1月16日、立憲民主党と公明党の衆議院議員を中心に「中道改革連合」が結党された。いままで公明党を支援してきた支持母体の創価学会の票は、解散総選挙にどのような影響を与えるのか。
創価学会員に取材したライターの片山一樹さんがリポートする――。
■新党結成に揺れる創価学会
「別に立憲民主党が嫌いなわけじゃないんですよ。でも、どうしても投票する気にはなれなくて……」
筆者が取材した30代男性の創価学会員は、釈然としない表情でそう語った。
1月16日に正式発表された「中道改革連合(以下「中道」)」の結党に、創価学会が揺れている。昨年の10月10日に自民党との連立離脱を発表した公明党と、野党第一党である立憲民主党を中心に「中道勢力の結集」を掲げて結党された政党だが、公明党の支持母体である創価学会では今回の動きに対してさまざまな反応があるようだ。
冒頭で紹介した30代男性の学会員は「投票する気になれない」と語る一方で、20代から50代の幅広い層の学会員に話を聞いてみると、「別に入れてもいい」という消極的容認派から、「立憲は嫌いだから絶対に入れない」という拒絶派まで、その反応は一様ではない。特に若い世代からは「立憲じゃなくて国民民主に入れる」という声が多かった。
■有田芳生議員の「東京24区出馬取りやめ」の謎
そんななか、立憲から「中道」に入党した有田芳生衆議院議員が東京24区(八王子市)からの出馬を取りやめ、比例単独での立候補を表明した。
有田議員はこれまで、統一教会問題や裏金問題をめぐって萩生田議員を批判しており、1月18日に自身のX(旧Twitter)に投稿した「新党結成と私の立場」と題した長文の投稿では、萩生田議員の選挙戦を「最終決戦」だと捉えていた。
にもかかわらず、なぜ24区からの出馬を取りやめたのだろうか。
有田議員が1月21日にXに投稿した「衆議院選挙を闘う私の立場」という長文の投稿によると、投稿日の午後に都連幹部を通じて「中道」の野田佳彦共同代表から比例出馬の提案があったという。
当該投稿で「私に対して野田代表から与えられたミッションは、比例候補として、全国で統一教会問題を争点化して関係議員を批判していくことだ」とも述べているが、同投稿で「統一教会との癒着の象徴的存在」と批判している萩生田議員と東京24区で戦うことが、統一教会問題をもっとも追及できるアプローチのようにも思える。

有田議員の東京24区への出馬取りやめには謎もあるが、筆者はこの判断には3つの要因が働いていると考えている。
それは、①「中道」の結党による創価学会の“支援体制の変化”、②有田議員のこれまでの言動と「創価学会員が嫌う議員」の特徴、③東京24区という選挙区の“特殊な事情”――この3点が重なっている。
■創価学会員の“本音”はどこにあるのか
かつて「鉄の団結」を誇った創価学会票の行方が、これほどまでに不透明になったことはこれまでなかった。自公連立が崩壊し、急激な新党結成の流れのなかで次期衆院選に向けた学会員たちの本音はどこにあるのだろうか。
本稿では、創価学会員への取材や候補予定者たちの言動から、「新党結成後の創価学会の雰囲気」を紹介し、そのうえで学会票の行方を探る。
まず、創価学会の支援体制の変化を読み解くために、新党結成を受けて創価学会が行った「全国地区部長会」の中継会場で起きた“ある異変”を紹介したい。
■「立憲に入れたくない方は……」
1月18日午前10時、全国各地にある創価学会の会館で「全国地区部長会」の放映が行われた。取材した創価学会員によると、この集会は新党結成の正式発表に先立つ1月15日に開催の連絡があったようだ。
この集会は、信濃町の施設にあるメイン会場の様子を、全国の会場に中継するというものだったという。中継が始まる前の会場はざわめいており、参加者は口々に「これからどうなっちゃうんだろうね」のような不安と期待の入り混じった雑談をしていたという。
集会の最後に、創価学会の会長である原田稔氏は、新党の名称にもなった「中道」の意義について、かつての指導者である池田大作氏の言葉を引用し、「これこそが真の中道主義である」と明確に示したという。
この原田会長のスピーチは、政党支援という政治活動に対して、宗教的な意義づけを行うものだと言える。
公明党への支援活動を宗教的実践の一環として捉えてきた創価学会員への配慮ともとれるが、こうした学会執行部側の発信がある一方で、現場のテンションは冷ややかだったという。
放映終了後、首都圏のとある会館では地元幹部が参加者たちに向かってこのように語ったという。
「立憲に入れたくないという方は、ご自身で判断してくださって結構ですので」
■「比例は応援しよう」という雰囲気はあるが…
この発言が意味するところは重い。
従来であれば、学会組織は決定した支援候補に対して一丸となって票を投じるよう強力に働きかけるのが当たり前だった。しかし今回は「自分で判断していい」、つまり「投票しなくても構わない」という発言が現場レベルで出ているのである。
取材を進めると、温度差の実態がより鮮明になってきた。公明党の候補者が名簿上位に掲載されると言われている比例区に関しては、「しっかり応援しよう」という空気が醸成されている。しかし、立憲民主党出身で中道から出馬する候補しかいない小選挙区に関しては、これまでのような具体的な支援に関する指示が出ていないという。
創価学会で「地区協議会」と呼ばれている現場の学会員が集まる打ち合わせの場においてさえ、話題に上るのは比例区のことばかりであり、小選挙区の話題には誰も触れようとしないというのだ。
■「報告なし」という異常事態
こうした現場の「やる気のなさ」は、選挙活動の根幹をなす「報告項目」の変化にも如実に表れている。
創価学会の選挙活動といえば、緻密な票読みと報告システムで知られている。これまでは、以下のような詳細な項目について、日々の活動報告が求められていた。

