大阪万博でも使われたEVバスに不具合が続出している。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんは「日本企業のバスだが、実は中国メーカーが製造している。
現地の関係者は『予算に合わせるため、安い部品をかき集めて何とかバスに仕立てている』と証言した」という――。
■全国各地で住民が使っているEVバス
2025年9月20日に〈大阪万博を走る「中国製EVバス」でトラブル続出…書類だけのシンプル審査で「補助金天国」というEVバス業界の闇〉という記事を出して以降、EVモーターズ・ジャパン(以下、EVMJ)の現社員、元社員はもちろん、出入り業者やバス会社、地方自治体、この欠陥が多いバスを日々運転している乗務員などから合計100件以上の公益通報や各種情報提供をいただいている。
EVMJの車両は、大阪万博会場のほか、伊予鉄バス(愛媛県)や富士急グループ、阪急バス、東急バスなどの大手バス会社、川崎市や大分市、鹿児島市などの市営バス、東京都港区や渋谷区のコミュニティバスとしても数多く使われている。その合計は2025年12月時点で320台を超える。
これらの車両は、北九州市に本社のあるEVMJが供給し「日本製」を謳っているが、実際の製造は中国メーカーである威驰腾汽車(福建WISDOM)、南京恒天领锐汽車有限公司(KINWIN/YANCHENG)、愛中和汽車(VAMO)の3社が担っている。
■3台に1台の割合で不具合が見つかった
9月上旬に国土交通省がEVMJに命じた「全数点検」の結果は、10月17日の記者会見で中野洋昌大臣(当時)が自ら明らかにした。2023年3月からの実質約2年で全国各地に納車された317台のうち、不具合が見つかったのは113台。不具合率35%というすさまじい数だが、それでも全部とは言えないかもしれない。
各地のバス事業者からは「現場の点検結果とEVMJが国交省に提出した結果がまったく違う。かなり減らされていた」という声も届いている。こうした指摘は国交省も把握しているのだろうか?
同省は2025年10月20日に福岡県北九州市にあるEVMJ本社へアポなしの立入検査に入っていた。ここでの検査結果はまだ公表されていない。

