中学受験ではどうやって志望校を選べばいいのか。私立中学・高校教諭の谷咲さんは「まずは学校見学に行ってみようと考える人が多いかもしれないが、私はおすすめしない。
最初にやるべきことは、自分たちの軸と条件をはっきりさせることだ」という――。
※本稿は、谷咲『中学受験に向いてる子 向いてない子』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■「なんとなく学校見学」は失敗のもと
志望校選びでよくある失敗のパターン。それは、「とりあえず学校を見に行くこと」。
「えっ、なんでダメなの??」「うちもやってるかも……」とドキッとした方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、直接学校に足を運ぶことは大切です。パンフレットやウェブサイトの情報は、いわばその学校の一部分を切り取った寄せ集めともいえるから。直接学校に行くことで受け取れる情報、たとえば学校の雰囲気、在校生や先生方の様子は、貴重な判断材料であることは確かです。
しかし覚えておいていただきたいのは、学校説明会や文化祭は、その学校の日常を映し出すものではないということ。また、どの学校もカリキュラムや教育支援などさまざまな魅力にあふれ、「どこも良く見えて結局選べない……」という状態になってしまう方は少なくありません。
■ラストチャンスは小6の二学期だが…
だからといって、学校見学に行く必要はない、ということではありません。学校見学に行く前に「あること」をすれば、迷うことなく、「自分たちにとって良い学校かどうか」がしっかりとわかるようになります。

その「あること」とは、夏休みを賢く使って、「志望校選びの軸」と「条件」を明確に定めること(「志望校選びの軸」と「条件」を知る方法については後述)です。
なぜ「夏休み」かというと、私立一貫校の文化祭や学校説明会が最もさかんに開催されるのが、だいたい9月から11月、つまり二学期が一年の中で学校見学できるチャンスの数のピークとなるからです。
入試本番から逆算すると、見学のラストチャンスは小学6年生の二学期ということになります。しかし、入試本番前のその時期は、模試の予定が立て込んだり、塾の特別授業が開講されたりと、週末はかなり忙しくなります。
したがって、現実的には4・5年生のうちにある程度学校を見学しておく必要があるということです。実際に、6年生の保護者の方からの「もっと色々な学校を見ておけば良かった……。いい学校ありませんか?」とのご相談は毎年後を絶ちません。
■「軸」と「条件」をはっきりさせてから選ぶ
しかし、見学シーズンの土日は約35回。すべての週末を見学に使えるわけではありませんし、首都圏に300以上ある学校から理想の学校に出会うには、ご家庭や本人に合わない学校を見学している暇はないということです。
志望校選びは、旅の目的地を決めるのと似ています。行先を「北の方角」とだけ決めて出発しても、目的地がはっきりしなければどこにもたどり着けません。まずは「自分たちが向かいたい場所」を明確にすることから始めましょう。

学校選びにはまず「自分たちの志望校選びの軸」が必要です。その上で、実際に通学するとした際にクリアしておくべき条件もまとめておきましょう。
そんな時に役立つのが、学校選びにおける「条件の棚卸し」です。これは、実際通うとなった際に現実的に外せない要素を明確にしておくことを目的としています。「自分たちの志望校選びの軸」に沿って選んだ学校から、さらに出願校として検討していく段階で役立つステップです。
この条件を整理しておくだけで、学校見学の際に何を重点的にチェックすればよいかが明確になり、情報収集の質もグッと上がります。
■6年間通うからこそ交通アクセスは重要
「条件の棚卸し」で考えたい項目の例は次の通りです。
・通学時間:片道何分まで?

・乗換回数:1回? 2回? 乗り換えなし?

・使用路線:混雑状況や安全面で6年間通えるか?

・登校時刻:部活動などで朝早く、帰りが遅くなっても無理なく過ごせるか?

・昼食の選択肢:毎日お弁当? 学食や販売の有無は? お店の立ち寄りは可能?

・時間割:一日6時間? 7時間? 放課後の過ごし方は理想的か?