「○K(マルケー)」:支援活動を行っている活動家の数

「F」:友人に選挙の話をした数(FriendのF)

「○F(マルエフ)」:自発的に支援活動をしてくれる友人の数

「Z」:期日前投票を済ませた友人の数

「J」:投開票日当日に投票した友人の数

「内H」:内部票、つまり創価学会員の投票数
さらに有権者名簿を作成する際には、これら以外にも細かい項目が立てられているという。この徹底した数値管理こそが、創価学会の「集票マシーン」としての力の源泉だったと考えられる。
ところが、今回取材した地域の学会員によると、異常事態が起きているという。これらの報告項目のほとんどが省略されているのだ。
名簿の更新自体は必須とされているものの、具体的に何を報告するかは地域ごとの判断に委ねられている。取材した地域では、「内部票(内H)」だけの報告で済ませることになったという。
これまでは具体的な数値目標を設定し、その達成に向けて組織全体が動いていたからこそ、確実な票を積み上げることができた。しかし今回は、その報告義務がない。報告がなければ、当然ながら緊張感も生まれない。
実際に「今回は報告がないから気が楽だ」という安堵の声も出ており、選挙戦としての熱量は著しく低下している。立憲側は、選挙協力による学会票の上積みをあてにして新党を結成したと考えられるが、現場の実態を見る限り、従来通りの“学会票”は期待できないと考えたほうがいいだろう。
■「イデオロギーの違い」と支援力の関係
今回の選挙において、創価学会が従来通りの強固な選挙態勢を取れなかった理由はいくつか考えられる。

まず、第一にあげられるのが、突如として行われた解散による準備不足だ。高市早苗総理が断行した「電撃解散」は、組織に大きな混乱をもたらしたと考えられる。創価学会の支援活動は本来、長い準備期間を要するものであり、今回のような急な選挙への対応は構造的に難しい。
次に、小選挙区から完全に撤退し、比例代表のみで戦うという初めての経験をしていることも理由としてあげられる。そのうえ、同じ信仰を持っている「同志」ではなく、まったく交流のない他党出身の議員を応援するのは心情的にも困難であると考えられる。
加えて、「そもそも、イデオロギーの異なる立憲民主党出身議員とは歩調が合わないのではないか」という指摘も根強い。しかし筆者は、政策や理念の不一致が、現場の亀裂の主たる原因ではないと考えている。
そこで次に、「創価学会員が嫌う議員」の特徴について探っていきたい。
■立憲議員の“造反発言”に反発する学会員
1月20日、創価学会員や公明党支持者が立憲出身議員を批判する象徴的な出来事があった。「中道」に入党した松下玲子衆院議員による「脱原発」に関する発言である。
松下議員が、原発再稼働に対する態度を支持者と見られるアカウントに問われた際に「原発再稼働反対です。入った上で、中で頑張りたいと思います。」と発言し、「中道」が基本方針に掲げた原発再稼働の姿勢に反するとして批判が殺到した。