そして、11月28日にはついに、EVMJから国交省にリコールの届出がされた。ちなみに、「リコール」とは、製品に道路運送車両法の保安基準に適合しない(しない可能性がある)不具合がある場合に、製造業者または輸入業者が無償で修理や交換を行うことである。
■リコール対象はブレーキホースだけだが…
リコール届出一覧表によると、届出者の名称は「(株)EVモーターズ・ジャパン」で、製作者名は中国の「威驰腾(福建)汽車」(ウィズダム社)と記されている。対象となる部品は「ブレーキホース」で、「F8 series4-Mini Bus(6.99m)」(通称:ウィズダム小型)全85台が対象となる。これまで認められた不具合の台数は38台とかなり多い。
また、注目すべきは「発見の動機」が国土交通省による指摘であること。ブレーキホースの不具合は総点検以前から全国のバス会社において数多く発覚しており、その都度、EVMJは強化品に交換するなど対応していたが、根本的な改修や国交省への報告は行っていなかった。
この度のリコールはブレーキホースが対象であったが、ブレーキ関係でもまだほかに恐ろしい不具合が確認されている。ブレーキチャンバーの脱落や回生ブレーキが効かなくなるといったトラブルが各地で起きているというのだ。
■「人を座らせて設計したとは思えない」
このような不具合と日々戦うEVMJバスのドライバーの悲痛な叫びを紹介しておこう。
「私はウィズダムの大型も小型も運転したことがありますが、とくに小型の運転席は非常に狭く乗りにくい。人を実際に座らせて設計したとは思えません。
足元は狭く動きに制限があります。腰をねじって捻挫したドライバーもいます。席の位置調整がしづらく適切な運転姿勢をとることができません。
不自然な運転姿勢で長時間乗務するのは安全運行上も問題があると思いますし、何よりドライバーたちが本当に辛い状態です。長いときは1日15時間乗務しますからね」(ウィズダム製)
「クーラーの風が運転席に来ないので夏場暑くて大変です。熱中症になりかけた同僚もいましたよ。冬場もひどいです。寒いので22℃設定でヒーター入れると朝出発して50km走っただけで充電は52%。1充電あたりの航続距離は290kmとのことですが当然そんな距離は走らない。良くて半分、平均すると80~120km。
充電が22%になったとき、会社に連絡したら『暖房を切れ』という指示でした。なお20%を切ると自動で暖房が切られて、15%を切ると出力も制限されます。
私も寒かったですが、お客様にも寒い思いをさせてしまいました。しかしなぜか会社はこのバスの使用を止めないし改善しようともしません」(ウィズダム製)
■満席になると坂道を発進できない
「国産車ではあり得ない故障が頻発しています。エアータンクの空気圧低下は国産車でも経年劣化でありうるのですが、EVMJバスのように、納車されて1年未満のバスではあり得ません。こんな車では緊急時に乗客の安全を守れるわけもありません。
1日を通してまともに運行できないバスは、乗務員にとっても緊張の連続で非常なストレスです。EVMJバスは乗務員の間でもとても評判が悪く、みんな乗りたがりません。なんでこんなバスが使われ続けているのか不思議です。止めてもらいたい」(ウィズダム製)
「先日、同僚がほぼ満席状態で運行中に坂道発進をしたところ、いくらアクセルを踏んでも発進しませんでした。現場に予備車(国産ディーゼルバス)を持っていき、乗客をそちらに乗せかえて空車状態にしたらやっと動き出しました。
EVMJは北九州本社に持って帰り、モーター出力を改善して見直すと言っていましたが、数カ月経っても北九州に持って帰った様子はありません。営業所の車庫で作業したあと現在も使用しています。満席になると坂道を登らなくとまってしまうので、できるだけ利用者が少ない時間帯に使うようにしています」(恒天製)
■「何かあったときにお客様を守れない」
「発車していきなり空気圧(ブレーキ)低下で停止。
その時は、まだ乗客がいない状態だったので交差点に停車し、車両後方で緊急の赤旗を振りながらメインスイッチを切ったところエアのコンプレッサーが作動したためなんとかやり過ごしましたが……。これが乗客を乗せたまま空気圧低下でブレーキが作動しなかったら、いったいどんなことになっていたか。恐怖を覚えます。
可能性としてはありうる話で、その事態になればバスを壁や電柱などにぶつけて止める必要も出てきます。こんな状態でもEVMJという会社はこれまで同様、運転手の不注意、操作ミスなどで終わらせてしまうのでしょうか」(恒天製)
「回生ブレーキの利きが悪いので『2』から『4』(最強)に上げたのですが全く効きません。フットブレーキで何とか止まりました。毎日、本当に不安です。何かあったときにお客様を守れない。リコールが出ましたけど対象はブレーキホースだけです。それ以外にも数えきれない欠陥があるんです。大きな事故が起きる前に、国がすべてのEVMJバスの使用を止めさせてほしい! それしか方法はないと思います」(ウィズダム製)
■「必須購入」の充電器にも不具合
EVMJではバスの新規購入時、充電器も一緒に買うことになっている。その充電器もまた非常に品質が悪く、しかも他社製に比べてかなり高額だという。

全国でこの充電器の不具合も頻発している。これまで20台以上のEVMJバスを導入してきた伊予鉄バス(愛媛県)でも惨憺たる状況だ。
ちなみに伊予鉄グループの清水一郎社長は日本バス協会の会長も務める。2021年の就任以来、積極的にEVMJバスの導入を進めてきた。伊予鉄バスのファンであり、ヘビーユーザーでもある利用者の男性が惨状を話してくれた。
「北条バスターミナルの充電器(2025年初設置)では、設置直後から繰り返し充電不良が発生していました。EVMJが何度も修理したようですがすぐに再発し、『原因不明』として約5カ月間も実質的に放置されていました。
充電器が使えないので北条のEVバス5台は室町(本部)へ移動し、置き換えたはずのディーゼル車を呼び戻すという異常事態に。伊予鉄全体の配車にも影響が出ていました。半年近くたってやっと原因は充電器と車両間の通信互換性であったことが判明。車両側の制御基板を交換することでようやく充電可能になったようです」(伊予鉄バスの利用者男性)
■大阪万博で毎晩行われていた「儀式」
2025年10月13日に閉幕した大阪万博の会場でも、EVMJから購入した充電器の故障が頻発しており、7月には日本国際博覧会協会交通部がEVMJの充電器を取り扱う販売店当てに「EVバス充電器の不具合に対する緊急対応について(指示)」という書面を送っている。
内容をまとめると以下となる。

・万博開幕(4月13日)から7月24日までの充電器修理回数は28回

・7月22日から充電器22基のうち12基が使えない状態になっている(原因不明)

