■冬に見つけたら必ず鍋にしたい「格別な魚」
釣り人には広く知られていても一般的にはあまり食べられていない魚がいる。あなたは今回取り上げるメジナをご存じだろうか。強烈な引きで磯釣りの人気ターゲットになっているらしいが、特に関東のスーパーなどではあまり見かけない。味が悪いのだろうか。
「関東では『磯臭い』という印象が強い魚ですが、実は時期や魚所で大きく変わります。関西や四国ではグレと呼ばれてよく食べられていて、値が下がらない傾向があります。海藻が主食になって臭みが消える冬場のメジナを一度味わってみてください。刺身はもちろん、骨ごと切って鍋にすると格別です。うちの店では『鍋の王者』と称しています。通は知っている魚、です」
冬のメジナのおいしさを断言するのは鎌倉の鮮魚店「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」で企画・広報を担当する狩野真実さん。海水温の上昇によって漁場が北上中のこの魚、お手頃価格で売られていたらぜひ試すべきだと勧めてくれた。
■「寒グロ」はおもてなし料理の筆頭食材
この日にマルカマの店頭にあったのは650グラムほどの中型サイズのメジナ。神奈川県内の小田原港で水揚げされたものらしい。全身真っ黒で、眼だけが青く光っている。知らないとちょっと手を出しにくい外見だな……。
食べ方は、マルカマのアドバイザーを務める元水産庁職員の上田さんに教えてもらおう。上田さんは釣り専門チャンネル「釣りビジョン」で「オトコの釣りメシ」という番組を持っていて、多様な魚の釣り方から調理までを伝授している「魚の伝道師」だ。食用魚としてメジナを食べる文化は西高東低だと指摘する。
「九州ではクロと呼ばれている。脂ものってうまみが格段に上がった寒グロは最高のごちそう。特に対馬ではおもてなしの鍋料理で『煎り焼き』と呼んでいる。マルカマでは最初、黒い魚として受け入れられなかった。鎌倉の海にもいる魚なんだけど、食べる魚としては馴染みがなかったんだね。
マルカマでは焼くだけで食べられる「塩メジナ」や刺身を試食してもらうところから始めたという上田さん。その上質な味が次第に浸透し、今では刺身や冬の鍋物用に人気の魚種になった。家庭や地域の食習慣は時間をかけて形成され、そして文化となるのだ。
■皮のうまみを堪能する「焼き切り」
上田さんによれば、メジナは冬に厚みを増す皮目にうまみが集中しているとのことなので、刺身もできれば皮つきで味わいたい。焼き切りすなわち炙りはハードルが高い気がするが、金串とガスコンロがあれば簡単にできる。イサキの記事でも紹介した焼き切りを復習しておこう。
三枚におろした身に、皮から5ミリぐらい内側に金串を打つ。このときに複数の串を扇状に打つと炙りやすい。
皮目に軽く塩を振り、ガスコンロで20秒間ほど炙る。身側も3秒ほど炙る。焼き魚ではないので炙り過ぎないように。
炙り終えたらキッチンペーパーで包んで冷蔵庫に入れる。
「半身を使うなら、腹側は皮を引いて刺身にし、背側を焼き切りにしてみよう。同じ魚でも部位と調理法で味わいが変わるよ」
■外は温まり中心は生のまま
そして、残った半身とあらは寒グロの真骨頂である「煎り焼き」にする。つまりはメジナ鍋だ。
あらは適当な大きさに切り分けて、身は骨ごと3センチぐらいの筒切りにする。なお、あらも身もブラシを使って内臓や血合いをしっかり取り除き、流水で洗い流して吸水布などで水気を拭き取ること。これだけでアクが少なくなる。
鍋に水を張り、昆布を入れて火にかけ、沸騰手前で昆布を取り出す。あらを入れて火が通ったら引き上げて、アクを取り除き、塩少々と醤油でこのまま美味しく飲めるぐらいに味を調える。白菜、春菊、豆腐、きのこ類とメジナの身を入れ、身が骨から離れたら食べられる。
「メジナの脂が溶け込んだスープと一緒に楽しんでほしい」
上田さんからの注意点は、魚を煮すぎないこと。中心まで火が通って骨から身が離れたタイミングを見計らってすぐに食べる。この火の通り加減を味わえるのが煎り焼きの醍醐味であり魅力なのだ。また、ダシを沸騰させると身からうまみが流出してしまうので注意する。
■「刺身はマダイ超え」の衝撃
マルカマできっちり下処理をしたメジナを持ち込んだのは千葉県浦安市にある叔母宅。食べてくれるのは60代の叔母、元同僚だという50代女性、その息子くん(22歳)だ。
やや想定外だったのは、焼き切り以上に皮を引いた刺身の評価が高かったこと。特に魚好きだという50代女性が絶賛してくれた。
「昆布締めをしたのかな? と思うほどねっとりとして味が濃かったです。食べ応えがある魚ですね。私はマダイのお刺身より好きだな。メジナ、関東であまり見かけないのはもったいないです!」
確かに、この上品なうまみとねっとり感は特筆に値する。
■関東の食卓で起きそうなメジナ革命
メジナ鍋はどうか。たっぷり肉がついているあらも鍋に戻し入れて一緒に食べてしまった。
「刺身ではねっとりしていた食感がしっとりプリプリになるね。スープもすごくいい」
茨城県で生まれ育ち、千葉県に長く住んでいる叔母は生粋の関東人。カメやヘビが好きという少し変わった嗜好があり、最初はメジナの迫力のある見た目に興味津々だった。煮食いの後はその奥深い味に心惹かれたようだ。
「魚の鍋と言えばタラだと思っていたけれど、メジナはタラみたいにパサパサしない。うちでもやりたいね」
「うん。魚のダシで野菜も美味しい。おかわりください」
さきほどの50代女性もすっかりメジナファンになっていて、息子くんも合いの手を入れている。
見た目はいかつい真っ黒だが、中身は美しい白身。刺身はマダイを超え、鍋はタラを凌駕する――。冬のメジナはまさに王者の風格だ。
あなたの近くに磯釣り好きがいたら、「メジナを釣って来てよ。1匹1000円で買う!」などと頼ってみたらどうだろうか。奮起して大物を釣ってくれるかもしれない。
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大宮 冬洋(おおみや・とうよう)
フリーライター
1976年埼玉県所沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。著書に『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せの見つけ方~』(講談社+α新書)などがある。2012年より愛知県蒲郡市に在住。趣味は魚さばきとご近所付き合い。
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(フリーライター 大宮 冬洋)

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