当該投稿は1月21日午後1時の時点で削除されているため現在は確認できないが、リプライ欄には創価学会員を名乗るアカウントや、公明党のファンネームである「RICE」をプロフィールや名前に入れているアカウントからの批判も多く含まれていた。
創価学会員から批判が殺到したことを考えると、彼らは「脱原発政策」そのものを批判している印象を受けるかもしれない。しかし、彼らが怒っているのは「脱原発」という政策そのものではなく、「新党の結束を乱す行為」や「公明党(および連立政権)が定めた方針に反する言動」に対してなのだ。
ここに、外部からは理解しにくい創価学会員の行動原理がある。彼らは必ずしも、右派・左派といったイデオロギーで政治家の好き嫌いを判断しているわけではない。
たとえば、昨年10月に公明党が連立を離脱した際に、メディアでも「平和主義を掲げている創価学会員は、憲法改正を目指すタカ派の高市早苗氏などを嫌うはずだ。だから連立離脱したのではないか」という見立てが一般的だった。
しかし、実際に学会員に取材をしてみると、高市氏に対して個人的に悪印象を持っている人はそれほど多くない。彼らの判断基準は、政治的なスタンスよりももっと個人的・感情的な価値基準に基づいている。
では、その「感情的な価値基準」とは何か。それは議員が「創価学会を批判したり、侮辱しているかどうか」である。
■「信仰への侮辱」は許さない
過去を振り返れば、90年代に創価学会批判を展開していた団体である「四月会」に所属していた亀井静香氏などの元議員や、国会で執拗に政教分離問題を追及した元民主党の石井一氏(故人)に対し、学会員たちは強烈な嫌悪感を抱いていたという。

