■御製にふさわしい今上天皇の歌
新しい年を迎えることは、誰にとっても華やかでめでたいことである。とりわけ、皇室では重要な儀式が続き、国民もそれに強い関心を向ける。
元日には「新年祝賀の儀」があり、そこには内閣総理大臣をはじめ、衆参両議院の議長、最高裁判所の所長などが参列した。2日には「新年一般参賀」が行われ、今年も6万人を超える参加者があった。
9日には「講書始の儀」があり、天皇夫妻をはじめ、皇族などが参加して、各界の権威から講義を受けた。そして、14日には、「歌会始の儀」が行われた。
一方で、天皇の場合には元旦から各種の宮中祭祀に臨む。元旦には「四方拝」と「歳旦祭の儀」があり、3日には「元始祭の儀」が、4日には「奏事始の儀」がある。奏事始の儀は、宮中祭祀を司る掌典長が、伊勢神宮および宮中の祭事のことを天皇に報告する儀式である。伊勢神宮では、昨年から次の式年遷宮に向けての準備がはじまっている。
歌会始の儀で披露された今上天皇の歌は、「天空にかがやく明星眺めつつ新たなる年の平安祈る」であった。
■「とんぼ」を詠んだ悠仁親王
新年における皇室の行事はテレビのニュースでも伝えられるが、歌会始の儀については、全編がNHKによってテレビ放送された。そこに寄せられた歌を披露することは「披講(ひこう)」と呼ばれ、それを担当するのは、「披講会」という団体に所属している旧華族の人々である。
彼らは、司会役の「読師(どくじ)」からはじまって、節をつけずに詠む「講師(こうじ)」、節をつけて詠む「発声」、第2句からそれに合わせる「講頌(こうしょう)」といったそれぞれの役割を果たす。その詠み方は独特で、強く印象に残る。おそらくは、歌会始の儀がはじめて記録された鎌倉時代中期のやり方が踏襲されているものと考えられる。
今年の一連の儀式には、成年皇族の仲間入りを果たした秋篠宮家の悠仁親王が初めて参加し、そのことがニュースとして伝えられた。悠仁親王が詠んだ歌は、「薄明かり黄昏とんぼは橋のうへ青くつきりと俊敏に飛ぶ」というものであった。
悠仁親王がトンボに強い関心を示してきたことは、これまでくり返し伝えられてきた。高校時代には、国立科学博物館が刊行する学術雑誌に、共著で「赤坂御用地のトンボ相 多様な環境と人の手による維持管理」という論文を寄稿している。
■「ラオスの子ども」を詠んだ愛子内親王
皇族が歌を詠むにあたって、その相談役になる御用掛(ごようがかり)を務める歌人の永田和宏氏は、この歌について、「初めての御歌とは思えないほど完成度が高く、驚きました」と評している(『週刊文春』1月22日号)。永田氏の専門は細胞生物学である。生物学ということで、悠仁親王と関心が重なることが、この高い評価に結びついているのかもしれない。
愛子内親王が今年の歌会始の儀で披露する歌については、前に予想してみた。昨年内親王が経験した出来事の中では、初の海外訪問となったラオスのことが重要なはずで、それが詠まれるであろうと考えたわけである。
実際の歌は、「日本語を学ぶラオスの子どもらの明るき声は教室に満つ」であった。私は、青年海外協力隊が初めて派遣された国がラオスであり、愛子内親王が訪問中に隊員たちと懇談もしているので、その活動に、今年の「明」というお題から、明日への希望を見いだすような歌を詠むのではないかと予想した。けれども、その予想は半分当たり、半分外れた。
ただ、永田氏によれば、愛子内親王は、歌会始の儀のために5首作っており、その中には、海外協力隊に関連する歌もあったかもしれない。披露された歌について、永田氏は、「全く助言する必要がなかった一首です」と、やはり高く評価している。
■人に対する関心が高い愛子さまの歌
愛子内親王の歌が、歌会始の儀で初めて披露されたのは令和4(2022)年のことだった。ただ、初めて行事に臨んだのは、昨年、令和7(25)年からである。歌は今回で5回披露されたことになる。しかも、これは拙著『日本人にとって皇室とは何か』(プレジデント社)でも触れたが、愛子内親王は学習院大に在学していたとき、平安時代の女流歌人について研究していた。和歌には造詣が深いのである。
悠仁親王の歌も、愛子内親王の歌も、歌人から高く評価されているわけだが、内容の面で決定的な違いがあるのも事実である。悠仁親王は自らが愛するトンボのことを詠い、愛子内親王はラオスでであった子どもたち、つまりは人間について詠っている。
悠仁親王は今回が初めての歌なので、他の歌をあげることができないが、愛子内親王は、2度目の令和5(2023)年には、お題が「友」ということもあり、学友のことを詠っていた。令和7(25)年にも、お題は「夢」だが、やはり学友のことを詠っている。人間に対する関心が強いのだ。
