首都圏の中古マンションが高騰している。すでにマンションを取得している人にとっては、資産価値が上昇していることになる。
不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「ご自宅のマンションの値上がりで喜んでいる人に対して、私は『ならばすぐに売りましょう』とアドバイスしている」という――。
※本稿は、牧野知弘『50歳からの不動産 不動産屋と銀行に煽られないために』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■人生100年時代、建物の資産価値は期待できない
厚生労働省によれば2024年における日本人の平均余命は男性で81.09歳、女性で87.13歳です。100歳以上の高齢者人口は9万9000人を超えました。日本は超長寿社会へと突入しています。
仮に100歳まで生き続けるとして、自分の家をどうしていけばよいでしょうか。住宅ローンを組んで家を買うときに、自分が100歳まで生きることを考えて買っている人は少ないでしょう。ローン自体は例えば30年で返済できているとしても、健康でありさえすれば生活はまだ延々と続くのです。
55歳で築15年の家に住んでいる人にとって、100歳までのあと45年を生きるということは100歳時点では築60年の家になっているということです。築60年のマンションはすでに世の中に存在しています。東京都心部であれば、築年の古いマンションであっても価値があって、建替え対象となりえますが、さてご自身のマンションはいかがでしょうか。
当然ですが中古マンションを買われた人は、60年に買った時点での築年数が加わりますから築70年あるいは80年になってきます。
戸建ての家でも同様に、よほど丁寧にメンテナンスやリフォームをかけていないと、建物は有限。資産としての価値は、土地はともかく建物の場合、期待するのが難しくなります。
■普通の夫婦であれば1LDKで十分
実はこれからの長寿社会では、家は生涯で何度か買い替える、移り代わるものとなることを想定したほうが良いのです。
それでもそもそも家の値段は高すぎる。やっとローンの返済が終わったあとにまた家のことを考えなければならないのは勘弁してほしい。ましてやお金の問題もあって、とてもじゃないが、家を買い替えることなどできはしない。多くの人はそう考えます。
ミニマイズという言葉があります。自分の生活環境を年齢や体調、家族構成など変化に応じて縮小していく考え方です。これまでは70平方メートルの3LDKに家族3名ないし4名で暮らしていた家。これからもこの広さは必要でしょうか。子どもが巣立っていったあとも子どもの部屋をそのまま残している人が多いと聞きます。

仕事がうまくいかない、離婚するなど子どもの有事に備えて部屋をそのままに、などといいますが、この空間自体が自分たちの生活に全く貢献していないことを認識すべきです。親の子離れが必要です。普通の夫婦であれば、1LDKで普段の生活は十分のはず。最近は夫婦別部屋にするケースも多い、または趣味の部屋などを確保しておきたいなどの理由があっても2LDKもあれば十分です。クローゼットを占拠している衣服やもう絶対に使うことのなくなった趣味の品、雑貨類などの断捨離をすることで、70平方メートルの生活空間をミニマイズすることができます。
■都心へのアクセスにこだわる必要もない
本当ならば、定年後に生活する家については別のマーケットが存在してもよいと私は考えています。若いころに似合った服でも歳をとると恥ずかしくて着ることができないのと同様に、家も歳とともに「似合う」家が変わってくるのではないでしょうか。
夫婦だけで暮らすなら住戸面積はもう少し狭くてもよいと考えれば、小さくて価格も安い家に買い替えれば、大きな資金負担なく買い替えることが可能になります。
住む場所はどうでしょうか。これまでは会社に通勤するのに便利な街を選んできてはいませんか。都心ターミナル駅まで、あまり時間をかけることなくアクセスできることが家選びで優先順位が高かったはずです。
もちろん定年後であっても都心にアクセスしやすい、あるいは都心に住むことの効用は高いものがあります。
でも毎日「通う」必要もない、出勤時間が決まっていて時間に間に合うように「急ぐ」必要もない。電車が混んでいる時間帯に無理に乗車しなくてもよい。こんな生活になれば、今住んでいる街にこれからも拘(こだわ)り続ける必要はありません。地元とのお付き合いが深い人は別ですが、マンション暮らしで、夫婦共働きで頑張ってきたような世帯の多くは、街に愛着がないかぎり、将来の自分たちの住まいとして、選択肢を広げてもよいのではないでしょうか。
■55歳からの家選びで重要な視点
歳をとると行動半径も狭くなりがちです。外に出かける積極的な理由をつくるには、自分たちの住む街が、日々生活をする舞台としてどんな魅力があるのかをよくチェックする必要があります。
自然と親しみたい人は、今より郊外に移るのもありです。都会暮らしにどっぷりとつかりたい人は住戸面積を犠牲にしてでも都心に住むというのも悪くないでしょう。これからのライフスタイルはこれまでの通勤主体のライフスタイルとはかなり異なったものとなるはず。このことを自覚して、55歳からの家選びを考えたいものです。
おそらく本書をお読みの多くの方は、まだまだ会社に通わなければならない、ローンが残っている、自分のライフスタイルなんてわからない、という人が多いでしょう。それでも、今から準備は必要です。

