※本稿は、平尾喜昭『狙って売上を伸ばすデータ分析の思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■他社と競争しても、市場が伸びない
【平尾】伊藤園さんと言えば、「お~いお茶」というナンバーワンブランドで有名です。御社でデータサイエンスを取り入れるうえでは、どのような課題感があったのでしょうか。
【志田】当社では、1985年に世界初の「缶入り緑茶」を発売。これを前身に、89年には「お~いお茶」が生まれました。90年代はとにかく緑茶市場が伸びた時代で、われわれは緑茶の魅力を発信していればよかった。ところが2000年代半ばから各社が参入してきて、2010年代はブランド間競争の時代でした。
でも、ふと気づいたんです。がむしゃらにやってきたけれど、市場がまったく伸びていない。振り返ってみると、2005年が緑茶飲料市場のピークでした。
■「畑から育てている」とアピールしても…
【平尾】なるほど。「顧客のため」ではなく、ブランド間競争に執着してしまっていたということですね。そこからどのように変革していったのでしょうか。
【志田】われわれの強みは、何と言っても「畑から育てている」ことです。市場の茶葉の4分の1を仕入れ、2500ヘクタールもの契約茶園を持つ。茶業界自体を背負っているという自負もありました。そこで、改めてこの強みと“ものづくり”の精神を伝えることに注力したんです。テレビCMでは茶畑を映し、鮮度へのこだわりを伝えていきました。
ところが、マインドシェアは全然上がらず、結局、価格競争に巻き込まれていく。最初は「伝え方が下手なんだ」という話でしたが、そうこうするうちに、お恥ずかしながら気づきました。
この閉塞感のある状況を、どういう仮説を持って打破していくかが、当時の課題でした。
■成長のきっかけをつかむために海外へ
【平尾】お茶、飲料と言えばコモディティ化した市場です。そこでの難しさが少し目隠しをしてしまった点もあるのかなと思いました。
【志田】そうですね。ここ数年の課題をひと言で言うと、「お~いお茶」が誰もが知るブランドになったことで、大きな成長のきっかけをつかめなくなっていたことです。日本の市場がコモディティ化する中、目指すべきところはやはり海外です。メジャーリーガー大谷翔平選手との「グローバルアンバサダー」の契約に至ったのは、そうした背景です。
会社が大きな手を打って、結果が出ないというわけにはいかない。そこにさっき言ったような、「いつまでブランド間競争をしているんだろう」という気持ちが重なって、データサイエンスに取り組むようになりました。
■「勝ち筋を見つける」ためのデータ分析
【平尾】普段からいろいろなクライアント様と接する中で感じるのは、どこまで本気でデータサイエンスに取り組むかは、「どれだけ勝ちたいか」とイコールだということです。分析には工数も精神的な労力もかかりますし、いままでのやり方を否定される可能性もある。
【志田】当社では、常に“STILL NOW”という言葉が使われています。マーケティングも営業も広告も商品も、「いまでもなお、お客様は何を不満に思っているか……」と常に考えなさい、と。
これが、平尾さんのおっしゃる「勝つ」ということだと思うんです。こうしたらお客様はもっと喜んでくれるな、興味を持ってくれるなというところを掘っていく。
【平尾】なるほど。私は「勝ちたい」という気持ちが必要だと言いましたが、それを超えていますね。分析というステップ自体が、「勝つ」というマインドセットをさらに押し上げるということですね。
【志田】そうですね。われわれにとって、データ分析の本当の目的は「勝ち筋を見つける」ではないんです。勝ち筋を見つけようとする気づき、その一歩目を踏み出すモチベーションを生み出すためにあるものだと思っています。
【平尾】御社は2026年で創業60年。
■カリスマの代わりにロジックを手に入れる
【志田】社内には、先輩方のDNAと呼べるものが、かなり強烈に受け継がれています。「満足」ということは、まずない。それよりも危機感です。飲料メーカー大手が本気になったら、当社は太刀打ちできません。常に半歩先を行っておかないと、生き残れないという思いがあるんです。
そこから生まれた成功体験もある。例えば缶のお茶を出した当時、砂糖の入っていない飲み物にお金を払う人はいませんでした。それがいまや、無糖の飲み物が清涼飲料市場の50%以上を占め、市場を2倍に伸ばしました。
【平尾】天才的な思考で成功する人たちは、言語化できなくても頭の中に勝ち筋が見えていたんだと思います。でも、これからはその勝ち筋を知らない世代が意思決定の中心になっていきますね。
【志田】よく、偉大な創業者たちには「直感」があると言われますよね。でも、実際はいろんな人の話を聞いて、自分なりに分析をして導いていたんだと思います。そこから生まれるのが周囲へのモチベーション。大成功してきた人たちだからこそ周りに与えられる、特別な力なんでしょうね。
【平尾】先輩たちの時代のような、カリスマはいない。その中で勝ちを再現性あるものにするために、客観的なロジックが必要になるのだと思います。ロジックが安心感を生み、やりがいを生み、自信につながる。
【志田】そうですね。伸びている時代には、みんなの目に勝ち筋が見えていて、高いモチベーションを持つことができていました。それが見えないいまだからこそ、意思決定者にもメンバーにも、腹落ちするロジックが必要なんですね。それが同時にモチベーションにもつながるのだと思います。
■なぜ「新俳句大賞」をやっているのか
【平尾】志田さんがデータ分析に取り組む以前、御社の中ではどういった取り組みをされていたのでしょうか。
