これまで「物価の優等生」と呼ばれてきた、卵の価格上昇が鮮明化している。昨年12月には、2023年6月ごろの「エッグショック」を上回る水準まで、卵の価格は上昇した。
卵価格高騰の背景には、国内外のいくつかの要因が重なっていることがある。まず大きいのは、鳥インフルエンザの影響だ。鳥インフルエンザによる鶏の殺処分増加で、卵の供給量が減少した。それに加えて、鳥のエサとなる飼料やエネルギー価格の上昇の影響も無視できない。いずれも、養鶏業者にとって重大なコスト増加要因だ。
■卵以外の生活必需品も値上りしていく
飼料やエネルギーの価格上昇の根底には、世界の構図が大きく変化し始めたことがある。足元、IT先端分野やレアアース、エネルギー資源をめぐる米中の対立は先鋭化傾向だ。しかも、両者の対立に加えて、ウクライナ紛争によるエネルギー資源の流通や、ウクライナでの肥料供給能力などの問題が顕在化した。
ここへ来て、トランプ大統領がイランへの攻撃を示唆し、不透明要因は一段と増えている。それに伴い、ホルムズ海峡の封鎖懸念が高まって原油価格が上昇した。
こうした変化は、今後、さまざまなモノの価格を押し上げることが考えられる。
■日本の食卓を支えてきた「物価の優等生」
日本養鶏協会によると、1989年の年平均で東京地区のMサイズ卵、1キロ当たりの価格は191円だった。1990年以降、変動を伴いつつ、卵の価格はおおむね190円を挟んで横ばい圏で推移した。2004年の年初には90円を下回る水準にまで卵の価格は下落した。他の畜産品と比較しても卵の価格は低く、家計にとって欠かせない食品の代表格だった。そのため卵は物価の優等生と呼ばれた。
ところが、2021年頃から、状況は大きく変化した。卵の価格は上昇傾向を鮮明にしており、物価の優等生と呼ぶことは難しいほどだ。その兆候が出始めたのは、2021年の春先だった。興味深いことに、そのタイミングは、わが国の消費者物価が上昇し始めた時期と符合する。それ以降、卵の価格は上昇傾向をたどった。
2022年11月、卵の価格は262円に上昇した。さらに、2023年4~5月の価格は350円に上昇した。その状況はエッグショックと呼ばれた。
その後、卵の価格はいったん下落し、2023年12月には247円まで値段が下がった。2024年の1~2月にかけては、180~190円台まで相場を下げた。
■2025年の平均価格は最高値を更新
しかし、価格の下落は長続きしなかった。2024年の年央以降、再度価格の上昇が鮮明化した。2025年12月の価格は345円に達し、年平均でみた価格も324円と1989年以降の最高を更新した。
足元の状況を見ると、地域、サイズによっては、2023年半ばのエッグショックを上回る水準にまで卵の価格は上昇している。鳥インフルエンザなどの影響もあり、Mサイズの卵の数量がそろわず、サイズがばらついた卵を混載して販売するケースも増えている。
食品メーカーや飲食店では、卵を扱った製品やメニューの値上げが相次いだ。海外から輸入する卵液を使って、コストを抑えようとする企業も増えた。
冬場に鳥インフルエンザが流行したことで生産が減少し、価格が上昇したとの説明は多い。ただ、卵の価格推移を見ると、鳥インフルエンザの主な流行時期ではない場面でも、卵の価格は上昇傾向を辿るケースも目立つ。これは一体なぜか。
■原材料価格の上昇×円安=飼料価格が急騰
主な要因として考えられるのは、鶏のエサである飼料などの価格上昇だ。世界的にみて、飼料の価格は、2021年の春ごろから急ピッチで上昇し始めた。コロナ禍の当時、主要国政府は財政出動を拡大し、家計や企業向けの支援策を拡充した。その結果、需要は一時的に大きく上振れ世界的に物価は上昇し始めた。
2022年に入って以降は、ウクライナ戦争などの影響から、世界的に小麦やトウモロコシ、大豆の価格が上昇した。穀物生産に必要な肥料の価格も(窒素、リン酸、カリウム)の価格も上昇した。
当時、外国為替市場では、米国やユーロ圏で利上げ観が高まった。一方、物価上昇の兆しが出始めた中で日銀は、異次元緩和を継続する方針を掲げた。内外金利差の拡大から主要通貨に対する円安傾向は強まった。
飼料の原材料価格の上昇と円安の進行の掛け算で、わが国の配合飼料価格は急ピッチで上昇した。2021年前半に1トン当たり6万円程度とみられた配合飼料の価格は、2023年夏場、9万円台後半に急伸した。その後2025年の後半、国内の配合飼料価格は緩やかに下落したものの、足元では再度上昇し始めている。
■鶏を育てるための電気代も高くなっている
もう一つ無視できない要因は、エネルギー価格の上昇だ。輸入した肥料や鶏の運搬には、トラックの燃料が必要になる。ひなを育てるため、「ひよこ電球」と呼ばれる専用の保温器具を使う。さらに養鶏場の空調や室温などの管理に電力を消費する。
ウクライナ戦争が発生して以降、世界的に天然ガスなどの価格は上昇した。イスラエル、米国とイランの関係が悪化したことで、イエメンの親イラン武装組織フーシ派はタンカー攻撃を激化させた。その結果スエズ運河を回避するタンカーは増加した。
米国では、異常気象の影響によってパナマ運河の水位が下がり、船舶航行が遅延した。いずれも、世界のエネルギー価格の上昇要因につながった。
■「力による秩序」を地で行くトランプ大統領
世界の構図は大きく変化し始めた。特に、トランプ大統領の外交方針の影響は無視できない。トランプ大統領は、力による秩序を重視した上で、まずは西半球から影響力を拡大する方針を示した。
その考えは、1月3日のベネズエラ攻撃とマドゥロ大統領拘束で改めて明確になった。そこで危惧されることは、世界経済のグローバル化を推進した米国が、中国やロシアと同じように力(軍事力)を重視するようになったことだ。
トランプ氏は、相手国が取引に応じなければ軍事介入する構えだ。そうしたトランプ氏の方針で、原油などのエネルギー資源、レアアース(希土類)など鉱物資源を自身の思い通りにしたいのかもしれない。同氏がイラン情勢に介入する考えを示したのも、原油価格への影響力を高め、米国内の物価を引き下げる狙いがありそうだ。
■企業や業者は増加するコストを価格転嫁
トランプ氏は、グローバル化による自由貿易体制を切り崩そうとしている。
供給網の寸断に対応するため、企業はコストを支払い、在庫を積み増すことになるだろう。それに加え、為替レートや金利、穀物や原油、天然ガスなどの商品の価格変動リスクを抑制するためにも費用は掛かる。
企業は、増加したコストの価格転嫁し、収益を守ろうとするはずだ。そうした懸念もあり、一部の養鶏業者は年初以降も卵の卸売価格を引き上げ、コストの回収を考えることになるだろう。
また、世界的に異常気象が深刻化している。それは、穀物、エネルギーなどの価格変動リスクを高める。わたしたちの生活に必要な食品などの価格に、一段と押し上げ圧力がかかる可能性は高い。直近の卵価格の上昇は、そうした変化の予兆と考えたほうがよさそうだ。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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