・充電器の不具合が多発していることで、運行ルートを変えるなど運行計画に支障が出ている
万博関係者からは会期中、毎日部品交換をしていたという話も届いた。
「万博開催中はほぼ毎晩、EVMJの作業員が充電器のメンテナンスをしていました。22時に閉幕すると同時に場内に入って充電器の点検を始めます。そして、驚くことに点検だけではなく、毎日、部品交換をしていました。そうしないと充電できなくなるそうです。EVMJバスでも他社の充電器で充電すれば問題ないのですがEVMJの充電器だと頻繁にトラブルが発生していました」
■「良質な日本製」から「粗悪な中国製」に
バスも充電器もどうしようもない低品質だが、中国メーカーだけを責めるのは間違っている。中国の製造会社の関係者はこう嘆く。
「安い値段で製造委託の契約をした。安い部品をかき集めて何とかバスに仕立てている。EVMJが最も重視するのはお金です。製造コストと補助金申請に間に合うかどうか。安全性や品質は二の次。日本の法規もお互い、最初は全くわかっていなかった。初期は日本製の良質な部品を使っていたが、だんだんと中国製の安価で粗悪な部品に変わっていった。EVMJの指示で予算に見合ったものを作るだけ」
■EVMJ広報の回答は…
なお、本稿で紹介した疑惑について、EVMJ広報に事実関係を尋ねたところ、1月16日付で以下のような回答を得た。
先ほどの中国メーカーの証言については「当社の認識とは異なります。部品選定にあたっては、製造委託メーカーとともに必要な試験・検査を実施のうえ使用基準への適合性を確認したものを採用しております。価格のために品質や安全性を犠牲にしているようなことはありません」と否定した。
また、「現場の点検結果に比べて、EVMJが国土交通省に提出した結果が減らされていた」というバス事業者の指摘に対しては、「総点検において、お客様にはご所有される車体別の総点検内容及び結果報告を行っています。お客様にご報告した内容を集計し、その結果、113台に不具合が確認されたことを国土交通省へ報告しました。よって、御質問のような事実はありません」という。
次に、ブレーキホースの不具合が全数点検以前から発覚していたにもかかわらず、根本的な改修や国交省への報告を行わなかったのかという質問に対しては「当社では、保安基準に関わるものを中心に、日頃より適時に国土交通省様へご報告や相談を行っております。ブレーキホースに関しては、これまで個別対応や耐久性向上の改善策を進めてまいりましたが、今回の全数確認を通じて、より確実な対応が必要と判断するに至り、国土交通省様へご相談の上、リコールを実施いたしました」と回答した。
そのほか充電器などの不具合も相次いでいるのか尋ねると、「ブレーキホースに関する不具合以外にも不具合が発生した事実はありますが、原因を踏まえて対策を打ち出し、改善の上、問題が無くなっていることを確認しております。不具合が相次いでいるということはございません。今後も不具合が発生するようなことがあれば、安心安全に車両活用が継続できるよう速やかに対応を行ってまいります」とした。
■BYDより高いのに、なぜ人気だった?
製造現場の証言によるとコストを削減しているのに、なぜかEVMJのバスはどれも同クラスの他社製EVバスに比べて高額だ。
福岡県内のある自治体の契約金額は、バス1台4174万7500円+リース料(2日間試乗用)94万1600円+急速充電器(本体+設置費用)792万円で合計5000万円を超える。
ここから国のバス購入補助金と充電器の補助金の合計約1521万円を引いたものが実際の支払い額となる。
一方、ほぼ同じボディサイズでよりパワーのあるBYD製ではバス1台(J6)が約2000万円。国の補助金は607万8000円なので実質1392万円で、自治体によってはさらにここから補助金が支給される。
ちなみに、BYDは充電器を販売していない。CHAdeMO規格に対応している急速充電器ならどれでも使えるからだ。
圧倒的に品質も良く安価で日本で路線バスとして使われて10年以上。世界で7万台以上の実績があるのはBYDなのに、なぜEVMJが扱うウィズダム小型を導入するバス事業者や自治体が多かったのか? とても不思議である。
なお、リコールを出したEVMJのバスは現在、新規出荷を停止せざるを得ない状況ゆえ、大手バス会社からはキャンセルが相次ぎ、融資から手を引く銀行も出始めた。本社のある北九州市で計画されている100億円工場の建設も現在は止まっている。これからリコール第2弾、第3弾と続けば会社の存続も危ぶまれるだろう。

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加藤 久美子(かとう・くみこ)

自動車生活ジャーナリスト

山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難・詐欺・横領・交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。

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(自動車生活ジャーナリスト 加藤 久美子)
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