・土曜授業の有無:毎週? 月1回? 完全休み?

・SNS他メディア使用に関する校則:家庭のルールとズレがないか?

・留学や国際交流:短期? 長期? 全員必須?

・宗教行事他:家庭の方針と違いすぎるものでないか?
こうした条件は、数字としても決まりとしてもはっきりしているため、入学後の学校生活を具体的にイメージするのに役立ちます。
■「偏差値が高い学校=受験成功」ではない
中学受験の成功は「受験期の自走サイクル育成」と「志望校選び」にかかっています。
特に志望校選びは、その判断が6年間の学校生活に大きく影響することがあり、慎重に進めていきたいところです。
しかし、日頃志望校に関するご相談をいただく中で、「これは、やらないほうがいい」というポイントなのに、多くの方が良かれと思ってしてしまっていることに気がつきました。ここではそのNGポイントを7つ紹介します。

【1】偏差値だけで決める
模試や成績資料で真っ先に目に入る「偏差値」。もちろん大切な指標の一つですが、それだけで学校を選ぶのは危険です。
まず、偏差値は変動する可能性が割とよくあります。10年前と比較して偏差値を大きく伸ばした学校がある一方、逆にどんどん下げている学校もあります。卒業生としてその学校のOG・OBになる上で、偏差値を抜きにしても「この学校で過ごせてよかった」と思える学校を選ぶことが、長期目線でも大切ではないでしょうか。
また、偏差値に対して強いこだわりを持ちすぎてしまうことも避けたいです。「偏差値がより高い学校に進学すること=受験の成功」という考えをお持ちであれば、今すぐに捨てましょう。志望していた偏差値の高い学校にご縁がなく、そこより低い偏差値の学校に進学することになった時、お子さんは受験を「失敗」と認識してしまいます。
入学後もその意識が拭えず苦しい思いをしないためにも、「6年間をどう過ごすか」という視点で選びましょう。
■「親のせいだ」と思わせないために
【2】親だけで決める
中学受験は親御さんの関わりが深いことから、志望校についても「親の希望」で決めてしまうケースもよくあると聞きます。しかし、実際に通うのは子どもです。学校生活がもし上手くいかなかった時、「親が決めたから」と他責思考につながってしまうリスクもあります。

