■「新軍国主義」と批判を繰り返す中国
日本の防衛費増額に、中国メディアが神経をとがらせている。
中国国営放送のCGTNは1月13日付の記事で、日本の2026年度防衛予算が過去最高の9.04兆円に達したと報じた。増加は14年連続。2022年度と比べると、わずか4~5年で67%も膨れ上がったと言及した。
CGTNは、攻撃型を含むドローン戦闘システムの整備、長距離打撃能力やミサイル防衛の強化、宇宙など新領域への投資、そして南西諸島の防衛力増強に予算が重点的に配分されていると指摘。「日本は軍拡路線をひた走っており、戦後の平和体制から脱却する意図は誰の目にも明らかだ」と極めて批判的に論じている。
中国共産党系タブロイド紙・環球時報の英語版、グローバル・タイムズも論評で、補正予算などを加えると防衛費は約11兆円に膨らみGDP比2%に達すると指摘。日本は「新軍国主義」に向かっていると断じた。
だが、こうした中国メディアの主張は、地域の安全保障環境の一面しか見ていない。南シナ海問題に東シナ海問題、台湾海峡有事やフィリピン海の安全保障など、実際に西太平洋の状況を脅かしているのは誰か。
■“ただの漁船”を大動員した理由
米ニューヨーク・タイムズは1月20日の記事で、中国漁船に不穏な動きがあると指摘している。昨年12月から今年1月にかけて、まずは約2000隻、次いで約1400隻の中国漁船が、突如として東シナ海に大規模な船団として集結した。
海事・軍事の専門家らは、この動きを「海上民兵」、つまり有事に軍事作戦へ参加する訓練を受けた民間漁船の部隊を集めた、大規模な動員訓練と見ている。中国が係争中の海域へ大量の船舶を瞬時に展開できる能力を見せつけたものだと、専門家らは警鐘を鳴らす。
同紙は、台湾をめぐる危機が起きた場合、中国は漁船を含む数万隻もの民間船舶を動員して航路を塞ぎ、敵対する国々の軍事行動や物資補給を妨げる恐れがあると警告している。
漁船そのものは民間船であり、海上封鎖を実施するには小さすぎる。しかし、アメリカの軍艦の動きを妨げることは可能だとの見方がある。元アメリカ海軍士官で新アメリカ安全保障センターに所属するトーマス・シュガート氏は同紙に、大量の小型船がミサイルや魚雷のおとりとなり、レーダーやドローンのセンサーを数的優位で圧倒しうると指摘する。
■日本の潜水艦を評価する米メディア
こうした中国の動きに対し、日本は静かに、しかし着実に防衛態勢を固めている。
香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストは、日本が運用する通常動力型潜水艦は23隻に上り、アメリカの同盟国としては最大級の規模だと言及。
日本は原子力潜水艦こそ持たないが、そうりゅう型やたいげい型には高性能のステルス技術とリチウムイオン電池が搭載されており、長時間潜り続けることができると論じる。さらに、日本の潜水艦は中国製の多くの艦より静粛性に優れ、敵から見つかりにくいと同紙は評価する。
米技術・科学メディアのインタレスティング・エンジニアリングも、日本の潜水艦の能力に注目。記事は、中国海軍は約61隻の潜水艦を擁し、うち約12隻は原子力潜水艦だと述べ、対する日本の潜水艦はわずか24隻だとしている。原子力潜水艦は1隻もない。だが、数では半分にも満たないが、質では十分に対抗できると述べている。
日本の潜水艦の約3分の1を占めるそうりゅう型は、空気を取り込まずに動力を得る「非大気依存推進(AIP)」という技術を備える。浮上せずに約2週間も潜り続けられ、同クラスの他国艦より音も静かだ。全長約84メートル、潜航時の排水量は約4200トンという大型艦ながら、X字型の船尾のおかげで浅い海域でも小回りが利く。
高性能ソナーに加え、魚雷やミサイルも搭載する。同型の最後の2隻にはリチウムイオン電池が採用され、この技術は後継のたいげい型でさらに発展することになるなど、数々の利点を同メディアは挙げる。
■1隻800億円×8隻の「たいげい」
そうりゅう型の後を継いだ「たいげい型」は全長約84メートル、水上排水量約3000トン、乗組員は約70人。
米軍事専門メディアのナインティーンフォーティーファイブによると、大きな特徴は蓄電池にある。推進方式は従来通りのディーゼル電気式だが、蓄電池には鉛蓄電池ではなくリチウムイオン電池を採用した。
船体には音響を吸収する素材を採用し、内部の振動が外に漏れにくい浮き床構造を採用。こちらも船尾にはX型舵を備え、ステルス性と機動性を高めている。建造は三菱重工業と川崎重工業が手がける。1隻あたり約800億円で、政府は少なくとも8隻を調達する計画だ。
米国防専門メディアのディフェンス・ポストによると、たいげい型は最高約20ノット(時速約37キロ)で長時間の航行が可能。高性能のZQQ-8ソナーを備え、武装には18式長魚雷とUGM-84Lハープーン Block II対艦ミサイルを積む。静粛性に優れ、敵を探知する能力も高い設計だと同メディアは評価している。
■中国軍元幹部が「真の脅威」と認める
こうした日本の技術面での優位性は、中国にとって深刻な脅威となる。
