※本稿は、今井照『自治体は何のためにあるのか』(岩波新書)の一部を再編集したものです。
■国と市民でギャップのある“復興の実態”
東日本大震災での津波被災地では数多くの都市計画プランナーや建築家たちが、ボランティアベースやビジネスベースで活動する姿が見られました。国も「創造的復興」を旗印に、地形を変えるほど大規模な事業に手を付け始めます。市町村の対応は微妙に分かれます。被災から十数年を経過した現在の様相から、それぞれの市町村がどのように復興政策に対応したのかという違いが想像できます。
原発事故の直接的被災地には、現在でもまだ原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言が出されたままです。一方、国は東京五輪誘致に向けた国際公約で福島復興を掲げます。そのために、こちらでも原風景をとどめないような「復興」事業が進められてきました。
こうして一部の地域を除き、復興過程における自治体、特に市町村の政策形成は市民に見えにくいものになってしまいました。被災した市民が拡散してしまったという物理的な要因もありますが、市民が計画を練り上げるというよりは、「上」からの計画が大量に降ってきて、それぞれの役所がその施行に追いまくられる構造になったのです。
■除染事業のお金が電話掛けに使われる
震災や原発事故に対する生活再建過程におけるほんの一例ですが、原発事故に伴う除染事業について、次のようなことが福島県の伊達市で起きています。主なお金の流れは、図表1のとおりです。
国のお金が自治体を経由して、日本有数の大企業に流れていくようすがわかります。念のため先に書いておくと、この事例についても、市民感覚から首をかしげることが多々あり、契約の内容や手続きに疑問はありますが、今のところ、明示的に違法なことが行われた形跡は明らかにされていません。
この事業は除染対策事業交付金で賄われているので、除染事業に使われたと思ってしまいますが、実際には除染対象地域の住民に電話をかけ、必要に応じて面談して説明するというリスクコミュニケーション事業です。
本来、リスクコミュニケーションとは、関係者間の相互理解と信頼構築を形成しようとするものですが、厚生労働省の定義では、双方向ばかりではなく、広報や説明のように一方的なコミュニケーションを含めているようです。
■“除染”の意味を理解しているのか
この案件も、情報公開請求や市議会における一般質問の過程で明らかにされたことです(黒川 2017)。ここではお金の流れという観点から簡単に経過を記しておきます。
福島第一原発の水素爆発による放射性物質の拡散は、濃淡の差こそあれ、東日本全域に広がりました。原発周辺地域については、国の直轄事業として環境省が除染事業を進めましたが、その他の地域については市町村が除染を行い、それに対して国が必要な資金を供給する形になっています。
除染というのは表土を剥いだり、建物の屋根を洗浄するなどして、放射性物質を含んだ土や枝葉などを集めることです。伊達市は、国や自治体からの避難指示が出なかった地域ですが、原発の水素爆発直後の風向きと地形の関係で、プルームと呼ばれる放射性物質を大量に含んだ雲が通過し、また折しも降った雨によって放射性物質が沈下したエリアです。
そのため、原発周辺地域と比べると、汚染度の平均値は低いものの、個別の地域単位で高濃度の汚染が確認され、それらは国から特定避難勧奨地点として指定されていました。
参考文献:黒川祥子(2017)『「心の除染」という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか』集英社インターナショナル
■市長が言った「心の除染」
そこで伊達市は市内を行政区画で3つのエリアに分け、相対的に汚染度の高い地域から除染を開始します。
しかし翌年の2月17日、伊達市は変更承認申請書を出し、約8億円に減額します。つまり地域内の生活領域を除染する方針が転換され、ホットスポットと呼ばれる特定避難勧奨地点だけを除染することにしました。ここらあたりから、役所と市民との間の溝が深まってくるのですが、お金の流れとしてはこのうちの2億円余りが図表1に記したものとなります。
この事業の目的を当時の市長の言葉からまとめると、地域の除染がされていないために安心できないという市民の声があるので、安心してもらうための除染、いわば「心の除染」を目指すというものです。市長が「心の除染」という言葉を使ったのです。行政によって心まで除染されてしまうのは、たとえ比喩としてもかなり恐ろしい表現です。
■4866件の電話で2億円の支払い
具体的には、事前アンケートによって不安を感じていた世帯への電話と、その結果、必要に応じて個別に訪問することを、広告代理業のE社に委託しました。
E社は子会社に再委託し(再委託承諾申請書なし)、さらにその子会社は、人材派遣業のF社などに再委託します。E社もF社も、日本を代表する大企業です。リスクコミュニケーション事業と称されていますが、実際には「除染を諦めさせる説得事業」という批判もあります。
このとき用いられたのが、一社だけの随意契約という手法です。
4866件に電話して、そのうち1850件を訪問するという事業で2億円余りもの経費がかかるのかどうか、私には想像もつきません。
■市民生活の安全より国の意向
現実に再委託は、その半額程度です。少なくとも、このようにして国のお金が自治体を介して日本有数の大企業に流れたことは、事実のようです。繰り返しますが、契約の内容や手続きに疑問はあるものの、これも現時点で違法と断言できるところはありません。
ただし、類似の事例では、発注者に対して再委託の手続きが取られていなかった点について、「不正又は不誠実な行為」に該当するとして指名停止になっている場合があります。
さらに、国からの示唆によって除染範囲を狭めたのではないかという疑惑もあり、市民生活の安全よりは国の意向を優先したことも問題にされています。そういう意味では、残念ながら日本の国と自治体との関係では日常茶飯事の光景です。
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今井 照(いまい・あきら)
公益財団法人 地方自治総合研究所特任研究員
1953年生まれ。東京大学文学部社会学専修課程卒業。東京都教育庁(学校事務),大田区役所(企画部,産業経済部など),福島大学行政政策学類教授,地方自治総合研究所主任研究員などを歴任。
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(公益財団法人 地方自治総合研究所特任研究員 今井 照)

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