※本稿は、谷咲『中学受験に向いてる子 向いてない子』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■中高一貫校で「深海魚」になってしまう子
「深海魚」という言葉をご存じでしょうか。中高一貫校に入学した後、成績が著しく低迷して浮上できなくなる生徒を指す、教育関係者のあいだでよく使われる比喩です。
「厳しい中学受験を経験したのに、なぜ?」と不思議に思うかもしれません。しかし、現場で子どもたちを見ていると、そこには明確な理由があります。
まず、実力以上のレベルの学校に入学した生徒に当てはまるパターン。入学直後は問題なかったとしても、授業内容が難しくなってくる中学2年生頃から徐々に成績の落ち込みが見られます。
また、「燃え尽き症候群」状態になってしまうパターン。「合格のために頑張る」と走り続けてきた子が、これからは何のために頑張っていけば良いのかわからなくなってしまう状態です。別の見方では、受験が終わったという解放感から「もう勉強しなくていいんだ!」と机に向かわなくなってしまう子もいます。その結果、受験期にコツコツ習慣化した学習リズムが崩れ、気がつくと下位層に沈んでしまうのです。
まとめると「深海魚化」の原因は大きく分けて二つあります。
①実力以上の学校に入り、どれだけ努力してもついていけないタイプ
②受験を終え、勉強の目的を見失ってしまったタイプ
■合格は「ゴール」ではなく「スタート」
①は補習塾などのサポートによって立て直せる可能性があります。
しかし②のタイプは「勉強に対する姿勢」の問題なので、塾に任せたからといって状況が変わるとは限りません(実際、「深海魚」生徒の通塾率が高いことには驚かされました)。
受験という強い動機、いわば「学びの起爆剤」がなくなると、学ぶ理由を自分で見出せないのです。
中学受験はあくまで「手段」。教育方針に魅力を感じ、そこで実践する教育をお子さんに経験させたいという目的を果たすために、貴重な小学校の期間を受験に費やすのだと思います。しかし、一番大切な「入学後」に学ぶ意欲がなくなってしまうのは、本当にもったいないことです。
さらに中高一貫校の環境には、「リセットの機会が少ない」という構造的な問題もあります。公立中学なら3年で高校受験という節目があり、目標を見つけて再浮上するチャンスが訪れます。
しかし、一貫校では6年間同じ集団のまま進み、内部進学をクリアすれば受験もない。そのため、成績が下がっても「まぁいいか」と慣れてしまい、低迷期が長期化してしまうのです。
最初は焦っていた子も、次第に諦めるようになり、その状態を受け入れてしまう。
■「沈む子」は失敗したくない気持ちが強い
中学受験という大きな節目を終えた後、モチベーションを見失わずに学校生活を送れるか。また、自分で目標を見つけて学ぶ姿勢がとれるか。同じ学校に通っていても、「浮かぶ子」と「沈む子」を分ける分岐点は受験期の過ごし方にあります。
一貫校に通う生徒と接して、あることが気になりました。それは、自分自身に自信がなく、他者との比較を強く意識する子が驚くほど多いということです。授業では「失敗したくない・間違えたくない」という気持ちが前面に感じ取れました。定期テストでは「平均より上か下か」という基準をとても大切にしていた印象です。
確かに「失敗しないこと・間違えないこと」は受験において非常に大切です。しかし、その意識が強ければ強いほど、新しいことや難しそうに見えることへの挑戦心が湧きにくくなってしまう子もいます。結果、自分の力を引き上げる機会が減ってしまい、高校受験のない余裕ある6年間のはずが、そのチャンスを活かしきれていない気もするのです。
また、「平均」を気にすることも、受験期を経て身についた当たり前の感覚なのかもしれません。
■受験期の価値観が学校生活を左右する
本来向き合うべきは「昨日の自分」です。「少しでも理解が深まったか」「一問でも多く正解できたか」といった過去の自分との比較は、本来、達成感や「自己効力感(「自分にその状況を乗り越える能力がある」と信じられること)」を育てるものになります。しかし、こうした自分基準で成長を捉える感覚を十分に持てていない生徒も少なくありません。
こうした思考の原因は、受験期の学び方や意識が関係しているといえるのではないでしょうか。「一点でも多く点数を取ること」「偏差値が上がれば成功、下がれば失敗」といった価値観の中では、どうしても結果がすべてのように感じてしまいます。
その延長線上で中学に進むと、失敗しないことが優先されがちになり、慎重さのほうが前面に出て、学びに向かうエネルギーが弱くなってしまいます。中学受験を経て手に入れたせっかくの環境を、伸び伸びと活かせなくなってしまうということです。
だからこそ、受験期の学習やその結果に対する考え方は合否以上に大切なのです。それが中学入学後の積極的な自己開拓を進める土台を形づくります。
■入学後、「貯金」がなくなり逆転される
「私立中学に行く子は、公立中学に行く子より勉強ができる」。