ベルギーの軍事専門誌アーミー・レコグニションは、たいげい型はその船体を水中に潜めたまま、中国の水上艦艇や沿岸の軍事拠点を遠距離から攻撃する能力を持つと指摘。万が一にも台湾などで有事に至った場合、中国は艦艇が沈められる危険を承知で突破を試みるか、貴重な護衛艦や対潜哨戒機を攻撃任務から引き剥がして船団の護衛に回すか、苦しい二択を迫られることになる、と記事は論じている。
実際のところ中国側も、日本の潜水艦を脅威と認識している。
■台湾から112km、与那国島の要衝
日本の強みは潜水艦の技術力だけではない。地理もまた、日本に優位性をもたらすと論じられている。
台湾海峡周辺から太平洋へと連なる日本の島々の間には、戦略上の要衝となる海峡がいくつも点在する。沖縄本島と宮古島の間を通る宮古海峡、台湾とフィリピンの間に横たわるルソン海峡などが代表例だ。
いずれも幅が限られ、艦船が通れるルートは自ずと絞られる。航路が読みやすいということは、潜水艦にとっては格好の“狩り場”になるということだ。仮に有事となれば、身を潜めて待ち構え、通りかかる敵艦を仕留めることも可能だ。待ち伏せ攻撃に理想的な地形ということになる。
中国海軍の空母打撃群や上陸部隊がこれらの海峡を通過しようとすれば、日本の潜水艦の攻撃は避けて通れない。しかも、こうした海域では東シナ海に展開する中国軍の対潜戦システムも届きにくい。
インタレスティング・エンジニアリングは、日本の潜水艦隊が賢く運用されれば、中国海軍の数的優位を帳消しにできると論じる。古代ギリシャのテルモピュライの戦いを引き合いに出した見立てだ。紀元前480年、スパルタ王レオニダスが率いたわずか300人の精鋭が、狭い山道を盾にペルシアの大軍を何日も足止めした故事である。地の利を活かせば数の差は埋められると物語るこの教訓が、現代の海戦にも当てはまるというわけだ。
■ミサイルによる防衛も「ゲームチェンジャー」
日本の防衛力は潜水艦に加え、ミサイル戦力でも大きく進化している。
アーミー・レコグニションによると、改良型の12式地対艦誘導弾は、射程を従来の約200キロから一気に900キロ以上へ延ばした。最大では1200キロ程度に達する可能性もあると同記事は分析する。
飛行中は慣性航法とGPSを組み合わせて誘導し、目標に接近する終末段階ではKa帯AESAシーカーと呼ばれる高性能レーダーで精密に捕捉して着弾させる。機体はステルス性を高めた設計で、敵のレーダーに探知されにくい。南西諸島などに発射機を分散配置すれば、東シナ海の広い範囲をカバーできるようになる、と同メディアはみる。
サウスチャイナ・モーニングポストは、日本が台湾から約110キロほどしか離れていない与那国島に中距離ミサイルを配備する計画を発表した、と報道。ナジー教授は、射程約200キロの旧型12式ミサイルを与那国島に配備する計画を「ゲームチェンジャー」と評価した。
「南西諸島の12式ミサイルは日本領土を守るためのもの。たまたま中国海軍の作戦を難しくするだけだ」と同氏は述べ、専守防衛に徹する日本の姿勢を強調。「日本は侵略するのが極めて難しい国であり続ける。だからこそ、脆弱な地域にこうしたシステムが配備されている」と語った。
■日本の「反撃帯」が中国を牽制している
もっとも、こうした日本の反撃能力には厳しい制約がある。
シンクタンクの国際危機グループは、2022年の国家安全保障戦略において、「武力攻撃が発生していない段階で先に攻撃する先制攻撃は、言うまでもなく許されない」と明記されていると指摘している。
裏を返せば、高市首相が台湾有事に言及した際、中国が激しく反発した理由はここにある。台湾への圧力を強めたい中国にとって、台湾の危機で日本が「存立危機事態」宣言するようなことがあっては困る。人民解放軍の痛いところを突く日本の防衛システムだからこそ、台湾には是が非でも加勢してくれるな、というわけだ。
アーミー・レコグニションは、日本の戦略が中国人民解放軍の作戦計画にとって、深刻な制約になり得ると分析する。従来、中国海軍は宮古海峡やバシー海峡を経てフィリピン海へ進出することを前提に、戦略を組み立ててきた。だが今や、こうした海峡を通過するならば、日本の潜水艦による待ち伏せ攻撃のリスクと隣り合わせだ。
中国の国営メディアやシンクタンクの分析者たちは、たいげい級、12式改良型、トマホーク、そして与那国島の03式中距離地対空誘導弾が一体となることで、第一列島線が「連続的な反撃帯」へと変わりつつある、と焦りを強めている。この構図は、台湾をめぐる有事で中国が「主導権を握る」という従来の前提を根底から揺るがすものだ、と同誌はみる。
中国は台湾海峡で積極的に演習を行うなど、台湾への圧力を強めると共に、国際社会に対し海洋上での軍事活動の既成事実を作っている。武力による威圧をちらつかせる中国に対し、日本の対応が適切な圧力として機能しているとの国際的評価が目立つ。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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