親御さんの俯瞰した立場での意見は重要ですが、子どもの気持ちを置き去りにせず、最終的には自分で決めたという感覚を持たせることが不可欠です。
■「ここに行きたい」は一時的かもしれない
【3】子どもだけで決める
「子どもがどうしても行きたいという熱望校があり、それで中学受験を決めた」というご家庭もあると思います。
まず、そこまで魅力的な学校に出会うことができたのは、本当に幸せなことです。しかし、お子さんの「この学校に行きたい!」は、その時の気分や誰かからの影響である可能性も否定できません。
小学生という年齢では、一時的な気分や周囲の声により意見が変わりやすい面もあります。また、比較する対象の学校や環境に対する知見も限られます。
だからこそ、親御さんによる客観的な分析から、「家庭の方針と合致し、かつわが子が最大限伸びる環境」を明確にする必要があるのです。親が情報を整理し、視野を広げてあげ、その上で本人が気に入る学校を選択するという流れが必要です。
【4】在校生の雰囲気で決める
文化祭に行くと「在校生の感じがよかった」「楽しそうだった」という雰囲気から、学校に対して好印象を持たれる方は多いと思います。
しかし、文化祭は非日常のイベントであり、普段の授業風景や学校生活をそのまま反映しているわけではない、ということは前提として受け取る必要があります。また、見学時に目にした在校生は数年後には卒業しているかもしれず、実際に入学したお子さんが同じ雰囲気を味わえるかはわかりません。
学校の雰囲気は在校生が作り上げる部分がある反面、学年やクラスによっても大きく変わるところです。
だからこそ見学時は、学校の本当の姿を感じ取るための「ヒントを探す場」と捉えるくらいにしておきましょう。
■「海外経験を積む短期留学」の落とし穴
【5】国際交流や留学プログラムの内容で決める
「中高生のうちに海外経験を積んで英語に興味を持ってほしい」、そう考える保護者の方は少なくありません。しかし、そのような経験は学校を通さずとも可能であることは知った上で判断したほうがいいかもしれません。
英語科の教員として中高生の海外研修の引率をした経験では、数週間の短期留学では英語力の伸びは限定的です。現地で実力をつけるというよりは、帰国後の英語学習をより積極的に取り組むきっかけができ、その後の継続により長期的に英語力がついてくる、という流れが一般的なのです(ただ、帰国後も熱量高く英語学習を継続できる方は、少数派であることもお伝えしておきます)。
加えて普段からお互いをよく知る生徒同士での参加となることも、良くも悪くも影響することを覚えておいてください。
昨今、数多くのエージェントが留学支援のサービスを行っています。得たい体験や学びを個別にカスタマイズして参加できることもあり、学校のプログラム自体が必須であるか、というとそうとは言い切れません。
■指定校推薦枠は思った以上に狭き門
【6】指定校推薦枠で決める
「有名大学の指定校推薦枠がある」という理由で学校を選ぶのも危険です。指定校推薦は学内での競争が非常に激しく、推薦枠は各学部・学科で1名など極めて少なく、実際に利用できる生徒はごくわずかの成績上位者に限られます。
また、学校ウェブサイト上に指定校推薦枠のある大学名が掲載されていたとしても、大学名だけでは、文系なのか理系なのかや学部が不明なことも多く、利用したいと思っても、ふたを開けてみたら文系あるいは理系の枠しかなかった、という可能性も大いにあります。
■「別学と共学どちらがいいか」は人それぞれ
【7】共学・別学を「なんとなく」で決める
思春期の学びの環境として、「心理的安全性」は非常に重要なポイントです。
協働学習や探究型学習が増え、コミュニケーションを通して学びを深める機会が増える昨今、異性の目があることにより自分の力を十分発揮できない状態になってしまうのは大きな機会損失です。
教員目線でも、共学と比較して、別学では周りの目を過度に気にせず発言・挑戦・リーダー経験を積みやすい環境があると感じたことが多々ありました。一方で共学には、多様な価値観の交差や社会性を日常的に培える良さがあります。
大切なのは、「お子さんの性格・強み・これから伸ばしたい力」から、どちらの環境が自信と挑戦を引き出すかを見極めることです。なんとなくではなく、どちらのほうが自分らしく過ごせそうか、という視点で選びましょう。
志望校選びは「数字」や「印象」に流されがちですが、最も大切なことは、入学後どう過ごすかです。「他人軸」にとらわれず、親子で考えを共有しながら、「この学校で6年間を過ごしたい」と思える学校を、入試本番までに一つでも多く持つこと。それこそが、後悔しない志望校選び、そして後悔のない受験につながります。

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谷 咲(たに・さき)

私立中学・高校教諭

中学校・高等学校教諭専修免許状(英語)保有。大学院修了後渡英し、英語教授法を学ぶ。帰国後は2つの有名私大附属の中高一貫校で専任教員として10年間勤務。延べ数千名以上の中高生を指導。中学・高校クラス担任、留学生クラス担任、部活動顧問、学校広報などの分掌を担当。不登校や学力不振による進路変更への対応をする中で、「第一志望校に入学しても失敗だったと悔やんでしまう」「難関校や人気校に入学しても受験して良かったと思えない」といった生徒と家族の姿に直面。「中学受験の経験を財産に、充実した6年間を過ごしその後も活躍し続ける」、そんな“受験の成功”を一人でも多くの受験生にとの思いで、受験生の親向けサポートを開始。音声配信メディアVoicyでも日々放送を行う。実用英語技能検定1級取得。二児の母。

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(私立中学・高校教諭 谷 咲)
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