これから、悠仁親王が毎年どういった歌を詠むことになるのかはわからないが、それを予想できる材料がある。それが、悠仁親王の父、秋篠宮文仁親王がこれまで詠んできた歌である。
■息子のトンボに匹敵する父の「鳥」
今年、秋篠宮が詠んだのは、「夜明け前一番鶏の鳴く声にアンルーナイの一日始まる」であった。アンルーナイは、タイにある野生動物保護区のことである。秋篠宮は赤色野鶏の調査のためにそこを訪れた。その際、夜明けを告げる野鶏の鳴く声を聞き、それを歌にしたのだ。
秋篠宮は、「ナマズの殿下」とも呼ばれるようにナマズの研究者として知られる。だが、鳥類についても研究しており、博士論文のテーマは鶏の起源を遺伝子に基づいて解析した研究だった。秋篠宮にとって鳥は、悠仁親王のトンボに匹敵する興味の対象なのだ。
秋篠宮が初めて歌会始の儀に歌を寄せたのは昭和61(1986)年からのことである。その時はお題が「水」であり、「護られて幾多の鳥はにぎやかにスリムブリッジの水面に遊ぶ」であった。やはりそこでは鳥が詠まれている。
翌年のお題は「木」で、「高原の木々に朝日のさす刻を群れて小さき河原ひは来る」であった。カワラヒワは、スズメ目アトリ科に分類されるやはり鳥である。
このように、秋篠宮の歌には鳥が多く登場し、その分、人間が詠まれることは少ない。
■自らを雷鳥に重ねた歌ではないか
もちろん、まったく登場しないわけではなく、平成9(1997)年の「姿」では、「旅先に出迎へくるる園児達吾子の姿と重なり映る」と詠っている。平成3年と6年には眞子内親王と佳子内親王が相次いで誕生した。
あるいは、平成28(2016)年は、お題が「人」だけに、「日系の人らと語り感じたり外つ国に見る郷里の心」と、ブラジルを訪れた際に接した日系人について詠われている。だが、翌年の「野」になると、「山腹の野に放たれし野鶏らは新たな暮らしを求め飛び行く」とやはり鶏が詠われている。
どういう歌が詠まれるかは、当然、お題によって左右される。「人」というお題なら、何らかの形で人間が出てくるし、「野」であれば、自然の光景が詠まれる。だからこそ、秋篠宮の歌がそうした内容のものになったわけだ。
ただ、平成25(2013)年の「立」だと、人が立つことが詠まれる可能性が高く、実際、当時の美智子皇后や皇太子夫妻は、そうした歌を詠んでいる。ところが、秋篠宮が詠んだのは、「立山にて姿を見たる雷鳥の穏やかな様に心和めり」である。私には、秋篠宮が自らを雷鳥に重ねているように思える。
■「愛子天皇」待望論が高まるワケ
今年の悠仁親王の歌からは、将来において父親と同じ方向をたどっていくのではないかと予想される。
トンボは研究対象であるとともに、赤坂御用地に住む自分自身のことなのではないか。これから、悠仁親王はトンボをはじめとする昆虫を歌に詠んでいくことが多くなるのではないだろうか。
しかしそれは、一つの不安材料である。トンボや昆虫に関心が向くあまり、人に対する関心が薄れていくかもしれないからだ。それが、生物学を研究する研究者なら構わない。だが、悠仁親王は皇族の一員である。国民という人間に対する関心がなければ、その務めをまっとうすることはできない。
悠仁親王の場合、成年皇族となって公の場にも出るようになった。ただ、大学生で学業優先である。大学を卒業してからも留学が予想される。そうなると、国民と接する機会はどうしても限られてくる。
人と会うことが、愛子内親王に比べて少なくなる。そうなると、これからの歌会始の儀で、人についての歌を詠むことが少ないかもしれない。来年のお題は「旅」である。それが、旅で出会った人についての歌になるのか、それとも旅先で見かけたトンボなどについての歌になるのか、注目されるところである。
歌には人間性が表れる。国民の間で「愛子天皇」待望論が高まるのも、愛子内親王の歌が人に向かって開かれたものになっているからではないだろうか。
逆に、秋篠宮や悠仁親王の歌には、それが見られない。国民としては、この2人の親王親子が国民に対してどういう思いで接しているか、それをつかむことが難しいのである。
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島田 裕巳(しまだ・ひろみ)
宗教学者、作家
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。
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(宗教学者、作家 島田 裕巳)

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