分が振り回されてしまう」と危機感を持ち、まずはその日一日の仕事内容を書き出してみた、これが私の仕事日記の始まりです。
■日記で自分自身と向き合う
面白いことに、当時の日記を振り返ると、書いた字すら疲れていました。
その日の仕事内容を書き出すだけでしたが、そのエネルギーすら残っていなかったのだと思います。
しかし、仕事内容を書き出す作業を続けていくうちに、その日一日の自分の行動が整頓できるようになったのです。
仕事の種類は多くこなしていましたが、アナウンサーとして成長できる仕事の割合があまり高くなかった。
もっと時間を有効に使えたのではないか、本当はどんな一日にしたかったのか、日記を書きながら自分に問いかけていました。
それはまさに「自分自身にインタビュー」をしていたのだと思います。
1カ月、2カ月と続けていくうちに、仕事内容の列挙だけではなく、自分がどうしたかったのか、その日の自分がどう感じていたのか、を書いていくようになりました。
もちろん、うまくいかなかったことを誰かのせいにしたり、仕事がうまくいったことを自らほめたりと、素直すぎて恥ずかしい文章も多くありました。
それでも、自分自身と向き合うことで確実にその日のストレスをリセットできていました。
今年で日記は27冊目。その日のうちに書くことができなかったとしても、日曜日までにはその週の日記を書き上げてきました。
私は日記で自分をクールダウンさせ、次への準備を整えていたのだと思います。
本章からは、私の言葉を支える日記の習慣と、そのメリットについてお伝えします。
何気なく書き始めた日記がその後、頼もしい味方になっていきます。
Q あなたが習慣にしていることはありますか?
■字を「書く」ことで感情を整理する
緊張もイライラも、すべて吸い取ってくれる
「アンガーマネジメント」という言葉をよく聞きます。
瞬時にわいた強い感情のコントロールは、社会人のたしなみでしょうか。
アンガーマネジメントには、数秒間待つことで、強い感情が整理される効果がありますが、字を「書く」ことにもその効果があるように思います。
いざ日記を書こうとペンを持った時はイライラしていても、文字を書くという行為自体には時間がかかります。画数の多い文字ほど時間が必要です。
ペンを走らせるわずかの時間が、時に感情をなだめることにもつながります。
私の場合は、書くまでのタイムラグがアンガーマネジメントにつながっています。
また、心に引っかかっていたイライラも、書き入れるスペースを「汚したくない」という思いから、スーッと収まっていくことがあります。
白い紙のスペースを、乱雑に埋めていくか、心を込めて書いていくかでは書き上がりに大きな違いが生まれます。
なんだか小さいことでイライラしていたなと思えるようになれば、日記のおかげ。
精神統一にも使われる「写経」にも似た効果が日記にはあるのかもしれません。
いや、あると思います。
こんなふうに「書く」という作業を重ねているうちに、日記と写経のように、似て非なるものの共通項を発見することも書くことの素敵な副産物だと思います。
■緊張の仕組みを解明する
また、翌日の仕事に対して緊張が取れない場合も、私は日記に吸い取ってもらいます。
緊張した自分を日記にさらけ出すだけで、どこが緊張の原因なのか見えてくることがあります。
余談ですが、「緊張した時どうしたらいいのですか?」と聞かれることがあります。
実は、特効薬はありません。
しかし、緊張を減らす方法はいくつかあります。
緊張は、何に緊張しているか把握できていない時に起こります。具体的に緊張の仕組みを解明できた時に、あきらめという名の緊張緩和が訪れます。
■ど緊張のサッカー中継の実況
私がサッカー中継の実況アナウンサーだった頃、前日は緊張でほとんど眠れず、当日になっても緊張は続きました。
若い頃はその繰り返しで、毎回、正体不明の怪物との闘いでした。しかしある時、先輩アナウンサーからありがたい一言をいただきます。
「うまくやろうとするから緊張する」と。
私は、どんな状況にも対応できるように、状況別のコメントを作成していました。
立ち上がり5分までに点が入ったら、前半のうちに3点差になったら、試合終了間際に決勝点が生まれたら、などなど。
無限にあるはずのシチュエーションに立ち向かっていたので、準備が永遠に終わらなかったのです。
そんなある日、緊張の根源にたどり着くために、なぜ緊張しているかを書き出すことにしました。
・初めてのスタジアムだから
・多くの人が見ている時間帯の中継だから
・解説者がすごすぎるから
・先輩が真後ろで見ているから
・チーム戦術が複雑だから
・次のステップに進むために失敗できないから
などなど、思いつくだけ書き出します。
そうしているうちに、ふと、
・どんな試合展開になるかわからないから
という、我ながら「しょーもない」理由が紙の上に飛び出しました。
しかし、これが本当の理由だったのです。
スポーツ中継は、その日どんな結末が待っているかを予測しながら実況・解説するから面白いのであって、そこがわからないから緊張するなんて本末転倒です。
でも、そこが最大のネックだったのです。
緊張する理由を書き出すなんて、みなさんは普通なさらないと思いますが、もし緊張しがちだという方は一度お試しください。
■最後は「運命よ、かかってこい!」
さて、その後、実況のエンドレスな準備に悩んでいた私がどうしたかといいますと、実は必殺技を編み出しました。
その名も「ブックエンド理論」。
並んだ本が倒れないように両サイドから支える、あの本立てのことです。
必殺技とはかなり大げさであり、また正確にいうと理論でも何でもないのですが、私にはぴったりの対処法でした。
具体的には、試合における「最悪のシチュエーション」をまず決めてしまいます。
そのブックエンドの内側で試合の流れを読む準備をしたのです。
例えば、試合が5‐0になってしまったことをブックエンドとします。
サッカーでの5点差はほぼ逆転が不可能ですから。
1点差、2点差なら、試合を面白く伝えられる。
3点差、4点差までは、1点返せばまだ希望は持てる。
しかし、5点差になると絶望的。
5点差になるまでにどう実況するかを大まかに決めるのです。
じゃあ、6点差になったらどうするのか。
その時は「驚く!」(笑)。
そうやって上手に開き直れた時に、緊張は軽減されていきます。
逆に5点差までなら対策ができていますから、「運命よ、かかってこい!」という不思議な自信がわいてくるのです。
緊張の正体見たり枯れ尾花、となればみなさんの勝ちです。
Q あなたは緊張が取れない時、何をしていますか?
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藤井 貴彦(ふじい・たかひこ)
日本テレビアナウンサー
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年2月にはバンクーバー五輪の実況担当として現地に派遣された。同年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。
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(日本テレビアナウンサー 藤井 貴彦)

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