しかし実際には、中学に「入る前」よりも「入った後」の学びが、その後の成長を左右するのを実感したことがあります。
かつて私が塾講師をしていた頃、有名私立中学に通う生徒と、地元の公立中学に通う生徒、両方を教えていました。入学直後こそ、社会や理科では受験期の貯金でリードしていたとしても、数カ月もするとその差はほとんど感じられなくなり、むしろ生徒それぞれの学習のモチベーション次第で逆転することも珍しくなかったのです。
中学受験をした子の中には、受験を終えた解放感から、「勉強は後回しモード」に入ってしまう子もいます。一方で、受験を経験していない公立中の子であっても、「中学から頑張るぞ!」と意欲的に学習に取り組む子はどんどん伸びます。
■英語の学力がぐんぐん伸びる子の特徴
特に顕著なのが「英語」。中学受験では入試科目は基本的に4科です。もともと英語学習に力を入れていて、小学生の段階で英検の上位級を取得している子も中にはいます。
しかし、中学受験においては受験勉強の範ちゅうではないことが一般的です。つまり公立中に通う子も、私立中に通う子も、英語についてはスタートラインはほぼ同じ。
すると結果として、「勉強を頑張りたい」と意欲的に学ぶ子のほうが圧倒的に伸びます。
「私立に通う=英語が得意」とは限らないのです。むしろ、本人の関心や学びへの姿勢次第で、いくらでも逆転は起こり得ます。
しかも、私立中では進度を早めて先取りしていく方針の学校も多いため、どんどん遅れ、わからないところがそのままになってしまうことも。入学後にペースを崩すと、あっという間に苦手意識が広がってしまうこともあるのです。
中学受験は合格したら終わり、ではなく、むしろそこからがスタート。「私立・公立、どちらが優れているか」ではなく、「わが子が伸びるのはどんな環境か」という視点から環境を選ぶほうが長期目線では賢い選択になり得ます。
■なぜ一学期の段階で落こぼれてしまうのか
新卒で着任した学校でまず感じたのは、「思ってたのと違うな……」という違和感でした。入試問題よりはるかに簡単な内容を扱う中学1年生の一学期の授業ですら、ついていけずに落ちこぼれていく生徒が少なくなかったのです。
受験を突破してきた力のある生徒たちが入学してくる、という認識でいたこともあり、「かなり勉強してきたはずなのに……なぜ?」と、不思議でなりませんでした。
しかしある時、この事実に気がつきました。実は、「中学受験で合格する力」と「中学以降で必要な力」は、同じようで全くの別物なのです。
「中学受験で合格する力」をたとえるなら、塾や親御さんが用意してくれる最適なルートをまっすぐ歩んでいく力。一方、「中学以降で必要な力」とは、いわば本人が自分で学びをコントロールしていく力といえます。
■「親が勉強を手伝う」はおすすめしない
中学受験を経て中高一貫校に入学後、
・授業についていけない
・宿題や課題を期日までに出せない
・定期テスト前になってどうしたらいいかわからず、結局親が手伝う、あるいは塾に頼る(本当は自分でどうにかしてほしいのに……)
といったお悩みを持つご家庭からのご相談は後を絶ちません。
これは、ある意味自然なことです。中学受験期は親御さんと塾の手厚いサポートがあったものの、中学ではそれらすべてが本人に任せられることになります。中学受験期の頃とは全く違う環境になるので、できないのは当たり前なのです。
しかし、できないからといって中学受験期同様、入学後も親御さんがしっかりと管理していく、という方針はおすすめできません。なぜなら、「本人に任せておけないので手伝ってきましたが、やめたら成績が下がりそうで、手が離せなくなりました」というのも、本当によくあるご相談だからです。
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谷 咲(たに・さき)
私立中学・高校教諭
中学校・高等学校教諭専修免許状(英語)保有。大学院修了後渡英し、英語教授法を学ぶ。帰国後は2つの有名私大附属の中高一貫校で専任教員として10年間勤務。延べ数千名以上の中高生を指導。中学・高校クラス担任、留学生クラス担任、部活動顧問、学校広報などの分掌を担当。不登校や学力不振による進路変更への対応をする中で、「第一志望校に入学しても失敗だったと悔やんでしまう」「難関校や人気校に入学しても受験して良かったと思えない」といった生徒と家族の姿に直面。「中学受験の経験を財産に、充実した6年間を過ごしその後も活躍し続ける」、そんな“受験の成功”を一人でも多くの受験生にとの思いで、受験生の親向けサポートを開始。音声配信メディアVoicyでも日々放送を行う。実用英語技能検定1級取得。二児の母。
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(私立中学・高校教諭 谷 咲)

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