【志田】もちろん、実績データの分析や、毎年のブランド診断のようなことはしていました。ただ、そういう定点観測はなかなか「自分ごと」になりづらいんです。
例えば、「お~いお茶」では毎年「新俳句大賞」というイベントを開催しています。200万句もの応募がありますが、このイベントがブランドにどう機能しているのかを分析する機能はなかったんです。そうすると、「頑張った」で終わってしまい、改善につながらない。
【平尾】大きな会社で、強いブランドを持っていて、たくさんのデータが集まるからこそ起きることかもしれません。
■消費者の生活を豊かにできない会社は負ける
【志田】私がサイカさんと取り組む中で最も期待したのは、「手触り感」なんです。従来のやり方では大きな変化は起こりづらい。そこで、「直感」が働く状況をつくりたかったんです。
「自分たちの仕事は何のためにやっているのか」を問い直し、どんな活動がどんな成果に結びつくのかという手触り感を得る。そうしないと、業務が細分化されていく中で、仕事が「作業」になってしまいがちです。
私自身も、顧客を見失う状況に陥った時期がありました。というのも、消費者ではなく、流通や競合との関係性の中でもがいているほうが、“仕事をしている感”があるんです。それに、社内も一体化しやすい。「競合に勝つぞ」という目標は、仕事の熱量としてすごくわかりやすいんです。
散々失敗して学んだのは、お客様の生活を豊かにできない限り、誰もメーカーのことなんか見向きもしないということです。だから、「自分たちの仕事がどう売上につながるか」という手触り感を通して、「お客さんはなぜ買うのか?」というストーリーをつくりたかったんです。そのためには、目に見える形で結果が現れるデータ分析が必要だったんですね。
■「お~いお茶」愛好家ってどんな人?
【平尾】なるほど。手触り感を持つことで、先輩方のような直感が働くということですね。そのストーリーは、見つかったのでしょうか。
【志田】はい。今回の調査で、「お~いお茶」のロイヤルユーザーになる因子が2つわかりました。1つは「世界ナンバーワンブランドだと知っていること」。「自分が選んでいるブランドは世界的なんだ」という満足感ですよね。
もう1つが、「4つ以上のお~いお茶商品を飲んでいること」。「お~いお茶」には、緑茶、ほうじ茶、玄米茶、抹茶、新茶などさまざまな種類があります。それを知ったとき、「ここだ!」と思いました。
お客様は自分で抹茶ラテをつくったり、季節の新茶を楽しんだりしている。それはまさにお茶で生活を豊かにしているということです。その体験こそが「お~いお茶」に対する認知と理解につながり、ブランドへの想いを高め、結果として売上につながる。そうすると、われわれは「じゃあその周辺も含めて広く考えていこう」という話ができるんです。
■緑茶市場全体を大きくする道を選んだ
【平尾】視野が狭いと、勝ち方も小さくなります。例えば、コントロールできる要素はほかにもたくさんあるのに、価格競争だけに特化してしまう。重要なのは、消費者目線で大局を捉えることですよね。消費者のお茶を飲める総量まで行き渡っているならブランド間競争になりますが、そうではない。「市場全体を大きくする」という方向性を考えられたんですね。
【志田】そうですね。いまの若い人たちはみんな海外に目が向いています。そして気づけば、日本よりも海外のほうが豊かなお茶の世界が広がっている。抹茶レモネードとか、ジャスミンラテとか。もちろん国内にも、いろんな可能性があります。
この楽しさや美味しさを、もっと多くの人に体感してもらう。もっと生活を豊かにする。
もともと、先輩方はみんなそれをやってきたんです。デフレの30年の中で、削られて、削られて生き残ってきた。ふと横を見ると、中国や台湾のキラキラした世界がある。そうした歴史の中で、ティーバッグや缶、電子レンジで温めることのできるペットボトルのお茶をつくってきたわけです。
最高なのは、お客さんの生活が豊かになって「ありがとう」という状況が生まれ、それが「あ、『お~いお茶』だったんだ」と気づいてもらうこと。これができない限り、ブランドの発展はありません。
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平尾 喜昭(ひらお・よしあき)
サイカ 代表取締役社長CEO
慶應義塾大学総合政策学部卒業。父親が勤める会社の倒産を原体験として、大学在学中に出合った統計分析から経営支援の可能性を見いだし、2012年に株式会社サイカを設立。エンタープライズ企業を中心にこれまで280社以上を支援し、「ビジネスの成長スパイラルをつくるデータサイエンスファーム」として、再現性の高いビジネス成長に貢献してきた。
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志田 光正(しだ・みつまさ)
伊藤園マーケティング本部長・執行役員
1998年4月株式会社伊藤園入社。2004年マーケティング本部商品企画一部に配属後、お~いお茶商品企画、紅茶ブランドTEASʼTEA 商品企画、健康ミネラルむぎ茶商品企画を担当。2019年5月マーケティング本部本部長、2022年5月執行役員に就任。
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(サイカ 代表取締役社長CEO 平尾 喜昭、伊藤園マーケティング本部長・執行役員 志田 光正)

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