※本稿は、大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■毎年行われる事故発生時の訓練
どんな道でも、ベテランと呼ばれるようになっても練習や鍛錬、訓練は不可欠です。CAという仕事においては、安全を守ることは最優先の大切な仕事ですから、毎年行われる「エマージェンシー訓練」は身が引き締まるものでした。
これは2日間で行われ、最初のカリキュラムは15分間のペーパーテストです。問題は緊急時や急病人、機材不具合発生時の対応手順など、安全業務にかかわるもので、マニュアルを読んでいればまず落ちることはありません。
難しくて毎回、緊張するのは、実地訓練のカリキュラム。安全な離着陸にも、緊急事態が発生した際にも、CAの役割であるドア操作はとても重要です。
コックピットクルーと合同で、事故発生時のシミュレーションもします。
「鳥がエンジンに入り込んでトラブル発生、5分後に緊急着陸決定」
こんな想定のもとにみんなで時計を合わせ、「機内のお客様の安全を確保、着席して頭を抱えて体を伏せる、着陸!」となったあと、機長から合図が来ます。発生から着陸までの準備、ドア操作、脱出の誘導までを訓練するのです。
■大事なのはとにかく確認、確認、確認
まずは外の安全確認。
外の安全確認をしたら、ドアモードの確認。ごく単純ですが大切なのがこの順番です。ドアモードを確認してから外を見て「あっ、ダメだ、降りられない」となったらドアが開けられないのですから、ドアモードを確認した時間は無駄になってしまいます。1分1秒を争うとき、この単純ミスは致命的です。
ようやくドアを開けられるようになったら、脱出シューターの確認。機体にきちんとついている状態にしなければならず、さもなければ「緊急時にドアを開けても何もない!」となってしまいます。シューターが膨らんだ状態を確認したらお客様の脱出となり、滑って脱出した人数の確認も忘れてはなりません。
「5分しかなかったら」「10分以内では」と想定時間を変え、機内準備と脱出を完了させる訓練を、トータルで5回ほど行います。機種によってドアの開放手順も異なるので、それぞれについても確認する……。エマージェンシー訓練は、とにかく確認、確認、確認です。油断大敵で、私も毎回、緊張していました。
■「なんとなくが一番怖い」
「動きの一つひとつを、記憶に残しましょう」
安全業務について、私はよくそう言っていました。
たとえばドアモードを確認するとき、「こういうアナウンスが入ったから、私はドアのレバーを移動しました」と、あとから自分の行動を説明できるように、常に意識するということです。無意識に作業をするとミスの原因になります。
私は最後まで、「ロックOK、ロックOK」と声に出し、指差し確認していました。それが上の空にならず、記憶に残る仕事にするベストな方法だからです。
日常でも、「あれ、家のドアの鍵を閉めたかしら?」と不安になるときは、上の空で行動しているときでしょう。私は車の運転が好きで長く乗っていますが、「なんとなくが一番怖い」と、緊張感をもって、上の空で運転している、という状態にならないように意識しています。
今、自分は何をしているのか。いつでも自分を客観的に説明できるよう指差し確認。これはあらゆる事故やトラブルを防ぐ一つの方法だと感じています。
■大切なことに慣れはいらない
エマージェンシー訓練のテストで不合格になる人の中には新人もいましたが、多くは入社して数年たった人たちでした。「仕事を覚えて慣れてきた」、その油断が原因なのでしょう。
ところが少し慣れてくると、おざなりになってしまう人もいます。
たかが確認、されど確認です。CAが出発の際、通常のドア操作を間違えて脱出シューターを出してしまい、その飛行機は欠航になった……何年かに一度あるかないかですが、そんな事故も起こります。
ドアまわり以外にも、細かなチェックはたくさんあります。
「お客様はシートベルトを締めているか、座席は倒れていないか」
「ギャレー(機内にある厨房)に収納したカートはロックがかかっているか」
あるとき私のチームにも、漏れが多いCAがいました。様子を見ていると、指差し確認と声出しはしているのですが、全然違う方向を指差し、別のものを見ながら「OK」「これもOK」とやっているのです。
原因がわかれば直せばいいだけですから、「目と指が一致していないと、きっとまた漏れが出ますよ」とアドバイスし、ひと言こうつけ加えました。「慣れはいらないですよ」。
■「惰性」「ルーティン」がミスを呼ぶ
慣れてしまうと、大切な仕事もルーティンになってしまいます。普段どおりのことをいつもどおりにやることは大切ですが、そこに意識を向けることなく、ただ上の空でルーティンをこなしているだけだと、それは惰性になります。
惰性になると、物事はつまらなくなり、ミスが出ます。
こう考えてみると、続けることとは、じつは、「惰性」や「慣れ」や「ルーティン」からは、離れた場所にあるような気がします。
こんなことを書いている私自身も、「慣れ」で失敗したことがあります。
成田発広州行きの4時間ほどのフライトで、ビジネスクラスの担当でした。
離陸して最初のお飲み物のサービスの際、陽気な表情の大柄なアメリカ人のお客様が、シャンパンをオーダーなさいました。
■シャンパンから泡が吹き出し…
機内は気圧の関係で炭酸が吹き出しやすいのですが、私は「シャンパンを開けるのに慣れている」と自負していたのです。目の前でポン! と開けてサービスしたほうが、おいしそうで喜ばれるとも思っていました。
ところがお客様の目の前で開けたとたん、シューッと泡が吹き出し、なんとそのお客様に降り注ぐ、というとんでもないことになってしまいました。
あわててお詫びし、ジャケットはお預かりしてきれいに拭き取って乾かし、またお詫びし……。お恥ずかしくも本当に申し訳ない事態でした。
幸い、そのお客様は「トラブルがあったおかげで親切にしていただいて、快適なフライトでした」と言ってくださいましたが、それ以来、ギャレーで抜栓してからシャンパンをお持ちするというルールを徹底したことは言うまでもありません。
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大宅 邦子(おおや・くにこ)
1953年生まれ。ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」。1974年に入社後、国際線立ち上げのプロジェクトチームに参加。ANAの成長とともに、おもに国際線ファーストクラスで空の上のおもてなしを提供。滞空時間は3万時間超。ていねいに、手を抜かず、「いつでも指差し確認」の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきた。食事や体調管理などの身の回りの整え方、「ほしいものより必要なものを買う」というものとのつきあい方、幼児から年長者まで同じように接する人とのつきあい方など、仕事を超えた清潔な生き方そのものが、ANAの伝説として8000人の後輩CAに慕われている。趣味は美術館めぐり、ジムでのエクササイズ、スキューバダイビング、アイロンがけ。ドローンの国家資格も取り、今度は「操縦」側の空も楽しんでいる。
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(大宅 邦子)

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