■「総理が私でいいか」のための解散などあり得ない
高市早苗首相は23日、同日召集された通常国会の冒頭で衆院を解散した。2026年度予算の年度内成立をほぼ犠牲にしてまで「冒頭解散」を決断した大義はどこにあるのか。多くの国民が19日の高市首相による解散表明記者会見を見守ったが、その答えには正直あ然とした。
「高市早苗が内閣総理大臣でよいのかどうか、主権者たる国民の皆さまに決めていただく」
衆院選は高市首相の人気投票だとでも思っているのか。いくら何でもそんな理由ではないだろう。そう思っていたら、いくつかのメディアでこんな報道があった。解散の目的が、立憲民主党(衆院選では新党「中道改革連合」から出馬)の枝野幸男・衆院予算委員長の交代だ、という見立てである。
予算委員長交代が解散の目的? にわかには信じがたいが、思い当たるふしがないわけでもない。今回は「枝野予算委員長」をキーワードに、高市首相の無謀な解散の背景を考えてみたい。
■なぜ「衆院予算委員長」なのか
自民党は2024年秋の衆院選で少数与党に転落して以降、衆院予算委員長のポストを野党に奪われている。前任の石破茂政権の時は立憲の安住淳氏、高市政権では枝野氏が委員長を務めている。
野党に予算委員長のポストを奪われれば、予算委員会の議事が野党有利な形で進み、政権として最も重要な「予算の年度内成立」に影響が出るかもしれない――。被害妄想と言えばその通りだが、自民党がそのように考えて「予算委員長ポストを取り戻したい」と願うのは、一般論としては理解できる。
■予算委員会で支持率を下げられる前に解散したかった
だが高市首相の場合、国民民主党の賛成方針によってほぼ確実になっていた予算の年度内成立を、自ら事実上反故にしてまで、今回の解散に踏み切った。国民生活に大きな影響を与える予算案だが、高市首相の解散の判断には、全く関係なかったようだ。
通常国会に入れば、自民党派閥の裏金問題や、高市首相が代表を務める自民党の政党支部が政治資金規正法の上限を超える寄付を受けていた問題などの「政治とカネ」問題、自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係などを野党に追及され、内閣支持率が低下しかねない。支持率が高いうちに解散してしまいたい――。冒頭解散については、こんな理由もささやかれる。
だが、委員長が誰であっても(何なら自民党であっても)、野党の追及がやむはずもない。別に「枝野委員長」という固有名詞にこだわる必要もなさそうだ。
■北方領土「外国に近い」発言を巡る苦い思い出
あれこれ思いをめぐらす中で、ふと思い出したのが、昨年11月10日の衆院予算委員会での枝野氏の議事進行だ。
この日質問に立った立憲の大築紅葉氏は、黄川田仁志沖縄・北方担当相が北海道根室市の納沙布岬から対岸の北方領土を視察した際「一番外国に近い」と発言した問題を取り上げ「北方領土を外国と認識していたのか」と追及した。
多くの報道では、高市首相が「『北方領土はわが国固有の領土であり(発言は)誤解を招きかねない』として、黄川田氏に電話で注意した」と答弁した場面が紹介されたが、実はこの答弁の直前、枝野氏にちょっとした注目が集まった場面があった。
大築氏は高市首相に「(黄川田氏は)大臣の資質に欠けるのではないか。元島民の気持ちをどう受け止めているか」などと質問した。枝野氏は高市氏を指名したが、その時、指名もされていない茂木敏充外相がなぜか突然席を立ち、自ら答弁を始めようとした。
「まず総理に聞いています!」と訴える大築氏。枝野氏は再び「高市早苗さん」と指名したが、茂木氏はさらに発言を続けようとした。枝野氏は茂木氏に対し「指名しておりません。外務大臣、いったん下がってください!」と強く制止した。
質問者が求める答弁者を指名するのは、予算委員長として当然の仕切りであり、そこに党派性は全く見いだせない。しかし、ネット上では高市首相擁護の立場から「各大臣が答弁する内容まで首相が答弁している」と枝野氏の議事進行を非難する声が上がった。
高市首相の心情を映し出すかのようだった。
■「台湾有事」発言から来る「逆恨み」
高市首相はおそらく、予算委員会に強い苦手意識があるのだろう。
大築氏の質問の3日前となる11月7日。
