おもちゃ市場が過去最大規模に拡大している。子供は減っているはずなのに、なぜなのか。
コンサルタントの鈴木貴博さんは「“大人需要”や“海外需要”の高まりに注目するメディアが目立つが、本質はもっと深いところにある。4つの視点で読み解くと、その黒幕が見えてくる」という――。
■5年連続で市場拡大、過去最高に
日本では少子高齢化が急速に進んでいるにもかかわらず、おもちゃ市場は顕著に拡大しています。日本玩具協会の発表によれば2024年度の国内市場規模は前年比8%増の1兆992億円で、これは過去最高であるとともに5年連続して市場が拡大しています。
それで「なぜ市場が成長しているのか?」が今回の記事のテーマです。
これは戦略思考トレーニングとしてもちょうどいいテーマなので、読者のみなさんと一緒におもちゃ市場成長の要因を戦略思考でより深く分析してみたいと思います。
まずはメディアの定説から。少子高齢化なのにおもちゃ市場が拡大しているのはキダルト需要が爆発的に増加しているからだといいます。キダルトとはキッズとアダルトを組み合わせた造語で、20代から40代の大人が本気で玩具をコレクションする需要を指します。
最近私もニュース番組のコーナーでそのような報道を目にしました。キダルト需要の高まりをうけて玩具メーカーの社員が大人向けの新しい玩具を開発しているというニュースです。
ニュースとしては間違っていません。

ただ戦略コンサルタントとしての視点で見るとこの見方、市場の捉え方として芯を喰っていない理解だと感じます。市場で起きていることはもう少し深いのです。おもちゃ市場拡大の理由を頭の体操を交えながら4つの視点で順番に解明していきましょう。
■市場を読み解く「4つの視点」
【視点1】最大市場はトレーディングカード
まず最初のファクトを提示します。おもちゃ市場の中で最大カテゴリーが何かというと、じつはぬいぐるみでもプラモデルでもありません。統計データによると1兆円市場の中の最大カテゴリーはトレーディングカードで市場規模は約3000億円、おもちゃ市場の約3割を占めます。
日本で発売されたトレカのうち海外で一番人気が高いのがポケモンです。世界に39枚しかないといわれる超レアもののカードの場合、オークションの落札価格が日本円で1億円を超えています。ポケモンの次に人気が高いのが遊戯王で、こちらも数千万円の落札例があります。
コレクターの間ではレアカードを数万円から十数万円で取引するのが高額取引としてはボリュームゾーンでしょうか。トレーディングカードが高額になったことで、トレカ店が強盗に襲撃され希少カードが奪われる事件も起きています。
トレカ同様に投資価値がある玩具にはフィギュアがあります。
フィギュアも村上隆さんのアート作品レベルになると億単位の投資商品として扱われます。
ではこのキダルトによるコレクター需要がおもちゃ市場拡大を牽引していると考えるべきなのでしょうか?
実はここはおもちゃ市場の中でも特殊市場だととらえた方がいいかもしれません。
■全体でみれば「1割」に満たない
戦略思考のコツとしては、このように細かい疑問を一つひとつチェックしていくことです。トレカやフィギュアのコレクター需要について、それが玩具市場の成長を牽引しているのかどうか? 高額で取引されるカードの市場はどれくらいなのかをチェックするのです。
ではさっそくやってみましょう。
どちらも高額取引をされるのは二次市場(リセール市場)です。ですからその市場規模をチェックすればおもちゃ市場の中で投資市場が何割なのかが推計できるでしょう。
業界報告を読むとトレカの二次市場は一次市場の2~3割、フィギュアの二次市場は1~2割だと推計されています。その中で高額で取引をされているものを保守的に見積もると、投資商品として取引されているのは市場全体の5~10%だと見積もれそうです。
確かにおもちゃの中には数十万円、数百万円で取引されるものが存在するのですが、高額でも市場全体でみれば大きく見積もっても3割を占めるカテゴリーの1割、つまり全体の3%に満たないわけです。トレーディングカードがおもちゃ市場の最大市場であることは統計上間違いないのですが、投資需要によっておもちゃ市場が拡大しているというのは市場のごく一面しか表していないように見えます。
【視点2】キダルトの一大カテゴリーは「推し活」
では投資とは別の切り口でキダルト市場を押し上げている要素は何でしょうか? こういった新しい仮説の切り口を次々と考えることが戦略思考力のトレーニングとしては重要です。