私の周りでも、定年になるまでしゃかりきに働いて、いざ「明日から出社に及ばず」と言い渡され、始めの3カ月は「毎日が日曜日」を満喫していたはずが、半年後にもなるともうやることが見つからず、奥さまにも邪険にされたといって、ブーブー愚痴る人がいます。周到な準備を怠ってきたからです。
実際には100歳まで生きるかどうかはわかりませんが、第2の人生ならぬ第3の人生計画が必要なのがこれからの私たちです。そうした意味で、家は買ってしまえば終わりなのではなく、とりわけ55歳から先の人生にふさわしい家選びが必要となるのです。
■所有しているマンションの中古価格が上がって喜んでいる人たちへ
マンション価格が高騰しています。不動産経済研究所の発表によれば、2024年に供給された首都圏の新築マンション平均価格は7820万円、1平方メートルあたりの単価は117.7万円。2010年に比べて価格で65.8%、単価に至っては1.77倍の値上がりとなっています。東京都区部に限れば1億1181万円、単価で171万円という高騰ぶりです。
買えない人は中古マンションマーケットに殺到します。東京カンテイの調べでは、2024年の首都圏中古マンション(70平方メートル)の平均価格は4747万円、これは2010年2965万円に比べて60.1%もの値上がりです。新築マンションとほぼ変わらない値上がり率です。さらに東京都区部でみると7720万円、2010年の4303万円に比べて79.4%増となります。

■「ならばすぐに売りましょう」
この高騰ぶりですが、すでにマンションを取得している人にとっては、自身のマンションが値上がりしている、つまり資産価値が上昇していることとなってニンマリしている人も多いはずです。
実際に私の周りでも、所有しているマンションの中古価格が取得価格の2倍になったと言ってはしゃいでいる人は大勢います。雑誌やYouTubeなどでも値上がり特集が組まれ、マンションを所有することが資産形成につながると喧伝されています。
しかし不動産投資家として成功している人はともかく、ご自宅のマンションの値上がりで喜んでいる人に対して私は「ならばすぐに売りましょう」とアドバイスしています。なぜなら自宅という「自分の生活コスト」としてマンションに住んでいる限り、どんなに中古価格が上昇しようにもその利益を手にすることができないからです。含み益はあくまでも「含み」であって売却しない限り実現できません。
持ち家であることを継続する限りにおいてはなかなかこの含み益を享受できないのが自宅を投資対象とする資産形成なのです。含み益を満額実現しようと思うならば、自宅を売却したのちにいったん賃借すれば、手元キャッシュを増やすことに貢献します。特に自宅の売却にあたって発生する譲渡益は、3000万円までは譲渡税がかからない特典があります。それでも新たに借りることになった賃貸住宅で賃料が発生してしまいますが。
■不動産の売却で想定通りの利益を得るのは難しい
私の知人でこの自宅の売買を繰り返すことによって一定の資産を築いた人がいますが、彼は少なくても会社員人生を送っていた期間の中で12回売買をした、つまり引っ越したということなので、ご家族の苦労が偲(しの)ばれます。
また不動産の売却の場合にはなかなか想定したとおりの利益が得られません。
不動産仲介手数料は売買金額の3%程度かかりますので高額になるほど実額が高くなります。3000万円の税額控除はあるもののそれを超えれば短期譲渡(5年以下での売却)については譲渡益に対して39.63%もの高率な税金が課せられます。
買い替えるにしても自宅の場合は、通勤通学の便や面積、間取りを大きく変えることができないと、結局自分が購入した時よりもはるかに高い価格の家に買い替えることになりますので、住宅ローンの額もあまり変わらないどころか、高額になるケースも多いのです。
■面積、エリアを変えて「安く買い替える」
不動産価格が右肩上がりを続ける限り、自宅の含み益で金持ちになる夢は永遠に実現できないことになります。
しかし55歳以降でのマンション買い替えはどうでしょうか。子どもが巣立ってしまった、あるいは巣立つことが想定されているのであれば、面積をミニマイズする、郊外など街、エリアを変えることで、買い替え先の家を安く取得できれば、なるほど含み益を実現して老後の生活費などに充当できることになります。
たとえば都内で2010年に4000万円で買ったマンションを中古マーケットで今、6700万円で売却できれば基本的に譲渡税はかからず、仲介手数料207万円(売却価格×3%+6万円)を引かれるだけになります(諸費用は除きます)。住宅ローンが1000万円残っていてこれを返済したとしても手元には5493万円が残ります。このお金を元手にたとえば自分の好きな海に近い生活を実現するために湘南エリアの4500万円程度の中古の戸建て住宅を購入します。借入金はなくなり、1000万円程度(諸費用は除きます)の手元資金を創出できます。
■55歳以降こそが含み益実現のチャンス
湘南エリアは高いのでは、と思われるかもしれませんが、4000万円台で例えば大磯、二宮あたりの築20年以内の中古住宅には十分手が届きます。
これが都内に居続けようとすると買い替え先の価格は高く、同じようなマンションを求めようとすると6700万円以上の物件でないと満足できなくなってしまいます。
家族の数が変わらず、ライフスタイルが変わらないうちに買い替えようとすると、買い替え先も高騰していて中古住宅で高く売れた利益分をすべて新しい家に「付け替える」だけになってしまいます。ところが55歳以降の家選びを考えるのならば、これから100歳までの新しいライフステージに適合した面積、街・エリアを会社や学校の都合ではなく、自身の都合で選択するのならば、含み益を大いに活用できるのです。
そうした意味では55歳以降こそが含み益実現のチャンスだといえるのです。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)

不動産事業プロデューサー

東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て、三井不動産に勤務。その後、J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在は、オラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄』(文春新書)、『家が買えない』(ハヤカワ新書)、『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)『空き家問題』『なぜマンションは高騰しているのか』(いずれも祥伝社新書)など。

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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)
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