首相はその後も答弁の撤回を拒んだが「今後は特定のケースについて、この場で明言することは慎む」と、予算委で反省の言葉を口にせざるを得なかった。
完璧な準備にもかかわらず、初日からとんだ失敗をやらかした高市首相が、その後も予算委での野党との質疑に相当のストレスを感じていたことは、想像に難くない。首相は19日の解散表明会見で「衆参本会議や(補正)予算案の審議に対応する中で、不安定な日本政治の現状、永田町の厳しい現実を痛いほど実感した」とこぼした。
こうした被害者意識から来る逆恨みが、今回の冒頭解散を画策したとされる高市首相側近らによるチームの中で、まず存立危機事態の答弁を引き出した立憲の岡田克也氏に向かい、そこにとどまらずさらに「自分に無理やり答弁をさせている」枝野氏の議事進行にまで到達したのではないか。
■「安倍1強」時代の「強い盾」がほしい
かつて自民党が予算委員長ポストを押さえていた頃は、委員長が政府寄りの議事進行を行い、しばしば野党側から批判を受けていた。第2次安倍政権下の2020年、首相にしか答弁できない質問で関係閣僚を指名するなどした棚橋泰文衆院予算委員長(当時)に対し、野党側が「運営が政府寄りで不公平」と反発し、解任決議案を提出したこともある。
「1強」をタテに強引な権力行使をほしいままにしていた安倍政権に憧れる高市首相のことだ。棚橋氏のように、本来首相が答弁すべきことを他の閣僚に振るなどして「野党から首相を守る盾になる」ような、自らに都合の良い予算委員長を作りたい、と望んだとしても不思議はない。
■高市首相が進めたい「国論を二分する改革」の正体
ところで、仮にこの衆院選に勝利して安定した与党となり、予算委員長ポストを奪還して国会を楽に乗り切れる環境を作れたとしたら、高市首相は何をしたいのか。
「国論を二分する大胆な改革にも、批判を恐れることなく果敢に挑戦する」
「大胆な改革」の具体像がいま一つ判然としなかったが、発言から想定されるのは「責任ある積極財政」「安全保障政策の抜本的強化」「インテリジェンス機能の強化」あたりだろう。ちなみに「責任ある積極財政」に含まれるとみられる「食料品の消費税を2年間ゼロにする」は、現在ほとんどの政党が同様の公約を掲げており「国論を二分」しそうにない(ついでだが、この政策は2026年度予算案に盛り込まれておらず、実現は早くても2027年度以降だ。政策の是非以前に、スピード感は全く感じられない)。
「安保政策強化」「インテリジェンス機能強化」について、高市首相は会見で、いわゆる「戦略3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の前倒し改正、国家情報局の設置、スパイ防止法制定などを挙げた。当然、公示前には自民党からもう少し具体的な内容が公約として示されるはずだが(そうでないと「首相への白紙委任」になる)、確かにこれらは「国論を二分する」政策となりそうだ。
会見で冒頭発言に30分も使いながら、これらの政策の具体像を語るのを避けたのは、準備不足もあったかもしれないが、記者団から余計な質問を受け付けたくない、という心理も透けて見える。
■イエスマン予算委員長で「楽な政策実現」を画策
そして高市首相は、これらの政策実現に向け「批判を恐れることなく果敢に挑戦する」と語った。イエスマンのような予算委員長を配置することで、自らは面倒な答弁から極力逃げて、関係閣僚の陰に隠れる。その上で「批判を恐れず」、つまり野党の批判に耳を貸さず、最後は「果敢に」強行採決でも何でもやって、楽に政策実現にこぎつけたい――。
「枝野氏交代」論の陰にちらつくのは、高市首相や冒頭解散を進言した官邸幹部らによる、そんな思惑だ。それにしても、国のリーダーが国会における野党の質問や、自らに答弁を要求される通常の議事進行にさえ怯えながら、一方で日本の防衛政策を声高に叫ぶ姿は、何とも滑稽である。
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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)、『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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