最近の例で言えば、2024年の衆院選の際、れいわ新選組の山本太郎代表が、大石あきこ議員の応援動画の中で「公明 お前 仏罰下る」と発言したこともあった。この発言は、政策論争ではなく、信仰そのものを揶揄するものだったこともあり、学会員から激しく批判された。
創価学会員にとって公明党とは、単なる支持政党ではない。「池田大作先生が作った政党」であり、その存在自体がアイデンティティの一部である誇り高き対象なのだ。したがって、公明党を馬鹿にされることは、創価学会そのもの、ひいては自分たちの信仰を侮辱されたのと同義になるというのだ。
つまり、この「信仰への侮辱」こそが、彼らが最も許せないラインなのである。
■過激な創価学会批判をしていた有田芳生議員
この「創価学会批判をしたかどうか」という基準を当てはめたとき、今回の選挙において、学会員にとってもっとも支援しにくい候補者が浮かび上がってくる。
それがまさに、東京24区(八王子市)から出馬を取りやめ、比例単独での立候補を表明した立憲民主党出身の有田芳生衆議院議員なのだ。
有田議員は本稿の冒頭で紹介した「新党結成と私の立場」という文意の読み取りにくい長文投稿のなかで、彼は自身の最初の著作が『現代公明党論』であったことを紹介している。
この『現代公明党論』という書籍は、創価学会が警察と癒着し、組織ぐるみで不祥事のもみ消しを行っているといった趣旨の主張が展開されている。公明党と創価学会を激しく指弾するこの本を、自身の原点として紹介する行為は、学会員からすれば宣戦布告にも等しいものだろう。
本書について有田議員は自身のXの投稿で「私が33歳の時に書いた「現代公明党論」は問題ないと24年総選挙のとき、創価学会幹部から聞いています。」と述べているが、有田議員に「問題ない」と語った幹部と、現場の創価学会員の感覚が一致しているとは限らないだろう。
しかも、有田議員の「反創価学会」的な言動はこれだけではない。
■“反創価学会の集会”にも参加
それ以上に、創価学会員たちを怒らせかねないのが、有田議員の近年の活動だ。彼は2022年、あるシンポジウムに参加している。「政治と宗教を考えるシンポジウム」と銘打たれたそのイベントの共演者が、学会員にとっては看過できない人物たちだった。
一人は、創価大学出身であり反創価学会ジャーナリストとして活動する乙骨正生氏。もう一人は、元創価学会員であり、現在は西東京市議会議員として学会批判を展開している長井秀和氏である。
乙骨氏はこれまでに創価学会から何度も名誉毀損で民事訴訟を起こされており、創価学会側の主張が認められて損害賠償が確定した事例もある。長井氏も同様に、創価学会からの名誉毀損で民事訴訟を提起され、高裁での損害賠償命令が確定している。
「中道」の候補者とはいえ、創価学会員の心理としては、そんな人物たちと肩を組んでイベントを行っている人物を応援するのは困難だろう。
有田議員の比例出馬が報じられる前に、東京24区の選挙区内に住む30代男性の創価学会員に取材したところ、彼は嫌悪感を隠そうともせずにこう語った。
「勘弁して欲しいですよ。有田さんには絶対に入れたくない。乙骨さんたちとのつながりを知っている学会員は、みんな彼を嫌っています」
政策や政党の枠組み以前に、「敵の味方は敵」という心理が強く働いているのだ。
■「東京24区」の特殊な事情
そして最後に、「東京24区」という選挙区の特殊性が、有田議員の出馬取りやめに大きな影響を及ぼしていると考えられる。
この選挙区には創価大学のキャンパスがある。選挙権年齢が18歳に引き下げられたことで、創価大学の学生は全員が有権者となった。創価大学には地方出身者などのための寮が完備されており、周辺のアパートで暮らす学生も少なくないという。また、創価大学の出身者が卒業後もそのまま八王子エリアに住み続けるケースも多く、都内でも屈指の「学会票が厚いエリア」として知られている。
2024年に行われた前回の衆院選の結果を見てみよう。自民党の萩生田光一議員が得票数7万9216票、対する有田芳生議員は7万1683票。その差はわずか7533票という大接戦だった。萩生田氏が旧統一教会問題や裏金問題で逆風を受けていた影響も大きいが、いずれにせよ薄氷の勝利であったことは間違いない。
一般的に、小選挙区における公明党(創価学会)の集票力は1万票から2万票と言われている。
単純な計算をすれば、今回の「自公連立離脱」の影響で、これまで萩生田議員に流れていた公明票が宙に浮くことになる。もしその票が野党候補である有田氏に流れれば、約7500票差など容易にひっくり返り、有田氏の当選は確実なものとなるはずだ。
■政策論争の裏にある“学会票の行方”
しかし、事態はそう単純ではない。
前述したように、創価学会からの支援が従来通りのものではないと予想されるだけでなく、有田議員には「反創価学会議員」としての強烈な側面がある。
学会員にとって、裏金問題で揺れる自民党議員よりも、自分たちの信仰を攻撃してきた(と彼らが認識している)候補者のほうが、心理的な拒絶感は遥かに大きい可能性があるのだ。
実際に前回の衆院選でも「裏金の萩生田さんに入れるのも嫌だけど、有田さんに入れるのもキツい」という声が地元組織であがっていたという。仮に有田議員がそのまま出馬していたら、学会票が現職の萩生田議員に流れることも十分に考えられる。
有田議員の比例出馬が決まってから、東京24区に住む30代男性の創価学会員に取材したところ「有田さんが出馬しないと聞いてホッとしています。代わりに出馬する候補は応援しやすそうな人だといいですね」と語っていた。
以上、これまで解説してきた、➀「中道」の結党による創価学会の“支援体制の変化”、②有田議員のこれまでの言動と「創価学会員が嫌う議員」の特徴、③東京24区という選挙区の“特殊な事情”、という3つの要因が重なり、東京24区への出馬取りやめという判断につながったのではないだろうか。
今回の解散総選挙では、東京24区のように、公明党の連立離脱によって野党候補が逆転勝利する選挙区がいくつ出るかに注目が集まっている。しかし、単に「自民党対野党」の構図だけで勝敗を予測することはできない。
接戦が予想される選挙区において、その野党候補が過去に創価学会や公明党をどのように批判していたか、あるいはどのような「敵対者」と関わりを持っていたか。
政策論争の影に隠れがちな、この「感情的なしこり」こそが、創価学会票の最終的な行き先を決定づけ、選挙結果を読み解くうえでの極めて重要な鍵になるのではないだろうか。

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片山 一樹(かたやま・いつき)

ライター

1992年生まれ。出版社勤務を経てライターに。

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(ライター 片山 一樹)
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