さて、その新しい切り口です。私は職業柄、報道番組の経済ニュースにはいつも注目しています。最近、頻繁に取り上げられるトレンドのひとつに推し活があります。
この推し活というのは日本人の経済活動としては無視できない規模に広がっていて、たとえば音楽アーティストの収入で見るとCDや楽曲のダウンロードよりもグッズの販売収入の方が大きかったりします。
私の周囲の60代にも、推しのぬいぐるみやアクリルボードを携帯する人がいるくらいで、2~40代といわずもっと幅広い世代に推し活は広がっています。
実は推し活市場というのはおもちゃ市場を包含する上位概念です。さまざまなシンクタンクが推し活市場の規模を推定していて、ざっくりいえば3兆5000億円。うち、玩具と近い切り口のオタク市場が約1兆円とされます。
おもちゃの市場で消費者が推し活で購入するものは雑貨やキャラクターぬいぐるみが多く、あくまで推定ですがこれらのカテゴリーの商品では需要全体の半分以上を推し活が占めるケースも多いとされます。
推しの定義にもよると思いますが、おもちゃ市場に占める推し活需要の比率は全体の約2割と、コレクター需要よりも大きいのです。ですから市場を拡大する要因としては推し活がひとつの有力な切り口になりそうです。
この視点、最後にもう一段階広がるのですが、ここでひとつ別の視点を取り上げてみます。

■「1兆円」から抜け漏れている“あるジャンル”
【視点3】実はおもちゃ市場に存在するかくれ1位カテゴリ
さて、推し市場の話をしたことで、おもちゃ市場について避けて通れない別の話をしなければいけません。
さきほどおもちゃ市場は1兆円市場で、統計上はトレカ市場がその中の最大市場だと申し上げました。
しかしこの数字は日本玩具協会の集計した数字で、実は大きな需要がその調査から抜け漏れています。
それがカプセルトイとクレーンゲームの景品です。あくまで推定ですがカプセルトイとクレーンゲームの景品の市場を合計すると市場規模は約4400億円にのぼると推計されます。
つまりおもちゃ市場のある意味でかくれた最大カテゴリーがこのジャンルになるのです。
そして最近、ゲーセンを訪れたことがある人ならすぐに気づくことだと思いますが、ゲーセンではクレーンゲームのコーナーが一番大きくて、その中でも一番多い景品がキャラクター商品です。
クレーンのアクリルケースの中にうず高く積み上げられているのは鬼滅の刃のぬいぐるみだったり、刀剣乱舞のアクリル板だったりするわけで、それを集める目的は投資というよりも推しとしてのコレクションだという需要が多いように感じます。
さて、このような観察から最後の視点が浮かびます。
【視点4】結局、おもちゃ市場を一番拡大させている存在は誰?
ここまでの説明で、トレーディングや推し活を包含する、より大きな存在にお気づきの読者の方も多いのではないでしょうか。
おもちゃ市場拡大の要因ですが、切り口をどのように選ぶのかによって何が最大なのか要素が変わるというのがこれまでの説明の展開でした。
おもちゃは一般にはトレカ、キャラクター玩具、ホビー、雑貨、ぬいぐるみ、ままごと、知育といったカテゴリーに分けられるのですが、このすべてのカテゴリーに高い比率で浸透している重要要素があります。

それが実はIPです。IPとは知的財産(Intellectual Property)のことですが、平たく言えばキャラのことです。わかりやすい例はガンダム、ポケモン、ディズニーがIPだといえば理解しやすいでしょう。
このIP依存度はトレカやキャラクター玩具ではほぼ100%、プラモデルやフィギュアでも8割以上、雑貨やぬいぐるみでも7割以上となっていて、広義のおもちゃ市場(玩具協会のおもちゃ市場にカプセルトイ、クレーン景品を加えたもの)約1兆5000億円全体で保守的に見ても6~7割を占めると考えられます。
これがおもちゃ市場を拡大させている本当の芯の部分です。
具体的にはポケモンの任天堂、ガンダムのバンダイ、ハローキティのサンリオ、ミッキーマウスのディズニー、アニメ商品で手広く権利を持つソニーなどがおもちゃ市場拡大の本当の黒幕というわけです。
■「ちいかわ」と「ラブブ」の共通点
実際におもちゃ市場で高収益を上げられるのはおもちゃを製造するメーカーよりも、有力なIPを持っている企業です。ですからおもちゃ各社もそれらのIPに依存しつつも、独自のIP開発でなんとか成功したいと願っているのです。
最近では、ちいかわやおぱんちゅうさぎ、海外発ではラブブなど一気におもちゃ市場の中心的存在になる事例がいくつも生まれています。
さて、ここまでの解説、いかがだったでしょうか。おもちゃ市場が拡大しているのは事実ですし、その中核となっているのが子どもではなくキダルトと呼ばれる大人の需要であるのも事実なのですが、拡大要因を説明する切り口はそれだけでは十分ではありません。
今回、説明を省きましたがおもちゃ市場拡大に貢献している別の需要としてインバウンドも無視できません。
そういったさまざまな流れをすべて俯瞰してみると「おもちゃ市場の拡大の最大のドライバーとなっているのはIP価値の拡大だ」というのが今回の記事でお伝えしたかったことです。
どうでしょう、市場分析というものは、一歩踏み込んでみるとなかなか面白いものが見えてくると思いませんか?

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)

経済評論家

経済評論家。未来予測を得意とする。経済クイズ本『戦略思考トレーニング』の著者としても有名。元地下クイズ王としての幅広い経済知識から、広く深い洞察力で企業や経済を分析する独自のスタイルが特徴。テレビ出演などメディア経験も多数。

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(経済評論家 鈴木 貴博)
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